妻はツバメにゴマをする。
妻といると、よくハプニングに見舞われる。
先日のことだ。お昼すぎに夫婦で出かけようとなった。
妻はいつものようにサクサクと準備を済ませ、僕はいつものようにすこし遅れをとっていた。シビレを切らして玄関にむかう妻。
すると、バタバタバタッという音がして、「しみさん!しみさん!」という焦りの声が聞こえてきた。
ん?なんじゃ?
「あそこ!見て!」
なんと、玄関に一匹のツバメがいるではないか。
彼はキョロキョロとあたりを見渡しながら、思い立ったようにグルグルと飛びまわり、おそらくどこに巣をつくろうかと検討していた。
「しみさん、よろしく」
妻はリビングへとつながる扉をパタリと閉め、僕を玄関に締め出した。
待ってくれ。僕もツバメに精通していない。
そんな訴えも虚しく、ひとりツバメに立ち向かうハメになった。
妻はすこしだけスキマを開けて「おーい、ここはきみのおうちじゃないよー」と話しかけていた。
ツバメは「それはこちらが決めることです」みたいな顔をしている。
妻は「きみのために言ってるんだよー」と続ける。
あくまでも自分のエゴで追い出したいわけじゃないからね、という予防線をツバメにまで張っていた。ゴマすり名人である。
僕は持ちうるIQを振りしぼり、まずは守りを固めようと思いついた。
万が一ツバメが飛びかかってきたときのために、洗濯物カゴをあたまにかぶる。我ながら惚れ惚れする防御体制。ジーニアス。
あたまにカゴをかぶった男が、すり足でツバメに近づいていく。
すると、ツバメは驚いたようすで奥の和室へと逃げていった。
最悪だ。外へ逃したいのにどんどん侵入されてしまう。サイドからエグるように敵陣に切り込んでいく姿はサッカー日本代表の三笘を彷彿とさせた。
飛びまわる三笘、ビビる夫、それをみて大笑いする妻。
そんな攻防が5分ほど続き、ようやくツバメを外に帰すことができた。最後は挨拶もなしにスッと帰っていった。厳しめのラグビー部なら坊主だろう。
僕たち夫婦はこういったハプニングに出会うことが多い。
そのたびに「またひとつ笑える思い出ができたな」と嬉しい気持ちになったりする。こんなことあったよね、を一緒に共有できて、これから先何回もそのシーンで笑えるからだ。
話のキッカケさえあれば、あたまのなかに同じ映像を流すことができる。同じ記憶で笑いあえる。これがなによりも幸せなことだと思うのだ。
ふたりで一冊の「記憶のアルバム」みたいなものがあったとして、そこに今回、ツバメとの攻防という1ページが追加された。三笘のおかげだ。
いつの日かきみがおばあちゃんになって、ぼくがおじいちゃんになったとき、大切なシーンで埋めつくされた分厚いアルバムを、ゆっくりとめくりながら笑いあいたいのです。
ーーー
表紙とアナザーカットたち↓
⌇ 絵 えりちゃん(妻)
✎ 文 しみさん(夫)
夫婦で絵本をつくるのが夢です。
日記のようなエッセイを書いています。
よければnoteもフォローしてくださいな。
X(Twitter)でも絡んでくれたらうれしいです。
100円から支援ができます。活動資金として大切に使わせていただきます。