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アタイの気持ち

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「アタイにだって言いたいことがある。」 身近にあるモノの気持ちを妄想で書いてます。 モノにストーリーを、暮らしに温かさを。 文章:しみ、 イラスト:森あんじゅ
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#日記

不器用な土鍋

オラは土鍋。生まれはドンキホーテ、性別はガス火専用、うすい茶色に桜の柄が自慢だ。 生まれて初めて聞いた言葉は「寒くなってきたわね」 オラは土鍋のなかでも漢気があってな、ちょっとやそっとじゃ動じない。 オラの出番は冬だ。寒くなると急激に使われるようになる。ニンゲンは冬に鍋を食べたくなる動物らしい。 夏のあいだなんかはシーズンオフだ。キッチンの奥のほうに仕舞われ、のんびりと束の間のバカンスを過ごしている。 オラを引き取ったのは20代後半のマフラーがよく似合う優しそうな男

アンティークな時計

わしはアンティークな時計。生まれはイギリス、性別は木製、今年で30歳になる。 生まれて初めて聞いた言葉は「ウチにぴったりね」 修理に修理を重ねてもらってこの歳まで生きている。 わしのような時計は今ではほとんど世に出回ってない。 世間ではなにやらわしにちなんだ名曲があるらしく、あの曲をモチーフに作られたのかな? と言われるけどもまったく身に覚えがない。 100年休まずにチクタクチクタク…って、どんな体力してんねん鉄人すぎるやろ。 産まれたての赤ん坊だったわしを買った

約束のビール瓶

ワイはビール瓶。生まれはオランダ、性別は緑色、銘柄はハイネケン。チャームポイントは赤い星。 生まれて初めて聞いた言葉は「ハートランドと迷うなあ」 ワイの一族は世界各国で愛され飲まれているんだ。嬉しいもんだねえ。鼻が高いったらありゃしない。 ワイの仲間はヘンなやつばっかりさ。 豪快なバドワイザー、陽気なコロナ、誠実なハートランド、爽やかなヒューガルデン、陰キャなギネス。 みんな、お酒としてもインテリアとしても最高なんだ。 ワイはというと、渋谷の外れにある代々木上原ち

ツンデレなキャンドル

わたしはキャンドル。生まれは小さな北欧雑貨屋さん、性別は薄紅色。形はスリムな円柱。 生まれて初めて聞いた言葉は「デンマークではこれ人気なんですよ」 鮮やかな薄紅色がわたしの自慢。褒めてくれてもいいわよ。 まわりはわたしのことをツンデレだと言うけど、そんなことないわ。 わたしたちキャンドルの命は短い。 火を点けられたが最後。その瞬間から余命数時間になるというトンデモナイ人生なの。 でも、わたしたちキャンドルの灯りがつくる空間はとても素敵なんだと先人たちは言ってたわ。

泥だらけのスニーカー

オレはスニーカー。生まれはコンバース、性別は白色、素材はキャンバス生地。 生まれて初めて聞いた言葉は「26.5センチありますか?」 オレをサイズで見るな。オレ自身を見てくれ!と叫ぶがそんな声は届くはずもない。サイズが重要なのは知っている。 ひとくくりに「靴」といっても性格はさまざまだ。コンバース家は元気なヤツが多い。 ニューバランスは優しくて、アディダスはみんなから好かれる人気者。リーボックは寡黙で、スタンスミスは親しみやすいんだけどなんだか渋い。バンズはちょっと闇を

星柄の傘

わたしは傘。生まれは渋谷のLOFT、性別はポリエステル、チャームポイントは星柄。 生まれて初めて聞いた言葉は「おすすめの新作です」 これから梅雨入りですよ、という時期に店頭に置かれたの。 わたしたちの出番は雨の日。つまりニンゲンにとっては憂鬱な日。 明るくハッピーな気分で手にとってもらえることは少ないわ。まったく不都合な人生よね。 その場だけしのげればいいのか安めのビニール傘がバンバン売れて、どこかに置き忘れることはしょっちゅう。 わたしは傘のなかでも可愛くてモテ

古着屋のキャップ

オイラはキャップ。生まれは古着屋、性別はコーデュロイ、チャームポイントは黄色の刺繍。 生まれて初めて聞いた言葉は「これ、似合うかな?」 一人目の主人に古着屋に連れていかれ、二人目の主人といまは一緒に暮らしている。 オイラはフランクな性格もあってか友達が多い。 天真爛漫な麦わら、おとなしめなハンチング、ナルシストなハット、アーティスト気取りのベレー帽。みんな集まるとうるさいんだけど、いいヤツらなんだ。 一人目の主人とは、代々木にあるお洒落なセレクトショップで出会った。

ハリガネのハンガー

私はハンガー。生まれはホームセンター、性別は白色、素材はハリガネ。 生まれて初めて聞いた言葉は「もう一つ買っとく?」 どうやら新居への引っ越しの際にまとめ買いされたようだ。ニンゲンとやらが生活する上での必需品になっていることは誇り高いわ。先祖よくやった。 私たちはよく「ハンガー」とひとくくりにされるけど、溜まったもんじゃないわ。色もカタチも歪みも全然違うじゃない。 私は私。オンリーワンなの。 あと、木製のヤツらはいけ好かないわね。育ちが良いからって高飛車な態度をとる

飲みかけのコーヒー

僕は飲みかけのコーヒー。生まれはセブンイレブン、性別はアイス、残量は1/3。 生まれて初めて聞いた言葉は「100円になります」 同じショーケースにいた仲間たちは元気だろうか。氷がパンパンに詰まった僕らは、大人になると茶系の液体をカラダに注がれ、ストローとやらをおヘソあたりに刺される。 それが成人になるための儀式だとは聞いていたが、本当にそうなった。レールから外れることは難しい。 僕らは主人を選べない。だいたいの仲間たちはOLやサラリーマンとやらに買われていったが、僕は