見出し画像

『ユナイテッド93』~ポジショナルプレーから考えるハイジャック~

ハイジャックは非常にポジショナルプレーを分かりやすく局面化したものではないか。アメリカ同時多発テロを描いたこの映画を鑑賞中、不謹慎ながら頭によぎってしまった。
しかし、よぎってしまったものは仕方がない。久々にnoteを開いて思ったことを書き連ねてみる。

今回はハイジャックについてポジショナルプレーの観点から考察していきたいと思う。
(以下、ネタバレを含みます)

1.あらすじ

2001年9月11日、ニューアーク国際空港発サンフランシスコ国際空港行き「ユナイテッド航空93便(UA93)」が朝の離陸ラッシュに巻き込まれ予定時刻を30分程遅れて出発しようとしていた頃、ハイジャックされたアメリカン航空11便、ユナイテッド航空175便がニューヨークのワールドトレードセンターに激突し、アメリカン航空77便がバージニア州アーリントン郡のペンタゴンに激突した。ユナイテッド93便の操縦室もテロリストに占拠され、他機での自爆テロを知った乗客達はテロリストに立ち向かうことを決断する。(Wikipediaから引用)

突如ハイジャックをされた恐怖、さらには他機での自爆テロを知って自分たちの行く末を思い描いた時の絶望。そんな中で乗員・乗客が一致団結してテロリストに立ち向かって目標到達を阻止した姿には心を打たれるものがあった。

画像1

自分は当時2歳ながら、両親がTVでアメリカ同時多発テロについてのニュースを見て慌てふためいていた光景は脳裏に鮮明に焼き付いている。
その後、大きくなってからYouTubeで飛行機がワールドトレードセンターに突っ込む光景を見て唖然とした。まるで地獄絵図を見ているようであった。
アメリカ史上最悪とも謳われるテロ事件で亡くなられた方々にご冥福をお祈り申し上げます。

2.ポジショナルプレー

さて話は打って変わり、本題に入る前にポジショナルプレーという概念をまず説明しなければならない。ここでは簡潔に説明する。
すでに知っている方は次の項まで読み飛ばしてもらって構わない。

このポジショナルプレーというのは元々チェスで存在した概念をサッカーに導入したものであり、その柱となるのが3つの優位性である。
局所的に相手より人数を多くする「数的優位
単純に実力で相手を凌駕する「質的優位
有効なポジショニングで相手の判断を惑わす「位置的優位
3つの優位性を相手に対して築くことによって有利な展開を作り出せるという考え方である。
サッカー愛好者たちによって議論が熱く広げられるほど実際は奥が深い概念なので、もっと詳しく知りたい方は是非ご自分で調べて欲しい。

3.ハイジャックの優位性

では、ハイジャックに3つの優位性を適応してみよう。
数的優位はハイジャック犯とそれに立ち向かう乗員・乗客の人数比。
質的優位は武器など攻撃に有効な手段を確保できているか。
位置的優位は操縦を担うコックピットを占有しているか否か。

画像2

『ユナイテッド93』のハイジャックの場面を例に出して、3つの優位性がどのように移行するかを追ってみよう。
まずはハイジャック犯が持ち込んだナイフや爆弾などの武器で質的優位を確保する。この時、歯向かってくる人は少人数いるものの局所的な数的優位を生かして鎮圧する。さらに乗員を脅してコックピットに侵入して位置的優位も奪う。こうして短時間で3つの優位性を築くのである。
しかし、他機での自爆テロを知った乗員・乗客も反撃へと転じる。数的優位を生かして多勢に無勢でハイジャック犯を取り押さえ、武器も取り上げて質的優位も奪う。そして強引にコックピットに侵入して位置的優位も奪回する。
以上で検証したように、ハイジャックでは3つの優位性が連鎖的かつ相関的ある。

4.ハイジャックの対応策

以上で見てきたように、ハイジャックとは3つの優位性をハイジャック犯に奪われることによって成立する。つまり、航空会社側はこの3つの優位性を奪取されないよう工夫しなければならないのである。

①数的優位
実はこの優位性を保つのが一番難しいのである。9割9分乗員・乗客の方がハイジャック犯より人数は多いものの、実際にハイジャックに立ち向かう人が限られるからである。
この対策としては、保安要員としての役割を担うCAに男性を一人は配置するなどハイジャックに立ち向かう動機づけを客員に対して行うことが有効であろう。
②質的優位
機内に凶器となり得るものを持ち込ませないことで質的優位は容易に確保可能である。
金属探知機や手荷物検査を駆使することで、危険物になり得るものを事前に排除して機内に無武装の状態を作り出せる。
③位置的優位
飛行機の核はコックピットであり、ここへの侵入を防ぐことにより位置的優位を維持可能である。
CAが容易にコックピットのドアを開けない・コックピットのドアを重層にするなど工夫すること防止できる。

実際に国土交通省の『安全性に関する方策』という文書内でもハイジャックへの対策について言及されており、その中でも前述したような対策が書かれている。

5.総括

今回はハイジャックをポジショナルプレーという斬新な切り口で考察した。
空港・機内ではハイジャックへの対策が色々となされているが、それらが優位性の維持という観点からも理に適っていることが分かった。

さらに、チェスやサッカーにおけるポジショナルプレーとは少し異なり、ハイジャックでは3つの優位性が連鎖的かつ相関的であった。個人的には3つの優位性とは各々が独立的なものであると捉えていたので、このような観点は少し目新しいものであった。
今回のように一見関係のなさそうに見える物事でも意外とサッカーに還元できるものである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?