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究極のイマーシブシアター/LIFE AND TRUST

ニューヨーク滞在中どうしても観たかったのが『LIFE AND TRUST』。イマーシブシアターの金字塔『Sleep No More』を手がけたプロデュース集団Emursiveの最新作。

「Sleep No More」が、廃業したホテルをそのまま舞台にしているように、今後の新作はウォール街の元シティバンクのビルを一棟借りしてイマーシブシアターに作り替えてしまったというスケール感がヤバい。一説には数百万ドルの資金が必要だったとか。(*reference

ストーリーは、1929 年の株式市場の暴落前夜。まずは序章として現在の世界、観客は会場、ライフ・アンド・トラスト銀行の頭取、J・G・コンウェルが築いたコンウェルタワーのパーティに招かれるという設定。
そこで、コンウェルの話を聞き、彼が悪魔と取引をするという。それは、青春時代をもう一度体験するチャンスと引き換えに地獄に落ちるという取引。その後、観客を巻きこんで 1894 年に連れ戻し、ニューヨークの黄金時代から世界恐慌までの時の流れにタイムトリップするというもの。
そこから、観客は2~3時間、6フロアで展開される登場人物たちの個々のストーリーを自由に追いかけて、演劇世界の中に入り込んでいきます。そんで、いつのまにかとある場所にあつめられて、最上のスペクタクルを体験するという…。

いやー、すごかった。筋肉痛になった。腰も痛い。

ところで、
イマーシブシアターは、いわゆる没入型演劇と言って、観客を舞台の世界観に積極的に巻きこむ演出が特徴なのですがその解説は、Harumari TOKYOの記事を参考に。(てへ)


で、日本でもイマーシブシアター的試みはコロナ禍を経て数多く上演されてきてはいるのですが、その象徴としてはお台場にオープンした「イマーシブフォート東京」でしょうか。その他にも、小規模ながら、関西の「泊まれる演劇」だったり、東京の「dazzle」なんかもその好例として取り上げられます。

ただ、総じて日本のこれらはイマーシブシアターというよりイマーシブ・エンタテインメントといったところで、作品性やテーマ性というよりも、没入体験をアトラクション的に楽しむという方向性な感じがします。
それは悪いわけじゃなくて、演劇通ぶりたいだけでもなくて、ただ、ひとえに、「SleepNoMore」や「LIFE AND TRUST」の得も言われぬ芸術体験は、日本では再現性ないのかなあ、とは思ってしまうのです。
だって、全然違うんだもん。

一方で、イマーシブシアター体験の肝である「観客がパフォーマーの描く世界に積極的にコミットする」というのは、日本人の文化的素養にあると思うんですよねえ。
例えば、音楽フェス。日本の観客たちはアーチストとのコール&レスポンスに忠実に、誠実に応え、とにかく「今この瞬間をもりあげよう!」という共通目的の中で観客としてフルコミットする傾向があると思うのですが、そういうのって、海外フェスに比べても、異質なくらい独特な作法というか日本的カルチャーだと思います。

同様に古典演劇、特に歌舞伎の世界の「大向こう」とかも、観客が役者たちが作る世界に関して適切に盛り上げていく作法という点では、イマーシブな世界に対する許容度は高いと思うんですが、それでも実際に「SleepNoMore」を日本で上演したら、「?? ついて行けない!」みたいな感じになってしまう気がするのは、どこに差分があるのでしょうか。

やっぱり演劇や芸術に関するリテラシーの差なのかなあ。そもそも日本人、演劇観ないし、演劇というスタイルに違和感感じる人も多いし、その辺の差分なのかも知れません。
とはいえ、もはや10年以上前に隆盛した「SloopNoMore」がいまだ顕在で、他の劇団がこうしたイマーシブシアターでブロードウェイに進出できていないことを考えれば、アメリカでさえ、イマーシブシアター体験はマニアックなポジションなのかもしれません。

ああ、でも、すごいんですよ、「LIFE AND TRUST」。その感動を共有できる人が少しでも増えて欲しいし、いつか日本で、王道のイマーシブシアターが楽しめる日が来ますように。

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