噂の尻

これだけは誰にも負けない、というものが君にはあるかね?どうせ無いだろうね。インターネットに犯されたおめえらなんぞ、所詮は野菜屑みたいなもんだ。せいぜい鍋ん中で鶏ガラの臭みを取るくらいのもんだ。大根野郎に人参野郎、そこらで生き延びてそのうち死ぬる。仕事ばっかしやがって、偉そうに酒ばっか飲みやがって、卵ばっか食いやがって。やさしさと、人懐っこさ以外、何の取り柄も無い、カボチャのおもちゃのくせに。のうのうと暮らしやがって。卵ばっか食って、玉砕覚悟も無いくせによぉ。天皇陛下舐めてんのかぁ。まあ、まあ、いいですわ。おれはおめえらとは違うぜ。おれには、確固たる己の強みがありますからね。おめえらが到底手の届かない、素晴らしい、これだけは誰にも負けない、というものを持ってるんですわ。胸を張って言う。おれは持っている。

それは、尻。

自分は尻が柔らかい。子供の頃から、尻だけはとてつもなく柔らかかった。自ら触っても分かるほど、ぷぬぷぬとしている。幼少の頃、事あるごとに母親が自分の尻を触っていたことを思い出す。どうやら母親は自分の尻を触ることで癒やされていたようで、触らせてえ、と言っては、我が息子の尻を、さわさわしていた。自分は何も言わず、ただ尻を突き出していた。結局、母親は死ぬ間際まで自分の尻を触り、そして安らかに旅立った。

尻が柔らかいという事実を、自分は家族以外には隠して生きてきた。恥ずかしいことだと思っていた。高校生の頃、ホモの同級生に尻を触られたとき、そいつは驚いた顔で、やわらか、と言った。いつの間にか噂は広がり、皆が自分の尻を触りに来た。昼休みには行列が出来るほどだった。これが噂の尻かあ、と皆が口々に感心していた。自分はそのとき、尻の柔らかさならば誰にも負けない、と強く思った。

自分は尻が柔らかい。しかし、決して綺麗な尻ではない。薄黒い色をしていて、毛も生えている。ただ、触ればひとたび万人を癒やす、驚異の柔らかさを持っている。確固たる柔らかさを。

何もいりません。舞台に来てください。