銭湯レビュー(★★★★★)

先日、久しぶりに当たりの銭湯を見つけて心が踊った。自分は時折思い付いて、ふらりと銭湯に入ったり、サ店に入ったりする。大概は、まあ、まあ、といった感じなのだが、ごく稀に、想像を超えてくる、素晴らしい店、つまり当たりの店を見つけることがある。

当たりの銭湯と当たりのサ店を見つけたときの高揚感と優越感は一体何なのだろうか。うわ、ええやん、こらええわ、最&高、と独り言を巻き散らかしたくなる。そして、これは、おれのとっておきの場所、みたいな気持ちになって守りたくなる。あまり言いふらすと皆行きよるからな、とニヤついて、おれはお前らの知らない素晴らしい場所を知っている、そしてお前らは何も知らずにしょうもない場所でくつろいでいるのだ、その点おれはこんなにも素晴らしい場所でくつろいでいる、と心でせせら笑い、優越感に浸るのである。そういうわけで、その銭湯の名前をここには明記しないが、何分素晴らしかったので、レビューを記すことにする。

それは、天王寺駅の近くにあった。暗い路地を入ったところにネオン看板が突如現れて、おやこんなところに銭湯、肌寒いし、ちょっと温もりますか、という気持ちになって中に入る。男湯の暖簾をくぐり、風呂代440円と貸しタオル代20円を番台の爺に払って脱衣所へ進むと、その広さに驚く。ロッカーの数がやたらと多いのである。おや?思ってたより大きい銭湯だなと思いつつ、裸になって浴場へ行くと、やはり広い。洗い場の列が壁沿いに3つあり、その間を浴場が繋ぐといった妙な造りは、まるで迷路のようである。風呂の種類も豊富で、基本の湯、電気風呂、水風呂、ジェットバス、と揃っている。その他、サウナ、ミストサウナ、死海の塩風呂、フローパワー風呂、魔法の泉、とある。その時点で、これは当たりですわ、と自分は確信を持った。

体を洗って、といってもシャンプーも石鹸も無いので湯流しのみだが、銭湯つうのは別に体を綺麗に洗う場所ではない。湯で温もる場所なのだ。温もる、て良い言葉だね。シャワーで髪をザブンしながら、桶でザブンと湯にかかる。さて、湯に浸かろう。まずは基本の湯。温度は程良い。銭湯によっては、42度なんて熱すぎる湯もあって、あれはあれでアリだが、やはり程良いのが良い。何事も。温もったところで、湯巡りを始める。

死海の塩風呂というのは、塩含有率が極めて高い風呂で、ヨーロッパの死海の如く体を浮かすことが出来る、と書かれてある。興奮するやん。だが、体は浮かなかった。全身を湯の中で上げたり下げたりしたが、体は沈む。舐めると、塩味はせず、ただの湯だった。笑かしてくれるやんけ。

フローパワー風呂は、浴槽の中央に馬鹿でかい機械が設置されている。格子の檻に入った機械は軍事要塞のようで、説明書きには、フローパワーの効能、という見出しで、フローパワーが生み出す強力なフラッター効果により脳を活性し疲労やストレスを低減させる、とある。全く意味が分からないけれども、なるほど、と頷ける凄みがある。ボタンを押すと軍事要塞がガガガガと爆音を立てて揺れた。そして凄まじく強力なジェットが噴き出して、その瞬間、体が吹き飛ばされた。壁についた銀の棒を握って耐えるが、ジェットの威力は凄まじく、ちょ、ちょっと待って、と言ってもフローパワーは止まらない。金玉がもげそうになった。フローパワーは5分ほど続き、止まった頃には、自分はフラッター効果によりふらふらになってしまった。ふらふらふらったーですわ。笑かしてくれるやんけ。

さて、魔法の泉である。この奥→と書かれた方向へ扉を開けて進むと、美しい露天風呂が広がっていた。檜を基調とした造りの露天で、旅館を思わせる草木と岩の庭がある。湯は炭酸泉である。秋の肌寒い夜とマッチして、非常に気持ちが良い。浸かりながら、最&高、と呟いた。サウナはさほど熱くなく、テレビも設置されているため、長居できる。ロウリュなどという阿呆のサービスも勿論無い。水風呂は、頭から水が被れるように上部から水が出ていて滝のようになっている。やはりこの銭湯は当たりだった。

服を着ながら脱衣所を見渡す。やはり広い。貸しロッカー、ランドリー、マッサージチェア、馬鹿でかい扇風機、体重計、革張りのソファに大理石のテーブル、がある。そして珍しく、身長計があった。ほほう、と言って、一人身体検査を行うと、180.3センチ、59.5キロ。みすぼらしい肉体に、虚しくなる。革張りのソファに座ってテレビを見ながら、はて、なぜこんな場所にこんな銭湯があるのだろう?と思った。というのも、このあたりは場所柄、決して都会性も高くなく、どちらかというと貧困地帯なのである。にも関わらず、露天風呂の純和風センスといい、この革張りソファや大理石机も、明らかに金持ちのセンスである。番台の爺は汚い爺だったし、さほど繁盛している様子も無い。疑問に思いつつ、ありがとございやした、と外に出ると、真っ暗な住宅街。温もった体に冷たいコーヒー牛乳が似合う。ふらふら歩くと、すぐ近くに立派なヤクザ事務所が建っていて、思わず、ああ、と言った。

何もいりません。舞台に来てください。