真冬の散歩

自分は末端冷え性である。手先足先がとにかく冷える。この時期になると、寝る寸前などは足の指が氷の如く冷え切って、眠ることもままならない。

真冬の散歩が好きで、鋭い風に吹かれながらマフラーに顔をうずめて、ポケットに両手を仕舞い込み、腰を丸めて歩く。どこへ行くわけでも無く、鼻歌でとぼとぼと徘徊する。家に帰ると足の裏はアイスクリーム。いくら揉んでも冷えは取れず、ストーブに足の裏を当てて、じんわりとアイスクリームが溶けるのを待つ。

日本の道はアスファルトだからまだマシで、フランスには石畳の道が多い。真冬の石畳は、スケートリンクのように冷え固まる。今から十年ほど前、鼻垂らしの自分は二ヶ月ほどフランスに居たのだが、ちょうど極寒の年末、ル・アーブル通りの石畳の冷たさは、靴底を、靴下を、いとも簡単に通り越して、自分の足をカチコチに凍らせた。靴下を三重に装着してみたものの、大して効果は無かった。やがて自分は散歩を諦めて、バスに乗り、電車に乗り、外に出てもすぐさまカッフェに入るようにした。フランス人というのは皆、足の皮がゾウの如くに分厚いのだろうか、などと空想したがそんな事は無く、彼らは冬場になると決まって厚底のブーツを愛用しているようだった。今思うと、自分も真冬の靴を買えば良かったのだが、19歳の鼻垂らしにそんな発想は無く、窓の外を睨み、石畳を恨みながら、エスプレッソ片手に震えていた。調子に乗るな。

たとえ足が凍りついても、真冬の散歩を止めるわけにはいかない。歩き続けていれば、そのうち何か良いことが起こるような気がしている。

何もいりません。舞台に来てください。