あいさつ

私が小学生の頃、我が家には「丁寧に挨拶をする」というルールがあった。
だから夜中に姉と喧嘩をしても、翌朝にはちゃんと「おはようございます。」と言った。不貞腐れて目も合わせずに。丁寧な挨拶が嫌味のようだ。

家族以外に対しても、挨拶が目的化していた。
何度も挨拶をするのは不自然だから、近所の人に1日に2回出会ったときの言葉を用意していた。その後の会話は恥ずかしくてできなかった。ヒップホップ好きの友達ができたら長いハンドシェイクをするはずだから、右手と左手で練習していた。でもヒップホップを聴いたことはなかった。こんなにくだらないことを考えていられたのは、挨拶が便利な言葉で、人との出会いを当たり前にしてくれるからだ。

修学旅行で家を離れた時、家族に挨拶できる朝が恋しくなった。三日ぶりに帰宅した時の「ただいま」は、ランドセルのときの重みを軽々と超えた。私はその時初めて、挨拶に頼りすぎていたのだと気づいた。

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