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タダの品ならもっといい

 詐欺……他人をだまして金品を奪ったり、損害を与えたりすること。

 接客あるあるの話なので、あるある問題から行ってみよう。
 今日の話はサギ。
 ご存じのように、売る側はお客様を大事にしているので、ちょっとでも不具合があれば保証はされる。商売なのでね。わかりやすいものでは、髪の毛が入っていた食事を交換して新しいものをもってこさせたり、粗品をつけたりなどだ。
 普段からへーこらしている店などちょっとクレームつけたら何かいただけるに違いない。ていうか、くれる。たいがいは。
 そうしたら、ちょっとくらい脅してもいいじゃん。と思う人は、まあ、出てくるのである。
 ただ、あまりお勧めはしない……

 異物混入の食事で思い出せるのは昔の漫画。
 反社会的なお仕事に従事する紳士が立ち退きに応じないラーメン屋なんかで「ここでは客にゴ(自主規制)入りのメシ食わすんかオラ」というお約束のシーンがあった。古典的な手だ。
 あとは……そうね。
 私の母は昔、雪印に勤めていた。
 衛生管理が問題になり、大騒ぎとなったあの事件が起こった時も会社にいて、とても大変そうだった。
 ニュースが流れたその翌日。会社にバタバタと駆け込んできた男が二人。
「おたくんところの牛乳飲んで腹いたくした! 慰謝料払え!」
 と、突き出された手に握られていたのは明治牛乳だった……
 詐欺とはこういった、「やっているのはどういった層で何をしたいか明確にわかるが、している方としてはそれがバレても全く問題はない」といった骨太の方々がやれる手だと思う。
 一般市民がやる小手先の、クレーム入れて粗品ゲットくらいなら、成功したとしても見返りとしてはショボいし、デメリットもデカい。
 やらない方が絶対的にいいのだが、なぜだろう、人類には時折、そんな無茶にチャレンジせんとする者が現れるのだ……

 例えばこうだ。
「おたくのところの商品を食べたら腹が痛くなった、どうしてくれる」
 はいはーいマル苦とみせかけた怪しいお電話でーす。
 本当の場合は大変に申し訳ないが怪しい。怪しすぎる。
 開口一番「どうしてくれる」まで入っているのは「どうにかしろ」なもんでね。
 もちろんマニュアル的には、お客様のお具合を心配しますよ。
「それは、大変申し訳ありません。お具合はもう大丈夫でございましょうか?」
「いや大丈夫じゃない、子供も食べて腹痛いと言っている云々」
 あらお客様、それは大変でございますね。まずは病院にいって大丈夫になってからお電話かけてくださいね、その後でもいいですから。
 クレームを入れられる程度、痛みに強いマックメットをお持ちのお客様に、まずはひとしきり謝る。
 落ち着かせて確認しなければいけないことがあるからだ。
「ちなみにお客様、何を召し上がりましたか?」
「……おたくんとこの商品だ」
「ええ、はい、うちの商品の、どれでございましょうか。原因究明のためにお伺いしてもよろしゅうございますか?」
「なんか……詰め合わせだ」
 だから詰め合わせのどれだよ。食ったのが饅頭か焼き菓子かすら覚えてないのか。
「覚えてない!」
 そっかー。
 食べたあとの袋に商品名などもあると促すが、「捨てた」という。で、当然「いつどこで買ったのかも覚えてない」
 でしょうねとしか言いようがない。もうクロでしょーこれはー!
「おせんべいみたいなヤツでしょうか?」
「そうだ、せんべいみたいなやつだ」
 バカめ。うちは煎餅は出していないのじゃ。
 捨てたというからにはレシートもない。はい詰んだ。
 ここで、賢い消費者の皆様は覚えていてください。
 現物もレシートもなく交換はできません。ゴネてもせっついてもごめんなさいの言葉しか言えませんよ。
 それは、固く止められているのです。だって、本当は買ってないのに金品巻き上げようとする人たちがいるからね。こんなふうに。
 当然ゴネて「上を出せ」というから、次のマニュアルにうつる。
「では折り返しのお電話と、お名前をお伺いします」
 本当に商品で害を被った人なら、ここで堂々と名乗ってください。もちろんこちらも誠心誠意の対応をいたします。
 でもね、不思議ですね、ケチなことを企む人たちは絶対に電話番号教えてくれないんですよ。電話でクレーム入れてくるクセに。
 どうするつもりなんだろう。どうやってお詫びの品巻き上げるつもりなんだろう。
「客が腹痛くしてるのに放っておくのか!」
 と喚いているがこちらとしても如何ともしがたい。上を出すにも、一度切って本社に電話して、折り返さないといけないからね。
「ですので、折り返しのお電話番号を」
「また後でかけるわ!」
 よっぽど教えるのがイヤだったのか、そう言い捨ててガチャ切りされた。
 お疲れ。私は帰った。
 だって電話を掛けてきた時点で夜中の九時半を回っていたのだ。そこが、たまたま九時までの店舗だったから、閉め作業が終わり残っていた私が電話を取った。繋がっただけで奇跡と思ってほしい。普通はそんな夜中に菓子屋は開いていない。
 翌日になったが電話はかかって来なかった。私はお望み通り上の者に昨日の出来事を話し、詐欺への注意喚起をしてもらった。

 普通に普通の被害が出たなら、普通に企業に訴えるといい。普通に手厚く対応してくれるだろう。
 だが買ってないものをせしめようとするのは、やめたほうがいい。
 働いていればそんな話はぽろぽろ聞くが、成功例は聞かない。計画がずさんなこともあるが、そうでなくともなんとなくバレるのだ。デメリット以前の問題。
 オマケとして、私がここでネタにしますからね。よろしく。

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