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こちらのどこからでも切れます

 世の中の「こちらのどこからでも切れます」はウソです。

 と、一時期相当言われてたけれど、マジックカットくんもがんばって最近はすんなり切れるものが多いですね。いい傾向です。企業努力。
 逆に「ここから開けられます」の切込みで、たまに袋の接着線が強くて開かないのありませんか。たまにね。
 たいがいは、商品とは使いやすいようにお客様目線で色々と気を使ってくれるものなんです。
 袋をあけにくいだけで、買わなくなるってこともありますんでね。

 ある日おばあちゃんがやってきた。はいはい、なんでっしゃろ。
 何かワーワーいってるがよくわからん、クレームということだけはわかった。落ち着いて話して。どうしたの。なになに。
 えー、おたくのところで昨日買ったばかりのどら焼きがカビていた? こんなもん食わすのか? どういうことだ?
 昨日買ったのなら最低七日は賞味期限があるはずだ。それでもカビているならピンホールということになる。
 ※ピンホール…製造工程で個包装袋に穴が空いてしまう事故。密封性が失われ、カビることもある。
 あらまーそりゃまーすいませんねー、と思っているとおばあちゃん現物を取り出した。
 持ってきたのか感心感心、話が早いですからね。現物交換もしやすいし。拝見させていただきますね、どれどれ。
 見てみると、確かに袋は真っ黒に汚れている。いっくら黒カビとしてもちょっと広がりすぎでは?? 一か月くらい放置したらできるかもしれんけどなにこれ??
 一晩で広がる汚れではないし、これを昨日気づかずに売ったとは考えにくい。雲行きが怪しくなってきた。
 賞味期限は十日後……なるほど、賞味期限的には合ってるのか。昨日買ったのもウソではないのだろう。
 ではこれは……?
 袋は開いていた。食べようと思って開けたら、「いきなり真っ黒に汚れたんや!!」とおばあちゃんは主張する。
 おばあちゃん。開けたら瞬間的に変わってしまったというところを、ちっとは疑問持とう?
「あーこれ鉄粉ですねー」
 ※鉄粉……正しくは乾燥材の中身。よくお菓子の内側にくっついている四角いチップみたいな別袋に入って乾燥を防ぐ。
「どういうことやー! 説明せいー!」
「乾燥材の中身なのでカビではないんですよー」
「言い訳はすんなー!」
 えぇー今説明しろつったから説明したやんー。
「よーするに乾燥材の袋が破壊されたから中の鉄粉が広がってしまったので、製造工程でのミスではないんですけど」
「じゃあそうさせないように企業が努力すべきじゃろうが!」
 ああ……それ言っちゃう? いいの?
「……さようでございますねーそのために、袋には切込みが入っていて『こちらから開けてください』って表記もありましてですねー」
 乾燥剤は『こちらから』と逆側に張り付けられている。切込みから普通に開ければ破壊されることはない。見たところ、切込みじゃない方からバリィ!! した衝撃で思い切って両断されており、いやでもこれよく開けられたな……相当パワーあるね?
「もっとわかりやすいよう書いておけー!」
「貴重なご意見上申しておきますー」
 ここまでで10分ほど怒鳴っていたが、そっと同僚が紙袋を持ってきた。
「大変申し訳ございませんでした、これはお気持「あら悪いやねー!」
 おばあちゃん、紙袋を取り上げサッと帰っていった。あれだけひっぱって帰りは秒。あまりのわかりやすさに、そこにいた一同で顔見合わせて口を開けてしまった……

 いや、いずれにせよ不良品になり食べられなくなったんだから代替品を寄越せというのはわかるんだけども(がめついけども。客由来の不良品なので)変わり身早いなー。そんならストレートに要求伝えた方が早く済むけどね……
 今日は「企業努力はどこもやっている」ということと「パワーは企業努力を粉砕する」という話でした。

 パワー!

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