島野かおる

2022/3/11開設。 大学で小説を書いている者です。 純文学を書いています

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【短編小説】今夜は月が綺麗だと、君は言った

 二〇二一年、冬。  なにも纏っていない上半身が寒い。女の脚を抱えたままの両腕はじんわりと痺れている。酔いのせいか、心臓は鼓動を早めて熱を放ち、鉛を飲んだみたいに体が重かった。張りつめた冷たい空気に紛れて、汗を吸った埃のにおいが濃くなっていく。  セックスをしている最中、なにを考えることが一番正しいのか、ということを考える午前一時。エロいとかグロいとか、愛おしいだとか。世の中のカップルは、ほんとうにそんなことを考えながらセックスをしているのだろうか。女の体はだいたいどれも似た

    • 先程公開した『ブルー&ラヴ』は、2年ほど前に「プロットを交換して小説書いてみよう!」っていう部の企画で書き上げた作品です! こちらが当時のプロット。懐かしい🫠

      • 【掌編小説】ブルー&ラヴ

         冬が近づいているせいか、最近日が暮れるのが早い。車のヘッドライトが緩やかに曲がる道の先を照らしている。音楽を消して高速を走っていると、なぜか少年だった頃を思い出してしまう。タイヤが地面に擦れる音が、故郷の潮騒と似ているからだろうか。  中古で買ったミニバンだった。深い青が一番好きなの、そう言っていた彼女との会話を思い出して、ろくに店員の話も聞かずに即決した車だ。五十四万だった。使う当てもなくただ貯めっぱなしにしていたバイトの給料のほとんど全部をつぎ込んで手に入れたのは先月の

        • 【掌編小説】魔法少女ピンクは絶対に死なないからー!

           うずたかく書類の積み上げられたデスクの陰に身を潜めた。埃と蒸された熱気の入り交じったにおいが鼻を衝く。点灯を繰り返す照明にさらされたオフィスは薄暗い。  絶え間なく響く無機質な機械音に、時折低い唸り声が耳を掠めていく。生気が薄いせいで正確な数字は分からないが、このオフィスから感じる気配は十から二十。デスクの脇から室内の様子を窺うと、既に十数人もの犠牲者たちが目を血走らせ、青白い光に照らされていた。 「一足遅かったか……」  時刻は間もなく午前零時を越えようとしていた。一番ま

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        【短編小説】今夜は月が綺麗だと、君は言った

        • 先程公開した『ブルー&ラヴ』は、2年ほど前に「プロットを交換して小説書いてみよう!」っていう部の企画で書き上げた作品です! こちらが当時のプロット。懐かしい🫠

        • 【掌編小説】ブルー&ラヴ

        • 【掌編小説】魔法少女ピンクは絶対に死なないからー!

          【掌編小説】お前が壊した。憂鬱。

           ベランダから見下ろした地面は、俺の家の前の蓋が外されたきりいつまで経っても修繕される気配のない排水路みたいに狭くて暗かった。道なりに連なる自動販売機やら街灯やらの薄明かりが、黒く濡れたアスファルトを仄暗く照らしている。いつの間にか雨は上がり、立ち込めた酸いたにおいにももう慣れた。午前二時を過ぎた田舎道は車通りも殆どなく、しっとりとした静けさだけがあった。  四月の夜は半袖では肌寒い。酒が入っていなければ諦めているくらいに。塗装が剥がれかけたベランダの手すりは強く凭れると

          【掌編小説】お前が壊した。憂鬱。

          先程投稿した「スノーホワイト・ゲロリズム」は、大学のサークル企画で書いたものです。 そして「やがて星に還る」はとある授業で書く機会があった時に書いたものです。 どちらもどこかのタイミングで修正挟むつもりですが、今のところはこのままで。

          先程投稿した「スノーホワイト・ゲロリズム」は、大学のサークル企画で書いたものです。 そして「やがて星に還る」はとある授業で書く機会があった時に書いたものです。 どちらもどこかのタイミングで修正挟むつもりですが、今のところはこのままで。

          【掌編小説】やがて星に還る

           そこのサービスエリア入ってよ。欠伸を噛み殺した声で姉が言った。 バックミラーとサイドミラーに素早く視線をやってウィンカーを出す。緩いカーブの茂みの先に分岐路を示す案内標識が見切れている。もっと早よ言うてくれよ。出かかった言葉を吞み込んでスピードを落とすと、ぐんと体が沈み込んだ。姉はじっと窓の外を見ていた。  夏ももう盛りを過ぎたというのに、外に出た瞬間、熱気が背中に張り付いて汗が噴き出してきた。駐車場には数台の車が間隔を置いて駐められ、影を落とした道の駅とファミリーマ―トに

          【掌編小説】やがて星に還る

          【掌編小説】スノーホワイト・ゲロリズム

           大学の卒業記念に仲良いメンツで集まってどっか旅行にでも行こうって話になったのが先週のクリスマス。むさくるしい男四人がちっちゃいワンルームの炬燵に足突っ込んで、安物のシャンパンを浴びるように飲んで彼女欲しいなぁなんて言いながら、ノリで買ってしまった七号のホールケーキに無心にかぶりつく深夜だった。  思い出してもあの夜は最悪だった。冷蔵庫に空きがないせいで残すしかないケーキがもったいないからって、ひたすらに食べ続けた結果、あいつら盛大に吐きやがって、俺の部屋のカーペットは酷い有

          【掌編小説】スノーホワイト・ゲロリズム

          【エッセイ】MEVIUS

           金属のケースを開けると、カチンと小気味の良い音が鳴る。跳ねたカムが蝶番を叩く音だ。ホイールを指で弾くと火花が散って、三回くらい弾けば黄色い炎が長く浮かび上がる。火は人間の心を落ち着かせる安定剤らしい。昔読んだ本にそんな感じのことが書いてあったのを思い出す。  最近買ったジッポライターだった。真っ黒な表面の右端にKの金字が彫られている。火を付けようとするたび、冷たくなった金属はまだ指に馴染まない。  夜が長くなり、冬の気配が濃くなるにつれて、生きることがどんどん窮屈になってい

          【エッセイ】MEVIUS

          【掌編小説】幸せを与える

          両手で耳を塞いで、瞼を閉じて。「とっぴんぱらりのぷう」って。魔法の言葉を唱えると、瞼の裏の黒いモヤモヤがすーっと晴れて、フニフニさんがやってくる。それが私の覚えている、パパが教えてくれたことのすべて。 『呼んだ?』 目を開けると、フニフニさんは私の散らかった勉強机の上で器用に逆立ちをしてこちらを見ていた。頭に無表情なウサギの着ぐるみを被り、短いスカートを履いたフニフニさん。本物のウサギみたいに飛び跳ねて、音もなくベッドに着地すると、私の隣にふわりと座った。 「また私の知らない

          【掌編小説】幸せを与える

          【掌編小説】ぐしゃ、ぐしゃ、

           西向きにしか窓がないせいで、カーテンを開けていてもこの部屋はいつも暗かった。夕方になるとようやく光が差し込み始め、たいてい俺たちはそのくらいの時間に目を覚ます。  台所が騒がしくて目を擦ると、煙をまとったザキさんが立っていた。 「ザキさん、なに作ってんの」  もう大分暖かくなってきたのに、起き抜けの鼻詰まりが治らない。裸のまま寝ていたせいでもあるけれど、こういう体の小さな不具合に気付くたびに少しずつ若さが失われていることを実感する。 「朝ごはん」  煙を吐き出すザキさんの声

          【掌編小説】ぐしゃ、ぐしゃ、

          【掌編小説】いつかのブルー

           日本海に面した私の街は、十月を過ぎると一斉に寒くなる。夏がふらっと立ち寄ってきたかと思えば、またすぐに長袖を着る季節がやってくる。年を越す頃には辺り一面に雪が降り積もり、光を浴びた白が眩しくなる。少し先の国道から途切れなく流れていく水気を含んだ低いエンジン音が、毎朝最初に聞こえてくる音だった。  四国に故郷を持つ母は、寒い寒い。と言いながら私の頬に冷たい指を沈ませる。乾いて、少しざらついた指先。冬を超える度に固くなっていく、指。  赤い頬が嫌いだった。反射したスマホの液晶の

          【掌編小説】いつかのブルー

          【短編小説】いつか簡単に忘れてしまう日々を

           太腿にできた水ぶくれが潰れた。薄皮が剥がれて唇のような赤が透けた。中から溢れ出した半透明の液体が肌を滑り落ちていくのを見ていた。 ※  駅前の百貨店のビルの下で掠れた声で吠える彼を見かけたのは、ほんの二カ月前だ。時代遅れのダメージジーンズを履いて、黒人の顔がプリントされた、しわだらけのYシャツを着ていた。伸びた前髪に隠れた鋭いまなざしは野性的で、千切れそうなシャウトが三月になったばかりのまだ肌寒い雑踏を切り裂いていた。聞いたこともない洋楽を叫ぶ彼に足を止める人など、

          【短編小説】いつか簡単に忘れてしまう日々を

          【掌編小説】はるよこい

           私が幼いころ、夜に口笛を吹くとよく母に叱られた。海坊主がやって来て、どこか遠くに連れ去られてしまうよ、と。母はそう言って私を怖がらせたのだ。  もうずっと忘れていたことなのに。どうして今になってこんなことを思い出してしまうのだろう。夜の海をずっと見ていると、巨大な何かに意識を吸い取られてしまいそうになる。波がうねる瞬間、胸の奥のざわめきが激しくなる。春先の浜辺は冬のように冷たい。風を切る音が耳元を掠めるたび、肌にへばりつく髪が鬱陶しい。  私はこの町が嫌いだ。鳴りやまぬ潮騒

          【掌編小説】はるよこい

          【短編小説】世界の終わり

           記憶がいつでも取り外しできるようになればいいのに。パソコンのメモリーカードみたいに。いらない記憶は別の容器に保存して、必要な時にだけ差し替えて。自分の好きな過去だけを拠り所にして、嫌な過去を全部なかったことにしてしまえれば、きっと世界は生きやすくなるのに。  ランプシェードはもっと煌びやかで幻想的でおしゃれなものらしいけれど、私の部屋の天井からは、乱雑に絡まった麻ひもをそのまま放ったらかしにしたみたいなものがぶら下がっている。ずっと昔、大した趣味もない父が気まぐれで作っ

          【短編小説】世界の終わり

          【掌編小説】瀞

          「月見デ一杯は雨で流れるよ」  こいこいしたのに、何の役もできなかった。結局最後に彼女が赤丹を引き当てて、また俺の負けになった。  スーツ姿の俺と最後にいつ着替えたのか分からない寝巻きのままの彼女。花札を配る彼女を見ていると随分窶れてしまったなと思う。だらしなく伸びた髪の毛。死体のような青白い肌。瞳の下の隈だけが色濃く滲んでいる。 「私が、親だよ」  目を細めて、彼女は言った。俺はそっと缶ビールに口をつけた。 ****  今日付けで会社を辞める若い女性社員に花束を渡し

          【掌編小説】瀞