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新ウクライナ


ロシア軍部隊が集結しているとされる衛星写真=2021年11月1日、スモレンスク州[米マクサー・テクノロジーズ提供]【AFP時事】
 2021年春以降、ロシア西部国境に大軍を集めて断続的にウクライナ情勢を緊張させているプーチン政権の「真意」が、ここにきて明らかになった。そもそもロシアが国内で軍事演習を行うことは自然だが、兵力が過去最大規模だったり、演習後に直ちに撤収しなかったりするのは不自然な動きだ。秋から冬にかけ、欧米は2014年に続くウクライナ侵攻もあり得るとみて、北大西洋条約機構(NATO)が黒海で演習を実施するなど厳戒態勢を敷いた。

 この新たなウクライナ情勢、いわば「ウクライナ危機2.0」は、12月7日の米ロ首脳のオンライン会談で最大の議題となった。米メディアは「ロシアが年明けにもウクライナに侵攻する計画」と報じてきたが、ロシアはどうして緊張をあおるのか。21世紀に再び隣国の領土に手を伸ばそうとしているのか。こうした疑問に答えるには、ロシアの内在的論理をつぶさに見ていく必要がある。根底にあるのは、NATOの東方拡大を受けたプーチン大統領の積年の不信感だ。ロシアは「ウクライナとジョージアのNATO加盟方針の撤回」(12月10日付外務省声明)などを突き付けている。プーチン大統領とバイデン米大統領が顔を見ながら会談するのは2回目で、2021年6月のジュネーブ会談に続くものだ。

 最初に指摘しておきたいのだが、12月7日のオンライン会談は、ウクライナ情勢を受けて急きょ調整されたというわけでは必ずしもなさそうだ。大国同士である米ロ首脳の会談は、関係改善と悪化の波はあるにせよ、定期的に行われている。今回の会談に向け、ロシアの主張をのませるために立場を強くしておこうと、意図的に緊張が演出された側面もあるということだ。

 交渉前に値段をつり上げて(この場合はロシア軍の撤収の対価)、より大きな実利を得ようとするのは、首脳会談を含む外交の常とう手段だろう。それでは、プーチン大統領は何を求めているのか。実はオンライン会談前、公の場でロシアの外交方針を自らの口から詳述している。11月18日に外務省幹部らを集めた会議で「レッドライン」、すなわち欧米が越えてはならない一線に言及。ロシアの懸念や警告にもかかわらず、NATOが東方に拡大してきたことを非難した。冷戦終結後から現在に至るまで、欧米に幾度となくレッドラインを踏み越えられてきたロシアの「恨みつらみ」を述べたものだ。旧ソ連のウクライナがNATOに加盟する方針に至っては、論外ということになる。

守られない口約束

ロシア外務省幹部らを集めた会議で演説するプーチン大統領=2021年11月18日、モスクワ【AFP時事】
 プーチン大統領があらゆる場で問題提起してきたように、冷戦が終結してドイツが統一されるに際し、東西陣営間で「NATOは東方に拡大しない」という約束があったとされる。これがほごにされて東欧諸国が次々とNATOに加盟し、約30年を経た現在、30カ国体制になっているのは周知の通りだ。

 「NATOが拡大しないと口約束したことは皆知っているが、すべては真逆となった」。プーチン大統領は先の外交演説に続く12月1日、外国大使の信任状奉呈式で、改めて欧米への不満をぶちまけている。振り返れば、プーチン大統領がNATOの東方拡大を大々的に批判したのは、2007年のミュンヘン安全保障会議での演説だった。「ワルシャワ条約機構の解体後、欧米は(軍事ブロックを拡大しないよう)保証したのか」。当時は、ロシアがソ連崩壊後の混乱と弱体化を経て、大国としての自信を取り戻した時期に当たる。安全保障をめぐる主張はこの時から変わっていない。なお、こうした訴えにもかかわらず、NATOは2008年4月の首脳会議でウクライナとジョージアを「将来的に」加盟させる方針を決めた。勢いづくジョージアの挑発を受け、ロシアは同年8月に軍事介入。親ロシアの南オセチアなどを「独立」させ、NATOが旧ソ連圏を侵食することに強い警鐘を鳴らした。


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