類人猿の思い出

 私が小学生の頃、テレビの中で人気を博していた賢いチンパンジーがいた。

 そのチンパンジーが年を取ってテレビから引退する事になった時、3歳年下の弟から
「あの子はどこ行ったの?」
と聞かれた私はふと思いついて、
「あのチンパンジーはね、進化して人間になったんだよ…今頃街行く人の中に紛れ込んでるかもね」
と適当にホラを吹いた。
 ちょっとした冗談のつもりだったのだが訂正するのを忘れていたため、幼かった弟は暫くの間その話を信じていた。
 私は嘘を吐くのも吐かれるのも嫌いだが、ジョークとしてホラを吹くのは好きだ。
 一年の中で一番好きなイベント何かと聞かれた場合、エイプリルフールと答えるだろう。
 公然とホラを吹くことが許されるなんて、何と楽しく素晴らしい日なのだろうか。
 大学1年のエイプリルフールに、当時流行していたSNSで、自分は実は40代の男性だが、今まで女性のフリをしていたのだという内容の日記を公開した時には結構な人が信じてくれて思わず笑みがこぼれたものだ。
 しかし、自宅の庭で間寛平似の干からびた河童を見て、頭の丸い皿にホースで水をかけてやったら一つお辞儀して去って行ったというホラ話を友人数名にした時は皆20歳を越えていたからか誰も信じてくれず悔しい思いをした。
 そういえば、子供の頃ドキュメンタリー番組で、手話を使って人間とコミュニケーションを取り、死という概念すら理解しているゴリラを見た。
 ちなみにこれはホラではない。事実だ。

 しかし、大人になった弟にその話をした所、彼は

「そんなゴリラいる訳がない」
 と言いながら爆笑し、全く信用してくれなかった。
 信じてもらえなかったことで悔しい思いはしたものの、確かにそのドキュメンタリーを見たのは随分昔のことだったため自分の記憶が疑わしくなりネットで調べてみることにした。

  その結果、手話を使うゴリラ、ココの実在が確認できたため安堵した。

 そして、あんなに疑わなくてもいいじゃないか、と弟に軽く抗議したい気持ちになった。
 しかし、今思えば彼はチンパンジーの件をまだ根に持っていたのかもしれない。そう考えると私にも非はある。
 ホラを吹いた場合は訂正するのを忘れないようにしよう、と決意した。

 それが例えエイプリルフールであってもだ。

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