「放送禁止」1 考察②
「放送禁止」第1回の考察について、綴ります。
前回、「財前は、実行犯ではあるが、黒幕ではない」と書きました。
では、他に怪しいのは、誰か。
そのあたりについて、書こうかと思います。
■なぜ廃ビルで肝試しができたの?
取材陣が、昼間、撮影のためにビルに入るとき、財前は入り口の鍵を開けます。
つまり、この建物は、昼間ですら、普段は施錠されているということです。ならば夜は当然施錠されてるに決まっています。
ではなぜ、若者4人は、ビルに入れたのでしょう。
鍵が開いてたか、鍵を開けることが出来たからですよね。
なぜ、そんな状況だったのか。
「ビルの中に既に別の誰かがいたから」という可能性は低いと私は考えています。
例えば「別の肝試しグループ」が先に入っていたのだとしたら、そいつらも絶対中で騒いだはずなので、4人は「誰かいる」と気づいたでしょう。
だからまずこの可能性はない。
あるいは、ヤクザや犯罪者など「誰かに見られたくないことをしに来た人たち」が先に入っていたという可能性。
この場合は、彼らは、建物に入った後、中から鍵をかけるんじゃないかと思うのです。
施錠がデフォルトの建物の鍵が開いてることに気づかれたら、「普通じゃない」ってことになるから、無駄に怪しまれるじゃないですか。
だったら、中から鍵、かけるでしょ。
また、もし、そうしてかかっていた鍵を、4人が解錠して建物に入ったのだとしたら、若者は4人全員その建物から無事に出ることはできなかったでしょう。そいつらに制圧されたに決まってます。
「ビルの中に実行犯グループの人間が先に入っていた」という可能性も、なくはないんですが、やはり少々考えにくいと思います。
先に忍び込んでいた実行犯が、福田を襲い拉致したのなら、そのとき何らかの声や物音はするはずなのです。
藤堂の別荘で襲われた取材陣は、大声を上げています。
しかし、廃ビルでは、女の子達は、福田がいなくなっていることに、指摘されるまで気づきませんでした。
3人がビルから離れるまでの間、まったく不審な物音がしなかったんだと思います。
ビルの入り口には福田のものと思しき血痕すら残っています。
流血沙汰になるほどの取っ組み合いになっているのに、音も声も立てないなんて、どう考えても不可能です。
結局この仮説では、実行犯グループがビル内に既にいたにしろ、まだ居なかったにしろ、かなり不自然な印象が残ってしまいます。
なので、考えられることはもう、これしかない。
若者4人の中に、このビルの関係者がいるんです。
■幽霊が「出る」?「出ると言われている」?
①「幽霊が出るビルがあるんです」
②「幽霊が出ると言われているビルがあるんです」
この2つは、同じように聞こえますが、その意味はかなり違います。
②は、噂を聞いただけの人の台詞ですが、①はそうとは限りません。
むしろ「幽霊話はただの噂ではないと主張したい」という立場の人の台詞です。
つまり①は、
「自分が、以前このビルで、幽霊を見た」
「ビルの関係者と親密で、その人から事実として聞いた」
「幽霊話を真実として広めたいと画策している」
のいずれかです。
大橋が取材に応じたとき、彼は①の言葉で話し始めました。
ところで、大橋は私立大学生ですが、大学生にはいろいろいます。
率直に言うと、インテリもいればバカもいる。
大橋がバカ学生なら、②の意味で、①の言い方をするかもしれません。
その場合は、「大橋さん、見たことがあるんですか?」「あ、いや、僕も聞いただけなんですけど」という、間の抜けた問答が、インタビューのどこかに挟まったでしょう。
しかし、大橋は、①の言い方をした直後、②の言い方で言い直しました。
些細なことですけど、引っかかる。
何というか。
「誰かをあの廃ビルに誘うときに使っているフレーズを、つい癖で口にしてしまい、それに気づいて慌てて『いや、僕も聞いただけ』『僕も初めて行った』と訂正したがっている」
みたいな匂いがする。
つまり、私が、若者4人のうち「こいつはビルの関係者じゃねぇの?」と思った人物は、大橋です。
■福田を置いて帰れた理由
そう考えると、他にも腑に落ちる点がいくつかあります。
福田が消えたとき、そのことに真っ先に気づいたのは、大橋です。
そして、そのことを冗談扱いしようとしたのも、やはり大橋です。
その結果、3人は誰も福田を心配しません。
そのあっけらかんぶりに、見てるこっちはハラハラしますが、いろいろ考えると、怪しまれずに一人だけ置いて帰るには、このパターンがいちばん確実だということが解ります。
「あれ、福田、いないんだけど」
深刻にならないよう、サラッと提示する。
そして、彼女たちの理解が及ぶ前に、できるだけ早く、「でも大丈夫」「福田はふざけてるだけ」と思うように誘導する。
彼女たちにこの場で考える余裕を与えない。
これがうまく行けば、警察を介入させずに、福田を置いて家に帰ることができます。
じゃあなぜ、「きっと大丈夫よね」と彼女たちが思ったのか。
恐怖ゆえでもあったでしょうが、それと同時に、「大橋くんがこう言ってるから」だったんだと思うんですよ。
なぜ「大橋くんが言うなら」と思えるのか。
『福田の友達』である大橋が『ビルの関係者』だと、知っていたからなんじゃないかと思うんです。
■大橋の表情
それに何よりね。
「僕も、消えてしまうんじゃないかと思って、怖いんです」
と言ったときの大橋の顔が。
全然、怖がっていないんです。
目に怯えの色がないんです。
精一杯深刻そうに話してますけど、笑いながら写っている写真の表情と、大して違わない。
「僕も消えてしまうんじゃないかと」と言ってはいますが。
本当は消えてしまう恐れなんか、これっぽっちも抱いていない。
インタビュー映像の大橋は、そんなふうに見えます。
そもそも大橋の写真の場所、あのビルの屋内なんじゃないのかな。
■大橋についてのまとめ
今でこそ、学生起業のケースもちらほら増えていますが、当時は、大学生の在学中の起業は極めて稀でした。
大橋が、起業して、テナントを借りていたとは思えません。
というわけで、大橋はおそらく、管理会社かオーナーと、個人的に繋がりがあります。
家族か。親族か。同志か。利害関係か。
いずれにしろ、浅からぬ関係だと思います
■福田は、どうやって消えたの?
大橋に騙されたという線が最も有力でしょう。
「女の子を怖がらせるために、お前、途中でどこかに隠れろ」とか、「ちゃんと探しに来るから」とかなんとか言いくるめられて、ウキウキしながら隠れてたら、目の前に現れたのはおっかねぇおっさんだった、みたいな。
おそらく財前他数名でしょう。
そのときは、相当暴れたんでしょうね。ビルの前に血痕が残ってるので。
でも、真夜中のビル街ですから、どんなに叫んでも助けは来ない。
多勢に無勢で、いずれ力尽きる。
こんな感じじゃないかなあ。
「実は福田も実行犯側」は流石に考えにくいので。
■佐藤と前田が失踪した経緯
福田がいなくなってから、佐藤と前田がいなくなるまでには、少々ブランクがあります。
一人ずつバラバラに消える形にしないと、事件性があると見られてしまうからだと思います。
具体的にどうやって拉致したのかは、想像するしかありません。
ただ、肝試しの夜、3人で帰ったということは、大橋が女性2人を家の近くまで送り届けたということでしょうから、要は、佐藤と前田の自宅を実行犯側が把握したということになります。
家さえわかれば、そこからの行動パターンも掴めるでしょうし、後はどうとでもなるでしょう。
大橋は「佐藤にまず連絡を取ろうとしたが、連絡は取れなかった」「前田とも連絡は取れていない」と取材時に話しています。
なので、佐藤と前田は、大橋自身が誘き出したのではく、財前とその他数名あたりが、家から離れた人目の付かないところで、車でさらった、というのが、いちばん考えやすい線だと思います。
■今回のまとめ
・大橋は、オーナーか管理会社の関係者。拉致の手引き担当。
・福田は大橋に騙されて、拉致される。
その際暴れた証拠が、ビルの入り口前に残った血痕。
・佐藤と前田は、自宅を知られた結果、拉致される。
・大橋はその後自発的に姿を隠す。
自分だけ残って怪しまれることを避けるため。
ただし、大橋が「黒幕」かというと、それはまた違うだろうという気がします。
なぜと言われても、何となくそんな気がするというだけですけど。
強いて言えば、あんまり頭がよくなさそうに見えるからかなあ。
まあ、今回はこんなところで。
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