「放送禁止」1 考察③
「放送禁止」第1回の考察について、綴ります。
今回は、前回の続き。
「他に誰が、どの程度怪しいのか」について綴る予定です。
■藤堂について
財前と同様、一連の失踪事件に深く関与していそうだと、簡単に推測できるのが、藤堂です。
取材チームが襲われたのが、藤堂の別荘、しかも、藤堂のインタビューの真っ最中です。無関係であるはずがない。
ただ、この人の場合は、あんまり中心人物である感じがしません。
どこか小物っぽいんですよね。
藤堂は、小さな出版社を経営していたようですが、「乙骨瞬時」の名前で、超能力者として名を売ろうとします。
随分変わった芸名です。芸名っていう言い方もあれですけど。
終末預言を繰り返すのが、彼の主な芸風だったようです。
超常現象を起こせることも売りにしていたかどうかは不明。
しかし、取材チームの目の前で、藤堂は、「力」と称して、コーヒーカップや壺を手を触れずに割るという手品を披露し、驚かせています。
取材チームがドアをノックしてから藤堂が出てくるまで、1分ほどかかってるので、その間に急いで準備したんでしょう。
元々は手品師だったのかも知れませんね。
実際の話、80年代から90年代くらいまでは、無名の手品師が超能力者としてメディアに出てくることがわりとあったんです。
藤堂はこの「力」を「彼ら」から授けられた、と言います。
それは「力」であり「超能力」とは呼ばれたくない、とも言います。
つまり、藤堂に「力」を授けた「複数の誰か」がいる、ということです。
その「力」とは何か。
おそらくは、「対象物を操れる力」という感じかと思います。
カップや壺を割る手品はともかく、それを取材チームに見せて驚かせ、怖がらせたり信じ込ませたりする話術も、立派な「力」です。
いわゆるマインドコントロールテクニックのひとつ。
藤堂は多分それら全てをひっくるめて「超能力と呼ばれたくない」と思っています。
それが藤堂にとっては、インチキでも手品でもない、本物だからなのだろうと思います。
藤堂は、元々超能力者としては、世間からキワモノ扱いされてきた人なので、「実際に思った通りのことが起る」「自分が相手を苦しめている」というのが、楽しくて仕方ないんでしょう。
最後のあの高笑いは、自分を理解しない世間に意趣返しをしてやったという、暗い喜びに溢れているように聞こえます。
藤堂自身は、どこまで本気で「力」だと信じているんでしょうか。
案外「人の頭も力で割れる」と本気で信じているのかもしれません。
藤堂の部屋には、ダリの「記憶の固執」に似た、柔らかい時計の絵が飾られていました。
硬いはずのものがぐにゃぐにゃに形を失う。
本来堅固なはずの科学的常識が、藤堂の中で壊れているという隠喩のように見えます。
カップを物理的に割るのは、手品として習得する必要がありますけど、「人の頭を痛めつける」という図式は、やられた側が痛がってみせれば一応成立してしまいますから、やりようによっては、「オレには人の頭を痛めつける力が備わった」と本気で信じ込ませることが出来るかもしれません。
というわけで、藤堂もまた、「彼ら」から何らかのマインドコントロール、ないしは洗脳を受けているということでしょう。
つまり、藤堂も、実行犯側ではあっても、黒幕ではありません。
同時に、この時点で、「痛い痛い!」と蹲った、ディレクターの津田も、実行犯側の人間だという可能性がほぼ確定するんですが、それについては後述。
■津田について
取材チームが行く先々に、財前が現れる。
「怖っ」と感じるところですが、よく考えれば不思議です。
どうして財前は、取材チームのスケジュールが分かるんでしょうか。
財前が管理しているビルの周りだけじゃありません。
あちこちに、びったり張り付いてる。
昼も夜も。
アポなしのような状態で訪れた藤堂の別荘にも顔を出せています。
誰かから事前に聞いていないと、無理でしょ?
というわけで、この取材スケジュールを財前に流していた人物が、津田だと思います。
最後に、廃ビルの一室らしき場所に閉じ込められているのが判るのは、インタビュアーの佐伯と、それを撮ったらしきカメラマン、すなわち遠藤の二人で、そこに津田の姿はありません。
実行犯側だったからなんだろうと思います。
肝試しグループにおける大橋みたいな役回りなんでしょうね。
■オーナーN氏について
この人だけ、何もかもが解りません。
登場人物は全員名前が出てるのに、この人だけ匿名でN氏。
顔も出てきません。
声も変質加工してあるのでわかりません。
わかるのは、話した内容だけです。
名前も顔も声もNG。
この徹底ぶりが不思議なんです。
失踪者の両親ですらフルネームで顔出ししてるのに。
話す内容も、少し変です。
「テナントが埋まらないのは、変な噂が消えないせいで、
変な噂が消えないのは、管理会社が何もしないせい」
みたいなことを言うんです。
勝手にテナントを引き払っていた出版会社についても「困ってる」と言うだけで放置。
不満があるなら管理会社を変えればいいじゃん。
東京って、不動産の管理会社、一社しかないの?
失踪した店子の件は、契約解除手続きを裁判所に持ち込めよ。
お前のビルだろ? お前がやらないから事態が好転しないんだろが。
って思うんですよね。
何被害者面してんの?
というわけで。
私が、「こいつが黒幕だろ」と思ってるのは。
この、オーナーのN氏です。
黒幕というのは、計画の全容を把握し、采配しながら、事が明るみに出たときは、善意の第三者の立場に立てる人間のことなんです。
怪しまれる手がかりは極力残さない。
内部に裏切り者がでない限りは、絶対に尻尾を掴まれない。
N氏は、ビルの店子とも管理人とも関わりがありながら、取材テープにばっちり映りまくっている財前や藤堂とは違い「何も知らなかった」で逃げ切ることが出来そうな立場にいます。実に狡猾です。
N氏、無関係なはずないと思うんですよね。
というのは。
ビルに以前入っていた他の店子は、「小さな貿易会社」や「弁護士事務所」でした。
「出版社」「貿易会社」「弁護士事務所」が揃ったら、人を集めて、消して、それを法的にクリアする、なんてことは、きっとそれほど難しいことではなくなります。
これらの会社、N氏が意図的にチョイスして揃えたんだと思うんですよ。
テナントを誰に貸すかの決定権はオーナーにあるんだもん。
「偶然です」と言われてしまえばそれまでなんですけど。
■まとめ
・藤堂は傀儡。おそらく本人も多少自覚あり。
・津田は拉致実行犯側の人間。
・黒幕はN氏。ただし現在証拠がない。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?