平和について
ウクライナの生徒、ロシアの生徒が二人、カザフスタンの生徒。
それぞれは違う学年なのだけれど、寒い中外のベンチで並んで座っているのが教室から見えた(*アメリカの私立校で教師をしています)。
こんな状況なので、ひょっとして何かあるのかなとちょっとだけ心配になり、両手にキャンディーとチョコレートを掴んで教室を飛び出した。表情だけではどんな話をしているかわからなかったし、彼らが友人同士なのかも知らなかったので正直言うと揉め事や諍いがあるのかもしれない、と思ったのだ。掴んだ甘いものは何か美味しいものを食べれば気分が良くなるかな、と思ってのことだった。
彼らは携帯電話の写真を見せ合いっこしていた。
”何してるの〜” と近づいた私に笑顔を見せ、”家族とホームタウンの写真を見せ合いっこしてる” と全員がスクリーンを私に向けた。
向かいのベンチに座り、チョコレートを差し出すと4人ともどれを取ろうかぐるぐると指を回しながら迷っていた。ウクライナから来ているユリアナが最初に赤い紙のを摘むと、残りの3人は彼女が口に入れて感想を言うのを待っていた。
”ミルクチョコだ” とにっこりする彼女を見て、ロシア人の男子が ”じゃ、僕もそれにしよう!” と赤い包み紙を取る。それに続いてカザフスタンの男子は ”ダークチョコはどれかなぁ” と、もう一人は ”僕はナッツが入ってるのがいい” と私の顔を見る。
私も1つとって口に入れた。
みんなが甘いチョコをもごもごさせながら、また携帯の写真に戻った時に、カザフスタンの子が
”シマ先生、僕らが何してるのか心配で出てきたんでしょう?” と笑顔で聞いた。
”戦争が始まったからね。僕らの家族も友達もみんな祖国にいて、ひょっとしたら何か起こるのかもしれない、って僕らもちょっと怖いんだ”
”ユリアナの家族が気になって、彼女に声をかけたんだ” と男子3人は口々に言う。
これまで4人で集まって話したことはないらしい。ユリアナは年下だし、英語が堪能なので普段はアメリカ人の生徒たちと固まっている。多分私も彼女がロシア語を話すのを聞くのはこれが初めてだと思う。
彼らは彼らなりの小さな平和をシェアしあっていた。こんな時だからお互いを元気づけるために並んで座っていたのだ。
私たちはテレビやネットで彼らの家族や、友達や、歴史や、未来がある街での出来事を見ているけれど、まだ子供の彼らはどんな気持ちでいるのだろう。私の目の前にいるたった17歳の男の子たちと14歳の女の子はどんな気持ちでいるのだろう。
彼らは多分あえて戦争のことについて私に聞いたりしなかった。ただ ”先生、見て、これおばあちゃんの家” と美しい緑が広がる庭や ”これはお姉ちゃんが飼っているシーズー” と日常の風景を見せてくれた。
みんなとチョコレートの2つ目を食べ終わり、ロリポップを口に入れたところで ”もう寒いから教室に入りなさい” と促す私に彼らは大きな声で笑い
”先生忘れたの?僕らは寒さはへっちゃらなんだよ” と顔を見合わせお互いに握手をしあった。
そうかそうか、OK、じゃあ先生は入るよ〜 と明るく手を振り歩き出すと、みんなが声を揃えて叫んだ
”Shima, we love you! Have a nice weekend!"
振り返ってもう一度手を振りながら彼らの週末はどうなるのだろうと胸が痛くなった。
どうか、どうか、どうか、早く平和な日常が戻りますように。彼らの週末がこれからもずっとずっと素晴らしいものになりますように。
平和について苦しいほどに考えさせられた午後だった。
シマフィー
平和について〜祈り The ALFEE
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