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第1章 1 1971年8月―― 家の近くの児童公園ではじめて切子を見かけたとき…
第2章 1 僕が十七歳になったその夏も、やはり〈人形の森〉の芝生広場には人影がな…
第3章 1 それからしばらくの間、切子は〈人形の森〉に姿を見せなくなった。しかし…
第4章 1 かつて切子の家では、終戦記念日の八月十五日になると、〈キネンスベキ日…
第五章 1 八月十五日、快晴――。 でも、雲ひとつないというわけではなかった。…
第6章 1 ずいぶんとくたびれた泥色の着物の上に、真っ赤なトマト色のはっぴを着た…
最終章 1 父さんが消防士になってから火事の通報をうけて出動したのは、ボヤを含めると四〇〇件を優に超えていた。正確には四二三件。平穏な街の、平均的な件数だ。 生まれてはじめて本格的な火事を経験した切子家の火事以来、父さんは火災の詳細な情報を、自分の個人的なノートに記録するようにしていた。 そのノートには、天候、風速、風向き、温度、湿度、出火原因と場所、火事の状況など、通常の業務日誌に書きこむ内容に加えて、父さんなりの分析、反省点などがびっしりと書きこまれていた