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おりたたみ自転車に乗って、Dianaを持って、大阪渡船場めぐり

こんにちは、しまたかです。
まだ梅雨明けが報じられていないにもかかわらず暑さが続いている今日この頃、いかがお過ごしですか。
これを書いている前日にちょっと遠出をしてきましたが(まあ関東圏内ですが)、それについての話はいつかまたということで、今回も前回に続いて大阪。
前回までは大阪市内の近代建築巡りをメインに綴ってきましたが、実は今回の大阪ポタリングでもう一つの目的がありました。
それが今回取り上げる
渡船めぐり。

前回までの記事はこちらをどうぞ。

大阪市内の渡船場の歴史


大阪は江戸時代から”八百八橋”と呼ばれるほどに水路が多く、だからこそ橋も多い町なのですが、実は渡し船(渡船)も多い町でもあるのです。
東京に住んでいる我々からすれば、水路が多く橋が多い点は大阪とあまり変わらないのですが、渡し船はないなぁ。
橋が架かっていない場所では人々の往来のため至る所に渡船場があり、それが令和の世になった今でも市民の足として重要な存在になっています。
昔は民間の手で運営されていたそうですが、明治24年に大阪府が「渡船営業規則」なるものを定め、同40年には安治川や尻無川、淀川筋にあった29もの渡船場について大阪市営の事業として大阪市が管理することに。
大正9年に旧道路法が施行されると渡船は無料となり、昭和7年以降それまで請負制だった渡船場は市の直営となります。
昭和10年当時は渡船場が31か所、保有船舶69隻(うち機械32隻、手漕ぎ37席)、年間利用者は歩行者約5752万人、自転車など約1442万台だそうで、かつて”大大阪”と呼ばれた時代にあって渡船は大阪市民の重要な足だったといえます。
しかし、相次ぐ橋梁の架設など道路施設が整備されると次第に市内の渡船場が減るようになり、昭和20年の戦災でその多くが失い、戦後になるとモータリゼーションの進展も相まって、昭和23年に15か所で再開された渡船は同53年に12か所、利用者も約250万人に落ち込みます。
そして現在、大阪市内の渡船場は8か所、令和3年現在で利用者は約150万人となっています。
そしてそれらはすべて大阪市が運営し、”市道”扱いなので利用するのは何と無料
下に大阪市のHPに掲載された渡船場マップを抜粋しましたが、よく見るとエリアが偏っています。


大阪市内の渡船場(大阪市HPより)

そんな訳で、これなら1日ですべての渡船場を巡ることができるわけで、今回は自転車を漕ぎながら水都大阪を肌で実感してまいりました。
※なお、順番は地図の上の番号通りではないので注意
 

①天保山渡船場

天保山渡船場(Diana+Fで撮影)

スタートは天保山渡船場、最寄り駅はJR桜島線の終点である桜島駅。
ここから一筆書きですべての渡船を乗り継ごうという算段。
桜島駅から渡船場まで南西に進んですぐの場所に最初の渡船場があります。
対岸には大観覧車が見えますね。
大阪の渡船は市道扱いなので利用がタダ、しかも自転車も載せることができるのがうれしい。
乗り物を利用するとき”輪行”といって輪行袋にわざわざチャリをしまって運ばなければならない、そんな手間が省けるのですからね。
因みに、大阪市の渡船は一部を除き日中は1時間に3本か4本15分~20分間隔で行き来しています(ラッシュ時は本数が多くなります)。
渡船で対岸にたどり着くと、そこにはかつて日本で一番低い山といわれていた天保山があるので、軽く登山してみるのもいいでしょう。
因みに標高は4.53m(低っ!)
三角点もちゃんとあるので、次に向かう前に登頂しておきましょう。

②甚兵衛渡船場

甚兵衛渡船場(Diana+Fで撮影)

「甚兵衛」という名前が何とも言えませんね。
甚兵衛渡船場は、その名の通り、甚兵衛という人が開いた渡船場。
かつて尻無川の堤は紅葉の名所だったそうで、「摂津名所図会大成」にこんな記録があったといわれています。

『大河の支流にして江之子じまの北より西南に流れて、寺島の西を入る後世この河の両堤に黄櫨の木を数千株うえ列ねて実をとりて蝋に製するの益とす されば紅葉の時節にいたりては河の両岸一圓の紅にして川の面に映じて風景斜ならず 騒人墨客うちむれて風流をたのしみ酒宴に興じて常にあらざる賑ひなり 河下に甚兵衛の小屋とて茶店あり年久しき茅屋にして世に名高し』

『摂津名所図会大成』より

ここに「甚兵衛」という名前が出ていますが、甚兵衛が開いた渡船場の近くにある茶店が「蛤小屋」と呼ばれ、蜆(しじみ)と蛤(はまぐり)が名物だったということです。
この渡船場が令和の世になった今でも健在ですが、紅葉が並ぶ風景というよりは工場や倉庫が立ち並ぶ風景といったところが大きな違いでしょう。

③千歳渡船場

千歳渡船場(Diana+Fで撮影)

千歳渡船場の上を通る橋が千歳橋です。
非対称の美しいアーチ橋で、車だけでなく歩行者や自転車も通れるのですが、何しろ海面から28メートルという高さなので、渡る際に上り下りが面倒なんですね(苦笑)
そんなわけで、地元民の間で橋があっても渡船場は残してほしいという声が多かったんでしょう、この橋がかけられた後も廃止されずにそのまま残しているわけです。
実はこの千歳橋は2代目、初代は大正11年に架けられたもので、昭和32年に大正内港の整備に伴って一度撤去されます。
その代替手段としてできたのが千歳渡船場なのです。
現在残る大阪市内の渡船場の多く古くから続くものなのに対し、戦後にできた珍しいケースといっていいでしょう。
渡船場を利用したついでに、一度この千歳橋に上ってみるのもいいでしょう。

⑦船町渡船場

千歳渡船場を渡った後、工場地帯を抜けて突き当りに現れるのが船町渡船場
幅80メートルという細い木津川運河を渡るため、対岸へはS字状に航行します。

⑧木津川渡船場

木津川渡船場(Diana+Fで撮影)

船町渡船場を渡り、さらに工場が集まる町を南へ行くと木津川に差し掛かりますが、その上を大きなスロープとループを備えた新木津川大橋が架かっています。
木津川渡船場はその下を航行する渡し船ですが、他の渡船場が大阪市建設局の運営なのに対し、ここは唯一、大阪市港湾局が運営する渡船場。
そして、他の渡船場が日中15~20分おきで1時間3~4本なのに対し、こちらは45分おきと間隔が広く、そのため便数が少ない
だから、一度乗り過ごしてしまうとさらに45分も待ちぼうけを食らうわけで、時刻表のチェックは必要です。
まあ、逆な見方をすれば、ここまでチャリを乗り通してきたわけでこの渡船場の長い待ち時間を利用して休憩とすることも可能なわけですが。
因みに、上空を伸びる新木津川大橋は総延長が約2.4㎞と長く、最も高いところで水面上約50メートルと高いので、歩行者はもちろん自転車もわたるのはしんどい。
だから、橋が架けられても渡し船はそのまま残されているわけです。


⑥千本松渡船場

千本松渡船場(Diana+Fで撮影)

ここからは木津川を渡る渡船が続きますが、まずこの千本松渡船場
この辺りは川尻に近いこともあり、江戸時代には諸国からの廻船の出入りが激しかったといいます。
そこで舟運の安全のため推進を確保し、防波堤も兼ねた大規模な石の堤を築きますが、その上に松並木が植えられたことから「千本松」という名前が付けられたといわれます。

「右塘(つつみ)に数株の松を植列ぬるゆえに俗に木津川の千本松といふ洋々たる蒼海に築出せし松原の風景は彼の名に高き天橋立三保の松原などもほかならず覚ゆ・・・」

『摂津名所図会大成』より

大正時代からこの渡し船があったそうですが、昭和48年に千本松大橋が開通されるとそれに伴って渡し船が廃止されることが決まったのですが、地元民の存続の要望の声が根強かったこともあって、現在も残っています。
両側に大きなループを持つ千本松大橋ですが、総延長が約1.2㎞、一番高いところでも水面から36メートルもあり、歩行者や自転車が通るのにもしんどそうなわけで、これでは残してほしいという声が多いのもわかります。
通勤通学のために高くて長い橋を渡らねばならないことを考えれば、渡船場が廃止されずに残してくれた方が助かるわけです。


⑤落合下渡船場

④落合上渡船場

落合上渡船場(Diana+Fで撮影)

木津川には4本もの渡し船が続いていますが、千本松渡船場から北に2㎞ほどに落合下(しも)渡船場、さらに北に1㎞の場所に落合上(かみ)渡船場と続いています。
落合上渡船場から大きなアーチが見えますが、これが木津川水門
この一帯は埋め立て地で、高潮の被害に遭いやすい場所なので、それを防ぐためにアーチ型の水門が3か所設けられていますが、その一つ。
なお、老朽化のために建て替えが予定されているらしく、この姿を見るのは今のうちかと思います。

おまけ 安治川隧道

ここまで大阪市内に残る8か所の渡船場を渡り終えましたが、さらに脚を伸ばしてもう一か所珍しい場所へ。
この安治川隧道(安治川トンネル)、昭和10年から約10年かけて、日本で最初に沈埋(ちんまい)方式※で掘られた河底トンネルで、歩行者・自転車専用のトンネルでもあります。
※沈埋方式とは、あらかじめ海底や河底などに溝を掘っておき、そこにトンネルエレメント(沈埋函)を沈めて土をかぶせる方法。
それまでは「甚兵衛の渡し」と呼ばれる渡し船が通っていましたが、安治川を航行する船舶が多かったため渡船航行に支障をきたしたことで、渡船を廃止して、この安治川隧道が造られたわけです。
地下14メートルのトンネルまではエレベーターで昇降し、自転車は対岸まで押してわたるのですが、結構涼しく、真夏でも楽に通ることができそう。
渡船の名残という点では、ここもぜひとも押さえておきたいスポットでもあります。

終わった後は「自転車湯」で一服

安治川隧道を渡って、西九条駅へ向かってゴールですが、その前にサイクリストにはぜひとも立ち寄ってほしい場所があります。
西九条駅近くにある銭湯「千鳥温泉」は、「自転車湯」という通称があるように、サイクリストにやさしい銭湯。
フロントにある折りたたみ自転車はここの店長のものだそうで、自身も自転車が好きなことがわかります。
中にも自転車置き場があり、入浴中でも大事な自転車を預けてもらえるのは大助かり。
ただでさえ自転車は安くない代物ですからね、盗難やいたずらから守るためにもこういうのは助かります。

そんなわけで大阪市内の渡船をすべて乗り、あれこれ立ち寄って30㎞程チャリを走行してきましたが、坂というほどの坂がなく、ほとんどが平坦なので走りやすいですね。
ただ、港が近いせいかトラックなど車の通行量が若干多めなのが難点かも。
とはいえ、渡船場の間は走行距離が短めで、船に乗っている間は心地よい風にあたって一息できるのがいいですね。
大阪渡船めぐりはサイクリスト向けのコースでもあるので、是非とも堪能してみてはいかがでしょうか。
ではまた。

参考サイト 大阪市 大阪渡船場マップ


※おすすめ立ち寄りスポット


大阪築港「玉一」さん。
渋い喫茶店で、早朝からモーニングがいただける。
外観から想像しがたいが奥行きが随分あります。

北加賀屋「チロル」さん。
各地から純喫茶フリークが駆けつけてくるほど人気のシブい純喫茶。
気さくなママさんが迎えてくれます。


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