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glrdadcl2020

(本記事はガールズラジオデイズ 非公式アドベントカレンダー 12/11分記事です。)

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この10月、徳光パーキングエリアに二度目の訪問をしてきました。
午前中の金沢での資格試験を済ませ、香林坊の喫茶店で休憩していましたが、ちょうど徳光の方に向かうバスがあるのを知り、駆け込みバス乗車をした次第です。

JR北陸本線の南を並走する旧国道を南下していくこの系統、金沢城下のにぎやかながらも重厚な街並みから、中古車屋や全国チェーン店がならぶ全国共通の幹線沿い風景を通り、白山松任の海岸平野、その田畑の中に浮かぶ千代野ニュータウンを終点とする、変化に富む車窓でした。団地のはずれのロータリーで降ろされて、しばらく周りを見渡します。

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碁盤の目の街並みに、平均築20年くらいのちょっと老いた戸建てが立ち並んでいます。清潔に保たれているけどアスファルトはところどころひび割れて、角には昔からの美容室や自転車屋があるような、平均的な懐かしさが確実にある風景です。初めて来たのに懐かしいような。

そんな町のはずれに壁のように伸びる松林に近づくと、案外大きな林ではなく、薄皮のようにこの団地を囲んでいるのだということに気づきます。ここを境にニュータウンは終わり、一面の枯れ田んぼになる、この不連続性に目をみはってしまいます。

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町の端っこまで歩いて、境目の道を越えたら、ぶわっと景色が広がった。

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小学生の頃の遠足を思い出す。校庭発、海浜公園ゆきのこどもたちの行列。住宅地を抜けたとたん青空がぐっと広くなって、ゆっくり春の風が吹いて。先生に連れられて進んでいくけど、この広さにわくわくして駆けだしかけたら、上級生に手をぐっとひかれて止められてしまった。でもわくわくしているのはみんな同じみたいで、先生が注意する声もみんなのおしゃべりにかき消されてしまった。

いつもの近所もジャングルのようで好き。角の家や街路樹の生え方をばっちり覚えている私は、かくれんぼでも鬼ごっこでも負けなかった。
でもこの隠れる場所もない広い原っぱも好き。いつもはあまり外の田んぼに出ない分、落ち着きなくわくわくしてしまう。

ずっと遠くの県道や高速道路を見渡せる。ほとんどミニカーみたいに見えるトラックたちが、田んぼのずうっと向こうを、しずしずと通っていく。でも車の音は聞こえないのが不思議な感じ。
首をまわすと、来た道の向こう、わたしたちの町のさらに向こう側に白い山々が見える。その視界をひばりが遠く横切る。虫にも植物にも鳥にも目をうばわれ、そのたび歩幅がみだれるから何度も手を引っ張られてしまう。ずっと向こうに見えた中学校やサイロは、気づけばじわじわ近づいている。
そうしているうちにおたのしみの、海の風が吹いてくる。弁当とお菓子とビニールシートでぎっしりのリュックサックが上下する。

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田んぼの向こう、ほとんど海岸沿いのあたりに、茶色に縮こまる古い町が見えた。海風にさらされてくすんだ板塀と瓦屋根。わたしたちの住む町に似ているようで、でもなんだか密集していて、異質。お化け屋敷があるんだって男子たちが騒いでいたのを思い出した。あそこにはどんな子供たちが、どんなふうに住んでいるんだろう。いまだに立ち入ったことがない。

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海浜公園脇の宿につきました。やっぱり疲れは溜まっていたようで、部屋鍵を開けて布団に寝転ぶなり、かなりの時間だらけてしまいました。とりあえず資格試験の参考書と問題用紙を引っ張り出して、だらだらと自己採点。終わったらテレビをつけてみたり、明日の旅程を立ててみたり。

ふと「金沢 日没」で検索すると、なんともうあと数十分で日が暮れるらしく、寝転がってツイッターをやってたのを中断し、慌てて出発しました。曇り空が心配だけど、雨が降らないことを祈って出るしかない。

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無風。気温は17度。徳光海岸はおおむねまっすぐの海岸で、向かっても振り向いても一列に波が寄せて返す風景です。
海のむこうを想像します。何百キロ先まで陸地はなくて、その陸地も異国の無人の荒地なんだろうと思うと、こころもとなく寂しくなる。
本当に静かで、立ち止まると自分の足音は絶え、ゆるい風の音とゆるい波の音だけに包まれます。誰もいません。
パーキングエリアに向かう道は、どうかすると波に運ばれてくる砂に埋められてしまいそうにも見えます。日没に間に合いたいから、遅くなりがちな歩調をまた速めました。

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地元住まいとはいえ、こんな端っこの海岸道を歩く機会は、ほとんどなかった。じゃあなんでいま自転車を押し歩いているかというに、答えはむずかしく、なんとなく?来たくなったから?信号を避けるように自転車をこぎまわっていたらここに着いていた。それにしても、よりによってこんな道へ回ってくるなんて。

あまり好きな場所ではないんだ。この土地がいやだ、東京に出たいと思うわたしだけど、正直家から車に乗せてもらえば金沢駅までは30分だし。田舎の特徴としてよく言われるような狭苦しい人間関係、厳しい自然といったものは、あまり感じてはいないかもしれない。

ただ、この海はいやだ。
東京には砂浜がないから羨ましい、そういう話をきくたび、ちょっと信じられない気持ちになる。
夏のことだったらわかる。明るいし。わたしは遊ばないけど、遊んでいる人たちの屈託なさを少し分けてほしく思うことだってあるから。
冬もなんならわかる。旅情というのかな、波がざばんと打って風がごうごう吹く中に立ってみると、なんだかサスペンス映画の主人公になったような気がするから。
駄目なのは、春と秋。
単調に単調に寄せ返す波、たいてい灰色の空、水平線は霞んでどこから海でどこから空かもわからない、ただ虚ろに広がる海の、どこがうらやましいんだろう。

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海をみているとぼうっと焦点がぼやけて、耳が風の音に埋められて、頭の中のいらいらも、大人も子供も田舎も東京も考えが薄れて、時間がとろけてしまうようだ。

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地元はいやだ。いくら金沢に近くても、いくら正直生活に不便が無くても、この海がのっぺりと無表情に背中に張り付いているなんて、おそろしい。ぼうっとするとそのまま飲み込まれてしまいそうな、この静かな灰色の海から、逃げたくてペダルを踏みこむ。

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砂浜が切れ、徳光SAにつくと同時に5時のチャイムが鳴りました。♪からすといっしょに帰りましょ、いま着いたばっかの旅行人にそれを聞かせるとは…。

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まずは展望台にいきます。こういう曇りの日だと日暮れははっきり見えないんですよね。しばらく眺めているうちに、灰色にわずかに桃色が混ざってくるけど、灰色が濃くなっていくほうがずっと優勢で、結局墨色に塗りこめられたんで、たぶんこのへんが日没でしょう。
北東をみやれば、ますます暗く輪郭を失っていく海岸を背景にして、徳光SA二階の照明だけが灯台のようにあかるい。

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定番の徳光うどんをすすってから、お土産を漁ることに。明日も移動だからあまり荷物を増やしたくはないんだけど、これだけは何度来ても買ってしまうのはひゃくまんさんの醤油、そしてあんころ餅。宿に持ち帰るおつまみ類も合わせて買い込みました。

この時期はお客さんの多くが長距離ドライバーさんのようです。階段を上がったシャワー室前には列ができていて、各々太い腕でスマホをいじって暇をつぶしています。

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階段をおり、喫煙所でがらにもなく一服しようとしたら、湿気で点火に難儀しました。こう眺めている間にも大型トラックが幾台も出入りしていきます。ぽつぽつと雨が降り始めて、濡れた路面にヘッドライトやテールランプが反射します。幾台もアイドリングしている唸りに、路面の水膜を裂く高い音が混じるようになりました。
一服ふかすと、ナトリウムランプに照らされた煙はうすく橙色に染まって、夕の闇に消えていきます。

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夜の県道。雪まじりの雨が降り始め、対向車線のヘッドライトが水滴を照らした。ワイパーのスイッチを入れ、その駆動音のぶんFMのボリュームを上げる。
県道だが交通量は多く、国道や高速道路を迂回する大型トレーラーの合間を縫って、バイクの若い一団が近づき、甲高く排気音を鳴らして遠ざかった。沿道のビデオ屋、家具屋、紳士服店、ファミレスといったまちなみは白山市に入るくらいでほとんど絶えてしまって、暗い田んぼばかりの風景を、ヘッドライトが高速で舐めていく。向こうから灯台のようなコンビニが近づき、すぐに後ろへ飛んでいく。

バックミラーをみやると、結露で曇ったガラスに囲まれた後部座席の海瑠は、ほとんどシートに斜めに伸びて、スマホをいじっている。まっすぐ背をつけて座った方がずっと疲れないだろうと思うけど、こういうアドバイスをするとまたすぐ不機嫌になるだろうから、何も言わないでおく。言ったところで耳に刺したイヤホンのおかげで届かないだろうし。

フロントへ視線を戻す。いま乗っている紺色のセダンは中古車なんだけど、これまでで一番のお気にいり。セダンなんて中年臭い、と嫌がっていた昔が嘘のようだ。ミニバンや軽とは違う、地面を這うようなひくい視点が癖になって、結局買い替えるたびにセダンを選んでしまうようになった。
ウィンカーを出し、前のトレーラーを避ける。ハンドリングに合わせてゆったり曲がってくれるこの安定感も気に入っている。アクセルに合わせてエンジンが軽くうなるけれど、大衆車ながら気密性がよく、車載オーディオもこだわって選んだから、ラジオの音声を邪魔することはない。
FMラジオからはしばらくCMが流れていたが、やがて、夜8時の番組が始まった。にぎやかなバラエティ風から音楽番組へと、ぼちぼち毛色が変わり始める時間帯。
県道が合流するこの交差点を過ぎれば、家まではもう10分とかからない。

後席に向かって、ねえ、温泉行くかね、と声をかける。答えはない。ミラー越しの視線に気づいたか、億劫そうに片耳だけイヤホンを外した彼女に、どうする、温泉行こうか?、ともう一度訊く。対向車の列の向こう、オレンジに照らされて、パーキングエリアが近づいてくる。

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パーキングエリアにしばらく滞在して満足しました。そろそろ出発します。ホットコーヒーを一個買って、傘をさして、本当はさっきの海岸沿いを歩いて戻っても良いかと思ったけど、海の方角はさすがに暗くて怖気づいてしまいました。県道25号線沿いを歩くことに。

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すぐとなりの松任海浜温泉に寄ってみたものの、今日は定休日でした…残念。おとなしく宿の風呂を目指します。
もうしっかり降り始めた雨の中、足早に車道脇の歩道を歩いていきます。金沢方面に向かうトレーラーがしぶきをあげて連なって通る。

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結露したガラス越しに対向車の灯りがいくつも飛んでいくのが見える。雨交じりの雪がヘッドライトに照らされて、暗い道路を吹いてゆく。
金沢に行ったのは、お母さんの買い物を済ませるのと、もらってきた美術館特別展の招待券を消化するためだった。団地のちょっとした美容師なのに、どういうわけかこういうチケットをもらうツテがあるらしく、普段は所帯じみているくせに、やたらとこういう芸術活動にまきこみたがるのがわたしのお母さん。

シートにもたれてYoutubeを眺めていたら、お母さんとバックミラー越しに目が合った。何か言いたげだ。もう聞かなくてもわかりそうな気がするけど、イヤホンを外してやったら、案の定。温泉いこうか?の台詞が出る。
夜のこの時間帯、この道を通っていると、お母さんはかなりの高確率で温泉を提案してくるんだ。なんということはない、風呂を沸かす・食事をつくる手間がいっぺんに省けるからここに寄ってるんだと気付いてからは、ますます気乗りがしなくなった。まるで私にご褒美をあげるような口ぶりで、その実楽をしたいだけじゃないか。


でも結局ほだされてしまうのが、わたしのもどかしさなんだけど。

さっと湯船に入って、車で凝ったからだをほぐすだけほぐし終えたら、さっと上がる。コップに給水機の水を一杯とって休憩所に向かう。お母さんの長風呂はいつものことだけど、ほら、やっぱり自分が温泉にはいりたかっただけじゃん、ってまた口角が下がりそうになる。あんな長風呂をして退屈はしないんだろうか。

座ってSNSをスクロールしたりタップしたりしていると、長距離トラックの運転手たちの豪快な会話が耳に入ってきた。パーキングエリアに停めちゃえばすぐ歩いてこれる温泉ということで彼らは愛用しているらしくて、いつものわたしたちの町では聞かない話があふれている。
関西弁なんかはまだ割と聞きなれているけれど、標準語や、もっと北の言葉、はたまたもっと西の言葉たちが飛び交い、行ったことのない県の聞いたことのない地名が、雑なゴシップや仕事の話にまじって、ぽんぽん飛び交う。三郷が渋滞で参った、今度行くのは弘前で、兄ちゃん来週鳥栖なんか?そしたらこのラーメン屋は行かないけんよ。
この温泉にくるたび、休憩所のこういう聞き耳をちょっと楽しみにしているわたしがいる。アプリの地図をスライドして、さっきの地名たちを探してみた。

ふぅっとあからさまな声とともに、お母さんがようやく上がってきたから、ラストオーダー間際の食堂へ。
遅めの夕食になるけど、ここでまたいつものやり取りにかかる。お母さんは何でもいいからね、好きなもん食べな。なんでもいいわけないじゃん、運転して買い物走り回って展覧会行って。そういう勝手に遠慮するような、こっちの遠慮を先回りしてつぶしてくるようなムーブが嫌で、あえて一番安いものを頼んでやる。ほんとにそれでいいん?それが食べたいのね?うっとうしくて顎だけで頷く。これもいつものこと。
テレビのお笑い番組を二人で眺めながら、もくもくと食べる。

ねぇ、旅行、行こうか?と訊かれた。
ぼうっとテレビを眺めてたわたしは、不意打ちで口の中のそばを飲み下す。はぁ、別に、とぼやけた返事をすると、そうかぁ、まぁそうねえ、と、あっちもなんだかぼやけて応え、この話題はこれで終わってしまった。
お母さんはたまに、こういう読めない、張り合いのないことをいうときがある。おおかたのぼせているんだろうとは思うけど。

外に出るとまだ冷たい雨で、頬が一気に冷たくなる。車に乗ってスマホを開くと、また案の定。目が悪くなるからやめなさい、とくる。小言には生返事をかえして、二度、三度とスクロールする。もう一度注意されたから天井のライトをつけて、ほら、これで文句ないでしょ。目が悪くなると大変よ、と不満そうにつぶやくのを聞き流す。
広い駐車場を横切り、交差点からすぐ折れて、真っ暗の田んぼ道を家に向かう。

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歩きながら、暗く海のような田んぼの向こうに目を向けました。室内灯をつけているのか、淡いランタンのように光って、車が一台走っていきました。宿まではもうあと少しです。

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