スタディ通信 24年1月号
滋賀でもちらほらと雪が降っています。数年前のどか雪ではないので、とても楽です。しかし、どさっと雪が積もった風景はとても好きなので、寂しくもあります。
スタディのふりかえり
先日の『諸相』スタディでは、セッション18を行いました。テーマは「祈り」という宗教的な行為をめぐる「自然主義」と「超自然主義」の本質と違いです。
自然主義と超自然主義とはどのような概念でしょうか。岩波の哲学事典を参照してみましょう。『諸相』スタディではこの意味の広い単語を認識論の文脈で使用していますので、認識論の項を参照します。
つまり、上記記述を押さえるならば『諸相』スタディで使用する「自然主義」という概念は「超自然の存在や性質を認めない立場」と要約することができます。
対して「超自然主義」は「超自然の存在や性質を認める立場」と定義できますね。
ここで考えてみたいことがあります。それは、AAはどちらの立場を採っているのか、という重要な問いです。
AAはビッグブックなどのテキストで何度も「私たちの回復は奇跡なのである」と主張しています。
つまり、AAの回復はハイヤーパワーという超自然の存在が介入し、人間をはじめとした自然の力では成し遂げられなかったことを超自然の力が成し遂げてくれたのだ、という世界観です。
これは明確にAAは超自然主義に立つ集団であるとの宣言となっています。
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さて、その超自然の存在や性質を認める立場である超自然主義と12ステップはどのように関係しているでしょうか。
その点を理解するにはまず、ジェイムズが考察する「祈り」の議論を概観しなければなりません。ジェイムズは「祈り」という行為が宗教現象の本質であるとし、その内容を以下のように述べます。
ここで、ジェイムズは祈りとは、「より高い力」(ハイヤーパワー)と相互に交流する体験である、と述べます。
ジェイムズの言う「交流」とは、人がハイヤーパワーを意識しそこに語りかけ、そしてハイヤーパワーはそれに応答する、といった相互の関係性のことです。
イメージしやすいように、このような図を『諸相』スタディでは使いました。
私たちは自分を超えた偉大な力(🐥)に対して祈ります。それは🐥を意識するということです。すると、🐥は私たちを様々な方法で導いてくれます。それはビッグブックにある第六感を通じてかもしれません、豊かな感情を通じてかもしれません、もしくは他の人を通じてかもしれません。
ここで重要なことは、祈りとは人間から神への一方通行ではないということです。その人が本当に祈れているのならば、そこに神の存在や働きかけを実感します。関係の相互性とはそういうものです。
祈りと黙想において超自然の存在を感じ、触れ合い、またその存在が問題を解決してくれる。それがAAの超自然主義であり「解決」です。
林研先生の『救済のプラグマティズム』では、下記のようにその本質がまとめられています。
ジェイムズをその基礎の一つに持つAAにおいて、祈りとは超自然主義の意味をもっているのです。
※ AAがその解決の理解をジェイムズから学んだことは下記ビル.Wのテキスト参照のこと。
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さて、前回のセッションでは12ステップの祈りと黙想をマインドフルネスとして解釈することは不可能であることも強調しました。
マインドフルネスについては様々な定義がありますが、ここでは有斐閣『現代心理学辞典』を引用し、その定義に従うことにします。
ここで重要なことは、マインドフルネスという心理技法において「超自然の存在との交流」という概念は出てこない点です。あくまで心理技法ですので、マインドフルネスは仏教を源流としながらも、自然主義の内にあります。
なので、何か精神的な問題があった時にマインドフルネスにおいては、マインドフルネスの技法を使い、その問題を自分で、もしくは人間の持つ何らかの力によって解決することを目指すものです。
しかしジェイムズの、ひいてはAAの祈りと黙想はその世界観とは決定的に異なります。
それは、祈りと黙想において人間や自然を超えた超自然の力と触れ合い、その力によって自分の問題を解決してもらう超自然主義の世界観であるからです。
なので、12ステップを認知行動療法やマインドフルネスで解釈するのは、本質的に無理があるのです。マインドフルネスにはマインドフルネスの効果が、12ステップには12ステップの効果がそれぞれ別にありますので、混ぜると無茶苦茶になり、どちらもが役に立たなくなります。やめておきましょう。
AA外部の人がそのような解釈をするのは自由ですが、AAメンバーとしては「そうではない」と端的に答えておけばいいのです。ステップ11にはこう書いてあるのですから。
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さてさて、今回のスタディ通信はいつもより長くなりました。それだけ、私も思い入れが強いセッションとなったということでしょう。
12ステップのマインドフルネス的解釈を聞くたびに「それは違うだろう」と強烈な違和感を感じていましたが、今回やっとジェイムズを使ってそれを説明することができました。AAメンバーとして一つの責務を果たせたようで、ほっとしています。
次回も「その他の特徴」の続きを行います。テーマは引き続き祈りと超自然主義になります。
ジェイムズの、ひいてはAAの超自然主義をさらに深く理解していきましょう。
参考文献
AA (2003) 『アルコホーリクス・アノニマス』 AA日本出版局訳, JSO
子安増生・丹野義彦・箱田裕司 監修(2021)『有斐閣 現代心理学辞典』 有斐閣
林研 (2021) 『救済のプラグマティズム』 春秋社
ジェイムズ, ウィリアム (1970) 『宗教的経験の諸相 (下)』桝田啓三郎訳, 岩波文庫
廣松渉ほか 編 (1998)『岩波 哲学・思想事典』 岩波書店
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『諸相』スタディのシラバスやスケジュールなどは、下記公式サイトから。