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『宗教的経験の諸相』を読もうとする人のために


読みにくい本、『諸相』

宗教的経験の諸相』という本は、決して読みやすい本ではないということは以前書きました。


そして同時に、AAのミーティングに出ていると「『諸相』を読んだけれど、意味がよくわからなかった」といった悲痛で正直な意見を聞くことも複数回ありました。

そんな状況でしたので、『諸相』というものがAAに対して持つ有用性を分かち合おうと『諸相』スタディを1年以上やってきました。そして、スタディをやる中で「『諸相』を読もうとするメンバーにオススメできる本があればなぁ」と常々思っていました。

しかし、哲学関係の本だと少し専門的すぎちゃったり、プラグマティズムは扱ってるけど『諸相』を扱ってなかったり、なかなかAAとの関係から見て「これだ!」という本に出会えませんでした。

昨年出たある本

僕は『諸相』スタディをやるにあたって、いくつか論文もよんできました。その中でとても影響を受けた論文があります。
それは大谷大学大学院(当時)の林研先生の学位請求論文です。そこで平易かつ的確に『諸相』をはじめとしたジェイムズの考え方が科学と宗教の関係性からまとめられていて、とても教えられました。

林研「ウィリアム・ジェイムズの宗教思想 ― 科学時代の救済論として―」
上記リンクをクリックすると大谷大学からPDFのダウンロードが開始されます

そして先日、昨年2021年12月にその林先生がご著書を出されていたことを知りました。
早速買って読んだところ、『諸相』をはじめとしたテキストに書かれたジェイムズの考え方を学ぶには「こういう本があったらなぁ」とAAメンバーとして願っていたような内容でした。
それは『救済のプラグマティズム』という本です。


僕もこの本を読むことで、今まで自分が読み落としていた重要なことにも気付かされました。
そしてなにより、「『諸相』は読みたいんだけど、難しくてよくわかんないよ」と言われたときに「まずこの本から始めるといいよ!」と差し出せる本が出版されて、とてもうれしく感じました。待ってました!!といった感じです。

そんなこの本は、医学博士号と文学博士号を両方持っておられる林先生だからこそのご著作だと敬服しています。

なぜ『諸相』がAAにとって大切なのか

ジェイムズの考え方は、ビル.W自身が述べているように、ビルがしっかりと履いて歩んだ靴です。そして、その考え方からAAもたくさんの有用性を得てきました。


なので、その考え方を私たちAAメンバーが学ぶことは、私たちが今苦しむアルコホーリクにメッセージを運ぶ上でとても大切なことなのです。なぜなら、それはビル.Wに大きな影響を与えましたし、AAの原理の源流でもあるからです。
私たちの原理はカール・ユング、オックスフォード・グループ、ウィリアム・ジェイムズ等といった多様で豊かな源泉を通じて与えられたものです。なので12ステップを理解したいなら、その源流を学ぶ必要があるのです。

そして、その源流を学ぶにあたって『救済のプラグマティズム』は「これは役に立つ!」と自信を持って、12ステップを学ぶ人におすすめできる本です。


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最後に、『救済のプラグマティズム』からの引用でこの書籍紹介を終わりたいと思います。ここでの「親密(intimate)」が何を意味するかは、ぜひ『救済のプラグマティズム』をお読みください。

一方でジェイムズの多元論は、不完全な世界において、われわれ不完全な行為者の間に神がともに参加しているということにその希望を見出す。つまり、一般に神は絶対的であるべきだと考えられがちであるが、経験の事実から見るならば、神に必要な属性は絶対性よりも「親密さ」だというのがジェイムズの指摘なのである。

林(2021) : 60

参考文献

林研 (2021) 『救済のプラグマティズム』 春秋社


・『救済のプラグマティズム』 出版社の紹介サイト


・編集部による書評