新興メディアに大ブレーキ 日本メディアへの教訓は

日本でも著名なニュースメディアが、軒並み大減速

日本でも知名度が高く利用者も多いニュースメディア、ハフポストやバズフィードなど、急成長を続けてきた海外の新興メディア群が、今年1月にそろって人員削減を発表した。バズフィードは、昨年フランス支局を閉鎖したのに続くリストラとなる。この1月に米国内だけで、1000人以上のメディア関係者が解雇されたという。

大変調の原因のひとつは、広告収入の売上げ不振だ。巨大プラットフォームによるメディアの圧迫が、近年急速に進んでいる。デジタル広告売上げの60%以上はGoogleとFacebookに占められ(Forester調べ)、デジタル広告市場の成長がデジタルメディアに恩恵をもたらしていない。

またFacebookが2018年に入ってがらりとアルゴリズムを変更し、ページ上位にニュース記事が表示されないようになったのも、いままでFacebookからの流入読者を当てにして成長してきたデジタルメディアに、非常な打撃を与えたとされる。

一方で、広告依存型の新興メディアに対し、有料購読者を増やす方針をとってきたニューヨークタイムズは、電子版と紙版の購読者が430万人と前年比2割増の絶好調である。

急成長の発端となったのは、2年前のアメリカ大統領選挙、そしてトランプ大統領の誕生における「フェイクニュース」問題だ。トランプ政権と、それに批判的なメディアとの対立の中で、信頼できるジャーナリズムへはお金を払うという流れができた。またニュース記事だけではなく、クロスワードパズルや料理動画などのデジタル配信にも手を伸ばし、新たな読者を獲得している。2025年までには購読者数を1000万人以上に伸ばすという、強気の経営目標を掲げている。

日本国内で進む、深刻な紙メディア離れ


急減速した新興メディア、それに対して元気を取り戻したオールドメディアのニュースに注目をしたのは、全く先が見えない日本国内のメディア業界の現状、とりわけ不振を続ける紙メディアへの危機感がある。技術革新がもたらす世界的なメディア状況の変化や、コンテンツの未来に取り残されずにいられるのだろうか、と。今年1月に日本新聞協会から発表された、2018年10月の日本国内での新聞総発行部数は約3990万部と、前年に比べて5.3%減、部数にして約223万部落ち込んだ。これは名古屋市の人口(約232万人)に匹敵する部数減となった。

もうひとつの紙メディア、雑誌書籍はどうだろうか。こちらも2018年の日本国内での動きは、かなり厳しい状況が続いた。

特に紙の雑誌は前年比9.4%減の5930億円と、ピーク時(1997年)の38%の水準まで落ち込んだ。ただ電子配信コミックスなど電子出版物が11.9%増と好調だったため、紙と電子をあわせた日本国内の出版全体の市場売上げは3.2%減の、1兆5400億円となっている。

メディアの期待を集める、サブスクリプション(定期購読、読み放題)

いま欧米メデイアが重視しているのがサブスクリプション(定期購読、読み放題)サービスだ。英ロイターによるメデイア企業への調査で、2019年に収益増をもたらすため何に注目するかという質問に対して、52%の企業が「サブスクリプション」と答えている(2位はデジタルサイネージ広告の27%)。すでにニューヨークタイムズの280万人を筆頭に、ウォールストリートジャーナルが139万人、ワシントンポストが100万人ものデジタル版購読者を獲得するなど、2017年から2018年にかけて、サブスクリプションブームは大きく盛り上がってきた。

出版分野でも、電子書籍とオーディオブックのサブスクリプションサービスを展開する「Scribd」は、最近のオーディオブックブームにものり、月額有料会員数が100万人を突破した。 さらにニューヨークタイムズなど大手のパブリシャーとも提携して、コンテンツの充実を図っている。

だがこのサブスクリプションサービスへも、巨大プラットフォームの影は伸びてきている。すでにAmazonは日本でも「Kindle Unlimited」サービスを展開し、Appleは「ニュース読み放題」「雑誌読み放題」サービスを今年にもスタートさせるという報道がある。今後サブスクリプション市場もまた、巨大プラットフォームの手に落ちてしまうのかどうか、現状ではまだ不透明だ。

ブロックチェーン技術が開く、新しいメディアの可能性

GoogleやFacebookなど巨大プラットフォームが、高度な中央集権型のインターネット技術を駆使して、デジタルメディアやデシタル広告市場を寡占的に握ろうとしているのに対し、最新のブロックチェーン技術により、信頼性と独立性のあるニュースプラットフォームを作ったり、Googleなどの中間業者を介さなくても、本当に読んだ広告だけに課金ができたりするシステムを実現しようという試みが、いま具体的に進み始めている。既存のプラットフォームを通さない新しいメディアの形として、大きな期待がもてる取り組みだと注目している。

これからも欧米のメディア産業はさまざまなトライアンドエラーを重ねつつ、読者とコンテンツをシェアしながら、そこで得たビッグデータを生かしてさらに様々なサービス部門へと手を拡げていくだろう。片や日本のメディアも、販売・流通など過去の最適解にこだわったまま「ゆでがえる」を決め込んではいられない。あらためて「誰に、何を、どうやって」伝えていくかというメディアの原点に戻りながら、新しい地平を開く技術開発や取り組みを続けていきたい。

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