2024.7.7|河村勇輝が合意した「エグジビット10契約」とは?
2024年7月7日、横浜ビー・コルセアーズから河村勇輝がメンフィス・グリズリーズとエグジビット10契約に合意したと発表された。
エグジビット10契約とは
エグジビット10(Exhibit-10)は2017年の労使協定で新たに導入された契約形態。
トレーニングキャンプ・プレシーズンに参加するための最低年俸・無保証での契約で、チームはレギュラーシーズン開幕前に2Way契約(※)に切り替えることが可能。2Wayに移行できずシーズン開幕前にウェイブ(契約解除)された場合でも、契約チーム傘下のGリーグチームと契約することができる。また、Gリーグチームに60日間在籍する条件を満たせば、最大5万ドルのボーナスが支給される。
※NBAと傘下のGリーグの両方で試合に出場できる契約(ここから本契約を目指す)
同じく2017年に導入された2Way契約とともに、NBAに挑戦した実力のある若手選手が海外に流出してしまうのを防ぎ、傘下のGリーグで育成・成長させるために導入されたともいわれている。なお、各チームは最大6人までエグジビット10契約を結ぶことができる。
日本人選手のエグジビット10契約
日本人選手がエグジビット10契約を締結したのは過去に3例ある。その際の経緯とその後について紹介したい。
馬場雄大
日本人で初めて、かつBリーグ所属選手で初めてエグジビット10契約を結んだのは、当時アルバルク東京に所属していた馬場雄大だ。
2019年にダラス・マーベリックスでサマーリーグに出場した後、9月20日にエグジビット10契約を締結。
※契約時はチーム方針で契約内容は非公開
シーズン開幕前の10月12日にウェイブされ、マーベリックス傘下のGリーグチームであるテキサス・レジェンズと契約。Gリーグでのプレーを経て、その後はオーストラリアNBLのメルボルン・ユナイテッドでリーグ優勝に貢献。
昨シーズンの長崎ヴェルカでのプレーを経て、再度のNBAへの挑戦が名言されている。
NBAレギュラーシーズンでの出場はならなかったが、馬場はBリーグ所属選手で初めてNBAと契約したことになる。しかも八村塁や渡邊雄太と違い、学生時代から全ての期間で日本国内でプレーしている。日本バスケ界の可能性を広げた選手として讃えられるべきプレイヤーだ。
渡邊雄太
2018-19シーズンにメンフィス・グリズリーズの2Way契約選手としてNBAデビューした渡邊。NBA3年目となる2020-21シーズン開幕前の2020年12月1日(このシーズンはコロナ禍の影響で開幕が12月22日)にトロント・ラプターズとエグジビット10契約を締結した。
余談だが、今季から川崎ブレイブサンダースに加入するアリゼ・ジョンソンも渡邊と同時期にラプターズと同契約を結んでいる。
渡邊は開幕直前の12月20日に2Way契約に移行。開幕後は傘下のラプターズ・905でプレーしながら2021年1月1日にラプターズで初出場。複数回2桁得点を挙げるなど攻守に活躍、初の20得点超え(21得点6リバウンド)と3試合連続2桁得点を達成した直後の4月19日、ついにラプターズと本契約を締結した。
渡邊はルーキーイヤーにブルックリン・ネッツでサマーリーグに出場して以来素晴らしい成長を遂げ、3年目を迎える頃にはGリーグではチームトップレベルの活躍を見せていたが、NBA本契約までの道のりは長かった。開幕1ヶ月前にエグジビット10契約を結び、そのプレーで2Way→本契約を勝ち取ったのは彼の想像を絶する弛まぬ努力の賜物だろう。日本バスケットボール史に語り継がれるべき偉業である。
富永啓生
記憶に新しいところだが7月5日、富永はインディアナ・ペイサーズとエグジビット契約を結んだ。富永のマネジメントを担当する日本のマネジメント会社「インディペンデンス」が発表した。
以下は富永と契約するアメリカのエージェント、「Tandem Sports + Entertainment」のポスト。
富永はドラフトキャラバンにピックアップされず、2024年5月28日にキングス、同31日にクリッパーズ、6月3日にはブルズからのワークアウトの招待を受けて参加したものの、ドラフト指名はされなかった。五輪参加もあってNBAサマーリーグにも参加できない富永にとっては今夏NBAに挑戦するための唯一といっていい道筋だ。
インディアナ・ペイサーズとはアーリーエントリーを行った(後に取り下げ)昨シーズンのオフ、2023年5月30日にワークアウトを行っている。こうした経験や縁が今回の契約につながったのだろう。
ボールハンドリング、ディフェンス面での課題はあるものの、NCAAのハイメジャーであるオールビッグ10カンファレンスのネブラスカ大学でエースを張り、コーチ投票によるオールセカンドチームにも選出された実績は本物。課題に取り組みながら長所である3Pシュートにさらに磨きをかければ、2Way契約への可能性も広がるだろう。
終わりに
日本人4人目となるエグジビット10契約で夢のNBAへの第一歩を踏み出した河村だが、やはりNBAへの道は険しい。これは富永にも全く同じことがいえる。
NBAロスター枠は本契約が最大15人、2Way契約が最大3人、合わせて18人の枠しかない。しかもグリズリーズの2Wayは昨シーズン終了時には3枠すべて埋まっていた(ガードのスコッティ・ピッペン・ジュニアとジョーダン・グッドウィン、センターのトレイ・ジェミソン)。グッドウィンが2Way契約した際にはそれまでチームにいた2Wayのガードがウェイブされており、これだけの狭き門を突破できるだけの価値を開幕前わずか1ヶ月間でチームに見せなければならない。
ただ、我々は河村が困難を克服し、チームを勝利に導いた場面を何度も目にしている。そして日々、我々が見ることのない努力も続けているに違いない。もし今シーズンが無理でも、その強靭なメンタルで何度でも挑戦するのだろう。
日本が生んだ、日本を代表するガードがNBAの舞台で躍動する姿を見たいし、その日が来ることを信じている。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?