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好きを言葉にしたら、人生が変わった話──「#読書の秋2021」開催によせて

新卒で入社した会社を退職したあと、青山ブックセンター六本木店で書店員として働いていた時期がある。書店員の主な業務は、レジ打ち、入荷した書籍の検品、返品する書籍の箱詰め。接客と肉体労働がメインだが、「棚」を任せられるようになると、そこに企画・編集的な仕事も加わる。

担当した棚は文庫に映画・演劇、それから文芸。文芸は大好きなジャンルで、いつかはやりたいと希望していたので、担当になったときは嬉しかった。そして、そのときの経験が、いまのnoteディレクターの仕事にもつながっているし、今日発表した読書感想投稿コンテスト「#読書の秋2021」を企画するきっかけにもなっている。

とても個人的な話だけれど、わたしが体験した、1冊の本から生まれた奇跡のようなつながりと、人生が変わっていった経験を続けます。

小さなPOPからはじまった奇跡

書店には日々たくさんの新刊が取次から送られてくる。タイトルごとの冊数は取次側で決められるので、ときどきびっくりするような数が入荷することもある。「こんなに売れないよ」。そう嘆きたくなるが、売りきれなかった書籍の行末を考えると、1冊でも多く届くべき人に届けたい。どこの棚に置くか。どの書籍の隣に置くか。並びを入れ替えるだけでも動きが変わることがある。

棚の編集に欠かせないのがPOPだ。特に推したい本には、手書きでキャッチコピーやコメントを書いて取り付ける。自分の一言が本の売れ行きを左右すると思うと、適当な言葉を書けるわけもなく、よく家に持ち帰ってうんうん唸っていた。とある芥川賞作品にPOPをつけたら、その翌日に著者本人が来店し、自著の隣に置いてあるこれまたわたしがPOPを書いた本を買っていったときの興奮はいまでも忘れられない。

数えきれないほど書いてきたPOPの中で、一番気合を入れた一枚は、西加奈子さんの『サラバ!』だ。西さんの作品は何作か読んでいて好きな作家ではあったけれど、『サラバ!』が入荷したときに書影から感じた圧力は、それまでに読んできた作品とは明らかに違った。

単行本で上下巻。その分量にも怯んだけれど、両方買えば3,000円を超える価格はさらにわたしを躊躇させた。たかが3,000円といえど、月収のウン%と考えると……(書店の時給はなかなか安いのです)。棚に並べたその後の勤務時間中ずっと悩んだが、自分の直感を信じて、退勤後にレジに向かった。

上下巻を読み終わるまでの間、店頭での動きはあまりなかった。数冊は売れていたが、まだ追加注文をかけるほどではない。5日ほどかかってようやく最後のページをめくり終えたあと、そのままPOPに書く言葉を考え始めた。わたしの拙い文章力で、この感動を表せるとは思わない。でも、これは、もっとたくさんの人に届くべき本だ。わたしのように救われる人が、いるはずだから。

言葉を絞り出して書き上げたPOPを次の出勤時に取り付け、追加注文をかけた。これは絶対に売らなければならない。こんなにも強い使命感を持ったのは、はじめてだった。

追加注文分もどんどん売れだし、その後さらに何度か追加をかけたと思う。わたしは本当に詰めが甘くて、そんなに気持ちを込めたPOPを写真に撮ることもしなかったので、何を書いたのか、いまではまったく覚えていない。でも、自分の言葉が多少なりともお客さんの目を留めるきっかけになったと実感できたし、そのお客さんの人生に深く刻まれる1冊になったかもしれないと想像できたできごとだった。

好きの気持ちを言葉にしたら、次の読者に届いた。

その後、書店兼出版社のSHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS(SPBS)の店先で「ライター募集」の張り紙を見つけ、履歴書と課題の作文を送った。作文のテーマは「好きな本について」。わたしは迷わず『サラバ!』について書いた。

無事に書類審査と面接を通過し、ライターの仕事を始められることになった。あとで聞いたことだが、わたしが書いた原稿を社長がいたく気に入り、他の社員にも「いい文章だ」と読ませてまわってくれたらしい。

好きの気持ちを文章にしたら、次のキャリアにつながった。

SPBSで正社員登用の打診をもらい、青山ブックセンターは退社した。あたらしい職場では編集者として働いていたが、店舗でイベントの企画をする機会をもらった。「西さんに会いたい」。完全に自分の願望先行だったけど、西さんをお呼びするトークイベントを企画し、社長のGOが出た。

出版社に勤める知り合いを通じて西さんの担当編集につないでもらい、企画書を送った。自分がいまここで働いているのは『サラバ!』のおかげであるという暑苦しい自己紹介がたっぷりで、肝心の企画部分は粗かったと思う。新刊発売のタイミングなわけでもないし、謝礼が高いわけでもない。あまり期待をしないようにと自分に言い聞かせながら返事を待っていたが、なんと「出演します」と返事が来た。

好きの気持ち企画にしたら、作家に会えることになった。

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好きからはじまるつながりを生みたくて

さて、昨年開催した読書感想投稿コンテストを、今年も「#読書の秋2021」として実施することになった。

なぜnoteで読書感想投稿コンテストをやるのか。好きな気持ちを言葉にすると、誰かに届くし、たまに奇跡のようなことも起こる。わたしが自分で体験している。1冊の本が、誰かの人生を変えることもある。これもわたしが自分で体験している。

わたしの経験は、六本木のそんなに大きくはない本屋からはじまったできごとで、書いたPOPを目にした人の数もたかが知れている。でも、noteというインターネット上の、世界中誰でもアクセスできる場所に想いをつづれば、そこから生まれるつながりは、予想もつかない強さになる可能性もある。予想もつかない奇跡が起こる可能性もある。もちろん、ささやかで愛おしい小さな奇跡だってたくさん生まれると思う。

noteとしてこの企画を実施する意義や目的は、他にもいろいろあるけれど、やりたいと思ったのは、わたしのとてもとても個人的なできごとが発端です。

2年目も開催するからには、去年よりもさらに盛り上げたくて、今年は参加いただく出版社を公募することになりました。この記事をお読みいただいた出版社の方がいましたら、ぜひ参加をご検討ください。

インターネットだけではなく、リアルの世界でもつながりを生みたくて、フェアを展開してくださる書店も公募することにしました。この記事をお読みいただいた書店の方がいましたら、ぜひ参加をご検討ください。

去年以上にバラエティに富んだ課題図書のラインナップになる気がするので、たくさんの人に好きな本への愛を叫んでほしいと思っています。コンテストのスタートは10月17日を予定しています。どうぞお楽しみにお待ちください。


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