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原稿用紙一枚の物語「変わらない気持ち」

ーーずっと変わらずに居続けるのって、すごいよな。
ざわついている居酒屋の店内。急にマジのトーンで話し始めてしまうから驚きだ。
「でも変わらないのって成長してないのとおんなじじゃね? 」
「まあそうなんだけどさ。なんというか、変わらずにいようっていうその覚悟みたいなのがすごいよなって。」

『私、まだあなたのこと好きだから。』

反芻する彼女の言葉、頬を一筋伝った涙。俺のことを深く知らなければいいと言ったのにだ。
何もしてやれない自分に進もうとしない彼女。交わるどころか平行線。いや、もしかしたら線すら描かないかもしれない。
止まったままほったらかしにされている時計のように、俺たちにはなにかしら外部のエネルギーがないと動き出しすらしない。

「でもさ、まだ好きなんだろ。」

好きと愛してやれるのは似ているようで全く違うんだよ。
すっかり温くなってしまったビールが喉を通っていく。

「そうだよ、好きさ。」

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