プロット プルゥヴド(幽霊) Another World オリジナル・イベントストーリー

 
 

あらすじ

 インキュベーターの排斥を画策したP.B.と小癪にもインキュベーターのシステムそのものを掌握しようと目論んだマギア・ユニオン並びにそれに合流しようとするピュエラ・マギ・ホーリークインテット、プレイアデス聖団と言った反乱グループの殲滅。そして浄化システムの回収のため。インキュベーターたちは時女一族を、浄化システムの情報を餌に神浜市へと招き入れた。

 戦闘のための準備と情報収集を行いつつもその一方で以前から市内に存在した異なる世界に通じると言われる特殊な魔女の結界〈ミラーズ〉の調査を時女一族の魔法少女を動員して行うインキュベーター。

 ミラーズ調査中に誤って、紛争地帯ーー世界最大の領土を持つ大国〈連邦〉に侵略されつつある東欧の小国〈y(ウ)共和国〉に流れ着いてしまった静香と久兵衛。
 行く当てもないことから、現地のインキュベーターと共に、共和国軍と現地の魔法少女や民兵隊の戦いに加わる。

 激戦地M市における、共和国軍の包囲突破を支援した後、脱出し静香と久兵衛はy共和国西部の第39航空航空旅団の基地に身を寄せた。
 
 基地では共和国空軍の戦闘機とパイロットたちが共和国の航空優勢を守るために、出撃と待機を繰り返しており、その中にはRed-Egg-Shellから戦闘機のオペレーターとして派遣されたインキュベーターのパイロットも混じっていた。

本編

 共和国空軍の人間パイロット以上の冷静さと正確さを持つ彼らは、いまや共和国航空戦力の一翼を担っていた。

 好奇心から格納庫を除いた静香は、そこで共和国空軍の主力戦闘機の一つSu-27P1Mフランカーの勇姿を目にした。

 初めて見る戦闘機に感嘆を隠せない静香。

 フランカーは社会主義国で作られたとは思えないほど優雅な外見を備え、開発国である〈連邦〉でも『鶴”ジュラーヴリク”』と呼ばれる美しい機体だった。

 そこで静香はミムネという若い女性パイロットと出会う。彼女は19歳の魔法少女であり、既に6機の〈連邦〉軍機を撃墜し「プルゥヴド(幽霊)」の異名を持つエースだった。

 ミムネはもともと体が弱かったものの空を飛びたいと言う夢があったがために「パイロットになれる体が欲しい」と願って魔法少女になった過去があった。
 
 ある時、共和国保安庁がNATOおよびNSAから恐るべき情報を入手する。
 連邦軍戦略ロケット軍が、大量破壊兵器の弾頭を搭載した弾道ミサイルの発射を計画しているというのだ。

目標のTEL陣地は険しい地形にあり、また無数のSAMと戦闘機部隊に守られている。

第三次世界大戦に発展するリスクを避けるため、NATO軍による直接攻撃が不可能な以上、攻撃は共和国軍が行うしかない。

攻撃部隊にはミムネを含め、6人の共和国空軍エースが選抜されたが、彼女らは実際に作戦に参加することがなく連邦領土内への直接攻撃と言うリスクの高さから、選ばれたのはインキュベーターのパイロットたちだった。
 共和国のパイロットたちは予備機として待機することになる。不満を隠せない共和国空軍の精鋭たちは、司令部に抗議。結局、パイロットのうち一人が参加することになる。エースたちの中でも最も希望が強かったのが元アクロバットチーム出身の大佐オクサレンコ(54歳)だったがミムネも参加したがっていた。
 彼女が戦いに積極的なのは理由がある。彼女はかつてクリミアに住んでいた少数民族タタール人の出であり、2014年に連邦によってクリミアが奪われたことで、故郷を失った少女でもあった。
 また、噂によれば彼女はかつてタタール人にして、社会主義政権時代における人民空軍のエースパイロットであったアメト・ハン・スルタンの子孫とも言われていた。アメト・ハンもかつてはナチスと戦い多くの独軍機を撃墜したエースだったが、彼の同胞たちは少数民族ゆえに連邦から迫害を受けていた。

 大佐や他のパイロットたちはむしろ若く共和国空軍の未来を背負う彼女を危険にさらすことを真剣に懸念したうえで、彼女の参加を忌避したが結局、じゃんけんで決める羽目になり参加決定。
 司令部は、インキュベーターたちの元締めであるRES社に作戦遂行の上での契約条件として『機体の損失を可能な限り避けること』を求めてていたが、「彼女を絶対死なせない」事も新たに加わった。
 これに対してインキュベーターたちは契約の確実な履行の為にSu-27の複座モデルSu-27UBを借りることを提案。それの後席に静香を乗せることにした。
 いざと言う時は、空対空ミサイルを彼女の固有魔法で防いでミムネを護らせるつもりだった。

 UBの操縦は当然ミムネにやらせるつもりだったが、ミムネは「空を飛んだことのない田舎者のヤポンスカ(日本人)を乗せたくない」と拒否した。
 元々1匹狼気質なのもあるが、実際的な理由もある。
 後席で吐かれたら困るからである。超音速飛行による激しいGとアクロバットによる急激な視界の反転の連続は魔法少女でも厳しいことをミムネはよく知っていた。

 仕方なく、その機の操縦を買って出たのは久兵衛だった。

 共和国はかつて社会主義政権時代の連邦の領土の一部だったために、保有する装備の大半は連邦人民軍の物をそのまま流用している。空軍の戦闘機もおなじであり、空軍が保有しているのはSu-27、Mig-29、そして対地攻撃用のSu-25だった。
 
 地上目標の攻撃ならばSu-25が相応しいかもしれないが、対地攻撃機であるが故に頑丈ではあるものの速度が遅い、一方でMig29はわるくないものの、元々が迎撃機であるために航続距離が短かった。
 
 Su-27はもともと連邦が社会主義政権時代にその長大な領土を防衛し、また、場合によっては敵地の奥へと侵攻する爆撃機もしくは空挺部隊を乗せた輸送機を護衛し制空権を獲得するために開発された機体であった。故に、戦闘機としては破格の航続距離を有している。
 敵地の奥にある重要目標を破壊するこの作戦において、他の機を選ぶ選択肢は無かった。

 基地の整備兵や共和国空軍の将校たちはインキュベーターの一人とは言え、地上戦の専門家と見ていたため彼に操縦を任せることに不安があったが、全体が知識や技術を共有できるため、操縦に関する知識は完ぺきで、肉体も高齢でありながら十分頑強かつ動体視力も問題なかった。

 作戦当日、パイロットスーツに耐Gスーツ、ヘルメットを貸し出される久兵衛。一方でSu-27UBの後席に乗る静香にはサイズの問題からヘルメットしか渡されなかった。代わりに、いつもの魔法少女のコスチュームである。
 
 かまぼこ型の格納庫”ハンガー”に駐機されたSu-27UBに、らったるを使って乗り込む久兵衛、静香も彼に続いて、恐る恐る後席に小さな体を滑り込ませる。 
 機に乗り込む直前、整備兵から静香のことを訊かれる。
「その娘は何なんだ?」

久兵衛の返答「この作戦で重要なアセットだ。君たち人間風に言えば、『幸運の女神』さ」

 操縦席に座った久兵衛は、ヘルメットをかぶり酸素マスクを装着した。静香もそれに倣う。
 キャノピーが降ろされるとともに、エンジンをスタートさせる。
 主翼のエルロンと尾翼が動くかどうか動作確認。機外の整備兵が親指を立てて「異常なし」と合図するとともにウェポンステーションに取り付けらえたレーザー誘導爆弾とR-27空対空ミサイルの、赤いリボンがなびく安全ピンを抜いた。
 ハンガーを出たUBは他のインキュベーターの戦士”ソルジャー”やミムネが操縦する五機のSu-27P1Mとともに誘導路を通って、滑走路に侵入した。
 久兵衛と静香が乗る複座型のSu-27UBは、ミムネの僚機だった。
 管制塔とやり取りした後、テイク・オフ=アフターバーナーを全開にして空へと舞いあがった。
 攻撃部隊は基地の整備兵や防空隊、そして作戦の説明に来ていた参謀将校や基地司令達に見送られる形で離陸した。

 後席の静香にとっては、これが生まれて初めての空の旅であった。
 いったん高高度に上昇した攻撃隊。神浜の電波塔に登った時に見たそれとはまた違う景色。そして、共和国国旗のモチーフにもなっている青空と眼下の雲の床に、静香は戦場に居るのも忘れて感動と興奮を覚えていた。
 しかし、優雅な空の旅も直ぐに終わった。 

 攻撃隊の離陸と同時に、特殊作戦を支援するために共和国軍が優勢な北東で国境周辺への限定的な攻勢を見せる、他の空軍航空旅団からSu-25やMig-29も参加した大規模なものだったため連邦空軍の注意もそちらに向いた。

 この隙を突いた攻撃部隊は、低空飛行でレーダーを掻い潜り〈連邦〉領域内に侵入する。
 
 〈連邦〉防空識別圏に近づくと、レーダー波を避けるために一気に高度を地面すれすれまで下げる。時間との戦いでもあるため、一気に音速まで加速、体験したこともないスピードで飛び、身体には体重の数倍の重力がかかったことで、静香は目を回し気絶しそうになる。
 全身の血液が上手く体中に回らなくなる中、前席に座り操縦桿をまるで乗用車のハンドルのように操っていた久兵衛はいつも通り冷静に、
『魔力を身体強化に回すんだ、もしくは身体を動かすのも酸素と血液じゃなくて魔力に依存させると良い』
と指示した。
 彼の言う通りにし、意識を戻した静香。
 キャノピー越しに、景色が目まぐるしく変わるのを見る。機体が前に進んでいるというより、景色が凄まじい速さで後ろに下がっているように見えた。

 攻撃隊は最初の難関に差し掛かった。編隊を攻撃のためのフォーメーションを組み直し、亜音速のまま狭く入り組んだ峡谷へと侵入するのだ。

 目標であるTEL陣地に接近するためレーダーの届かない谷間を抜ける攻撃隊のフランカー6機。谷の上にはレーダー波だけではなく、地対空ミサイルも設置されているので高度を上げることは出来ない。
 
 複雑なカーブを描く回廊の様な谷を高速で突っ切るのは、カーブだらけの道をアクセル全開で突っ切る以上のスリルだった。以前に分家のみんなで遊びに行った遊園地のジェットコースターより凄まじい。何度も断崖絶壁に衝突しそうになる中で、静香は悲鳴を上げるのを何とか堪えていた。久兵衛は相変わらず、自分よりも恐ろしい景色を見る位置にいるにもかかわらず(感情が無いため当たり前と言えば当たり前だが)、動揺することなくスムーズに操縦桿を動かして、機首が絶壁にぶつかるすれすれで回避していた。
 前方を飛ぶミムネ機も同じく、 正確に機体を操っている。

 針の穴を通す以上に性格で、大胆であることが求められる。彼女の飛び方はまさにそれだった。

 谷を抜けると、次の難関――目の前に現れた山、弾道ミサイルの陣地はその向こうに合った。
 坂を一気に駆け上がるようにして飛び山の頂上で機体をロールさせて今度は滑るように降りる、ミサイル陣地の頭上を掠めるようにして飛ぶのは一瞬。その間にレーザーで弾道ミサイルをマークし誘導爆弾をたたき込まなければいけない。

 先頭を行くミムネは、迷うことなく速度を保ったまま山の斜面すれすれを上昇し、高度をオーバーすることなく機体をいったんロールさせた後、操縦桿のスイッチを操作し火器管制システムを対地攻撃モードに切り替える。
 HUDの照準を起立したミサイル群に重ね合わせる。冷静な判断力と極限の集中力が求められる瞬間。HUDに表示されたシーカーが弾道ミサイルを捉えるとともにそれを伝える電子音が鳴る。
 間髪入れずに操縦桿のボタンを押し投下。主翼のウェポン・ステーションから切り離された2発の爆弾がミサイルを立て続けに破壊した。

 爆弾が投下される直前、弾道ミサイルの周囲に居た〈連邦〉の戦略ロケット軍の兵士たちは、突如響いたターボファンエンジンと山の山頂から現れたSu-27に混乱。
 まさかこんなところに共和国空軍機が現れるなど予想だにせず、「どうしてここに空軍が(同じ機体を有する〈連邦〉空軍の友軍機と思っていた)!?」と立ち尽くしたところで、並んでいたミサイルのうち3基とその周辺に居た兵士たちが吹き飛ばされた。
 その時将校たちは初めて、これが共和国空軍の奇襲だと理解した。
 兵士たちは混乱し、何人かは友軍に爆撃されたと思っていたが、将校たちは間髪入れずに「敵襲ぅっ!」と叫んでいた。
 しかし、兵士たちが迎撃態勢もしくは周囲への友軍への連絡または、ミサイルを再び寝かせて退避する間もなく、後続のフランカーから爆撃されミサイルとともに消えた。

 インキュベーターたちはマシンさながらの正確さで、機体を操りつつ残ったミサイルを正確に狙い破壊した。
 
 そして一気に離脱。
 ここからが最後の難関だった。

 通信で敵襲を知らされる前に叩いたとはいえ、連邦軍の切り札である弾道ミサイル部隊とあってデータリンクはしっかりしている。
 部隊から信号が途絶えたとあっては、さすがに気づかれる。

 敵機の侵入をみすみす許した上に、まんまと逃げられたとあっては恥の上塗り。連邦空軍の威信に賭けて容赦のない追撃に出るのは明白だった。

 ミサイル陣地を抜けた直後に、周辺に設置されたSAMが起動。空中管制機も急行し、基地では戦闘機がスクランブルした。

 敵の戦闘機も同じSu-27 の近代回収型。しかも、敵の領域で孤立無援のこちらと違い向こうは地上のレーダーサイトやSAM、さらにはAWACSや増援部隊もいる。長くとどまり戦えば不利になる事とも明らかなので、可能な限り逃げに徹したが完全には振り切れなかった。

 追いつかれ交戦状態に陥る。

 しかし、戦闘ではほぼ互角に戦えた。最新の戦術リンクを使う連邦軍に対して、インキュベーターたちはテレパシーにより完全な情報共有が可能だったからだ。

 あくまでも個々のパイロットと機体が互いに連携しているのに対し、インキュベーターが操縦する共和国空軍のSu-27部隊は編隊そのものが一つの戦闘システムだった。

 中距離空対空ミサイルの先制攻撃をチャフ及びECMを駆使して回避。

 


 

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