Another World (セリフのみ)


(神子柴を始末した直後、インキュベーターたちはさらにその家族も抹殺した。神子柴一家の無惨な死体を粗大ゴミでも捨てに行くかのように運び出す他の個体たちを見て唖然とする時女一族の面々。同行していた ほむら と まどか もその様子を見ていた)

本来合理性を重んじるインキュベーターなら神子柴たちを殺す必要など無い。少女たちの魂を引き換えにした奇跡を、国のためと称して金で売り払い、真実を知った者や意に反する者を口封じに暗殺していた神子柴の行いやその下劣かつ低俗極まりない本性を考えると同情の余地は無く、よそ者である彼女にしてみても義憤に駆られ無くも無い。しかし、もともと感情がない上に、いくら まどか との契約でこの場合は魔法少女に味方をすることが絶対条件となっているとはいえ彼らの立場にしてみれば本来は処刑する必要などなく、むしろ生かしておいて様々なことに利用した方が良かったはずである。そうなると、彼らには何らかの意図があるとしか考えられなかった。一体何が?

疑問が強い不安になりそうなのに加えて、過去のループの経験から『こいつらの意図を知っておかないと後で大変なことになるかもしれない』という危機感もあり、ほむら は尋ねた。

「なぜ殺したの?まだ利用価値だってあなたたちにしてみればあったでしょ?」
たまたま近くで歩哨をしていた個体に尋ねる。アサルトライフル(H&K G36E)を手にゆっくりと振り返った彼はいつも通り尻尾をゆらゆらと揺らしながらおよそ20代を過ぎているであろう青年の肉体にふさわしくない幼い少年のような高い声をテレパシーで脳内に届ける形で淡々と答えた。
『確かに、神子柴とその一族は里の資金調達からその運営を一手に担ってきた。だが、それは別に彼女らがやらなくても僕たちでできたことなのさ。それに、ちょうど実験したかったんだ』

「実験?」

『そう、実験だ。僕たちインキュベーターに人間の社会が統治できるかどうかと言うね』

「なぜそんなことを?」

『まどか や君(ほむら)のようなイレギュラーが出現しつつある中、母星もこの星をエネルギーの回収先として扱うのに慎重になりつつある。もしかすると、この星から手を引くこともあり得るかもしれない。しかし、そうなれば僕たちは用済みだ。僕たちは母星に見放されこの星で目的もなく生きていくことになる。その時に備えて...』

「あなた達……地球を支配するつもり?」

ほむら の言葉にその個体は(感情が無いはずなのに)口の端を僅かに釣り上げたように見えた。

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