積厚流光 vs岡山 1-2

 立ち上がりからビハインドを負い、噛み合わせで後手に回るも、試合中の修正でひっくり返し、ダービーで勝利を得た前節。無闇に前に攻め急ぐのではなく、ボールを動かして相手をスライドさせてバイタルで崩すことができた。

 3連戦を勝利で締めるべく、挑む今節の相手は岡山。昨シーズンはシーズン通して安定してポイントを積み上げ、POまで駒を進めた。木山氏らしく、プレーの選択肢を限定してゴールに直結するように攻めた印象。デュークとチアゴアウベスの火力だけでなく、田中・本山・河野等々が厄介。後ろはバイスと柳が固める。そして何より、佐野航大のインパクトは絶大だった。セカンドボールの回収からゴール前のチャンスメイクまでハイクオリティでこなすのは手の付けようがない。今オフはデュークを札束で殴られて失った。が、櫻川ソロモン、永井、ルカオなどのパワー系の選手が加入。さらに、鈴木喜丈、田部井涼、高橋諒などの確かな実力を持つ選手も補強。ウチで昨シーズン左サイドを駆け上がった友也もフリエ復帰→完全移籍。
 ただ、今シーズンは勝ち切れない試合が続く。ここまでわずか1敗とリーグ最少な一方、リーグ最多の11分け。昨シーズンの徳島が打ち立てたリーグ記録に迫るペースで1ポイントを積み上げている。大崩れはしないので、1つ噛み合えば一気に勢いが出てくるだろう。シンプルに櫻川やアウベスに当てて、セカンドボールを回収して攻め込むのが大まかな狙い。また、サイドに推進力があるので、外回りでアタッキングサードまで持ち込むこともできる。ただ中央の形を模索しているようで、フラットだったりダイヤモンドだったり併用。

 恐らくウチはボールを持たせてもらえる時間が長くなるが、岡山の縦に速い攻撃にどう対応するかが重要。なるべく前でボールを動かすようにし、ロストの位置には気を付けたい。多分、ウチが今シーズン苦手とするタイプの相手だからこそ、ここを越えられると大きい。

メンバー

 ウチは前節から18人ノーチェンジ。90分通してどのようにマネジメントするか。

 対する岡山はスコアレスドローだったミッドウィークの長崎戦から4枚変更。本山→河野、高木→髙橋、ムーク→チアゴアウベス、ルカオ→櫻川。U-20代表で佐野と坂本が欠場。ソロモン&チアゴのパワーで殴りつつ、中央で河合がバランスを取る。

前半

 2試合連続で立ち上がりに失点している分、この試合こそ先制は避けたいところだったが、またもやいきなり失点を喫する。

 3分、バイス→河井→河野と繋がれ、河野が前線にフィード。チアゴの前でアマがジャンプするも弾き返せず、ソロモンに収まる。ソロモンはそのまま左の高橋まで展開。岡本がすかさずチェックに行くが、高橋はワンタッチで前方のスペースに走った仙波に通す。仙波は上手く前を向きながらPA角を取るので、酒井が自由を与えずに付いていく。ただ、酒井が対応に出ていくことでPA深くにポケットができ、そこに高橋が走り込んで再度ボールを受けて深さを作る。アマと岡本の2枚が寄せに行くも高橋はグラウンダーのクロスを入れる。手前でソロモンが走り抜けてできたコースにボールが転がり、最後はチアゴが左足で合わせて先制。
 岡山の縦の勢いに見事だが、縦の速さと横への展開がどちらも活きた形であり、対応は困難。最初のソロモンの懐の深さでポイントを作られたのが嫌だったが、その先の高橋のワンタッチでペースアップし、次の仙波のボールの持ち出し方が完璧。高橋で1回外のレーンを使い、仙波がハーフスペースに斜めの動きをして酒井を釣り出し、自らは外側にコントロールしながら高橋が使えるコースを作った。PA角からPA深くまでラインを下げさせられてから平行のボールが来てもディフェンス側は反応が難しいし、前向きに走り込む選手がいるとどうにもならん。(最後のソロモンのポジショニングがオフサイドじゃないかなーって思ったけど、ウチもその後ジャッジで恩恵受けるから何も言わない。)

 続く5分も岡山の決定機。ソロモンをターゲットにしたロングボールを畑尾が弾くが酒井にディフレクトしてルーズボールに。風間より先にチアゴがスプリントしてボールを確保すると、ウチのDF陣が帰陣するのと交差するように左へとスライド。そこから深いキックフェイントでアマを剥がし、フリーでDFラインの裏を突くボールを蹴る。岡本の内側から通したパスにソロモンが反応し、角度のないところから右足を振るが、櫛引が左足を伸ばしてセーフ。
 低い位置から少ない人数で完結する、ウチとは少々異なるポジトラでの殴り方。ダイレクトにゴール方向を狙うプレー選択が続くので、判断の部分でロスする時間がない。これは昨シーズンも言及した部分だが、最終目的はゴールだってところから逆算しての最短ルートで攻めている。これが上手くいくと岡山はより結果が着いてくるだろうし、反対に一歩間違えると攻め急いで形がなくなるから、そのバランス感覚を探っているのが現状。この試合では良い方向に作用している。

 岡山は鈴木がLCBになる右上がり可変で、3-5-2っぽくなる。ウチは前線2枚+SHで3バックを埋めようとしたが、そこで厄介なのが河井のポジショニングである。ウチと対戦する相手は、大体1stプレス隊の間でボールを引き出そうとするが、河合は直線上に立ってボールを引き出し、1stラインをブレイクしている。特にバイス側でボールを動かす際にこの動きは顕著で、バイス自身もシグナルで河合の立ち位置を示している。失点時がまさにそのボールの動かし方でやられた。風間がチェックに行くにも距離が遠いし、フリーでボールを扱われてしまう。結局河井自身がボールを持つ時間は長くないので、高橋・河野のWBのマークの所在が曖昧になってしまい、嫌なボールの持たれ方をした。
 ただ、ウチもそこでやられ続けるわけではない。これまで起用選手の兼ね合いで後半途中から発動していた岡本IHを前半から使う。佐藤が大外で幅を取ってボールを落ち着かせる場面と、自ら引き出して岡本を大外のレーンで勝負させるシーンを使い分けていた。それによって高橋のスタート位置がやや下がり、ウチのチェックが掛けやすくなった。攻撃時も中央で形を作りつつ、PA角辺りから山中や岡本で勝負させる局面が増える。

 30分、ウチのチャンス。自陣のビルドアップに対し岡山が前から掴みに来る。ウチはアマ-酒井-佐藤、佐藤-岡本-アマの2つのトライアングルを形成してボールを回してプレスを回避。アマが敵陣に侵入し河井を振り切って平松に当てる。平松は上手くキープして、中のレーンに入ってきた佐藤に落とすと、佐藤は彰人に楔を刺す。彰人は自ら前を向くが、後方に落とし、最後はアマが左足で巻くようにフィニッシュ。完璧な崩しだったが、曲がり切らずに左に逸れた。
 これが決まっていれば年間ベストともいえるボールの動かし方。アマが縦に走ったのを見て佐藤は中に入ったし、佐藤から彰人に出した局面では大外に山中も走っていた。相手のプレスにも臆せずに少ないタッチで回して剥がしてフィニッシュまで至るのは、日頃の落とし込みの成果だし、相手に与える脅威も大きい。

 35分、アマが持ち上がってチアゴに倒されて得たFK。佐藤のシュートは壁に入ったバイスとソロモンの間を通して軌道に乗ったがクロスバーを直撃。

 40分、CKの2次攻撃。自陣で作り直して陣形を整え、左の岡本から彰人に1度刺して風間に繋ぐ。風間の鋭角のパスに平松が頭で合わせたが抑えきれず。風間のキック精度は折り紙付きだが、あの角度でドンピシャで合わせられるボール蹴れるのは最早怖い。

 44分、前半最大のチャンス。右サイドのスローインの流れからアマが一度左足を強振したがブロックに遭う。こぼれ球をPA内で佐藤が拾ってアーク付近の風間に戻し、左でフリーの山中へ。山中の柔らかいボールは高さのある岡山DF陣を超えてファーでフリーの岡本へ。岡本がハーフボレーで合わせたシュートは堀田の脇をすり抜けたが、バイスがライン上でクリア。追いつくことができない。
 これも狙い通りだった。片方のサイドで仕掛けつつ逆に展開し、サイドからサイドへのボールはどうしても相手のスライドに時間が掛かる。そこからクロスを入れれば視線は奪えているし、シュートもドンピシャだった。これはバイスを褒めるしかない。

 またも立ち上がりに失点してしまったが、徐々に盛り返し、良い流れで前半を終える。

後半

 前半にエネルギーを掛けながらも追いつけなかったが、後半も立ち上がりから前に進む。すると、思わぬ形でチャンスが舞い込む。

 48分、自陣深い位置で山中がボールを持ち、下りてきた彰人とのワンツーで左サイドを駆け上がる。トップスピードで進み、アタッキングサードまで至る。中の上がりを待ちながらボールを持ち、佐藤に渡そうとノーステップで左足アウトを使ったパスが河井の左手に当たる。PA内かどうか微妙な位置だったが、岡部主審はペナルティスポットを指す。VARがないカテゴリである以上、なかなか一度なされた判定は覆らない(今節の山口のアレは流石にね…)。
 キッカーは佐藤。長い間合いを取り左足で放ったシュートはネットに突き刺さり、同点に追い付く。ここ数試合はスタメンを外れたり、出場時間が短かったり、インアウトしたりと色々苦しんでいた10番にここでゴールが生まれたのは、今後に向けて大きい。責任感が強いからこそ、どうしても意識して背負ってしまうだけに、これで少しは肩の荷が下りたのではないか。

 ゲームをコントロールするにしても、なるべく早い時間でフラットの状態に戻す必要があった。そうした状況で早々に同点に追い付けたのは試合を進めやすくなった。

 しかし、岡山も易々とポイントをくれるわけではない。54分、岡山左サイドのCK。河野の高い弾道のインスイングのボールにゾーンの後ろから入り込んだ柳が合わせる。叩きつけたボールはバウンドして枠を超える。
 ニアにソロモン、ファーにバイスを配置し、その間に柳が走り込んできた。どのチームもニアにゾーンを引き付けてその後方で勝負を仕掛けてくる。

 56分、ウチは佐藤→エド、彰人→北川の2枚替え。前節後半と同じ並びにする。

 59分、さっそくエドのところからチャンスを作る。敵陣右サイド浅い位置でのFK。アマから後ろで作り直し、中塩が北川への楔を打つ。上手くフリーでボールを引き出した北川はターンしてPA内まで仕掛ける。河合が縦の進路を塞ぐので、北川は外のエドへ。エドはボールを触らずにボディフェイクを入れ、得意の軸のブレないターンで正対する田中を剥がす。そこから北川とのワンツーで深くまで侵入し、ワンタッチでクロス。ニアで平松が合わせたが、振り切れずに枠を外れた。
 北川のボールの引き出し方も良く、エドと北川が常に補完できる距離感を保っていたので、狭い局面でも動じずに打開できた。

 この辺りからエドが大外で張って河野をピン止めし、北川がハーフスペースでボールを受ける形での前進が増える。これはバイスが深追いしないでスペースを守るからこそ、北川が空きやすい。そして北川が後ろに顔を出すと河合の管理下になってしまうので、敢えてエドとほぼ同じ高さに留まってボールを受ける。そうすることで北川は瞬間的にフリーになるし、エドと北川の関係性を以てすれば数的同数でも崩すことは可能。
 また、前半はやや黙認していた相手ボール保持時のWBに対しても高い位置まで捕まえに行った。これもエド・山中が単騎で潰すのではなく、CMFが連動して相手の真ん中を消しているので、相手も蹴り捨てざるを得ない。

 ただ、どちらもエラーが少なくバイタルまで侵入しても決定機まで結び付けられない。岡山はソロモンとタイプの異なるルカオを入れてモビリティを得る。ウチもアマ→内田の定石を打ち、パスのテンポアップを試みる。それでも膠着した展開は変わらない。
 終盤にかけて、岡山は高木・田部井・ムーク・本山と攻撃重視のカードを切れば、ウチも山中→武で北川を右に置き、あくまで3ポイントを目指す姿勢を崩さない。しかしながら、時間経過とともに徐々に岡山が攻勢を強めており、武が入る前の83分にはCKの2次攻撃でウチがクリアできずに混戦となり、最後はムークにあわやという場面も作られた。何とか櫛引が弾いて耐えたものの、予断を許さない状況。試合展開的にはリアリストに徹する選択肢もあったが、チャレンジした。

 迎えた85分、ホームチームが試合を動かす。岡山が重心を引き上げて人数を掛けた攻撃を耐えてタッチラインに逃げる。左サイドのスローイン、スローワーの鈴木、近くの高木と田部井にはマークが付いていた。ただ、PA内深くでルカオが浮いており、鈴木は敢えて緩いボールをルカオに入れてポイントを作った。それでも角度がない位置でゴールに背中を向ける状態まで追い込んだのだが、そこでルカオはバイシクルで中に送る。密集の頭を超えたボールにフリーのムークがボレーで仕留めて勝負あり。
 ここまで上手に試合を進めてきたが、このスローインだけエアポケットに入った。ルカオへのチェックが遅れたのもそうだが、追い込んだからこそアクションを起こしにくかった。高木と田部井がブリッツのように2枚ともニアに入ること1列後ろのムークも空いた。岡山の狙い通りになった形だが、ルカオのアシストは言語化できるものではないし、こういうことが起こり得るからサッカーは面白い。やられた側は悔しいけど。

 再び追いつくべくボールを前に運んだが、ATの武のヘッドもGKの手中に収まった。時間帯によってどちらが優勢かが入れ替わったが、終盤に仕留めた岡山が3ポイントを手にする。

雑感

 負けたと言えど、一種の清々しさはある。こういう試合を越せるとやはり昇格圏という言葉を口にできるのだろう。

 守備は複数失点したものの、大きな問題が蔓延るわけではない。立ち上がりの悪さは数試合継続しているが、相手のパワーの掛け方もあるので一概に判断はできない。また、監督コメントでもあったように、1失点目はチャレンジに行った結果で相手に収められたので、そこは割り切りも必要。前半は相手にアジャストするように自陣に引き込み、後半は一気に前に出ていくのは今後も継続するだろう。最後の局面での強かさで今節は上回られたが、これを次に生かせば良い。

 攻撃も前半から効果的に仕掛けることができていただけに、やはり前半のうちに1つ仕上げきれればまた違ったように思う。後半立ち上がりで返せたのでも十分効果はあったが、やはり同点に追い付くまでにエネルギーを割いた分、75分以降に試合を決められるような局面まで持っていけなかった。ただし、相手がどの形で迎撃しようとバイタルまで侵入できることは示した。最後の仕上げは水物なので、引き続き鍛錬あるのみ。

 岡山が今シーズンまだ1敗だというのも納得の内容だった。前線のプレスがもう少し自制できるようになればもっと楽に嵌められるだろうし、ポジトラは脅威。ただ縦ポンするのではなく、縦への速さを出しつつ少ない人数で完結できるのは好感。今節の勝利でウチとも1ポイント差だが、やはり昨シーズンの成績はフロックではない。こういうチームが昇格争いに絡むのは良いよなというのが個人的な感想。

 自分たちの志向するフットボールで勝負する観応え十分の試合だった。今回は結果が伴わなかったが、方向性は間違っていない。本質での勝負で相手を上回れるようになるべく、また1つずつ積み重ねる。

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