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狂喜乱舞 vs踏み台FC 2-1

 90分間攻守に走り抜き、3ゴールを叩き込んで勝利した前節。周囲の予想を覆す"Upset"との見方が大半だが、試合内容を見ればカウンターだけで仕留めたわけでは決してなく、チームとしてやるべきことを全うした結果得た3ポイントである。

 J1降格組の一角を撃破し、確かな自信を胸に敵地に乗り込んでの北関東ダービー。
 時崎体制2年目の今シーズンは攻撃に重きを置いての得点力の向上に取り組む。昨夏に加入した高萩を中心に据え、両ウイングの火力も使いながら前進したいとのこと。ただし、基本線は前線のパワー系の選手に当てること。往年のキック&ラッシュとは言わないが、先ずは前にラフなボールを入れてセカンドを拾って前進することが目立つ。前政権の劇薬の後味がずーっと抜けてなかったが、ようやく薄まってきたらしい。が、使い分けができないので、ボールを持とうとすると今度は強度が明らかに落ちる。中盤の組み合わせにも苦慮しまくっており、刈り取るタイプを使うかボールを扱うことに長けた選手を使うかはその時々の気分になりがち。去年は谷内田が上手くバランスを取ったが無事に田舎から脱出。帯に短し襷に長しの状態でどの組み合わせが良いか定まっていない。
 とはいえ、ダービーだって託けて強度に全振りするのがこのチームの特徴だろう。そういったメンタル面が技術を超越する部分は恐らくあるので、是非とも頑張って頂きたい。

 相手の出方は読めないが、臆する必要は一切ない。相手に身の程を知らしめるためにも、1つ1つ積み上げたうえで勝つのみ。

メンバー

 ウチは清水戦から1枚変更。前節前半終了間際に足を痛め途中交代となった武に代わり平松が開幕戦以来のスタメン。ベンチには北川が久々に入る。前節スキップだった細貝もメンバー入り。

 対する相手は2失点で敗れた磐田戦から3枚変更。黒崎→福島、福森→植田、矢野→根本。

前半

 ダービーらしく立ち上がりから激しい火花が散る展開、には全くならなかった。ウチは先ずはリスクを掛けることなく踏み台対策の定石であるWB後ろへのフィードで観測気球を飛ばす。対する相手はいつも通り取り敢えず根本に当てて前進を目論む。

 凪の状態が続いていたが、徐々にウチがチャレンジのパスを使うようになる。CB+中塩とアマ・風間の5枚がコンパクトな陣形を保ち、最終ラインから積極的に縦を付けた。相手は植田が主にスイッチ役を担ってプレスを掛けてくる。しかし、ウチの選手たちは動じることなく少ないタッチでどんどん局面を変えていく。岡本やエドのところで角度が付けられるし、そもそもその2選手に対する相手のプレスが緩い。最初の立ち位置が低いので距離を詰めるのに時間が掛かっていて、ウチは簡単にボールを回せる。
 そして、25分頃からは佐藤と長倉がDHの脇(WBの内側)でボールを引き出す動きを用いる。5-2-3の構造上、どうやっても2の脇にはスペースが生まれるので、そこを突いていく。

 35分、この試合初めてウチがバイタルに侵入。自陣右サイドで岡本が完全にパスコースを読み切ってカットし、ハーフウェー手前まで運ぶ。岡本から平松に渡ったところで右での突破から撤退して作り直し。左の中塩から中央のアマに斜めのパスが入ると、アマがワンタッチで長倉に繋ぐ。長倉は平松とのワンツーで抜け出し、PA内にボールを転がす。最後は佐藤がグラウンダーのシュートを放ったが、GKに止められた。
 カウンター型のチームと目されることが多く、実際にポジトラが武器ではあるが、ボール保持の状況でも崩せることを示すシーン。勿論、岡本がカットした直後はポジトラで殴ろうとしたが、無理に仕掛けずにやり直した。そこからは相手の出方を探りつつ、空いたレシーバーを繋いでプレスをいなす。アマのワンタッチが効いたのは間違いないが、その前にアマ・長倉・平松がそれぞれ相手DHを無力化させるように顔を出してピン止めさせたのが見事にはまった。

 その後もウチがボールを動かす時間が続き、段々と相手が焦れる。レイトタックルが一層目立つようになってきた。ウチとしても、もっと仕掛けに行けるようなシーンもいくつかあったが、無理に攻めるようなことはせずにボールを保持しながら過ごす。

 ほとんど相手に何もさせないまま前半をスコアレスで折り返す。

後半

 後半開始から相手は黒崎を入れ、右サイド(ウチの左サイド)で起点を作ろうと目論む。が、その皮算用はわずか15分ほどで崩れる。

 まず57分に中塩が完璧なパスカット。それに対して黒崎が悪質なタックルによってカード。続いて61分に神戸が既に1枚カードをもらっているとは思えぬ無謀なプレーで2度目の警告。そもそもの1枚目が著しく悪質じゃないのかって話もあるが、いずれにしても数的優位に立つ。
 しかし、ウチの場合は数的優位がプラスに作用することをあまり見たことがない。10人で守備の意識の強くなった相手を崩すほどのパワーがなく、塩分要素を高められることが多かった。故に、果たしてこの数的優位がどう試合に影響するのかは心配の種にもなった。

 そんな一抹の不安が的中してしまう。69分、ウチが跳ね返したセカンドを回収されると、佐藤祥が縦を急ぐことなく右を選択し、西谷を経由して黒崎へ。自身の前に広大なスペースのあった黒崎はアタッキングサードまでボールを運び、アーリークロス。PA内の選手はウチもケアしていたが、大外から福森が走り込んで頭で合わせてネットを揺らす。
 まさにワンチャンスをモノにされた感が強い。ややネガトラが遅れたことでボールホルダーに対するプレッシャーが遅れた。1人多いことも加味すれば、中塩を押し出す手もあった気もしないでもないが、抜かれた時のリスク考えれば、撤退はやむを得なかったと推察。その後のシュートは事故なので仕方ない。

 考え得る中でもかなり嫌な流れになっていたが、自ら流れを取り戻すべく奮起する。失点直後にピッチ上で円を作り意思統一を図ると、ベンチともコミュニケーションを取った上で左サイドに活路を見出す。失点直前に投入されていた山中が自慢の推進力で兎に角縦に仕掛ける。相手が後ろを固めるのは百も承知だからこそ、打開するためには多少強引にもボールを運んで相手を動かすことが不可欠。

 そして、77分にイコアライザーが生まれる。山中が縦に仕掛けたが相手にクリアされた次のフェーズ。櫛引がすぐにスローインを畑尾に入れ、畑尾は中塩に通す。中塩はアーリーも意識して目線を前線に送りつつ、斜めの楔を長倉に打つ。長倉はタッチラインに身体が向いた状態でボールを持つと、軸足の右足を無理やり前に向かせ、腰の反転で縦のスペースにボールを送る。黒崎の背中を取った山中が見事なボディバランスで黒崎を転がし、さらに球際の強さで福島も剥がして鋭いクロス。これは川本に合わず、GKに反応されてしまったが、弾いたボールが佐藤の前に転がってきた。佐藤が左足でプッシュして追いつくことに成功。
 中塩から長倉に通った時点で西谷と福島が見合うような形を作り出した。長倉のパスは個人の技術あってこそだが、山中との意思疎通ができたからこそ、あのタイミングでパスを通せた。そして、ボールはやはり諦めずに戦っている選手の元に転がってくる(出典:GIANT KILLING)。この試合でも献身性を見せていた佐藤が、値千金のゴールを奪った。山中がPA内に侵入した際にはマイナスのコースを作りつつ、クロスを上げることを察知した後にスッと入るコースを変えてDFの背後に消えた。ストライカーとしての嗅覚とも言える動きでチームを窮地から救う。

 追いついたが、それだけでは誰も満足していなかった。相手にバレていようとも徹底して左サイドから仕掛ける。疲労が見えていた佐藤に替えて北川をRIHとして投入したが、IHではなくほとんどシャドーの立ち位置。山中の推進力で殴りつつ、中塩に高い位置を取らせるようにして狭いスペースでも前進できるように加勢。
 加えて、相手の綻びを誘発するために、ベンチからは揺さぶるようにとの指示が出ていた。帰結するのは左にしつつ、右でもジャブを打っていく。

 そして迎えた87分、ついにその時を迎える。右サイドで福森を封殺してマイボールにしたところから、急がずにボールを前に運ぶ。中塩から一度右サイドに展開しつつ、風間が1つ飛ばして中塩へ。中塩がほぼIHに近いような位置でボールを受け、長倉を経由して大外で張る山中が持つ。山中は細かいタッチでゴールライン際まで仕掛けると、一度戻ってスペースを作る。そこからは山中と黒崎の一騎打ちになったが、間合いを上手く外してクロスを供給。これをファーで北川が落とし、最後は後ろから走り込んだ風間が右足でシュート。GKの逆を突き、ボールはネットを揺らす。選手、サポーター共に喜びを爆発させる。
 残り時間が少ない状況で焦って雑になりがちだが、丁寧にパスを繋いでゴールに近付いた。山中の個がクローズアップされて然るべきだが、1人多いとはいえあそこまで全体が押し込んだことが全て。中塩のポジショニングは流れの中で高くなったともいえるものの、仙台戦で岡本が見せたものと同様。チームのオプションとして落とし込まれている可能性も十分ある。山中のクロスもGKが出られない絶妙なコースだったし、北川が冷静に後ろに折り返したのも素晴らしい。最後に仕留めた風間も、クロスが入った際にいち早く動き直して相手の10番の前に入った(向こうの10番には毎回良い引き立て役(正:踏み台)になってもらっている)。嬉しい移籍後初ゴール。ゴール時にはPA内に6人が入っており、如何に押し込めていたのかが現れる。

 リードを得た後は、危なげなくキープ。ボールが持てず苛立つ相手に対し、蹴らずに繋ぎながら時計の針を進ませ、質的優位を見せつける。そのまま2-1で今シーズン初めての逆転勝利を挙げる。

雑感

 ダービーは結果が全てとよく言われるが、内容も伴った会心の勝利。

 守備は失点時以外は何も問題ない。相手のクオリティ不足と言ってしまえばそれまでだが、ラフなボールが入った後のセカンドも回収できていたし、前を向かせてプレーさせる局面自体が少なかった。失点時はボールアタッカーにアタックできないのが痛かったが、あれを決められるとなると割り切りも必要。

 オフェンスでは、10人になって且つ先制して守備の意識が強まった(はずの)相手を崩し切った。試合通しての支配率も64%と、あまり見たことがない数字ではあるが、保持しても戦えることを示す。今まではカウンター中心のチームとカテゴライズされることが多かったが、ボールを持っても攻めきれたのは今後に向けても1つの指針となる(繰り返しになるが、相手のクオリティ不足は否めない)。
 プレスにも動じずに少ないタッチで逆サイドまでボールを流して局面を打開することも多く、かと思えば同サイドを使ってポジトラで殴ることもできるなど、攻撃の幅が広がった印象。この程度の相手では問題なくできることが明らかになったが、今後対戦するほとんどのチームはこの試合よりもインテンシティ・クオリティが高いはずなので、その際にどこまで自分たちの強みを活かせるかは楽しみである。

 ここまで積み上げてきたものが確かであることを表現する90分。これからも継続していくことが重要。弱い相手から着実に勝点3を奪うとともに、ここで浮かれることなく、突き詰めていきたい。

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