孟母断機 vs山形 1-2

 北関東ダービー完全制覇を果たした前節。深さを取られてから左右に振られて先制されたものの、背後へのアクションを止めずに相手に意識させ、中盤で上手くスペースを得てボールを運べるようになって前半のうちに同点に。後半になっても動き続け、左から右への大きなボールの動かし方からPKを獲得。プレッシャーを楽しんだ梨誉が蹴り込んで逆転。全員が絶えずタスクを遂行し続けたことで勝利を手にした。

 残り試合数は少なくなるが、目の前の戦いに全てを懸けて乗り込む今節の相手は山形。ボールを大切にする志向を長く持っているチーム。
 昨シーズンはPO進出し、クラモフスキー体制3年目の集大成として今シーズンの期待は大きかった。が、開幕2連勝のあと5連敗と急降下し、4月に入って契約解除。セーフティネットとして今季からHCを務めていた渡邉晋氏が後任として就任。それでもすぐには好転せず、8連敗まで負けが込んでしまったが、ヴェルディ相手に勝利してトンネルを抜け出す。その後は5連勝が2度あるなど一気に順位を押し上げた。
 イサカとチアゴで幅を作りつつ、中央では町田から脱出してきた高江と南がボールを動かす。その1つ前で後藤がライン間を活用。少ないタッチ数でバイタルまで侵入すて、最後は藤本やデラトーレで仕留める。

 ボールを握る時間は山形の方が長いと思われる。尚且つ、ワイドに推進力を持つ選手を配置することで守備陣形を崩させてインサイドを突いてくる。中央を空けないようにどれだけ我慢できるか。山形との対戦時はトランジションで上回れるかが勝敗に直結する印象がある。陣形をコンパクトに保ちながら、奪ってすぐに一刺ししたい。


メンバー

 ウチは前節からノーチェンジ。サブには惇希が怪我から復帰。

 対する山形も勝利した前節金沢戦からノーチェンジ。

前半

 山形のKOで始まった試合はいきなりホームチームがゴールに迫る。

 1分、野田からイサカへの対角のフィードを中塩がカットしたが、セカンドを川合が中央で回収。アマと風間は藤本と後藤への縦を牽制する中、川合は左の宮城を選択。宮城は正対する佐藤と駆け引きしながら右足の細かいタッチで前進して深さを生み、小野に落とす。小野はオープンでボールを持ちながらすぐに左足アウトでPA深くの岡本と酒井の間のスペースにボールを供給。そこに後藤が斜めに走り込んでヒールで落とすと、そのボールを受けた南が深くまで抉ってグラウンダーのクロス。鋭いボールにイサカが反応してゴールに流し込もうとしたが中塩が懸命に足を伸ばしてコースを変え、櫛引がワンハンドキャッチ。
 ロングボールの処理によって半強制的にライン間にスペースが生まれ、そこを上手く山形に使われた。宮城が外で張って隣のレーンを小野がアンダーラップするのではなく、深さを作り出してきた。エリア内で後藤にポイントを作られたのも含めて、立ち上がりから崩された。それでも何とか最後の局面で耐えたのは試合を壊さないためにも重要だった。

 ウチも立ち上がりからゴールに近付く。5分、イサカへのフィードを中塩がカットして風間が回収、中塩へリターン。中塩は外の竜士の選択肢も持ちながら1つ飛ばして平松へ。平松はハーフウェーでボールを収めて前を向き、竜士に預ける。竜士は最終ラインの背後に柔らかいボールを入れて梨誉を走らせる。梨誉は左から強引にクロスを入れるも西村の対応に遭う。リスタートのスローインで竜士はフリーの中塩に送る。ここで梨誉が河井と西村の間で上手く浮いてボールを受け、風間に落とす。風間は少し持ち出して後藤とイサカを近付けてから中塩に流し、中塩はワンタッチで梨誉へ。ポケットに入り込んだ梨誉は左足でクロス。ストレートなボールにファーで佐藤がヘディングで合わせるも、これは枠の上。
 狭いスペースでも臆することなく繋いだシーン。スローインの際に梨誉・竜士・中塩でトライアングルを形成して梨誉のフリーを生み出し、さらにそこに風間も加わって相手の視線を奪い、中塩がフリーでボールを蹴るシチュエーションと梨誉が走り込むスペースを作った。梨誉はファーの佐藤を選択したが、PA内には平松と岡本が入ってきていた。ここの精度は必要だが、サイドの作りの部分に人数を割くと中の枚数が確保できないのが課題となる中、RSBがPA内に侵入するのはポジティブな部分。

 10分、またも山形のチャンス。最終ラインの野田がボールを持ち、ウチは牽制ではなくリトリート。すると、野田は佐藤とアマの間を転がして宮城に通す。宮城はすぐに大外の小野に叩いて自らはそのまま内側のレーンをスプリントし、アマを引っ張る。小野は抉るのではなくアーリーで中に送り、そこに藤本が右足で合わせようとするもミートしきれず。
 佐藤が背中で野田から小野へのコースを消していたが、ここでは宮城を経由することで局面打開。手数を掛けずにスピード感のある攻撃を完結。

 山形左サイドはSHの宮城が内側でハーフスペース狙いつつ、小野が大外のレーンで高く張っているのが基本形。小野にボールが入ると宮城がアンダーラップして岡本の後ろのスペースを使いたいという狙いはありそう。場合によっては2列目の後藤がダイアゴナルでそのスペースに入る。そうすれば宮城がさらに内側のレーンに走ることとなる。
 逆の右はイサカのアイデアによる裁量がありそうな雰囲気。基本的にはカットインを狙いたいが、やや低めに落ちてボールを触りたがる傾向もある。その場面では、中塩がかなり高めまで追ってタイトに対応。イサカは自由に前を向くことができずに少しストレスを溜めていた。

 20分、ウチのビルドアップからゴールに迫る。右から左にボールが推移していき、中塩→竜士→風間と繋がる。竜士が落ちてきて川合を釣ると、入れ替わるように風間がボールを持って前進し、外側に流れてきた平松へ。平松は1stタッチで西村を剥がしてボールを落ち着かせるポイントを作り、風間に戻す。風間は左の竜士に渡すと、竜士はスルスルと前に進み、PA角で左足のクロス。アウトスイングのボールをファーで佐藤が胸でコントロールし、内側のアマへ。アマはバイタルから中央の梨誉へ楔を刺そうとしたが、僅かにズレてしまい、シュートには至らず。
 平松の所でロストせずに前を向くことで、全体の重心を押し上げることができる。中塩が前節同様にミドルサードまで上がり、左サイドのボールを動かす作業に加わる。

 山形は最終ライン+CMF2枚でビルドアップ。ウチはCMFを1stラインに設定し、平松と梨誉が高江と南を消しに行った。そして、山形のSBにボールが入ったところでボールサイドと逆のウチのSHがスライドしてCMFを捕まえ、ボールサイドのFWを押し出すような仕組み。
 ただ、20分過ぎからビルドアップ時の川合の立ち位置がより深さを取るようになり、これで竜士はピン止めされる構図。川合はCMFよりも高く立つので、一旦南や高江に戻して逆に展開することも可能。また、高江と南が距離を近くし、頻繁にボールを動かしてウチの陣形の出方を窺いつつ、高江が高めの位置を取って縦関係となり、後藤・高江・後藤で逆三角を作る場面もあった。

 それでも、ウチは基本的に慌てることなく対応。指揮官からは「シュート打とうぜ」「地味なことを徹底して、徹底して、徹底しろ」といった声が飛ぶ。ゴールに近付けない部分は気にしつつも、焦れずに取り組まなければならぬ。

 30分、長いボールをウチが跳ね返した後のセカンドボールワークで山形がボールを確保。中央の南から後藤に縦パスが通り、後藤が右足を振る。これは城和がブロックするも、こぼれ球をイサカがワンタッチでクロス。岡本と酒井が交錯しながら前に弾いたものの、セカンドを高江が回収してワンタッチでPA内の藤本へ。藤本は左足でファーを目掛けた強烈なシュートを放つが、ここも櫛引が防ぐ。
 やはり山形が即時奪回で前向きにプレーを続けると勢いがある。そして南と高江がバイタルに入ってくるので、必然的に決定的な仕事ができるようになっている。この辺りの限定ができないと雲行きは怪しい。

 山形はライン間をすごく意識していた。基本的には藤本が最前線に張り、SHも同様にかなり高めを取る。当然ウチのラインもそこが基準になるのだが、その手前で後藤が顔を出してくるのが少し嫌。もしくは、先述の通りCMF2枚が縦関係となってボールを動かすと、ウチも中央で掴めなくなってくる。アマと風間の後ろの脇は明確に突く。イサカもそこを意識していた。DF陣がそのまま深追いするのかマークを受け渡すのかを迷うと致命的なエラーになりかねないが、そこまで大きく崩れることなくウチも対処。

 山形がボールを握りエネルギーを使っていたが、スコアレスで折り返す。

後半

 後半も山形が前向きのパワーを伴って試合に入ると、すぐに試合を動かす。

 49分、山形の左CK。高江のインスイングのボールを城和が弾き返す。セカンドをイサカが胸でトラップして左足を振る。このシュートが風間に当たってディフレクトしてゴールネットを揺らした。
 こればかりは仕方ない。打てば何かが起きる。

 先制したことで、山形はプレス強度こそ変わらないものの、ショートカウンターではなく後ろで作り直す選択をすることが当然ながら多くなった。南と高江を中心に着実にゲームをコントロールする。

 ウチも前にパワーを掛けるしかない展開にはなったが、山形がどっしり構え出したのでポイント作れない問題が発生。ひとまず、竜士→北川で梨誉を左に出して様子見。梨誉で強引にでも前に運ぶルートを左に作り出して、セットプレーの機会を増やす。
 山形も66分に藤本→デラトーレ、宮城→チアゴアウベスの交替で破壊力を強める。チアゴに酒井と競走させようとする意図(何でリードしてるのに前の火力が上がるんだとは思った)。

 69分、何度目のCKかで同点に追い付くことに成功。左サイドのCK。風間のインスイングのボールは誰にも合わず川合に弾かれるが、PA角で岡本が回収すると、右足でコントロールしてから左足で巻くようにシュート。これが西村に当たってコースが変わり、ゴールに吸い込まれる。
 岡本の2試合連続ゴール。左足は警戒されていなかったし、実際にシュートは枠に行っているか微妙だったが、打てば何かが起きる。こういう展開で脈略なくセットプレーで殴れるのは、やはり明確な武器。

 追いついた直後、ウチは佐藤→惇希、平松→彰人の2枚替え。推進力を持つ惇希を投入し、勢いそのままに引っ繰り返しに行く。

 76分、再びCKからチャンス。ニアの酒井と城和をスクリーンにして中塩が中央でドンピシャで合わせたが、ボールは僅かに右に逸れた。これが決まるか決まらないかが、やはり響いてくる。

 77分、山形は後藤→高橋、イサカ→横山の2枚替え。この交代により、山形はより攻勢を強める。横山は横方向へのドリブルもお上手なので、レーン横切ってボール運ぶからウチは対応が難しい。高橋は山形左サイドに流れる傾向が顕著だったが、ウチが岡本を押し出した後ろのスペース且つ酒井が届かない位置に立ってボールを引き出す。これは非常に嫌だった。

 81分、ウチも最後のカードを切る。梨誉→内田、岡本→菊地の2枚替え。惇希が左に回り、内田はそのままRSHで入る。若しくは、時々使っている中盤3枚の形にも見えなくもないが、そもそもこの交代になってから大体がセットプレー絡みのスクランブルになっていた。ただ、内田が小野のところに寄せに行こうというタスクはあったと思う。

 90+1分、最終盤に試合が動く。自陣でのFK、ウチは重心をいったん押し上げて左にスライド。彰人と野田の競り合いで野田が競り勝ち、ボールは山形の左サイドに流れていく。小野がシンプルに前線に速いボールを入れると、酒井の内側からチアゴが入れ替わって抜け出す。PA内でやや手間取り、城和と酒井が何とかボールにアプローチしようとするが、チアゴは厳しい体勢から右に流し、最後は高橋が押し込んで万事休す。
 チアゴはその前のプレーでも菊地の内側を走って抜け出していたが、スピードを活かす得意な形。ちょっと起きた現実を受け入れるには時間が掛かる重い失点。

 最後の笛が鳴るまでボールを運ぼうとしたが、後ろにボールを戻したところで試合が終わった。

雑感

 お互いにゴールまで近づけず膠着状態が続いたが、それでも最後に刺し切るのは地力で勝るチームである。最後の最後、細部で結果は変わる。

 ディフェンス面では、ボールを握られる時間が長いが、基本的には慌てることのない対応はできている。最初のワンプレーこそ肝を冷やしたが、それ以降は安定。勿論、CMF2枚の間を突かれれば即ピンチだし、意図的にライン下げられて、その手前のスペースを使われてっていう部分は嫌だけど、それでも最終ラインでもど真ん中を突かれるシーンはない。結局何とか外回りにできるような追い込み方はできている。だからこそ、重心が高くなったと言え、最後の失点の部分は悔いが残る。

 攻撃陣も、前半は梨誉と平松の距離感が良く、いつも以上にボールを落ち着かせていた。そこにSHやCMFが絡んでの3人目の動きが見られ、アタッキングサードまで運んでいる。ただ、どうしてもそこから先が詰まる。これが解決できるか否かが、もう1つ上に行けるかの差。
 昨シーズン、ビルドアップに着手しはじめ、自陣ではロストしないようになった。今シーズン、ミドルサードまでボールを運べるような段階まで積み重ねてきた。じゃあ、次はどこを整備するか。

 これでかなりPOは厳しくなった。ただ、まだ試合は残っている、シーズンは続く。残り試合で何を示せるのか。POに行けなかったとて、ここまでの積み上げが無駄ではない。自分たちがここまで取り組んできたものの成果を、見せつけろ。

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