郁郁青青 vsいわき 1-0

 ウチの陣内からマンツーマンで捕まえられて前半は窒息気味になり、後半開始直後にセットプレーで刺したもののマンパワーに押し切られて引っ繰り返された前節。リスクを減らす方向に振り切ればいくらでも策はあるが、そんな短絡的な思考でチームとして何か上積みを得ることはない。結果が出れば当然相手も対策してくるわけで、如何にそれを上回るかが残り少なくなってきた試合では求められる。IHを走らせてサボらせることまではできていたし、結果に結びつけるまでもう少し。

 数か月ぶりに敗戦を喫したが、引き摺ることなく切り替えて臨む今節の相手はいわき。前回対戦を見ても分かる通り、恐らく苦手な部類のチーム。
 昇格初年度の今シーズンは村主体制2年目としてスタートしたが、なかなか軌道に乗り切れず降格圏に沈んだ。6月に村主氏を解任し、JFL時代まで指揮を執っていた田村氏が後任に就任。就任後初戦となった栗鼠との裏天王山では敵地で5ゴールを奪って蹴散らす。アイデンティティを築いてきた指揮官の復帰に加え、長期離脱していた岩渕のカムバックも相俟って、そこからはチームも復活。直近数試合こそ結果が出ていないが、縦の速さと局地戦で勝負してくることが脅威なのは確か。基本的には同サイドで作ってクロスから仕留める形を狙うが、アバウトなボールを放ってフィジカルでシンプルに勝負する手も持つし、当てて落としてからの楔1本で決定機に至ることもできる。タイトな戦いはお手の物。また、相手によって3バックと4バックを併用し、サイドで数的優位を作る。

 前回は3連戦の3戦目で身体も重く、フィジカルコンタクトで消耗して後手に回った印象。東北の北の方のチームみたいに徹底してくる相手との相性はよろしくないが、それを乗り越えないと上には行かない。ビルドアップの際に距離感を保つこと、コンパクトな相手のラインの後ろのスペースを使う意識を持つことが鍵になるだろう。相手に付き合うことなく、あくまで自分たちがやるべきことをやって3ポイントを目指す。


メンバー

 ウチは前節から2枚変更。エド→田頭、武→梨誉。ここ数試合帯同していた田頭が遂に初スタメン。山中とエドがベンチにも入っておらず、彰人がメンバー入り。

 対するいわきは敗れた前節徳島戦から2枚変更。石田→江川、有馬→岩渕。一応ホームフォーメーションとしては後ろ4枚。

前半

 マイボールでキックオフした試合は1分経たずに、ウチがいきなりシュートシーンを迎える。
 自陣で田頭が長めのスローインを入れるも相手にヘッドで返され、そのボールに対してアマが弾き返す。敵陣に入ってすぐのところで平松が身体を張って相手をブロックをすると、頭上を越えたボールを竜士が前向きで確保。スピードアップしようとしたタイミングで、眼前を梨誉が斜めに横切ってラインブレイク。竜士は中に1つ持ち出して角度を作ってから梨誉にスルーパス。梨誉はPA入るとワンタッチで左足を振る。相手GKが間合いを詰める前に打ったシュートはコントロールできずに左に逸れた。
 前回対戦時は立ち上がりに押し込まれてそのまま先制点を与えたが、この試合では先ず自分たちで形を作った。外に膨らみかけていた竜士が内側に入ってセカンドをキープし、一気に梨誉がダイアゴナルランでスペース作ってボール呼び込んでそのままフィニッシュまで持っていくスピード感は見せた。

 試合の入りは悪くなかったし、自分たちでボールを動かす時間を長く作るかと思ったが、自陣でブロックを敷いて待ち構える形を採る。ゴールキックの際もいつもと同じように3CBがPA周辺で回せるように配置に付くものの、CMF2枚はややDFラインと距離を取っている。櫛引は最前線に向けてボールを送り、そこに梨誉や平松が相手DFの背後から走り込んで競る。そこでキープするのは難しいが、そのセカンドを中盤で拾えれば十分。
 いわきの縦のコンパクトネスを如何に破るかと考えた時、相手の最終ラインを下げさせることが第一に挙げられる。当然下げさせる狙いも持ちながらも、ウチとしては1stラインを喰い付かせて否が応にも間延びさせるのが目的。加えて、CBが楽に跳ね返すことを許さず、FW2枚が身体を当ててくれるので、返されてそのまま速攻を喰らうといったシーンも作らせない。

 対して、いわきはで左右で仕組みが異なる。嵯峨がかなり高くまで上がり、大外で幅を作る。そこは竜士がケアし、内側に入る岩渕は中塩が見るのが基本。そこにIHの宮本がハーフスペースを使って走り込んでくるのが厄介。ただし、風間が上手くカバーしてスペースを埋めるのと、いわきとしても嵯峨の推進力を活かしたいので、あまり宮本に差し込む場面がなかった。
 左に関しては、LSBの山下が保持時にはアラバロールで内側に入る(ビルドアップ時に下田がサリーダして3CB化するのもアラバロール要素高め)。でもって外の永井を使いつつ、要所では山口をハーフスペースに走らせてポイントを作ろうという狙いが多くあった。
 このアイソレーションで特にいわきの左サイドで崩しに行く。ウチは田頭が永井、山口には酒井とアマが受け渡して対応。永井・山口・山下でトライアングルを作られると面倒だったものの、剥がされず時間を掛けて対応。

 20分、梨誉がスローインを受け、右サイドで身体を張って得たCK。風間のアウトスイングのボールに城和がドンピシャで合わせたが、シュートは僅かに左に飛んでいく。
 ゾーンで守るいわきに対し、酒井と城和はゾーンの外側で待機。ニアで中塩がストーンの家泉をブロックし、酒井が先に走り込んで山下と下田を動かした。その後ろから城和が入ってピンポイントで合わせるまで完璧だったが、最後のシュートがズレた。

 直後の22分、今度はいわきがゴールを脅かす。ウチが自陣でのスローインで上手く繋がらずいわきボールとなると、江川から永井にフィード。これに田頭が果敢にチャレンジして跳ね返すが内側に入ってしまい、山口がCMFの間で回収。そのまま有田に渡ると、すぐに右足を振る。強烈なシュートは勢いよくクロスバーを叩いた。
 やはりスクランブルな形になると対応に苦慮する。ロストの仕方はどうにもならんが、相手に高い位置でボールを拾われれば苦しい。有田のシュートもホップしていて綺麗な軌道だったが、これが決まらないとなるとツキはウチにあるかもしれないと思わせてくれる。

 27分もいわきのチャンス。ウチのクリアをハーフウェー付近で回収し、1列前の山下に付ける。山下は左外の永井に送り、自らはバイタルへ走る。ボールを受けた永井は速いフェイクと深い切り返しで佐藤を剥がして左足でクロス。最後は有田が頭で合わせるも、下がりながらになってしまいインパクトが弱く、櫛引がキャッチ。
 「ヤマ、颯太に入った時に横に来て、横に。で、大輝を前に出せ。」「ヤマ、横に。英治前出ろ、英治。」指揮官から発せられた言葉通りの形でフィニッシュまで至る。山下が1stラインの脇でボールを受け、自分も走ってバイタルの枚数を増やすのは良い働きだし、山口を1列出すことで酒井がそこをケアせざるを得ず、深さを作ることもできる。ゴールにはならなかったが、いわきとすると意図する崩しだった。

 ボールを持ついわきがやや流れを持っていると思われた中、ウチがセットプレーで試合を動かす。左サイドでのCK。佐藤のアウトスイングのボールはニアで有田が逸らしてコースを変える。そのボールは城和に当たってこぼれると、中塩が左足でボレー。高い打点で放ったシュートはGKも反応できず、ネットを揺らした。
 このCKでもストーンの家泉を中塩がブロック。今度は酒井のマークが浮いてフリーで入っていたが、相手のクリアで合わせられず。とはいえ、セカンドボールへの中塩の反応の速さは見事だし、難しい体勢から良く枠に飛ばした。このゴールはウチのホーム通算350ゴールとのこと。

 1点を取ったことで、ウチはよりタスク(というか戦い方)が整理された。いわきがミドルサードまでボールを運ぶ機会が増加するものの、バイタル以降でのスペースがなく、前進できず。左サイドで活路を見出そうと動き出しは多かったが、ノッキングする傾向もあった。ATに有田に楔が入ってそこに岩渕が絡んでゴールに近付いた。しかし、ここも城和と中塩が落ち着いて対処してシュートまで持っていかせず。

 支配率34%とだいぶ相手に持たせたが、リードを得て前半を終える。

後半

 後半のスタートからいわきは江川→石田でCBを変える。後半に入ってもいわきがボールを持つ構図は大きく変わらず。ただ、いわきがボールを持つ位置が段々と高くなっていき、それと共にウチも重心がやや後ろ寄りに。となると、ウチのセカンド回収率も落ち、陣地回復できずに押し込まれる。

 60分、いわきが山口→吉澤、永井→加藤の2枚替えをすると、ウチも62分、佐藤→北川、竜士→シラの2枚替え。SHはいわきのIHとWBの両方を見なければならないので、体力が売り切れる前に補完して強度を保つ。

 選手を入れ替えても基本的にはいわきが敵陣でボールを持つ時間は長い。明らかに左で勝負に来る場面が増加し、IHが3人目の動きで田頭と酒井の間のギャップを突こうとする狙いが明確となった。ただ、サイドに人数を多くかける分、クロスを上げた際に中の枚数が少なく、ウチが余裕を持って跳ね返す。また、田頭はタフに相手にチャージできるし、そこを剥がされても酒井が待ち構えてディレイするので、危険な場面はない。
 唯一嫌なのは、いわきが両サイドに逆足の選手を配置していたことにより、カットインされたり、別の選手が抉ってからの落としを受けたりしてのインスイングでクロスが上がってくること。ゴールに向かってくるボールはヘディングしにくいし、そのまま抜けて直接ゴールに入ってしまう事故のリスクもある。頭で逸らしてコースを変えられるだけでゴールに結びつくようなボールは入ってくるが、ウチは安定感のある対応で的確に処理。

 70分、いわきは有田→有馬のカードを切る。ウチも73分、梨誉→武、風間→内田の2枚替え。この交代により、ウチは5-4-1にシフト。武を頂点に置き、シラがLWB、平松がLSHのような振る舞い。

 75分、カウンターからウチは形を作る。いわき左サイドで加藤からインスイングのクロスが入るも中塩が跳ね返す。セカンドをアマがスプリントして相手よりも先にボールを確保して一気に前進。そのまま80m近くボールを運び、深く抉って左足でクロス。中央の武に届く前に相手に触られてコースが変わり、その後ろの北川がボレーで合わせたが枠を超えた。
 シュートは空砲に終わったが、アマが苦しい時間帯にもかかわらず自らボール奪取からチャンスメイクまで担ったのはチーム全体を勇気付けるし、相手にもカウンターの脅威を植え付けるには十分だった。

 その後もボールを持たせつつ、マイボールになるとシラが果敢に相手を剥がして前進を試みるので、全体が重心を上げる時間を作れた。また、北川も上手く相手のファウルを誘うなど、1点差をキープする戦い方を続ける。
 83分、平松→畑尾で完全に試合をクローズしに行く。畑尾がCBの中央に入り、RWBが田頭、LWBが中塩、LSHにシラとなる。これによって外に張る加藤を北川と田頭で牽制し、ハーフスペースに走る吉澤を酒井が迎え撃つ。いくつか田頭の外向きの身体の向きの背中を狙い、そこに斜めの動きで抜け出せれそうになるシーンは作られるも、酒井が仁王立ち。

 最終盤は立て続けにサイドからクロスを入れられるが、酒井・畑尾・城和が城塞を築いて跳ね返す。最後まで1点を守り抜き、ウノゼロでの3試合ぶりの勝利。

雑感

 改めて見るとそこまで苦しんだ印象はないが、試合中はクロスを入れられる度に力が入った。90分耐えたっていう表現が正しいかはさておき、相手にボールを握らせても勝ち切ったというのは、これまでと異なる形での勝利と言う部分で価値が大きい。
 総じて考えると、恐らくいわきの強みであるインテンシティの部分で勝負するシーンを少なくしたいという意図があった。アウェイでの試合ではそこに勝負を選び、結果を言えばロスト位置が悪くてそのまま2失点まで繋がった。相手の土俵に乗り込んで返り討ちにあった。その強みを出させないように、ウチとしてはなるべく自分たちの守るゴールとは遠いエリアでボールを動かそうとした。それと共に、ショートカウンターの志向が最も強いいわきに対し、そもそもボールを持たせて自分たちで動かせるように仕向けた。勿論、いわきのボールを動かす仕組みは落とし込まれていたし、ハーフスペースの使い方は嫌らしかったが、それによってゴールまでは至らなかった。こうした点からも、ウチが試合運びで上回ったように思う。

 守備についてはクリーンシートが何よりの収穫。クロスを上げられる回数も多かったが、ほとんど相手に合わせられることもなく跳ね返し続けた。噛み合わせの関係でハーフスペースに走られるのは仕方ないが、そこにもCMF、SB、CBが連携して人数を掛けて蓋をした。
 また、試合後の大槻氏のコメントではトランジションの部分で縦パスが1つ入ると難しいと言及していたが、梨誉・平松・竜士のスタート組に加え、武・シラ・北川も献身的に1stプレスを掛け続けた。それによって楔を付けられる回数も抑えた。また、5バックにしてからはRSH北川が牽制する際に、外切りで内側にパスを付けさせるような限定をしていた。これは大外のWBにポイントを作られ、そこから内側に斜めのパスを通されるのを嫌ってのことだろう。
 いずれにしても、ボールを持たせた状態で3ポイントを積んだのは自信になる。

 オフェンス面では、またもセットプレーで刺した。城和にもCKでチャンスがあるなど、間違いなくセットプレーは大きな武器。キッカー2人の質は常に高いのに加え、様々なデザインをして、実際に敢行している。強いチームは拮抗した試合でもセットプレーで着実に得点を奪える。ウチもそうした勝負強さが段々と身に付いてきている。
 流れの中からの得点がないと危惧する声もあるが、水物なのでどうしても波はある。竜士の突破やアマの長い距離のドリブルからのクロスなど、ゴールに近付く場面はあったが、この試合に関してはそもそも自分たちでボールを持つ場面が少なかったので仕方ない部分はある。それでも、櫛引の鋭いボールから一気に敵陣に侵入したり、ハイボールにFW陣がDFと競って高い位置でマイボールでキープしたり、ポジティブな要素も見られた。
 一方でポジトラで気が逸るあまり、すぐにロストして被カウンターというシーンが特に後半は多発した。ようやく得た攻撃のチャンスだからこそ、着実にフィニッシュまで持っていきたい。ポジトラ直後は陣形が崩れて失点のリスクは高まるため、チャレンジするエリアを気にしたい。

 難しい試合展開となったとはいえ、こういう試合をモノにできた成功体験は得難い。加えて、前節久しぶりに敗戦を喫してからの仕切り直しの一戦で、連敗せずに勝ったというのは大きな意味を持つ。仮に負けてしまえば、ズルズルと落ちてしまうことも想定されるし、しっかり踏みとどまってプレーオフの可能性の芽を摘まなかった。指揮官の言葉を借りれば、この試合は結果が全てというのは確か。

 この3ポイントで遂にクラブ目標であった勝点50を超えた。ここからはどれだけ上に行けるかのチャレンジ。自分たちの可能性を信じて1つずつ積み上げていった先に、まだ見ぬ景色が広がるはずだ。

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