確乎不抜 vs金沢 1-1

 前半の45分間で相手に生じる「歪み」を観察し、残りの45分で2つゴールに叩き込んで勝利を手にした前節。前半は相手が主体的に進め、退場者が出たことで流れを掴んだとの見方が多くを占めており、実況でも長澤が効いているとの言及が頻繁にあったわけだが、実際のところ、それほど脅威に曝されていた印象はない。中盤で多少握られていたとしても、そこからラインブレイクでチャンスを作られることはなく、決定機もほぼなかった。勿論、前半から相手を圧倒できれば理想的だが、必要な時にパワーを掛けて勝ち切るプランニングも機能している。

 鬼門ユアスタでの勝利で勢いを付けながらも、浮かれることなく迎える今節の相手は金沢。J2に復帰してから一度も勝っていない相手。
 長期政権のヤンツー氏だが、今シーズンはここまで苦戦している。十八番のマンツーマンは継続中だが、やはり何か変化がないと組織としては停滞していくものなのか(この辺りは外野がとやかく言う部分ではない)。とはいえ、最近はしぶとく勝点を拾っており、降格圏を脱出している。加藤大樹や山本が復帰したり、京都から木村を借りてきたりと残留に向けて着実な補強を行った。しぶとさ・強かさはリーグでも屈指であり、1on1で上回ってポジトラで仕留める形は終盤にかけて見られそう。前の方でプレーしている加藤潤也って選手とSBの小島雅也って選手も要注目。

 ポゼッションに色気を見せずに徹底してくる金沢のスタイルをウチはかなり苦手にしている。前回対戦時はセットプレーで先制するもカウンターで刺され、後半は押し込まれる内容で分けた。同一サイドに寄せられる可能性は高いが、相手に合わせずに幅を使って揺さぶり、ゴールに結び付けたい。


メンバー

 ウチは前節からスタメンはノーチェンジ。怪我で離脱していた武が久しぶりにメンバー入り。

 対する金沢は引き分けた熊本戦から1枚変更。小野原→梶浦。小島さんもKJさんもスタメンで敷島凱旋。

前半

 金沢のキックオフで始まったゲームは、ウチがいつもよりもプレスの意識を強く持って入る。あくまでミドルプレスの範疇ではあるものの、金沢が作り直そうと後ろに戻したボールにもウチは2度追いで喰い付いた。FW+SHの4枚は長い距離を厭わずに追いかける。
 ノープレッシャーで質の高いフィードを豊田に届けられることを回避する目的かと思ったが、そもそも金沢の最終ラインがプレスに対して脆弱性を持っているとのスカウティングがなされていた可能性もある。

 金沢は藤村がCB間でサリーダするか梶原が山本の右に位置して小島を1列上げるような形でビルドアップを試みる。小島が高い位置を取るのと、KJがハーフスペースを漂ってマークを掻い潜っているのが嫌らしい。右はその2枚で何とかするし、かと思えば、豊田の背後に奥田が常にラインブレイク狙って動き出してウチのライン下げさせるしで、油断はできない。

 どちらも流れを掴めないまま進んでいったが、やはりウチの左サイドのスペースを金沢が有効活用することで、やや金沢が主体的に支配する気配。ウチはここ数試合、中塩と竜士の距離を敢えて遠くしてポケットを作り、前半は意図的にサイドに中途半端なボールを出してハマりに行く形が見られていた。勿論、ロストすればそのまま大外のスペースを使われてしまうが、そこに撒き餌をすることで、後半になると風間が中間点に入って距離感を改善させ、一気に局面を変えてきた。
 ただし、この試合ではそのスペースをKJが使いたがって流れるので、ロストすると即金沢のチャンスになり得るシーンが多くなった。竜士が撤退してネガトラをしてくれるので大事にはなっていないが、嫌な雰囲気が漂う。

 が、流れがいきなり分断される。31分、スタジアム周辺での落雷を確認して試合が中断。試合前から雷光は多く見られていたが、雷鳴を聞いてレフェリーがすぐに判断した。その後、30分の中断を経て中止が決定。


閑話休題

 さあ仕切り直して31分からスタート。1か月空いての再会試合だが、その間に当然ながら両チームの状況も異なる。
 ウチは翌週も雷雨でスキップというなかなか珍しい事態に陥った後、大崩れはしないが、やや閉塞感が漂う局面がある。勿論、首位町田と引き分けたりクラブ目標をクリアしたりといったポジティブな面もあったものの、だいぶ相手に対策されてきて手詰まりになることもしばしば。ただし、久しぶりの敗戦で外野が必要以上に槍玉に挙げたりって印象は拭えないし、チームとして修正に取り組んでいるだろう。
 金沢はウチとの試合の後、まさかの5連敗中。うち3試合では3失点を喫している他、連敗中1ゴールも取れていない。下には下がいるはずだったが、先週末栗鼠が勝利したことで、いよいよ近付いてきた。また、残留ラインとの勝点差も広がっており、まさに正念場。

 当然のことながら試合前の状況はピッチに関係ないが、ウチは前節テーブル上は離れている山口にあまり良いところなく敗れた。この時期の残留争いするチームの徹底した戦い方の怖さは、誰よりも知っているはずだ。当事者だった身として、上の奴らを何とかして喰ってやろう、勝点を拾おうとする意識は明確な武器になり得ると理解している。ただ、ウチだって上を見据えて戦う時期。ここでその圧力に屈するようであればプレーオフなど夢のまた夢。簡単に勝てる試合は1つもないからこそ、目の前の相手と向き合い、上回らなければならない。

 基本的に再開試合においてメンバーチェンジは認められない。ウチは怪我の山中に替えて彰人がベンチ入り。対する金沢も怪我でアジア大会U-22代表を辞退していた木村に替えて杉浦恭平がメンバーに入った。

前半(再開後)

 選手が入場し、整列。写真撮影を経て円陣を組む。ここまではいつもの試合と同様。円陣が解けて、両チームの選手がウチの陣内で構える。何とも違和感のある光景であった。主審のドロップボールにより、31分を指していた時計が動き始める。

 イレギュラーな状況であるため、様子を見ながらもアラートさを保って試合を進めたかったはずだが、再開後わずか2分足らずで金沢が試合を動かす。
 33分、KJがバイタル手前に入ってきたところを城和がクリア。しかし、このボールを梶浦が拾うと、中央に絞っていた加藤大樹が右のスペースに展開。右でフリーとなった小島がワンタッチでアーリークロスを上げると、ボールは城和の頭上を越えて奥田に収まる。胸で落ち着いてコントロールし、右足で流し込んで金沢があっさり先制。
 まずは守備からという意識からか重心が下がり、尚且つ金沢SHが中に絞ってくるのでウチの選手も中に集まらざるを得ず、サイドにスペースができた。そもそものクリアの時点で前線と2列目にギャップが生じており、そこで梶浦に拾われた形。フリーで小島に蹴らせれば良いボールは入ってくるし、CB間に走り込んだ奥田も狙い通り。加藤大樹がニアにランニングしたことで城和がそちらに視線を奪われて跳ね返せなかったし、CB2枚が割れてしまった。

 先制されてしまったが、まだ焦る時間ではない。当然チームとしてもその意識は持っており、特に大きくやり方を変えずにいつも通りCB+CMFでボールを出し入れ。ただ、いつもと異なるのは、最終ライン中央の城和が自ら持ち出してハーフウェーを越えるシーンが頻繁に見られた。通常時は右大外への対角線のフィードもしくは前線への楔を狙うイメージがあるが、この試合では明らかにボールを長く持って自分で運んでいた。
 金沢がマンツーマンで来ることを考えると、たとえ横パスで相手をズラそうとしても、前提としてゾーンじゃないのでズレるとかの概念がほとんどない。であれば、目の前のマーカーを剥がせば局面が変わる。あまり狩りには来ないCBのところで前進していってボールの位置を変え、否が応にも相手が対応しにマークを受け渡す状況を作らせるという狙いは面白い。また、金沢がCB3枚のうち両サイドを消しに来たので城和が浮くという仕組みもあった。

 45分+1分、まさに城和の持ち上がりからシュートチャンスを作る。ハーフウェー手前で城和がボールを持つと、相手はリトリート。ノープレッシャーの城和はそのまま敵陣に入ると、藤村が詰めてきた。藤村が動いたのを確認してアマが素早く背後を取り、城和からボールを受ける。敵陣中央のエアポケットでフリーのアマは左足に置いてミドルを放つ。低い弾道の鋭いシュートは惜しくも左に逸れていったが、ようやく1つシュートを打った。
 城和の少し右寄りにボールを動かして身体を開き、そこから刺すように内側にパスを出したのは相手にコースを悟られないし、上手。アマのシュートも芯で捉えており回転していなかったが、少しコースが左だった。

 先制こそされたが、あまりやり方を変えずに14分間を終えた。

後半

 後半になっても両チームともにやり方は変わらず。金沢はリードしたことで若干リトリートの意識が強まり、それほど前から出てくることはない。ウチは前半自重気味だった右サイドへの展開を解禁。佐藤とエドのローテーションは常に行われていたし、平松が右に流れてポイントを作ろうと模索する場面もあった。

 少しずつ攻撃に転じようと努めながらも糸口が掴めない状況だったが、53分に同点に追い付く。ピッチ中央でアマが左に向かってドリブルして相手を左側に寄せる。アマ→風間→城和と中央にボールが戻ると、城和はここでも躊躇なく前進。相手もマーカー捨てる訳にもいかず面食らって対応が遅れる。1stラインを突破したところで奥田が後ろから牽制に来たので、城和は1つ飛ばして右大外のエドへ。ややインに掛かってアールが大きくなってしまい、エドもコントロールが少し大きくなったが、向かってきた加藤大樹の股を通して剥がすとPA内の梨誉と平松を確認。アウトスイングのボールで合わせるかと思いきや、エドの右足から放たれたボールは綺麗な弧を描き、ファーポストの内側を叩いてゴールに吸い込まれた。
 この試合意図的に行っていた城和の持ち上がりからゴールまで結びついた。城和からエドに繋ぐ場面では風間が上手く相手を引き付けていたし、各駅停車ではなく1つ飛ばすことでテンポアップする。また、エドがロストしそうになったが、苦しい局面でも剥がし切ったのは大きかった。シュート?クロス?はアクシデンタルであることを否定できないものの、ああいったボールが外側ではなく内側に跳ね返るのは日頃の行いだと思ってしまう。

 同点に追い付いたことで、ウチは俄然元気に。つくづく単純だなと見つつ、やはり難しいシチュエーションの中で各々のスイッチが入るタイミングとなった。

 追いつかれたことで金沢は58分、豊田→杉浦恭平。城和の前進の部分に牽制を掛ける。対してウチも66分、佐藤→北川、梨誉→彰人の2枚替え。これによって北川・平松・彰人の3トップ、エドを1列上げての3-4-3(3-4-2-1)っぽい配置に。梶浦と藤村の両脇でボールを引き出す役割を北川と彰人に担ってもらう。ボールを引き出して前に届けるタスクから平松を解放し、よりゴールに近い位置での仕事を期待した。

 68分、その平松にシュートチャンス。彰人が顔を出してボールを受けるなどしながら自陣のビルドアップで局面打開の瞬間を窺う。彰人と入れ替わるようにアマが高い位置を取り、中塩から楔を受けて外側に持ち出す。それを見て竜士はアンダーラップで内側を駆け上がって小島を釣る。アマは左外の彰人を選択すると、彰人はワンタッチで中央へ。これを受けた平松はバウンドが合わずコントロールしきれなかったが、すぐにボールホルダーにプレッシャーをかけると、クリアが平松に当たってこぼれる。バイタルでこれを拾った平松は相手のボディコンタクトを受けながらも倒れずボールを右に持ち出し、そのまま強引に右足でフィニッシュ。しかし、これは長峰のブロックに遭い白井が落ち着いてキャッチ。
 中塩の縦パスから一気にテンポアップして連動した動きと少ないタッチでバイタルに侵入した。最後のシュートは残念ながら思ったようにいかなかったが、やはり相手に寄せられて難しい体勢になっても足を振るのがストライカーとしての矜持か。ゴール前の平松はやはり迫力があるし、ゴールに近い位置でプレーするのももっと見たい気はする。

 ウチがボールを敵陣に持てるようにはなってきたが、やはりバイタル手前でノッキング気味になるのと、相手の最終ラインと中盤がかなりライン間を狭めてくるので、なかなかセカンドを拾えず。ミドルサードで引っかかってそのまま金沢のポジトラでPAまで持っていかれる形を何回か作られた。

 79分、竜士→シラ、平松→畑尾の2枚替え。畑尾をCFで起用する町田戦同様の形。金沢も同じタイミングで加藤大樹→石原、奥田→林の2枚替え。

 ゲームコントロールに長けて、尚且つ高精度のボールを供給できる石原が入ったことで、石原から林や杉浦に縦パスが入る。しかし、城和と酒井が落ち着いて潰しており、決定的なチャンスは作らせない。

 84分、エド→武で最後のカードを切る。北川がRSHに入り、武がRWG。攻勢を掛ける。

 3ポイントを目指して前に仕掛けようとするが、ゴールに近付くほどは押し込めない。畑尾をポイントとしてハイボールを入れるが、セカンド回収は相手に分があり、チャンスとはならず。

 イレギュラーなシチュエーションとなった試合は、1-1で終わる。

雑感

 連敗しなかったこと、ビハインドから追いついたことという部分はポジティブ。ただ、勝ち切れないという部分での試行錯誤は続く。

 立ち上がり早々に失点してしまったが、それでも要所は締めた。金沢のSBを活かすためにSHが内側が入ってくる動きに対して、アジャストに時間を要した。ウチのSHが金沢SHを背中で消そうとして結果的に内側を取ってしまって、結局サイドのスペースを空けた。KJがふらふら漂っているのが嫌なのだが、その辺りの受け渡しを失点せずにハッキさせたかった。

 攻撃面では、セットプレー以外からゴールが生まれた。シュート自体はさておき、そこに至るまでの形は狙っていたもの。また、エドが球際で負けなかったことがもたらしたゴール。途中からは立ち位置を変えての試運転も行ったが、バイタルに至るまでの仕組み作りは継続して取り組まなければならない。まだこの試合を見る限りは機能したとは言い難いものの、相手を見つつ変化を加えていければまた結果に繋がっていくだろう。

 これで未消化分でひとまず1ポイントを積んだ。そりゃいつだって3ポイントを取れればベストだが、0ポイントの可能性があった中での1ポイントの積み上げは大事。次はPO圏内の相手との対戦だが、臆することなく立ち向かう。

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