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当機立断 vs仙台 2-0

 ダービーだと鼻息荒く乗り込んできた相手に対し、前半は上手く手の平で転がすと、後半開始早々にセットプレーで一刺しし、その後は強度を保ったままゲームを進め完勝した前節。前半は相手の出方を窺ってボールを動かしていたが、後半は最終ラインの立ち位置と中盤の枚数で変化を付け、相手が自信を持っているらしいプレスを無力化させることに成功。ここまで積み上げてきたものの差をまざまざと見せつけた。勝たなければいけない相手に勝ったが、この勝利だけで満足するわけもない。

 ダービー優勝を決めたが、兜の緒を締めて乗り込む今節の相手は仙台。04年の天皇杯以降、1勝もできていない鬼門ユアスタ。仙台との対戦でも昨シーズンの長倉が仕留めた1勝のみ。
 今シーズンは伊藤氏でスタートを切ったが、低空飛行が続き解任。セーフティネットとして入閣していた堀氏が監督になる想定内の人事。前政権は3バックと4バックを併用していたが、堀氏は4バックがメイン。しかし、そこから前の形が4-1-4-1と4-4-2の2パターンある。前者の場合は鎌田をアンカーに据えているし、後者は2トップの一角に中山やホヨンジョンといったターゲットを置き、その周辺をもう1枚が衛星的に動くイメージ。氣田と松崎の両SHの推進力は確かで、齋藤学も構える。個々の能力は高く、ハマれば爆発力はある。

 前回の対戦では真瀬がキレキレで、兎に角そこのケアができずにズルズル押し込まれてしまった。1stプレスのポイントも定まらなかったので、かなり難しい展開だった。その敗戦から5か月弱。サイドの相手の置き方を気にしつつ、自分たちでボールを動かして勝ち切りたい。


メンバー

 ウチは前節からスタメン・サブともに18人ノーチェンジ。前節とは相手のレベルこそ異なるが、矢印を自分たちに向けて試合に臨む。

 対する仙台は大敗した前節磐田戦から6枚変更。菅田→若狭、蜂須賀→内田、梁→エヴェルトン、加藤→長澤、中島→鎌田、氣田→齋藤。菅田は前節の一発レッドで出場停止。システムも異なるが、大きくメンバーを入れ替える荒治療に出る。

前半

 コイントスに勝ったウチはエンドチェンジを選択。大宮戦でホーム側の声援を背にすると後半のコミュニケーションが難しいためエンドチェンジを行ったと指揮官は明かしていたが、この試合でも恐らく同様の理由で変えたのではないかと推測される。サポーターの中枢が欠けているとはいえ、あのスタジアムの雰囲気は乗せてしまうと手が付けられない。

 仙台のキックオフで始まった試合は、スタート直後こそ仙台がパワーを掛けてきて、ポジトラの流れから得たFKから中山のシュートシーンを作った。
 ただ、ウチもバタつかずに対処すると、そこからは様子見の展開。仙台は松崎と齋藤の推進力を活かそうとしているが、なかなかボールが良い形で入らない。というより、チームとしてそれほどボールを保持しないプランで、中盤からシンプルにサイドに送って火力で勝負する構図か。
 その分、インテンシティを強くしてトランジションを生み出そうとチェイスに来たが、レフェリーのホイッスルで試合が止まることが多く、なかなか仙台の流れにならない。

 ウチはいつも通り最終ラインでボールを動かし、相手のスペースの空き方を観察する。仙台は非保持時に鎌田を1列上げて中山と1stラインを形成して、アマを挟むように監視。中塩に入るタイミングでは松崎が牽制に来るのだが、風間がLWBのように外側で出口となるので、そこのスペースはかなり自由に使えた。また、中盤ではエヴェルトンと長澤が並んでボールサイドにスライドしてSHとWBを捕まえに来たものの、気にすることなくトライアングルでボールを動かして、無理に仕掛けずに後ろで作り直しながら逆サイドに展開していく。櫛引まで戻して裏抜けのボールを見せることも勿論忘れず。

 ウォーターブレイク明けくらいからは、ウチがサイドでポイントを作る意識を強める。右はローテーションで佐藤とエドがハーフスペースに入って酒井からボールを引き出し、カットインするタイミングを図る。左はじわりじわりと竜士がボールを持ちながら前進していく。とはいえ、まだ焦る段階ではなく、テンポアップはしない。
 仙台は、ビルドアップ時に両CBがPA幅まで取り、長澤orエヴェルトンがサリーダする。そこに平松と梨誉が2枚で上手く限定させるので、結果として林が蹴り捨てる回数も多い。

 35分、仙台にシュートチャンス。スローインの流れのセカンドボールをハーフウェー超えた辺りで長澤が拾い、右の松崎に展開。松崎はアタッキングサードまで運ぶと、長澤が外側を追い越していくことで空いたスペースに真瀬が走り込んでボールを受け、松崎にリターン。松崎はクロスを上げ、中山が飛び込むが城和が寄せてシュートを打たせず。こぼれを真瀬が拾って右足でボレーを放つが、枠を大きく逸れる。

 前半終了間際にかけてはプレスを掛けるポイントを少し高めに設定し、前線2枚に佐藤も連動した動きで追い込む。なかなかシュートまでは行かないが、前節と同じく相手の出方を窺うようにして前半45分を過ごす。
 ただし、前半から両チームにカードが提示されており、そこのジャッジへのアジャストはマストとなる。45+2分に真瀬に遅延行為でカードが出たことでスタジアムも険悪なムードが漂っており、冷静さを保つことが求められる。

後半

 後半に入ると、やはりウチはパスのテンポが上がる。前半は各駅停車が多かったが、1つ飛ばしのパスが増加。相手をスライドさせる回数もそれに応じて増えていく。CB3枚の深さを作る・風間が内側に入るなど、立ち位置にも変化を加えて、ボールをより効果的に動かす体制を整える。

 前への圧力を加えようとしていた中での50分、思わぬ形で試合が動く。中塩から竜士に縦パスが入ったところで真瀬が後ろからチャージ。このプレーで真瀬に2枚目のイエローカードが提示され、退場に。杉本の身体の入れ方とボールの受け方が良く、結果として真瀬が竜士の遠い方の足(右足)にチャレンジするような形となった。竜士の駆け引きの上手さが数的有利を作り出した。
 仙台は後ろの枚数を確保すべく、松崎→小出のカードを切る。

 ただ、数的有利となってもブロックを固める相手を崩さないと何も意味をなさない。しかし、ウチはスタジアムが騒然としている間にスコアを動かした。54分、右サイドのCK。ホームサポーターの大ブーイングを浴びながら、風間がアウトスイングの鋭いボールを供給。ニアで酒井が逸らしてコースを変える。小出に当たって跳ね返ったボールを城和が回収すると、エヴェルトンと若狭に背を向けた状態から急旋回して深く抉り、左足でグラウンダーのクロス。ボールスピードの速いクロスに対してキムテヒョンが足を伸ばして弾くが、こぼれ球に中塩が左足一閃。強烈なシュートは相手に当たるも勢いを削がれることなくゴールへ。中塩のプロ初ゴールで先制に成功。
 人数が減り、尚且つメンバーの入れ替わりでマークが曖昧だった最初のCKで仕留められたのは大きい。平松と梨誉が身体を張ってニアストーンを消し、そこに酒井が上手く潜り込んだ。その後、城和がボールを拾った際は本人がコメントしている通り本能的に動いたようだが、ゴールに繋がる大きなプレー。本能で動いてもゴールに直結させられるほどチームとして落とし込まれていると捉えるのは些か憚られるが、個々の判断も研ぎ澄まされているのは間違いない。そしてこのゴールがクラブのJ通算700ゴールのメモリアルゴールとなった。


 数的有利な状況で先制に成功。気が緩みがちなシチュエーションだが、当然ながらウチはやることを変えない。重心を上げ、風間もアタッキングサード手前でゲームコントロールする。

 60分、ウチに決定機。最終ラインで余裕を持ってボールを持つ。大槻氏から「(ボールを)動かせー!」という声が飛ぶ中、城和から1つ飛ばした佐藤への斜めのパスが通る。数的不利の仙台はリトリートするしか選択肢がないため、広大なスペースを得た佐藤は緩急を付けたドリブルでエヴェルトンを誘き寄せてカットインすると、梨誉に楔を刺す。梨誉は相手を背負いながらも何とか身体を張って佐藤に繋ぐと、佐藤は吸い付くようなコントロールで前を向き、左サイドのスペースにボールを送る。そこに走り込んだ竜士が左足で柔らかいボールを入れると、梨誉がピンポイントで合わせる。左足で放たれたボールはクロスバーを直撃。さらにはこぼれ球を佐藤が右足で合わせるが、これもミートしきれず枠を外れた。

 62分、仙台は中山→菅原、齋藤→中島、長澤→郷家の3枚替え。ボールコントロールができて且つモビリティのある選手を入れ、少ない枚数でも攻撃を完結させたい狙い。

 追加点が入らない時間は続くが、ウチはそつなく時間を経過させる。色々とジャッジの部分でスタジアムが異様なムードに包まれていたが、冷静さを維持していた。サイドの空いたスペースを確実に突いてジャブを打ち続ける。
 71分、梨誉→北川、竜士→山中の2枚替え。荒れ模様の展開でも自分のペースでプレーできる北川と、スペースが大好物の山中で殴りにかかる。

 迎えた74分、試合を決定付ける2点目を欲する気持ちが逸る状況を、15番の右足で打破する。自陣浅い位置で山中から平松へのフィードが通りそうになったところでキムテヒョンが後ろから平松を倒す。ゴールからやや左の絶好の位置でのFK。ボールサイドには風間と佐藤の2人が立つ。どちらも一級品のキックを持っており、並ぶだけで相手GKにストレスを与える。風間が短い助走から右足を振ると、ボールは美しい軌道を描き、ポストの内側を叩いてゴールに吸い込まれた。言葉で現すことのできない完璧なキック。静まり返ったスタジアムに風間のチャントが響き渡った。

 2点差となったことで、ウチはリスク回避しつつボールを落ち着いて保持した。80分に佐藤→シラ、エド→内田の2枚替えで最近お馴染みの5-3-2で試合を締めようとする。さらに87分には最後の交替で風間→畑尾。畑尾を3の中央で起用し、ロングボールの事故のリスクを極限まで減らす。

 最後は前節同様、左サイドで時間を消費して試合終了。遂にアウェイ仙台戦での初勝利を挙げた。

雑感

 刻々と変わっていく試合状況に適応し、強かに勝点3を得た。

 守備はこれで3試合連続のクリーンシート。この試合でもほとんど相手に決定機を作らせることなく、ゴールに鍵を掛けた。打たれたシュートもPA外からのものが多く、櫛引が落ち着いて処理。
 一方で、試合後に櫛引が選手を集めて指摘していたように、2点差・数的有利という部分で心なしか手綱を緩めた部分は否定できない。我々が外側から何か言う立場にはないが、ピッチ内・選手間でそうした声が出てくるのは、集団としても強くなっているのではないだろうか。

 攻撃面では、セットプレーから2発。プレースキックで違いを生み出せるのは明確な武器。流れの中だろうがセットプレーだろうが1点は1点。スカウティングを行い、それに基づき狙い通り実行してゴールまで至るのは簡単なことではない。また、セットプレーと言っても、何か分断されているのではなく、それまでのプレーから地続きな訳で、こうやって続けて取れているのは大きい。セットプレーからゴールが取れるならば、相手はセットプレーを与えたくないと意識するし、そうした考えに相手が少しでも支配されれば、流れの中でも相手は多くのことが頭の中に渦巻き、ウチはプレーがしやすくなる好循環が生まれる。
 攻撃は水物なのは間違いなく、チームとしての力を発揮して得たゴールはどんな形であれ価値がある。

 あの小雪チラつく七北田公園仙台スタジアムでの熱戦から十数年。再び杜の都に歓喜の草津節が轟いた。初対戦からただただあのスタジアムの雰囲気に圧倒され続けたアウェイ仙台戦での初勝利は、また1つ歴史が動いたことを意味する。

 しかしながら、まだまだ成すべきことは沢山ある。今まで越えられなかった壁を少しずつ超え、より高みを目指す。
 やるなら今しかねえ(完全に口癖になっている)。

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