雲泥万里 vs大宮 2-0

 高い位置で奪って左右に振って先制に成功したものの、最終盤にトランジションでエラーが生じて追いつかれた前節。試合の大半を優位に進めながらも、なかなか3ポイントが遠い。決してチームが機能していなかったり、消極的な姿勢が見えていたりしているわけではないからこそ、もどかしさがある。

 ドロー続きからの脱却を目指してのホーム連戦となる今節の相手は栗鼠。ここ数年はJ2でのラインコントロールに終止していたが、今シーズンは最下位に沈む。
 成績不振により相馬氏を解任し、原嶋氏が指揮官に就任。が、状況は大きく好転せず。いわきとの天王山ではホームで1-5と玉砕。2度のお気持ち表明、アウェイでも厭わず強行されるバス囲み、自チームの順位が表示されないツイート、クラブ周辺を様々な負の要素が覆う。
 ただし、復活の気配も微かに漂う。町田戦では前半に2点を先行(その後大逆転負け)、前節のお犬様とのお友達対決では、後半ATに勝ち越した。いわき戦の大敗を受けて、チームは現実路線の5バックを採用。63mを5枚でカバーしてレーンを埋めつつ、ボールを奪うと富山に当ててセカンドを回収する狙い。シーズン開幕からボール保持を志向してきたが、残留するためになるべく保持しない時間を増やしての縦ポン。また、先日シュビルツォクの獲得を発表。残留に向けての切り札を得た。ノヴァコヴィッチ・ラドンチッチ・シモヴィッチ・フアンマ等々、大宮の伝統芸能であるターゲットに当てて火力で勝負する体制を整え、残留を目指す。

 ボールを保持する時間が長くなる可能性は高い。焦れて安易にロストするとなると相手の思う壺である。決まらずとも攻め急ぐことなく、じりじりと押し込んでいきたい。それと、大宮は後ろに人数を割く分、1stプレスが緩い。中盤までは簡単に前進できる見込み。加えて、縦に速い攻撃に対しての脆弱性がある。ノッキングするほど前に気が逸るのはよろしくないが、中盤から楔を刺して相手のラインを崩す必要はある。
 相手の状況は試合には直接関係はない。ただ、今の大宮の姿は数年前のウチと同様に映る。現実的な戦いを選択し、少ないチャンスに懸ける。その不気味さはどのチームよりも分かるはずだ。だからこそ、ここで屈するわけにはいかない。自分たちがすべきことを全うし、以前とは異なる姿を表現したい。

メンバー

 ウチは前節から2枚変更。岡本→エド、内田→風間。前節HTで交代していた岡本はメンバーに入らず、エドがスタメン。ベンチにはアマが帰ってきたほか、田頭もメンバー入り。

 対する大宮は劇的勝利を飾った千葉戦から2枚変更。茂木→貫、富山→アンジェロッティ。茂木は累積警告による有給。

前半

 相手に最初にパワーを掛けられることを嫌うウチだが、大宮は今のチーム状況からしてそんな博打はしない。ウチが立ち上がりからチャンスを作る。

 3分、佐藤が右サイド深くで相手に圧力を掛けてスローインを得る。エドが佐藤に付けると、佐藤は勇利也とワンツー、左足を振る間合いを探りながらもエドに落とす。エド→風間→中塩→風間→酒井と左経由して右に戻ってきて、酒井から再び佐藤へ。佐藤の左足のクロスは至近距離で相手に当たるが、こぼれ球を酒井がシンプルに中へ入れる。これを相手が跳ね返すも勇利也が頭で風間に渡す。風間から中塩に送り、中塩はアーリーを入れる。中に川本しかいなかったので合わなかったが、相手の跳ね返したボールを拾ったエドが華麗なドリブルで股下を通して相手を剥がし、左足でシュート。これが相手にディフレクトしてゴール方向に転がっていくが枠を捉えず。この時点ではまだ大宮にツキがあった。
 勇利也がこの場面でも随分高い位置に侵入していたが、全体押し上げてハーフウェーを超えたところでボールを動かした。

 予想通り大宮は5バックでドン引いてきたので、ウチがボールを動かすことに対して全く規制が掛からない。思いつきでアンジェロッティがプレスをすることはあれど、連動性が皆無なので特に詰まりはしない。また、大宮は後ろに人数を割く分、そもそもウチのビルドアップ時に何か限定させる要素を持ち合わせていなかった。さらに、5-3-2というよりはウチのビルドアップ時の3CBを埋めようという5-2-3の形。となると、大宮の1stラインを突破すればウチの数的優位。長倉と佐藤が大宮CMFの脇で簡単にボールを引き出す。で、エドと山中が大外でWBをピン止めしつつ、縦に仕掛ける機会を窺っていた。
 変に焦ってノッキングすることなく、相手が来ないのであれば3CBで回す。中塩が相手を誘うようなボールの持ち方をする。赤い血が流れているし、オレンジに負けてはならないことが刷り込まれているだろう。スローテンポのままボールを回しながらも、風間・勇利也を使って相手を喰い付かせ、そこから引っ繰り返すようにIHの佐藤・長倉に付けて前進できた。

 18分、右サイドでエドがステップで相手を剥がそうとして倒され、FKを得る。佐藤と風間がキッカーとして立つ。中に入れると思いきや、佐藤がボールを軽く動かして右サイドをスプリント。ボールを持つ風間は佐藤ではなく中央の中塩へ。中塩は華麗なコントロールから左の山中に付ける。山中のアーリークロスは貫が処理できず、その外側の長倉に当たり、アンジェロッティがクリア。しかし、足先の軽いクリアはエドに直撃し、城和の足元に収まる。城和はそのままシュートを放つもブロックされる。それでも再びボールを回収して左外の川本へ。川本はPA角からグラウンダーで鋭いシュート。巻いてくるようなボールは笠原がストップしたが、そこに勇利也が詰めていた。勇利也の2試合連続ゴールで先制に成功。
 デザインされたセットプレーでゴールまで結びつけた。セットプレーの流れと言えど、勇利也がゴール前で仕事ができているのは良い。こぼれてくることを信じて走り込んでいたのはポジション関係なく、偉い。あのボールに反応できるホームチームと、足が止まったアウェイチーム。この辺りが今のチーム状況の差を表している。

 続く22分にも決定機。長倉が果敢にハイボールにアタックしたところで相手が軽率に足を出したことで倒され、左サイドでFKを得る。またもボールサイドには佐藤と風間。佐藤がタイミングを外して短い助走で蹴る。これを酒井が落とすと、川本がコントロールしてから右足でボレー。強烈なシュートだったが、笠原が足で防いだ。

 リードを得たことで、ウチは益々攻め急ぐ必要がなくなった。大宮もやり方を変えないので、かなりのローテンポで試合は進んでいく。流石にウチのビルドアップが自陣深くまで下がっていった時には大宮は捕まえにくるが、CBからCMFに縦パスが刺せるため、むしろ簡単に前進できてしまうシチュエーションになりがち。

 37分、大宮にやっとチャンスらしいチャンスが訪れる。ハーフウェーでボールを持った新里が左サイドのコーナー付近目掛けたシンプルなボールを供給すると、右サイドにいた中野が斜めの動きをしてコーナーでボールを確保。そこから貫に落とすと、中央の高柳へ。高柳は縦パスを刺そうと試みるも、出すコースがなく貫へリターン。貫→柴山→高柳→浦上→高柳とバイタル手前でノッキング状態だったが、高柳が上手く栗本に楔を入れる。栗本はアンジェロッティに当ててリターンをもらおうとするがパスが少しズレて、何とか足を伸ばして右の中野へ。中野はフリーに見えたが、力んだのかシュートは明後日の方向に飛んでいく。
 シュートまで持っていかれたが、基本的には外回りだったので大きな問題は生じていない。高柳のところで中にボールを入れられるとやはり局面変えられるものの、ゴールに近い位置で自由を与えず。

 40分、待望の追加点。エドの上手さ光るフェイクで相手を剥がし、スペースに出したボールに川本が反応し、強引に相手に当てて得た右サイドのCK。風間のインスイングのボールにニアで勇利也が合わせるも、笠原がファインセーブ。ただ、こぼれた先にいた川本が右足を強振。強烈なシュートはバーを掠めてそのままネットに突き刺さった。豪快な一撃で前半のうちにリードを2点に広げる。
 風間が蹴る前に酒井が一足早くニアに走り込んでニアストーンのアンジェロッティとマーカーの岡庭を無力化する。これによって勇利也がフリーで打てる状況を作り出した。川本も2度目のチャンスは仕留めた。思い切りよく足を触れるのが何よりの武器である。これまで川本は味スタでしか決めていなかったので、ようやく敷島での初ゴール。

 相手にほぼ何もさせず、2点のリードを持って前半を終える。

後半

 後半開始から大宮は3枚替え。大森→三幸、栗本→泉澤、中野→富山。2失点後から4-4-2のような兆候は見られていたが、ここでメンバー変えて明確に配置転換。そりゃ中盤2枚でウチのIH捕まえるのは無謀でしかない。ただ、枚数多くすれば守れるって保証もどこにもない。
 加えて攻めるしかない状況だし、泉澤を左に置いて質的優位を作ろうという魂胆。また、中央にターゲットを2つ配置し、そこに当てて押し上げようとも考えてそう(そもそも前半は蹴ることすらしなかったorできていなかったけど)。

 後がない状況に陥った大宮は後半開始からパワーを掛けてくる、と思いきや、配置を変えたもののテンションはさほど前半と違いはない。ウチももう一度締め直しつつ、ボールを握ってペースを掴もうとする。

 52分、バイタルでのアンジェロッティのシュートを酒井がブロックしたセカンドボールを佐藤が回収。佐藤は追い越していったエドを使い、リターンを受ける。佐藤→城和→中塩と左に推移していくが、ここまで大宮の限定は一切かからず。中塩から全く労せず長倉への楔が通る。長倉はボールを受けて前を向くと一気に加速。前方を川本と山中が走っていたが、長倉はそのままPAまでボールを運び右の外にラストパス。そこに走り込んだ佐藤が思い切りよく右足を振り抜く。利き足ではない右足でのシュートはミートしていたが枠を捉え切れず。
 マイボールにしたところから緩急を使い分けてフィニッシュまで持っていった。漂流する長倉が誰にも捕まらないのは(ある意味では)予想外だが、単騎で突破すると見せつつパスターゲットは少なくとも3人いたし、あの攻撃で複数人がゴール前に絡んでいけるのは良い。

 大宮は4-4-2にしたことで必要以上の最終ラインの重さは解消され、少しずつ高い位置でボールを動かせるようになってきた。結局のところは富山でポイント作れるのが大きい。アンジェロッティはサイズはあるけどどちらかというと足元で勝負したいタイプなのも考えると、富山の存在は大きい。
 が、守備時はなかなか厳しい状態。今まで以上に成り行きプレスによる弊害が如実に表れる。先述の長倉がフリーでボールを引き出した場面などが分かりやすい例だが、SBがウチのWBにピン止めされ、IHを誰が監視しなければならないのかが不明確。恐らくはSHが戻ってきてって想定だろうが、現実的ではない。そして、4バックにしたことで守備時に1人が担当するエリアが広がったので、縦の突破でラインブレイクされることも増える。そんな理由から、ウチはボールを奪うと比較的簡単にボールを前に運べるように。勿論、山中やエドの推進力を見せつけ、その内側で長倉と佐藤が時間を作ることで相手に脅威を与えているのは間違いない。

 2-0は必ずしもセーフティリードとは言えないが、後半の立ち上がり15分を0に抑えたことで、かなり楽になった。無理にリスク冒してロストしないこと、あとはズルズル引き過ぎないことに注意すれば、そう簡単にスコアは動かされない。
 66分、疲弊していた川本に替えて北川を投入。さらには74分、佐藤→アマ、風間→内田、エド→田頭の3枚替え。フレッシュな選手を立て続けに入れて強度を落とさない。北川がFW、アマは久しぶりにLSHに入る。田頭はこれがJリーグデビュー戦。

 76分、大宮が一矢報いようと反撃。相手のクロスを跳ね返し、セカンドを勇利也が拾う。勇利也から山中へのパスがズレてしまい、再度大宮ボールに。貫から富山に縦パスが入り、富山はワンタッチで高柳に落とす。高柳から再度富山に入ったところで田頭がアタックに行ってボールを収めさせないようにしたが、こぼれ球に貫が反応して柴山へ。柴山はアンジェロッティとのワンツーから左足でシュート。櫛引が見送るしかないシュートだったが、ポストにクリーンヒットして跳ね返っていった。
 ここもマイボールにしたところですぐにロストして相手にチャンスを与えた。リードしているからこそ、確実に前進させたい。

 この辺りから大宮は5バックに戻してきたが、大勢に影響はない。むしろ、大宮の攻撃のチグハグさが目立った。幅を使ってクロスを入れるでもなく、ターゲットに放るでもなく、アバウトなフィードを最終ラインの背後に落とそうとして誰も反応せず、淡泊に攻撃を終える。
 また、泉澤の突破をウチは警戒していたが、アイソレーションで意図的にフリーの状態を作り、そこに入ったところに圧力を掛けていった。ボールハントしようとチャレンジするのではなく、ディレイの対応。単騎でも泉澤は怖いが、甲府時代のようにハーフスペースを走ってくれる選手がいないと本来の怖さはない。サポートもおらず左サイドで孤立した泉澤は目立った仕事ができず。

 ウチは85分に山中→平松で最後のカードを切り、試合をクローズする作業。そのまま危なげなく2-0で試合を終える。

雑感

 下位で藻掻くチームに足元を掬われるようなことはなく、自分たちのすべきことを完遂しての完勝。

 守備はクリーンシートで終えたことが第一。相手の状況は抜きにしても、失点しないことが勝点を積む上では重要になってくる。前回対戦時は終盤に押し込まれて2ラインがかなり低くなって受けに回って耐えた形だったが、この試合では最後までコンパクトに保った。ほぼほぼ相手にスペースを与えることなく、可能性のある攻撃は数えるほどしかさせなかった。

 攻撃ではセットプレーの流れから2ゴール。畑尾というターゲットを欠く中でも、それぞれの動きでフリーの選手を作り出した。後ろを固めてくる相手に対してセットプレーで仕留められるのは効率が良い。
 また、相手のシステム云々ではなく、どうやってボールを動かせば相手が釣り出されてスペースが空くのかということをチーム全体で共有できている。

 順位が上のチームに対して後ろを固めて耐え、少ないチャンスでモノにして勝点を拾おうとしたのが今節の大宮の狙い。これは数年前までウチも同じ状況だった。2年前、どちらも残留が確定していない中での大宮公園での最終戦。昨シーズンも最後までどちらも苦しんだ。ただ、小手先で残留を掴み取るのではなく、あくまで自分たちのスタイルを確立しようと取り組んだ。そうして地道に積み上げてきたものが、今の結果に結びついている。
 ただ、我々が目指すものはより高いところにある。この1勝は大きなものだが、ここで満足はしない。引き続き、上を向いて戦って行く。

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