天衣無縫 vs岡山 1-0

 5連戦の最後となった前節は強風が吹く難しい状況の中、全体として押し上げてコンパクトなブロックを保ったが、試合を決めるゴールは生まれなかった。連戦でだいぶ疲労も蓄積されており、ゴール前まで攻め込むパワーがやや不足していたが、それでもブロックを崩さずクリーンシートで終えられたのはポジティブな要素。

 連戦を終え、久しぶりに中6日空いた。6試合ぶりの勝利を目指して乗り込むのは岡山。何故かここ2シーズン連続でダブル達成している唯一のクラブ。2020シーズンのアウェイは大八のヘッドを守り抜き、ホームは翔大のダイビングヘッドと林のラストゴールで勝利。2021シーズンのホームは電光石火の展開からの進の一撃で沈め、アウェイでも耐えに耐えて終了間際に岩上がPA内まで入って押し込み勝ち切った。どの試合も接戦であり、特に昨シーズンアウェイの対戦ではゴールシーンこそ見事だったものの、試合の流れ的には何で勝ったのか良く分からなかった。リーグ通算成績は13勝3分7敗と大きく勝ち越しており、勝率56.5%はあの対お犬様(47.6%)をも凌ぐ数字。
 今シーズンから岡山は木山氏が指揮を執る。前述の通り岡山には勝ち越しているのとは裏腹に、木山氏の率いたチームとの対戦はすこぶる悪い(2勝4分10敗、勝率12.5%)。最初の水戸時代に始まり、千葉、愛媛、山形を指揮している時に対戦し、その度に塩試合で負かされてきた。縦ポンで先制され、終盤に児玉がコロコロ転がって時間を消費されたつまらん試合を何度見せられたことか。
 ここまでの岡山は開幕戦で甲府相手に4発快勝を収めると、開幕ダッシュに成功。オーストラリア代表のミッチェルデューク、チアゴアウベス、ステファンムークという強力な前線のアタッカーで殴る部分が注目されがちではあるが、木村・田中などのSHや本山を中心とした中盤からの展開力も目を見張る。最終ラインには柳とバイスという堅いのか堅くないのか分かんないけど兎に角ゴツいコンビが全体を引き締める。木山氏らしくやることは明確になっているので、選手のプレー判断が速い印象を持つ。

 5試合勝利から遠ざかる難しい時期になっているが、相性の良さにも便乗してそろそろ3ポイント積みたい。

メンバー

 ウチは前節からスタメン・サブ共にノーチェンジ。中6日あったことで少しリフレッシュできただろうし、連戦中にできた反省点の修正もしてきているはず。

 対する岡山は敗れた千葉戦から3枚変更。河野→宮崎、佐野→喜山、チアゴアウベス→木村。ここまで5ゴールを挙げているチアゴアウベスはベンチからも外れていた。

前半

 両チームとも試合の入り方は悪くなく、どちらもボールを持つ場面が見られたが、先にチャンスを作ったのは岡山だった。

 6分、岡山はゴールキックから自陣で繋ぐ。落ちて顔を出すムークに岩上がチェックに行くもワンタッチで叩かれてプレスを回避される。いまいち嵌められないままいると、喜山からデュークに長いボールが入り、デュークは頭で落とす。このフィードでウチの最終ラインは下がらざるを得なくなり、それによってできたスペースを本山が察知してボールを引き出し、右の成瀬へ。成瀬・本山・田中のトライアングルで繋ぎ、外で張った田中に渡ったタイミングで本山がトライアングルを崩すランニング。岩上の内側を走ってボールを受け、PAの深い位置を取ると、ゴール前に低く速いボール。当たれば1点という場面だったが飛び込む味方がいなかった。それでも、ファーに流れたボールを木村が回収し、宮崎とワンツー。プレスが緩いとみた木村はインスイングのクロスを上げると、デュークを超えて田中が合わせる。タイミングは申し分なかったが、シュートは櫛引がキャッチ。

 15分にも岡山の形。ゴールキックをデュークが落とし木村へ。木村は稔也を連れてサイドライン近くまでボールを運び、後ろの宮崎に渡す。宮崎に対しても稔也が追いかけるが、上手く浮き球でプレスを掻い潜って木村が再びボールを受ける。すると、宮崎がインナーラップし、さらにムークがボールサイドに寄って来る。ムークに城和が着いていくが、それによってできたスペースに喜山が走り込んで木村からパスを受ける。深くまで抉った喜山は身体を捻りながらワンタッチでマイナスのクロス。ボールはわずかに小島に当たったが待ち構えていたデュークの目の前に転がる。あとは決めるだけだったが、タイミングが外れて身体が泳ぎ、力のないシュートは枠を逸れた。
 PA内に侵入されるまでは岡山のイメージ通りに崩されていたが、小島が寄せて軌道を変えたのと、畑尾がスライディングでシュートコースを消していたことで何とか防いだ。

 なかなかアタッキングサードまで到達しないウチだったが、20分に雰囲気のある攻撃。敵陣浅い位置でのFK。岩上のフィードは跳ね返されるも、山中がボールを落ち着かせると、キックフェイントを入れながら左サイドを前進。単騎でムークを剥がして左足でクロス。ボールは金山の頭上を超えると、ファーで待っていた山根がダイナミックなボレー。シュートモーションは格好良かったが、枠には飛ばず。

 立ち上がりの展開を見ると、木村と田中がサイドで幅を大きく取りウチのSBをピン止めさせることで、宮崎と成瀬にやや自由が与えられていた。当然ウチのSHが対応に掴みに行くけど、木村と田中へのコースを消すためにウチのSHの立ち位置が低くなっている故に、岡山SBを捕まえるまでに走る距離が長くなった。つまり、ウチの選手が到達するまでの時間は岡山の選手が優位性を持っていることとなる。また、そこに喜山や本山が絡むのと、ムークがウチのCBの視界に入りながらボールサイドに流れるので、どうやっても押し上げることが難しかった。
 決壊しないためにもコンパクトさを保つことが大前提なので、ウチは1stディフェンスをセンターサークルよりもさらに下に設定するほどの縦圧縮する場面も見られた。しかし、岡山はそれへの策を持っていた。田中が大外に張り山中を固定させ、成瀬がインナーラップして山根を引っ張る。それに連動するように本山がKJの内側から脇のスペースに入り込んでボールを引き出すので、ウチは誰がアタックするかが定まらず前進を許していた。
 また、30分過ぎにはウチとギミックは異なるも似たような片上げも見られた。柳-バイスの前に木村-喜山-宮崎の3枚が並ぶ2-3の形。ウチの1stラインの基準点はCHを挟む位置になるのが原則なのだが、CH2枚+LSBの3枚が横に並ばれるとこのラインでは数的不利になる。サポートするように稔也と山根が1列上がって捕まえに行き、最終的に出しどころがなく柳は大きく前に蹴り出して、ウチとしては事なきを得た。しかし成瀬が右の大外で高い位置を取っており、仮にもっと足元に安定感のあるCBだった場合はプレス隊を剥がされて右で人手不足に陥っていた可能性は高い。何が言いたいかっていうと、取り敢えず岡山のCHが2枚とも面倒。

 32分、またも岡山。通常の選手では考えられないようなバイスのワンステップでのフィードを山根が身体に当てるも、田中が拾ってダブルタッチで山根を剥がし、そのまま思い切って打つ。シュート自体は枠に飛ばなかったが、ボールを持ってからのアイデアは面白かった。

 やや重心が低い時間が続いていたウチも37分にジャブを打ち返す。全体的に押し上げていき、山中が高い位置で成瀬をチェックしてパスを引っ掛けると、ルーズボールを平松が収める。平松から落としを受けた内田はワンタッチで縦パスをKJに刺す。KJは左足でピタッと止めてピボットで進行方向を変え、平松の斜めのランニングによって空いたコースにシュートを放つが、目の前でブロックに遭う。トランジションからシュートまで行けたので、少しずつ流れが変わりつつある。

 そして43分、ここでも前で嵌めてチャンスを得る。DFライン背後に落とす城和のボールはバイスに処理されるも平松は2度追いし、宮崎の中途半端なコントロールを掻っ攫う。すぐにPA角の小島に渡すと、小島はワンタッチで中央のKJに流す。絶好機だったが、ボールがマイナス過ぎてしまいKJはまさかの空振り。ただ、それが結果的に良いスルーになり、最後は山根が外から走り込んで合わせる。巻くイメージで蹴ったボールは巻き切らずに左側に飛んでいった。決め切りたかったが、前で引っ掛けることが増えてきた。

 45+2分、金山のパントから。デュークが城和に競り勝って逸らす。畑尾がカバーしてクリアするが、あまり距離を稼げずデュークに拾われる。デュークから右の成瀬に渡ると、成瀬はアーリーを選択。ふんわりしたボールに先ほど展開したデュークが走り込んで合わせた。シュートには迫力があったが、流石にシュートしたポイントがゴールから遠く、櫛引が落ち着いて処理。

 結構支配された印象があるが、ゴールを奪われることなく前半を終える。

後半

 後半の立ち上がりは岡山が前に出てきており、立て続けにCKを獲得するも、危険なシーンまでは至らなかった。

 ウチもただ殴られるだけではなく、徐々に攻勢を強める。52分、岡山のビルドアップの局面で喜山が角度を付けて縦パスを入れるも繋がらず、小島がコントロール。小島はすぐにフリーの稔也へ渡すと、稔也は前を向きDFラインを超す距離の長い浮き球を入れる。バイスの頭を越したボールにKJが反応。そのままPA内に侵入して体勢を整えると、平松と山根の縦方向への動きを囮にマイナスのボールを選択。そこに内田が走り込んで右足で流し込もうとしたが、シュートは柳がブロック。
 相手が前に行こうとしたところで引っ掛けてから早く引っ繰り返せた場面だったが、ボール奪取前の稔也のポジショニングがベストだった。喜山との距離を空け過ぎず、尚且つサイドで幅を取る木村へのパスコースを切る。さらに、奪った後にはフリーで受けられる位置にいた。マイボールになった際まで意味付けできるポジショニングだったかは確かめることができないが、相手にとっては嫌な立ち位置だったことは間違いない。

 60分から61分にかけての岡山のボールの動かし方は興味深かった。内田が自陣でクリアしたボールをバイスが回収し。木村に一度縦パスを入れてすぐにリターンを受ける。すると本山が稔也と平松の間に顔を出してバイス・木村・本山の三角形を形成。バイスからボールを受けると反転し、木村の前方のスペースに届ける。この縦パスによってウチの2列目を潜り抜け、ラインを押し下げさせる。ここでクロスを上げて終わりにするのではなく、本山が動き直して再度ボールを受けるのがポイント。結果としてクロスの精度は伴わなかったが、木村で深い位置までボールを動かしたことで本山がフリーでクロスを入れる状況が作り上げられた。バイス→本山、本山→木村の2本のパスで「深さ」を手に入れる良い形。

 ウチも可能性を感じるシーンを作る。69分、左で攻め込もうとするも無理せず作り直す。その際も、ただバックパスするのではなく、常に目線は前に向きつつ、状況判断によって後ろに繋いでいた。それにより岡山の重心が下がっていく。城和がいつもよりも長くボールを持ちデュークの脇まで運び小島へ。ここで小島は前ではなく後ろの畑尾に1つ飛ばしてのパスを選択した。重心が低かった岡山は何とか押し上げようとするも、1人ひとりが走る距離が長い。畑尾から山中へのパスに田中が何とか喰らい付き、連動するようにデュークも畑尾にチェック。ただ畑尾は落ち着いて城和に付けて岡山の1stプレスを突破。城和はハーフスペースにポジショニングしていた稔也へ。稔也も持ち過ぎずに左のKJへ繋ぐと、KJは大外の山根に渡す。山根が右に持ち変えて上げたクロスは跳ね返されるも、内田が上手く身体を使って相手をスクリーンしてセカンドを岩上が拾う。CH2枚がPA近くまで押し上げているのも趣深い。岩上からのボールを受けた小島は、内田のオーバーの動きを囮にしてニアに速いボールを入れる。これもバイスに跳ね返されるが、今度は城和がデュークに競り勝つ。浮いたボールは岩上がワンタッチで小島へ。小島→内田→岩上→稔也→岩上→山中→山根とすべて2タッチ以内のプレーで左サイドへと推移。山根はKJとワンツーをしてカットインを試みるも、無理せず内田に戻す。プレスに来た田中の強い矢印を察知した内田は山中に渡して2度追いさせ、山中はその矢印を折るべく、ゴール方向へのパス。これによって田中の出足の鋭さも削がれた。山中→KJ→山中→岩上→城和→小島と今度は右サイドにボールは動くと、段々と岡山のスライドは着いてこれなくなった。小島は城和にボールを戻し、中央の内田へ。内田から山根への長めのパスはショートするも山根の寄せで即時奪回。それを拾った内田はワンタッチでKJの前のスペースへ。KJはそのまま加速してクロスを上げようかというタイミングで相手のスライディングが入り、ようやくプレーが切れてCKに。
 (自分で文字で書いても良く分からないくなっているが、)同じようなボール回しが1分半の間に何度も見られた。相当の反復練習を経て落とし込まれていることは間違いない。CBからの1つ飛ばしの斜めのパスがポイントになっており、仮に受けたSBが前を向けなければすぐに近いサイドのCBに戻すというセーフティネットも整備。着実にビルドアップの練度が上がっている。

 一連の長い攻撃によって得たCK。岩上から放たれたインスイングのボールは直接ゴールへ吸い込まれた。驚きの形で先制に成功する。金山は山根のポジショニングが視界に入って気になったのかもしれないが、山根はファウルになるような行為は一切しておらず、勝手にプッシュしてきただけ。人を気にするあまり肝心のボールから目を切っており、まさに本末転倒と言うべきか。決まった瞬間は何が起こったか分からなかったが、岩上のゴール後の表情が全てを物語っている。

 久しぶりのゴール(3試合ぶり)と、久しぶりのリード(4試合ぶり)を奪ったことで、ウチの選手たちの動きは目に見えて良くなる。そんな単純なことではないが、自分たちのやっていることが間違いないという自信が深まれば、どんどん感覚が研ぎ澄まされていくのは当然なのかもしれない。

 78分、追加点のチャンス。山中から対角線のロングフィード。奥村がPA角で競り勝つもバイスがクリア。しかし、岩上が敵陣中央で拾うと、思い切ってシュート。これは相手に当たるが、奥村が回収し岩上に戻すと、ワンタッチで小島へ展開。小島のアーリー気味のクロスはハンイグォンの脚に当たってディフレクトするが、落下点にいち早くKJが入る。そこからは細かなタッチで前を向き、角度のないところから右足を強振。完璧な突破だったが、わずかにシュートは左に逸れる。18-19UCL準決勝2nd leg AJX v TOTのLucas Mouraの2点目を彷彿とさせるボールタッチ(彷彿させる内容に偏りがあることには目を逸らしつつ)。どこぞの似非解説者に見せてやりたい。

 その後は柳・バイスが攻め残りさせて前線に馬力を総動員した「岡山一体」システムで殴り込んできて、実際ハンイグォンに瀕死まで追い込まれたりもしたが、ウチも広大入れて5バックでクローズさせるいつもの形で対応。最後まで集中を切らすことなく冷静にプレーし、6試合ぶりの3ポイントをゲット。

雑感

 試合直後の印象だと、何で勝ったか正直良く分からかった(相性って言葉で片付けるのも簡単だし)。しかし、見直してみると、90分を通してウチの選手たちが着実にタスクを遂行していたからこそ、勝利に結びついていたことが良く分かった。

 ディフェンスでは2試合連続、今シーズン8度目のクリーンシート。岡山はウチのCBとの空中戦を嫌ってデュークをウチのSHのところに当てて勝負してきたので、前半はやや苦戦したが、後半はそもそもハイボールをそこまで蹴らせず、仮に蹴られてもCBが1列前で捕まえて潰した。
 また、木村と田中に幅を取られ、その内側に成瀬や本山、喜山らが入ってきてボールを回された印象はとても強い。前半はどうしても人を追っていたが、後半は無理に捕まえるのではなく、コースとスペースを消すことで対応した。それにより重心を必要以上に下げる必要なくコンパクトに保てるため、先述の通りボール奪取後SHが高い位置で引き出してショートカウンターに結びつける場面も増えた。

 攻撃については69分のボール保持時のプレーを見れば何がしたかったか大体分かる。幅と深さを得るためにボールも人も動き、時に相手を誘き寄せながら、徐々に広がるスペースに縦パスを刺していくのは見ていて楽しい。
 後半に入って修正したのは、KJに高い位置を取らせたことかと。いつもはSHより低い位置で浮遊して、誰がマークに付けば良いのか分からず相手が勝手に困惑していたのだが、岡山は柳が結構前までチェックしに来た。チームとして嵌めに来たし、柳個人としても踏み台時代に対戦した際からKJの特徴は理解しているのだろう。ただし、後半はKJがCHと並んでプレーするシーンはほとんどなかったと思う。内田がボールを散らせていたことも大きく、よってKJが引き出そうと落ちてくる必要もなくなっていた。KJがもっと前を向く仕事に専念できるため相手に与える脅威も増していく。
 ゴールこそ偶発的な要素も含んでいるが、後半のボールの動かし方が結果に結びついた。

 5連戦で少し苦戦もしたが、めげることなくやり通した成果が、ここに表れているのかもしれない。この勝利により、折り返し前にして勝点を20に乗せた。チームの最低目標のためには前半戦で25は積む計算ではあるものの、なかなかのペース。

 ここから難敵との対戦が続いていくが、自分たちのスタイルに自信を持って挑めば、どこにでも通用する。

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