質実剛健 vs琉球 1-0

 今シーズン初めてスタートから3バックで臨み、苦しみながらも終了間際の得点で岩手に勝利した前節。ボール保持できる局面での打開策には課題も見られたが、勝ち切れたのは大きい。ゴールシーンではボール奪取からゴールまでが早く、トランジションの強みを活かした展開だった。思い通りに動かせられなくても勝点3を積めるなんて、今年はやはり今までと違う。

 シーズン初の3連勝を目指して挑むのは琉球。最北端に行ったと思ったら今度は最南端に移動するアウェイ連戦。J2津々浦々行脚。昨シーズンは開幕から好調で一時は首位に立っていたが、後半戦に入るにつれて失速。樋口氏を契約解除し、HCの喜名氏が後任となった。チームとしてはJ2での最上位の9位でフィニッシュしたが、後味は今一つ。
 喜名氏続投で迎えた2022シーズンは、スタートダッシュに失敗。得点こそコンスタントに決まっているものの、兎に角失点が嵩んでいる。基本的にはポジショナル志向。田中恵太だったり富所だったり清武だったりの質的優位を活かしているものの、上門の穴というか幻影を未だに感じてしまうのは気のせいか。加えて、ボールロスト後の立ち位置の設計が怪しい。前節の岡山戦はだいぶ修正されていたものの、やはりバランスが保てていない印象を持つ。
 今までは阿部拓馬にやられまくった印象しかない。それと、2018シーズンに目の前で優勝を決められた記憶。あの試合の影響で琉球とは相性悪い印象があるが、2シーズン連続でアウェイでは勝利している。琉球は今シーズンまだホームで勝てていないらしいが、この試合でも涙を飲んでいただきたい。

メンバー

 ウチは前節から2枚変更。川上→山中、風間→内田。内田は今シーズン初スタメン。山根が怪我が癒え、ようやくメンバー入り。フォーメーションもいつも通りの4-4-2に戻してきた。

 対する琉球も、打ち合いの末分けた岡山戦から2枚変更。李→大森、金井→大本。週の初めにCOVID-19アクシデントのリリースがあり、多少影響もあるか。また、4-4-2が予想されていたが、試合開始後の配置を見ると3-4-3だった。

前半

 琉球のキックオフだったが、KJが猛然と圧力を掛けて最初のフィードをカット。開始直後からプレス隊がいつも以上にフルスロットルの状態でプレスを掛ける。前半は向かい風だったため、アバウトな長いボールを簡単に蹴らせないための意思が早くから見られた。

 3分、自陣で天笠が相手のパスミスを回収してワンタッチで深堀へ。深堀は前を向き、DFラインの裏へパスを狙う。惜しくもカットされてKJには届かなかったが、ボール奪取から一気に縦にボールが動いているウチの良い形が出た。琉球のパスミスと立ち位置が大分怪しかったことに起因していたとはいえ、ライン間のギャップでボールを引き出した深堀、それを見てスプリントして縦関係を作るKJの動きが効果的だった。

 5分、ウチに最初のチャンス。櫛引が自陣深くからFKを蹴る。ボールを受けた稔也がコントロールオリエンタードで前を向き、WBとCBの間を通すラストパス。抜け出した深堀が右足を振り抜くも、ボールはサイドネットへ。少し深堀の足元にボールが入ってしまいコントロールしきれなかった。

 7分、流れを掴んだまま先制に成功する。琉球がシュートまで持って行けず歯を見せている隙に櫛引から岩上にボールが渡り、難なくファーストディフェンスを突破する。岩上→内田→城和と動かしていると、左サイドにKJが落ちてボールを受ける。琉球のトランジションが遅くスライドしていなかったため、KJの前には広々としたスペースがあった。誰にも邪魔されずに敵陣・バイタル手前まで運び、相手に寄せられる前に天笠にパスを出して走らせる。天笠はトラップせずワンタッチで鋭いボールを入れるも、PA内でDFにクリアされてしまう。しかしセカンドボールを岩上が回収すると、左足一閃。ハーフボレーで上手く合わせたシュートは文字通りネットに突き刺さった。"El Golazo"
 琉球の構造上の問題は一旦置いておくとして、KJが持ち上がった際の天笠・深堀・稔也のポジショニングの時点で相当優位に立っていた。天笠が大外の高い位置で張るのはいつものタスクだが、これにより田中をピン止めしてKJにアタックできなくさせている。深堀は最初から中央に入るのではなく、琉球のLCBの前に立った。これによりLCBの視界に入って気を散らせるとともに、CB岡崎とLCB福村の距離を近づけてウチにとっての右側のスペースを空けることにも繋がっている(これは第三者が勝手に意味付けしている部分だし、ピッチ上でどこまで意識的に動かしているのかは聞いてみないと分からないが)。また、深堀は最終的に岡崎と福村の間を割って走り込んでいるので、どちらがマークに付くのかが曖昧になっている。でもって、稔也が大本を引き付けて右サイドで敢えて宙ぶらりんになったので、福村-大本のサポート関係は機能不全になったも同然。
 クロスで完結できればそれはそれで良かったが、何の因果かボールは空いているスペースに転がっていく。そして、そのスペースにCHが出てきてシュートまで決めちゃうんだから、最早言うことはない。ヒーローインタビューで「チームでの約束事になっている」と岩上は述べていたが、あのセカンドボールを回収できるか否かで攻撃の厚みが天と地ほど違う。

 3試合連続で先制し、3連勝に向けて視界良好。風下だったことでリスク冒さずロングボールを選択する場面も比較的見られたが、兎に角深堀を岡崎とマッチアップさせてスピードで千切った。当然琉球は裏のスペースを嫌ってラインを下げるので、ウチとしてはビルドアップするに十分な時間・空間的余裕を得た。ロングボールとビルドアップのバランスが絶妙であり、一辺倒にならないからこそ相手に的を絞らせない。

 24分、琉球のロングボールを小島が胸トラップして回収。小島→岩上→城和と短く繋いで琉球の前線3枚+富所を引き付け、城和が左サイドのKJへと開放させる。この斜めのパスは痺れたし、ちょうど中間地点で内田が上手く中野をスクリーンしていて見事。KJは再び敵陣までボールを運び、相手が帰陣したと判断すると、今度は押し上げてきた岩上へ渡す。この場面では急がずに後ろに戻して作り直したが、少ないタッチで陣形を整えてスペースにボールを流す形は相当デザインしている。

 26分、櫛引がFKをキャッチして素早く山中へスロー。山中→岩上→内田と回して相手FW3枚を中央に寄せてから再度山中へ。山中は内田とのワンツーで更に相手を引き寄せて、ワンタッチで前方の天笠に付けて局面をひっくり返す。天笠もワンタッチでKJに落とし、一気に攻撃がスピードアップ。KJは中に行くと見せかけて、天笠の前のスペースへ。天笠は深くまで抉ってクロスを上げた。カットこそされたものの、上記同様に少ないタッチでの速い攻撃は落とし込まれている。

 琉球がゴールに最初に迫ったのは32分。最終ラインの福村から大本へのフィード。小島の背中を取って抜け出した大本はゴールラインぎりぎりからクロス。これは櫛引が弾くも、こぼれ球を田中恵太に拾われてPAの深い位置まで運ばれる。田中のクロスは身体が流れてしまいマイナスにならなかったものの、不規則な回転がかかっており櫛引の頭上を越えてゴール方向へ。嫌なボールだったが畑尾が落ち着いて対処。

 琉球は3-4-3によってウチの意表を突こうとしていたが、如何せん基本的な構造は4-4-2とさほど変わっていなかった。ビルドアップの場面では富所が低い位置まで落ちてボールに触れるのと、中野もWBの近くまで顔を出しているので、後ろがダブついてる印象を受けた。フォーメーション変更による効果は極めて限定的。
 また、"3"-"4"-"3"の3つのラインがそれぞれ独立しており、連動した動きが乏しいので守りやすかった印象もある。清武と中野に対しては小島と山中が見張っており、そこの1 on 1に負けなければ何も問題ない。3バックのチームが良く見せる幅を取って相手を広げてハーフスペースを利用するといった狙いも見えてこなかった。

 41分、琉球のビルドアップを徐々に追い込んでいき、センターライン付近で稔也がチャレンジ。そのセカンドを深堀が回収し、さらに左のKJへ。KJはドリブルでPA内に侵入したが、思っていた以上にGKが出なかったのと、サイド的に左足で打たなければならないシチュエーションだったため、シュートを決め切ることができなかった。

 追加点は奪えなかったが、危なげなく前半を折り返す。

後半

 後半になっても、ウチが縦に速い攻撃で主導権を得る。

 54分、ウチのビルドアップから。徐々にパスを回すポジションが低くなり、琉球のプレスも強まっていたときに、畑尾が1つ飛ばした天笠へのパスを通した。このプレス回避によって自由が与えられた天笠は、DFラインの裏に深堀を走らせる。深堀のクロスはブロックされるも、今度は走り込んだ天笠へ落とす。天笠はワンタッチでシュートを放つとGKを強襲。こぼれ球もGKに確保されてしまったが天笠の前への意識の強さを感じさせた。

 59分にも決定機。自陣で内田がパスを引っ掛け深堀へ。深堀→内田→KJ→天笠とテンポよく回り、天笠は高い位置から低い弾道のアーリークロスを上げる。このクロスに深堀が反応し懸命に足を伸ばしたが、シュートが枠を超えてしまう。
 天笠の低速クロスは優勝した2011年の酒井宏樹を彷彿とさせる。上げるタイミングも弾道もボールスピードも申し分ない。相手にタイミングを読ませないためにも、アーリークロスという選択肢も良かった。

 ただ、これだけ追加点を奪えないとモメンタムが移ってしまうのではないか心配になってしまう。簡単に流れを渡さないためにも、ウチは先手を打つ。序盤からハイペースでプレスを掛けており、疲労が色濃く見られた深堀と天笠を下げ、平松と山根を投入。タイプは少し異なれど、プレス強度は落とさないという大槻氏のメッセージ。

 74分、琉球に決定機。櫛引のパントをカットされ、琉球の重心が高いまま再び攻撃権を得た。富所は縦パスを通そうとして一度は引っかかったが、左の武沢へ。武沢はサイドで張っていた大本へ繋げると、大本は一瞬の切り返しで小島を剥がしてクロス。インスイングのボールに対して草間が畑尾と城和のCB間で上手く合わせた。草間の身体の向きがゴールから逸れていたのでヘディングシュートは枠を捉えなかったが、冷や汗。

 幾分琉球の立ち位置が改善され(というよりもビハインドの状況で重心が前になった)、攻撃時に3-2-5で幅を取ることが多くなった。4-4-2との噛み合わせを考えれば真っ当な攻め方だし、現に昨シーズンまで幾度となくやられてきた。しかし、5枚で攻めてくるのであれば、5枚で迎えればいいのだというのがウチの今の解決策。昨シーズン終盤に見せていた4-4のブロックの際の意識を継承し、5-4のブロックを敷いて対抗している。それでいて勇気を持ってラインを下げずにいるからこそ、簡単に押し込まれないどころかカウンターで一刺しするための手も隠している。

 84分、敵陣中央でのFK。岩上がPAの深い位置にボールを供給し城和が折り返す。それに北川がボレーで合わせたが、惜しくもDFに直撃して枠を逸れた。狙い通りだったが、最後を仕上げきれなかった。

 それ以降は狡猾に時計の針を進ませて閉店作業を行う。ATに富所に際どいシュートを放たれるも、櫛引がタイミングを上手く合わせて冷静にセーブ。最後はCKを蹴るフリでの漫才を披露し、終了。またもウノゼロ。

雑感

 立ち上がりに先制したことで終止優位に試合を運べることができた。ちょっとのことでは壊れないチームになっている。

 今シーズン4度目のクリーンシート。この試合では、真ん中の4枚が綺麗に1列に並ぶ場面が結構あった。そのラインにボールが到達するまでは隊列を崩さず、ボールが超えたとみるやボールサイドのSBを1列上げて4-"5"-1のようにして対処。また、琉球のビルドアップがハマらず田中が落ちることが多かったので、特に前半は琉球の右側からの攻撃が多かった。大森・上里・田中が絡んで回していたのだが、2トップ(深堀・KJ)+SH(天笠)でケアして前進を阻止。
 それと共に、先述のようにWBとSHの両方の役割を担うサイドの選手たちがキチンとスペースを埋めてくれることでチーム全体が助けられている。小島も天笠も器用に動くのは毎度頭が上がらないし、復帰した山根も低い位置でのプレーでもしっかりこなしていて脱帽。

 オフェンス面では、先制点に至るまでの崩しが素晴らしかったが、試合通してKJにスペースがあったのは有り難かった。これは琉球の構造上の問題に起因している。

 琉球サイドのコメントを見ると、ウチへの対策として3-4-3(5-4-1)を選択したとのこと。ただ、これまで4バックで戦っていたチームがいきなり3バックで戦うことは難しい。ウチの幅取り隊(プレス隊とか幅取り隊とか何でも部隊にすればいいってモノじゃない)の天笠と稔也が、上手い具合に相手WBを引き付けてくれたので、両サイドのスペースをKJと小島が使える状況になる。田中は今シーズンここまでRSBとしてプレーしており、どうしてもその習性が残って深い位置まで下りて天笠をケアする場面が目立った。左の大本に関しても同様であり、ここまでの出場はRSBが主だった。SBとWBに互換性がないとは言わないが、タスクを明確化しないと従来の動きにどうしても流れ着くのではないか。
 琉球の前線も似たような状況。草野と清武は2トップに近い形を取っており、ファーストディフェンスの役割。右の中野はKJのケアをしなければならないのだが、田中が最終ラインまで下がっているのでカバーがいない。
 これらのことがあったので、落ちてきたKJは難なくボールを受け前進できた。上の図にあるように、小島・岩上・内田・KJの4枚のケアを琉球は富所と上里の2枚で行う必要がある。68mを2人でカバーするのは不可能。こうしてウチは的確にジャブを打ったと。本来であれば、少なくともあと1点は欲しかったと言いたくなる内容だが、現時点でそんな高望みはしない。
 琉球としては結果的にCBの部分がダブついており、必要以上に枚数が余った挙句、誰が何をするかが不透明になり、中途半端なクリアをして失点に直結した。後半は少し改善されたが、守るべきスペースの優先順位を誤ってしまった。

 これで3連勝。最小得点差での勝利は紙一重と表現こそできるが、これを運として捉えるのは、些か首を傾げる。

 「勝ち点3を取れた」というのは嬉しいことは嬉しいですが、それ以上に我々がやろうとしていることをより回数を増やしたりだとか、そこにトライしていく(以下略)。

https://www.thespa.co.jp/newsinfo/?p=3861

 自分たちがやるべきことを遂行した。先ずはそれが第一。
 次節からは厄介な相手との対戦も複数含まれる5連戦に突入する。途中で結果が付いてこないことも十分想定されるが、自分たちを見失わずに続けられるか。我々はそれを信じ続けることができるか。結果が出なければ意味はないと放り投げるのも断罪するも簡単である。
 一喜一憂せずに、今目の前で繰り広げるサッカーに価値を見出すことが大切。

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