大人虎変 vs徳島 0-0

 同一メンバーで戦い続けた3連戦の3戦目は局面局面で重さは拭えず、相手のアグレッシブな姿勢を正面から受けての敗戦。どちらかといえばいわきの土俵に立たされる時間が長かった訳だが、試合中に修正して終盤は盛り返した点は収穫。プラン通りで進められなかったとしても、そのまま押し切られずに返した。次は、上手くいかない時間を失点せずに如何にやり過ごすかという課題をクリアすれば、しぶとくポイントを拾えるはず。

 連勝という1つの流れが終わり、気持ち新たに迎える今節の相手は徳島。知らぬ間に爆弾化しており、爆発するタイミングが読めない。
 チームを2年間率いたポヤトス氏がJ2歴代最多記録となる23引き分けを達成した手腕を評価されてG大阪の監督に就任。リカ将に続きまたもJ1に指揮官を送り込んだ。今シーズンはベニャート・ラバイン氏を新指揮官として招聘。ラ・レアルで分析担当スタッフという経歴を持つ35歳。クラブとしてはスペイン路線を継続させる方針を明確にさせる人選。森・千葉・髙田といった若手FWをレンタルで獲得しつつ、渡や柿谷という時を戻そう補強も実施。一昨年のオフの岩尾移籍に比べれば特段チームの根幹を揺るがす引き抜きもなかった。
 が、シーズン開幕から躓く。ここまで5分5敗。後ろから繋ぐ意識が強いのと、前からプレスに来る点が大まかな特徴。ハイプレスを剥がせる個の技術はあるが、ミドルプレスを受けると途端に手詰まりになる印象。柿谷や白井のところでボールを落ち着かせることはできるが、そこから先のボールの動かし方が現時点では定まっていない。加えて、序盤戦の裏天王山となった水戸戦ではクロスの流れから2失点(水戸はベンチとピッチ上でギクシャクしていたって話も一部界隈から聞こえているが…)。とはいえ、多分目覚めれば強い、多分。なんせ、ウチの試合前に早くもお気持ち表明。ブースト掛ける気満々。

 爆弾処理には定評のあるウチだが、相手の状況に左右されることなく先ずは己の役割を果たさなければ、結果は出ない。1stプレスアンカーを切りながらってのが徳島攻略の鉄則。再び勝点を積み上げるためにも、自分たちの戦い方にフォーカスすることが重要。

メンバー

 ウチは前節から2枚変更。エド→山中、平松→川本。エドは脳震盪のプロトコル上、今節はスキップ。ゾーンを敷く相手に火力で勝負するための川本起用か。ベンチにはここ数試合サポートメンバーで帯同していたシラが入る。

 対する徳島は敗れた長崎戦から1枚変更。浜下→安部。前節までは4-3-1-2で配置していたが、この試合から後ろを3枚にし、前は森と柿谷を横に並べてきた。レーンを人で埋めて失点を減らそうという狙いは見える。

前半

 コイントスに勝った柿谷はエンドチェンジにより前半の風上を選択。ウチとしても、最近の傾向を考えれば、このチェンジは悪い話ではない。

 ウチのキックオフで始まった試合は、風へのアジャストのためにお互いに様子見。特に徳島は新たなシステムということもあり、セーフティなチョイスが多い。ウチは左で人数割いて崩そうとする。

 4分、その左サイドからゴールに近付く。自陣で徳島の内田のドリブルを風間が我慢して止めると、内田が進んできたことで空いたスペースをそのまま進む。内田が寄せに来るが、風間は右足アウトでタッチラインに沿うような美しいスルーパスを供給。これに川本が反応すると、カカとの駆け引きに勝って右から剥がしてPAに侵入。懸命に後ろから追ってくるカカを転がし、シュートが打てる局面。しかし角度がなくなりスアレスに間合いを詰められたことで、川本は中央へのパスを選ぶ。が、佐藤と長倉には合わずにカットされる。
 シンプルに縦の鋭さで殴った。3枚で横幅をカバーするのは難しく、ましてやCBが1枚上がっていることで、その後ろのスペースを有効活用した。川本も自慢の推進力を見せたが、PAに入って切り込む直前に長倉が視界に入ってやや迷った。難しい場面だったが、足を振っても良かったかもしれない。ただ、スアレスのコースの切り方は流石だったと言うしかない。

 対する徳島も風上の利を活用。6分、ウチの陣内の右サイド浅い位置からの徳島のFK。外山の左足からのインスイングのボールは風に乗りファーサイド深くまで飛ぶ。畑尾の外側から安部が折り返すと、これが風に流されてゴール方向に飛んでいく。櫛引が何とか触ったボールはバーに跳ね返される。こぼれ球を立て続けに押し込まれそうになるが、岡本と畑尾が棲んでのところでブロック。
 さらに、その流れのCK。白井のアウトスイングのボールをカカが頭で合わせる。これが酒井に当たってディフレクト、最後は安部に押し込まれそうになるが、櫛引が身体を張って対応。
 緊迫した局面が続いたが、何とかゴールを割らせない。こういう対応1つ見ても、守備意識の高さ、球際の強さを感じる。

 17分、ウチがボール保持の局面でフィニッシュまでつなげる。ゴールキックの流れで右サイドに展開しつつ、相手のスライドが来たので作り直し。風間が中央で受けると、徳島の1stラインの間を割ったパスを通し、中塩を外に開かせる。中塩が持ったタイミングで長倉が落ちて顔を出し、斜めのコースを作った。玄がそのコースを切ったので、中塩は逆を取ってストレートのコースを選択。長倉がWBとIHの間のスペースに走って中塩からのパスを受けると、白井を引き付けながら前を向き、山中とワンツーで打開。そのままスピードを上げてバイタルに侵入すると、勝手に滑った杉本を見送って中央に切り返し。佐藤に出そうとしたところで杉本のコンタクトに遭いパスはズレるが、クリアを長倉がすぐに回収。白井と安部が寄せに来たが、その外側に落ちた川本に渡す。川本はピポットしながら西谷の内側を通して岡本へ。岡本は狙いを定めて右足を振り抜く。鋭いシュートはスアレスの横を抜けていったが、ファーポストを直撃。惜しくも先制とはならない。
 自陣からのビルドアップで相手を動かし、そのまま攻め切った。全てのパスに意図が明確になっており、チームとしての狙いが現れている。横に揺さぶってから縦に速くいくのは相手としてもスライドが間に合わないし、尚且つCBが前に出てくるタイプだからこそ、上手く釣ればスペースの活用も可能。仕留められれば完璧だったが、完結させたのはグッド。

 直後にもウチのチャンス。18分、ハーフウェー付近で横パスがズレてカットされるが、川本のプレスバックに即時奪回。こぼれを佐藤が拾うと、相手のラフなスライディングにも負けることなく前に進む。PAに侵入する直前のコントロールでややイレギュラーしてシュートを撃つのも川本に渡すのもタイミングを逸したが、それでも体幹をブラさずに左足を強振。低い弾道のシュートは長倉が避けたもののカカに当たってしまい、ゴールとはならず。
 ネガトラ→ポジトラの入れ替わりの激しい局面でも逞しいと強く印象付けるシーン。ロストが悪かっただけに取り敢えず止めれば良いという徳島守備側の思考も分かるが、そんな安易な考えに屈せず。奪ってからの数秒で一気に5枚がPA内に入る鋭さは間違いない武器。

 徳島はアマのところに1stラインを設定し、ある程度最終ラインのボール回しには寛容。特に中塩のところにはFWはチェックせず。しかし、玄や外山が連動してくると一気にプレスのスイッチを入れる。玄と外山を押し出すので、その後ろのスペースを内田が一列上がって潰してくる。これは落とし込んでいるのか4バックの名残なのか微妙だが、圧縮してくる雰囲気はあった。が、ウチも山中に高い位置を取らせて外山をピン止めし、玄の背中で長倉が動き回って上手く剥がしていた。この辺りは間違いなく積み上げている部分。

 23分、徳島が左サイドからチャンスを作る。ウチがラインを下げてブロックを敷くところで、杉本がウチの1stラインの外側に一度落ちてボールを引き出す。さらに外側に西谷がいたので、岡本がそこをケアしていたが、岡本とアマの間で漂流していた柿谷に楔が入る。柿谷はそのままPA深くでボールを持つと、マイナスのパス。最後は白井がミドルを放つが、櫛引の正面。
 陣形が少し崩れていたが、パワーを掛けるタイミングを見失ったまま最後まで行かせてしまった。柿谷のポジショニングはKJのタスクと通ずるものがあるが、ライン間+ゲートで引き出すのは流石。ウチとすると、もう少しラインを上げたかったし、マイナスなクロスへのアプローチが少し遅れた。

 その後はややボールが落ち着かず。ウチはやはり左側からスタートさせることが多く、徳島は長いボールで陣地を回復。

 37分、徳島に決定機。ウチが敵陣に入ったところでアマが後ろからのチャレンジを受けてロスト。すぐにネガトラして佐藤が見事な身体の寄せで奪い取るが、ファウルの判定。すると、徳島がクイックで始める。柿谷が左にボールを運び、大外の西谷へ。西谷はカットインを狙いつつ、後ろから走り込んできた白井へ。白井はシュートを撃つかと思いきや足を開くようにして右前方の玄に優しいラストパス。玄のシュートはやや振り遅れて右に流れていった。
 佐藤のアプローチがファウルだったかは疑問だが、そこで少し全体の足が止まった。西谷に持たせたところでラインの調整をしたかったし、そうすれば白井への寄せも改善できたか。それにしても、スピードを保って入りながら勢いが伝わり過ぎないように面を作ってパスを出す白井はお上手。

 41分、畑尾がシンプルに左奥に蹴ったところからウチがチャンスにする。長倉と山中の2枚で内田をサンドして奪うと、そのまま山中が鋭いクロスを入れる。最終ラインとGKの間の絶妙なコースを通り、最後は川本が合わせたが、サイドネット。

 徳島がややアフター気味の後ろからのファウルを多くしてきて気になったが、スコアレスで折り返す。

後半

 ロングボールを蹴った地点まで押し戻されるほどの強風の中、後半はウチが風上に。

 47分、いきなりチャンスを迎える。相手のロングボールを中塩が跳ね返し、セカンドを拾われるも山中と風間でサンドして奪う。こぼれ球を拾った川本がハーフウェー手前から一気に前進。白井が寄せてきたところで、相手の体重移動を逆手に取った切り返しで剥がす。ややタッチが大きくなってクリアに遭うが、中央で岡本が回収。すると、右後方から酒井が上がってきたので、岡本は酒井に渡して縦のパスコースを作ろうとする。ボールを受けた酒井は、シンプルにアーリークロスを入れる。上手く風に乗ってファー側の絶妙なコースに飛んだボールに長倉がジャンプしながら頭で反応して折り返す。その先の川本には間に合わず杉本に触られたが、そのボールを岡本が右足でハーフボレー。芯を食ったシュートだったが、スアレスの正面に飛んで弾き出される。
 もともとはポジトラから始まった攻撃。1フェーズで終えてカウンター返しを受けるのではなく、ある程度人数掛けて押し込むことで継続的にボールを握った。酒井の攻撃参加のタイミングも試合を重ねる毎に効果的になっているし、岡本のプレーの連続性は磨きがかかる。長倉の頭でのコントロールはImpossibleとしか形容できない。そういった個々のプレーが連動して起こっていれば、間違いなくゴールに近付く。

 長いボールを蹴られたとしてもリスクが少ない状況下で、ウチは前半よりも3CBを捕まえる意識を強める。徳島の右から左にボールが流れるように誘導させ、安部のところに佐藤がアプローチする形。それと共に、安部から白井のコースは長倉が絞ってきて消す。こうなると蹴り捨てるか成功率が低くなる長い距離のパスを繋ぐかしかないので、マイボールにすることができる。

 63分、この試合最大の決定機を迎える。畑尾・酒井・アマでリズムを作り、酒井から佐藤へスイッチを入れる縦パスを刺す。佐藤はターンしようとした際にスリップしてロストするが、カカに対して川本が猛然とプレスを掛けてパスミスを誘発。岡本が拾うと、佐藤と川本が縦に走って相手DFを下げさせる。そのランニングによって空いた横のスペースを活用し、岡本→風間→長倉とボールが渡る。長倉の1stタッチは流れたが、左の大外の山中に上手く通る。山中はワンタッチでマイナスに折り返すと、フリーの長倉が左足でシュート。GKの逆を突くニアを狙ったボールはポストを直撃。ここも決まらない。
 縦と横を使い分け、多くの選手が絡んでゴールに迫った見ていて楽しい攻撃だった。これは日頃のトレーニングで落とし込んでいるパターン(のはず)。相手を動かす役とボールを動かす役を皆全うしていて良い。

 徳島のチャンスは65分、左からのCK。白井のインスイングのボールは弾き返すが、こぼれ球を玄がボレー。枠を捉えていたものの、櫛引が反応して事なきを得る。

 そこからはウチが圧力をかけようとする意図は見えたものの、徳島が玄と杉本を落としてボールを引き出してプレス回避するようになる。で、段々と残り時間が少なくなるにつれて、10戦未勝利のアウェイチームは現実的な策にシフト。前線の選手の入れ替えでモビリティは整えつつ、基本的には5+5の2ラインにも見えるようなブロックを敷いて隙を与えない。
 ウチもスペースがないと流石に動かしようがない。シラで多少強引にも相手の陣形を崩そうとしたが、結局ゴール前で窒息することに変わりはなかった。

 90+1分、相手の許し難いパーソナルファウルで得たFK。風間の高い弾道のボールはスアレスの頭上を越え、畑尾が頭で合わせるも渡がライン上でクリア。セカンドを酒井が狙うが、これもブロックされてチャンスを生かせず。

 最後は徳島がファウルゲームを仕掛けてきて全くプレーが続かなくなったが、そもそもそういうシチュエーションに持ち込まれた時点でどうにもならず。お互いに決定機こそ迎えたが仕留められず、スコアレスドロー。

雑感

 負けなかったと捉えるのか、勝てなかったと捉えるべきなのか。決して悪くはなかったし、試合を動かせそうな時間帯もあったが、果たして3ポイントがふさわしかったかと問われると歯切れは悪くなるだろう。

 守備は今シーズン5回目のクリーンシート。点を取られなければ負けることはないという言葉の通り、勝点を積む上での最低条件をクリアした。立ち上がりにヒヤリとさせられたが、基本的にはプレスのスタートの設定も良く、バイタルに入られる前に対処できた。相手の歯車が噛み合っていなかったと言えど、ウチもこの強度を保っていれば大抵のことでは大崩れしないのではないか。とはいえ、崩れる時は一瞬で、尚且つ歯止めが利かないのがシーズン通して戦う上での厳しさ。来るべきその時までに、負荷耐性をさらに付けたい。

 攻撃も仕留めきれれば大きな自信になったはず。相手の後ろの枚数が4と5で想定と違ったようだが、WBの脇とRCBの後ろを突いて前進した。ポジトラで殴るシーンと、最終ラインから左右に揺さぶって時間を掛けるシーンをCMFが中心となってコントロールしている。時間帯によってアマが落ちるのか、風間が落ちるのか、それとも長倉がCMFの片方と同列になるまで落ちるのかといった使い分けで相手のプレスの開始を惑わせ、意図した通りにボールを動かすところまではできている。最後のバイタルでのアイデアも十分あるので、本当に最後の一刺しができるかによって結果は変わる。

 この試合単体でどう受け止めるかは非常に難しい。完全に私見だが、試合の捉え方として「1試合」としての評価軸と「シーズン42試合の中の1試合」としての評価軸の2つがあると考える。
 前者として見るのであれば、仕留められなかったことを悔いるし、ボールを握れたとはいえゴールに近付く場面が少ないとか諸々言えることはある(オフィシャルにぶら下がっているツイートを参照すれば何となくそんな感じ)。当然、それも的を射ている(うん、そう、捉え方はそれぞれ)。
 一方、後者として捉えるのならば、この勝点の価値は現時点では定まらない。まず、上に行くのであれば連敗しないことは第一。その上で、0を1に変えることができるか、1を3に変えることができるかどうかで、自ずと順位は上向いていく。この1ポイントを一層意味あるものにするには、次の甲府戦の出来に少なからず左右される。積み上げたものがあるのだとすれば、この何とも表現しにくい感情を打破してくれるはず。

 ただ、試合後の選手の表情を見ると、まだまだこんなところで満足していないという思いは十分に感じられる。ホーム連戦となるが、また1段階上昇していることを示そう。

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