温故知新 vs山口 3-0

 先制を許しながらも広大のヘディングで追いついた愛媛戦。今シーズン何度目かのセットプレーで誤魔化して勝点を拾った。先週は栃木と試合すると思いきや、COVID-19アクシデントにより中止。陽性者及び濃厚接触者特定がKOに間に合わないケースは、他チームでも度々見かける。
 検査結果も出てミッドウィークに臨んだ天皇杯大分戦。なかなか位置づけの難しい(お互いに罰ゲーム感の拭えない)試合であり、大分はかなりメンバーを落としてきていた。ウチも2日のトレーニングのみでぶっつけ本番となったが、シラのゴールで先制。直後にPKから追いつかれ、延長で逆転されたが、先ず先ずの戦いになった。

 チームとしての底上げが窺えた中で迎える今日の相手は山口。前半戦の対戦では、あまりにも虚無過ぎる内容で0-1。ウチの4バックが左に釣られて逆サイドがガラ空きになり、浮田に叩き込まれた。北川の途中出場途中交代という謎采配もあるなど、兎に角眠い試合だった記憶が何となくある。
 立ち位置を大事にする渡邉氏の思惑通りにいくウチとの試合もあるが、落とし込みが上手くいかず停滞。仙台時代も夏場までは理想を求めるが、秋口からリアリストに徹して残留に導いている。今後堅実に積んでいく可能性も十分考えられる。

 難しい状況下ではあるが、この6ポインターを落とすわけにはいかない。

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 ウチは前節から5人変更。慶記→松原、広大→大武、勇利也→小島、稔也→進、大前→北川。天皇杯120分フル出場の久保田は今日もスタメン。

 対する山口は前節から2人変更。楠本→菊地、石川→澤井。高井は古巣戦。神垣とベンチの田中渉は群馬出身。神垣は図南→前橋FC→尚志→桐蔭横浜、田中は前橋JY→桐生第一→仙台で今シーズンから山口へ。

前半

 KO直後から攻勢に出る。ジャスのフィードから進が競り勝ち、高木が抜け出す。コントロールしきれずシュートには持ち込めなかったが、いきなり良い形を作った。

 14分、ヘナンから澤井への角度を付けたパス。澤井は同じ高さの位置取りをしていた田中陸へ。田中は左足ワンタッチでハーフスペースに差し込む。抜け出した高井は中にラストパスを試みるも、畑尾が寄せ切りカット、松原が抑え込む。このプレーに対し、DAZN解説の中西氏は澤井のポジショニングによってジャスと久保田がピン止め気味との指摘があった。しかし、これがフラグとなる。

 直後の15分、松原・ジャス・大武で回しながらタイミングを探る。松原に一度ボールが戻ったところで左サイドを確認する素振りを見せたが、このフェイクが効いた。松原の動作に反応するように、池上が畑尾、神垣が中山にプレッシャーをかける。左サイドをキャンセルした松原は大武に付ける。松原から岩上への縦パスのコースを消していた大槻の寄せが弱くなると、大武は一気に前線にボールを供給。これに高木が抜け出し、PA角の北川へ。北川は素早く横に流すと、久保田が僅かに軌道を変えたボールを進が振り抜く。強くインパクトしたシュートは見事にGKの重心移動を上回りゴールへ。ビルドアップの局面で相手の左サイドがダブついていた分、高木の裏抜けが効果的だったし、その後の北川も久保田も捕まえ切れなくなっていた。

 山口は失点直後にチーム全員で集まりマーカーの確認をしていた。岩上-田中陸、中山-神垣とチェックするのであれば、最終ラインの押し上げorWBの絞りはマストのはずだが、バランスが崩れていた。さらに、高井の立ち位置が微妙(恐らくハーフスペース消し)だったがために久保田の所に必要以上にマークがつくなど、枚数が兎に角ズレた。
 山口のボール保持の方法は基本に忠実であり、ボールホルダーの立ち位置と逆サイドのプレイヤーの立ち位置のシンメトリーが常に保たれていて、印象的。あとは、アウェイ時同様、FW2枚がボールサイドに寄ることでウチのCBを近い位置でプレーさせ、SBとの間にクロスを落とすことを狙ってきた。しかし、その攻撃に対し、SBがマーカーを捨てて内側にスライドすることが徹底されていた。あの連動ができればそう簡単には崩されない。噛み合わせの都合上サイドでボールを持たれていたが、臆することなく対応してリズムをつかむ。

 41分、待望の追加点。右サイドで岩上の分かり易いロングスローフェイクを受けた大武が、ここでも的確なフィードで小島に繋ぐ。小島は左足で落とすと右足で柔らかいボールを入れる。CB2枚を釘付けにしたクロスは北川に渡る。これをダイビングヘッドで押し込む。21分にも同様の崩しから最後外していた北川だったが、2度目は綺麗に決めた。あれだけサイドに振られる往復ビンタに対応できる守備陣はなかなかいない。

 45分、勢いは止まらない。ここでも最終ラインで繋ぎながら相手を誘き寄せると、畑尾が局面打開のフィード。高木が受けて前を向くと、ウチの選手は一斉にスプリント。外側には進もオーバーラップしていたが、ワンテンポ外して走り込んだ中山を選択。相手の脚に当たり多少コースも変わったが、中山はコントロールすると左足一閃。GKの頭上を撃ち抜き前半だけで3ゴール。監督交代後から見えてきたポジトラの速さがここでも猛威を振るう。昨シーズン加入後何度かチャンスがあるもゴールがなく、ここ最近は存在感が一層増した中山に遂に移籍後初ゴールが生まれたのはめでたい。

 滅多にない前半3-0の完璧な折り返し。
 因みに前半3ゴールは2017のアウェイ福岡戦以来。この時はウェリントンに一発喰らって3-1でHT。前半3-0で折り返した唯一の試合は2008年のホーム岐阜戦。まったく覚えてないけど、シマ・クマ・涼で3点差を付けるも、80分にきっちり片桐にやられる辺りが如何にもウチらしい。

後半

 大半の予想通り後半に入ると省エネ、通称凪モードにギアチェンジ。今までは劇場型で75分から最大出力を出していたが、今日は前半で出し切った。

 メンタル的な難しさは勿論膠着の要因の1つだが、山口が後半から島屋を入れてきたことにより、ウチの立ち位置が狂っていった。元々J2昇格した上野政権の山口黎明期の中心選手であり、リカルドロドリゲスによって見出されて徳島へ。今シーズンより山口に帰ってきた11番はポジショナルプレーの申し子とも言えるが、ハーフスペースを果敢に狙い続けた。プレーが切れる毎に声を出し、劣勢でもチームを鼓舞し続ける。ジャスと大武の間に立ちボールを引き出そうとするが、そこになかなかボールが来なかった。

 ウチは、進→シラ、高木→翔大という違うタイプの選手を投入し、カウンターの矢を放つ。ハーフウェー手前でボールを拾ったシラが一気に加速して仕掛ける場面が度々あったが、この攻撃は相手の脳裏に焼き付いただろう。たまらず山口は4バックに変更して噛み合わせではなくミラーゲームで勝負に出る。が、3点のリードするウチとすると、サイドに張る選手をケアしやすくなるし、一番怖かった島屋が機能不全に陥っており、このシステム変更は有り難かった。

 終盤河野にどフリーのシュートを外してもらったり、スポーツマンシップの欠片もないプレーがあったりとしたが、3-0と完勝。

雑感

 6ポインターでのこの3ゴール快勝は大きい。

 前線のメンバーは諸々の事情もあって以前とは異なるが、見事な連動性を見せている。恐らくこのメンバーが中心だったであろうTMで連勝し続けているのも納得の戦いぶり。
 ゴールシーンはどれも良かったが8分の攻撃を見ると、今のチームが狙う形が見て取れる。進が深い位置で拾って久保田に展開し、先ずは右でカウンターを試みる。ここでは分が悪くと見るや、一度後ろで作り直す。ジャス→畑尾→小島と外側で回し、小島が前に運ぶ。小島は北川に預けてインナーラップ。左サイドに人数を割いて、北川→進→岩上と繋がると、ここで対角線の長いボールで高木へ供給。惜しくもシュートは打てなかったが、可能性を感じた。同サイドで短いパスを重ねながら、タイミングを見て1本で状況をひっくり返す。
 今までは良くも悪くもショートパスにこだわって攻撃を組み立てていた。これによって美しいパスワークが生まれる一方、自陣でも繋ぐ意識が強いあまりプレスで狩られて惨劇が繰り返されて試合が壊れる甲府戦みたいな展開もしばしば。これに対し山口戦では、「ここでは蹴っていいぞ」という声が監督や岩上から出されることが多かった。勿論、闇雲に蹴れば何の面白みも魅力もない栃木みたいな縦ポンクソサッカーになる。だが、状況判断を伴って長短のパスを織り交ぜれば、立派な戦法。現に20-21シーズン圧倒的強さを誇ったマンチェスターシティにおいても、GKのエデルソンモラエスから1本で得点まで結びつける。今後も、この形は見たい。

 進はスタメンで出場すると必ず結果を出してくれる。ギラギラした雰囲気が随所から溢れ出ているが、ああいう姿勢はチームに間違いなく波及する。プレーに関しても、KJとは別のタイプながら似たような間合いでのボールキープを見せる。2トップとの連動も十分あり、カットインする判断も文句なかった。
 ゴールこそなかったが高木の働きも効く。常に攻守に走り回る。前監督の下ではボールキープのタスクが主だったが、元々は裏への抜け出しにストロングのある選手。そう考えると、昨日の試合では積極的に抜け出してボールを受けた後、比較的近い位置で北川や久保田がフォローしていたことも攻撃がハマった重要な要素。距離が遠くなると、どうしてもロストが多くなっていたが、近ければ球離れが良くなり、動き直しもスムーズ。

 守備時も、連動性を見せた。大分戦で露呈したSB-CB間のハーフスペース使われる問題に対しては、SHを1列落として埋める形で対応。スライドも随時行われ、PA内の侵入を防いだ。
 相手の3CBのビルドアップでは、北川高木+ボール逆サイドのSHを上げて同数でマーク。SHのタスクは多くなってしまうが、久保田と進、中山、シラ、昇偉と、皆遂行した。

 この勝利によりJ通算200勝を達成。200勝に辿り着くまでには168回のドローと324回の負けを積み重ねてきた。その積み重ねてきたものの1つの成果としての200勝を成し遂げた試合が、ウチのアイデンティティともいえる堅守速攻で勝ち取ったというのは感慨深い。

 この勢いのまま、ミッドウィークは因縁の北関東ダービー。会場は負の遺産からボッコボコのグランドに変更され、ボールは間違いなく転がらないが、そんなこと最早どうでもいい。相手よりも多くゴールネットを揺らせばいいだけ。

『どんな状況でも栃木には勝利を』

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