山溜穿石 vs町田 1-1

 先週は相模原と痛み分け。後半開始早々に先制するまでは良かったが、ゲームプランを上手く遂行することができなかった。直接対決に勝てばすごく楽になってはいたが、引き分けも順位が上のチームにとって悪い結果ではない。着実に1ポイントずつ重ねて何としても残る。

 少しでも勝点を獲得したいと乗り込む今節の相手は町田。昇格争いにも降格争いにも関わらない宙ぶらりんの順位。とはいえ、トップハーフにいるし、やっているサッカーは面白い。平戸は常に脅威になるし、今シーズンは吉尾が開眼、佐野と高江の中盤もリーグ屈指のコンビ、前線のタレントも豊富。相馬政権時には極端な密集でJ2を席捲したが、現指揮官のポポヴィッチ氏もその部分を踏襲している。ビルドアップして相手の重心を上げさせておいて、佐野や高江のサイドチェンジで一気に逆のスペースを使い攻め切る。前監督の時はロストした後の脆弱性が見られたが、今はSBとCHが即時奪回を狙って圧を掛けるので、リスク管理もされている。前線のファーストディフェンスが疎かになってしまう面を矯正できれば、昇格POには絡んでいけるだろう。
 前回対戦時は平戸のキックの精度とデザインされたCKに屈して敗戦。ただ、昨シーズンの野津田では3-0で勝っている。林のゴールが流れを掴む要因になったのは間違いなく、シーズンベストとも言える試合だった。

 残りの対戦相手を考えると、ここでポイントを拾えるかどうかで変わってくる。昨年同様、野津田を落城させたい。

画像1

 ウチは前節から2枚変更。共に前節負傷交代の大武とミツに代わり、広大と平尾。平尾は実に15試合ぶりのメンバー入りとなったが、古巣相手にスタメン。彰人も怪我が癒えてベンチ入り。

 対する町田は3枚変更。森下→深津、太田→アーリア、中島→ドゥドゥ。前節シュート14本を放ちながらも愛媛相手にまさかの引き分けとなったことを受け、攻撃のメンバーを入れ替えてきた。

前半

 立ち上がりからかなり攻め込まれる。

 4分、中央で中山がボールを持っているところを、プレスバックしてきたドゥドゥに掻っ攫われる。そのこぼれを吉尾が上手く中に切り込んで角度を付ける。アーリアがハーフスペースに立って畑尾を引き付けると、その外のレーンに高江が駆け上がってボールを受ける。シュートは枠に飛ばなかったが、いきなりのピンチだった。

 その直後のゴールキックを跳ね返される。広大が先に触ったが、そのボールが吉尾に渡ってしまう。吉尾は一度顔を上げて慶記のポジショニングを確認し、意表を突くロングシュートを放つ。これも枠の上に飛んだが、ウチとしては町田の勢いに完全に呑まれてしまった。

 ゴールこそ渡さなかったが、チーム全体の動きが重かった。町田のプレッシャーを必要以上に恐れ、前を向く選択肢を放棄してしまう。プレス掛ける側からすれば、最初からパスの方向が分かっていることほど楽なものはない。躊躇わずに最終ラインまでプレスが掛かるので、ウチは相手の思惑通りバタつき、やすやすとボールを渡してしまう。ボール保持したくないってのはあるにしても、アバウトなボールを蹴るだけでは重心が上がらず攻め込まれる。徐々にCHもSHも基本のポジショニングが後ろに下がってきて、町田にスペースを与えてしまっていた。

 15分、敵陣中央でパスミス&コントロールミスによりボールロスト、しかもそのボールが町田右サイドに残っていたドゥドゥの元に転がってしまう。ドゥドゥはゆっくり前進しながら味方の上がりを待つと、ポジトラに長けているという前評判通り、一気に4人が敵陣に走り込む。吉尾とアーリアがドゥドゥをインナーラップしていき、ドゥドゥ・吉尾・アーリアが横1列に並んだタイミングでドゥドゥは1つレーンを飛ばしてアーリアにパス。アーリアはワンタッチでハーフスペースを走る吉尾へと渡す。吉尾は深い位置まで抉り左足でクロスを上げたが、逆サイドへと流れた。これを土居が拾ってボールキープしながらパスコースを探し、フォローに来た高江へ。高江はバックステップで踏み左足で受けると思いきや、瞬時に身体の重心を右に傾けて右足のアウトサイドでワンタッチパス。パスが出ると同時に連動するかのように平戸がフリーラン。パスが独特のタイミングだったためウチのDF陣の対応が遅れると、ドゥドゥもワンタッチでのヒールで落として平戸へ。平戸はファーストタッチでシュートフェイクを入れて岩上を転がし、右足一閃。完全に崩されたが、畑尾のスライディングが目に入ったのか、わずかにシュートが浮いた。
 ドゥドゥに入った場面でのレーン概念を用いたランニングにしても、高江からのオートマチックなボールと人の動きも圧巻だった。数的優位を生み出し、さらにそれを活かしてフィニッシュまで持っていけるのは素晴らしい。ただ、きっかけはウチの不用意なロストだし、全体的にボールに喰い付いて相手を捕まえきれなかった。プレー選択する上でのゾーニングをはっきりすることが求められる。

 23分、案の定の失点。深津のところで翔大が引っ掛け、マイボールにする。後ろから作り直そうと中山が畑尾に下げたが、ボールが弱く、プレスバックしてきたドゥドゥに詰められる。畑尾は何とかパスを通そうと強めのパスを選択したが、吉尾に引っ掛かり、その跳ね返りがドゥドゥへの絶妙なスルーパスになる。広大がドゥドゥと対峙してディレイするが、オーバーラップした吉尾にPA深くを取られると、必死にPA内に戻るウチのDF陣を尻目にペナルティーアーク付近へのマイナスのクロス。これをアーリアが上手く身体を被らせながら右足で合わせて先制に成功する。アーリアが見えていた吉尾は見事だが、スカウティングの段階で、ウチのCBが引こうとする意識が強くマイナスに対応できないっていう情報が入っていても不思議ではない。何せ、山形戦のやられ方と全く一緒だった。まあ、PA内で深くまで侵入して、ニアに潰させてマイナスで合わせるのは近年の定石ってくらいの形だし、守る術がないっていう面は否定しない。

 先制したことで、町田の出足は0-0の時より多少緩くなった。が、その分ブロックが強固になるのでウチとすると縦パスを刺す隙間が見つからない。広大と畑尾は余裕をもってボールを持てるが、SBに渡すにも各駅停車のパスが横行してテンポが全然生まれず、手詰まり感満載。
 その状況を変えようと、35分くらいからはビルドアップの際に岩上が広大と平尾の間、時々広大と畑尾の間に落ちてボールを引き出すようになった。CB-SB間が広がって遮断されていた分、岩上を経由することで単純に選手同士の距離を縮めてパスを通しやすくするだけでなく、岩上が佐野を引き連れることで、翔大や大前へのパスコースを開けた。

 それが1つに形になったのが、38分。広大が稔也に付けてワンタッチで岩上に落とす。稔也が中に入って受けたことで、佐野を引き出し、ボールを叩いた後も平戸と佐野の間の良いポジションを取った。岩上は、左サイドに振ろうとしたが、右の平尾を選択。稔也を視野に入れていたので、平戸のプレスの距離が少し長くなり、平尾が前を向く時間ができた。岩上の「前見ろ、前見ろ。」の声にも後押しされ、平尾は稔也への縦パスを通し、パス&ゴーでスプリント。稔也がツータッチで上手くタメを作りながら平尾へリターン。前方にもスペースはあったが、平尾はアーリー気味のクロスを選択。町田のCBもクロスは予想外だったのか、身体の向きがボールに合わず、流れていく。翔大が中央で潰れ、ファーでは大前がフリーに。しかし、バウンドが上手く合わずに大前の足にはミートしなかった。

 少し打開の糸口を掴んだかと思われたが、45+3分。覚束ないビルドアップから自陣中央でロストし、そのままピンチに。KJのところへのアタックのこぼれ球を平戸が高江へ落とす。高江は吉尾へ渡すと、吉尾は完璧なコントロールオリエンタードを見せて、そのままシュート。シュートは慶記の正面に飛んだが、肝を冷やした。

 体感では0-3でもおかしくないほど攻め込まれたが、最少失点に食い止めて後半に望みを繋げる。

後半

 後半の立ち上がりも、町田の方が勢いを持って入った。

 49分、奥山のスローインをアーリアがPA角で受ける。中山と岩上がアーリアに詰めて奪おうとするもゴチャつき、アーリアはフリーの高江へ。高江は思い切って狙うが、これも慶記の正面。

 ここまで攻撃の形をほぼ見出せていないウチだが、今シーズンはそういった状況でもセットプレーから脈略なく点を取って打開してきた。

 53分、ミドルサード深い位置からのFK。大前の絶妙なボールに稔也がフリーで合わせるが身体が明後日の方を向いていて、シュートはゴールを横切っていく。

 続く55分、右サイドからのCK。ペナルティースポット付近で翔大、広大、稔也、畑尾が固まる。ボールが入るタイミングで、翔大と広大がニアに走り出し、畑尾は稔也の後ろを通ってファーサイドへ。集団が割れたことで町田の守備陣は混乱。ファーで畑尾がフリーになったが、わずかに入りすぎてしまい合わせられず。

 徐々に流れを掴んでいると思われた56分、この試合最大のピンチを迎える。高江から左サイドの土井への対角線のフィード、土居はハーフスペースに立つ平戸へ。平戸→アーリア→ドゥドゥと綺麗に繋がり、ドゥドゥはシュートモーションに。ここで平尾が間一髪で戻って先にボールに触れるも、ボールはゴールに向かっていく。慶記の倒れた方向と逆に飛んでいたことからも万事休すと思われたが、慶記が驚異的な反応を見せてフィスティング。現地では何が起こったのか良く分からなかったが、映像で見ると思っていた以上にヤバかった。ここで失点していればゲームそのものが絶望的なものになっていただけに、この平尾のクリアと慶記のファインセーブがチームを救った。

 そして迎えた62分、左サイドからのCK。今度は翔大、広大、畑尾、稔也が一直線で密集するパターン。当然、相手との陣取りも揉めるし、マーカーを見失わないように駆け引きする。町田の髙橋の手癖は定評があり、リスタート直前にはレフェリーからも指導が入る。大前のキック直前まで、「手、放して」という飯田主審の声が響いていた。ボールが供給されると、先述のCKの場面同様にニアの2枚がマーカーを釣る。今回は稔也が畑尾の前に入り競り、そこを超えてボールは畑尾の元へ。畑尾は高橋の手をモノともせずに合わせると、相手にディフレクトしてゴールへ吸い込まれる。畑尾の今季3ゴール目は、またもや起死回生の同点ゴール。

 追いついたことでウチは元気になったが、無理に勝負を急がなかった。これは長崎戦の高い授業料を無駄にしていない。
 後半のウォーターブレイクのタイミングで、かなり足を使っていた平尾と中山を下げて昇偉と内田を投入。守備の強度を保つことを第一に考えた。平尾は交代後、かなり入念にアイシングしていたが、久々の出場で出せるものは出し切ったのではないだろうか。本人は交代に納得していなそうだったけど。怪我人続出のDF陣を考えると、平尾がまた試合に絡んで及第点以上のプレーを見せたことはポジティブな要素。

 町田も、中島だったり太田だったりという嫌な選手を投入し、実際に中島には1本裏に抜け出されてからのクロスという、あわやなプレーを見せられたが、基本的には畑尾が落ち着いて対応し、自由を与えなかった。

 ウチとしても、昇偉が深くまで抜け出したが、中を確認する間にDFに詰められて打てないシーンがあるなど、何回か仕掛けたが、やはりリスク覚悟の神風特攻をするほどではなかった。自分たちの置かれた状況を考慮すれば、ベターな選択だろう。

 前半とは見違える強度を見せて後半は戦い切り、1-1で試合終了。

雑感

 アウェイで上位相手に勝点1は価値あるものだ。ましてや、あの前半から良く立て直した。

 守備時の課題は前半に出し尽くしたというか、後半は上手く改善されていた。相手の動きに対応したいけど追いきれないから、人数増やして対応したいってなるのは理解できる。ただ、安易に人数を割きすぎるあまり、本来いるべきスペースを埋められず相手に割譲するのは勿体ない。
 町田が特殊な人数配置しているとはいえ、ボールサイドに集中しすぎて、逆に振られて殴られるのは対応しにくい。全てを防ごうとするのは無理な訳で、逆サイドはある程度捨ててボールサイドでしっかり限定させる。CHから直の展開を許さずCBを経由させることを徹底すれば、ウチのスライドの時間も確保できる。
 その辺の修正が後半できた。稔也とKJが相手SBを捕まえることを優先して、相手SHまで深追いすることが少なかった。相手のビルドアップの場面では、基準点を上げてウチのCHがそのまま相手CHを捕まえようとしたことも大きい。押し上げるところは押し上げてメリハリをつけることで、大分自由を奪った。

 ボール保持していいことないのは相変わらずだが、ピッチへのアジャストが難しかったのかなとは思う。ピッチ上にはラグビー用のラインを消した後が残っており、ラグビーでの使用から時間が経っていないと推測される。似て非なるスポーツであるラグビーでは、踏ん張る際に芝生が剥がれて荒れることも考えられる。また、この日の芝生のカットが少し深めだったことも相俟って、なかなかコントロールが収まらなかった。相手も条件は同じとはいえ、アウェイでの難しさを改めて感じる。
 セットプレーは武器になるが、後半押し戻せたのは、長いボールを使う場面が増えたからだと個人的には思う。町田が非常にコンパクトなブロックを形成したことで、前半はどうしても短いパスが多かった。ただ、相手のラインを下げるのであれば、裏に抜けるボールを使えばよい。後半は、翔大を左サイドの深い位置に走らせて、翔大が相手を背負う間にKJと小島がフォローに入って攻める形が見られた。裏があるぞと相手に思わせることで、徐々に押し戻すことができた。
 加えて、個々のハードワークがあったからこそ、相手にスペースを与えずに自分たちのペースを作った。

 そして、何よりも重要だったのが「勇気を持つこと」である。前半途中から「めげずに縦へのチャレンジを続けていけ」という指示が監督から飛んでおり、試合後コメントでも、HTに同様の趣旨の意思共有をしたことを明かしている。後半、いくべき場面では縦に仕掛けることを選択し、そこでロストしてもチーム全体でカバーした。積極的なプレーと無謀なプレーは紙一重だが、選手たちが最適なプレーを選択したことで、貴重な勝ち点1を手にした。精神論を推奨する気は毛頭ないが、やるべきことをすべてやったのであれば、最後に明暗を分けるのは強い気持ちだろう。グアルディオラにしてもクロップにしてもナーゲルスマンにしても、ロッカールームではメンタル面を強調する。

 そういった意味では、後半に臨むためにピッチに向かう選手1人1人を送り出す久藤監督の姿は印象的だった。いつも特段意識して見ていなかったが、改めて注目してみると選手たちを信頼していることが良く伝わるシーンだった。シーズン途中からの難しいタスクだが残り3試合、残留まであと(ほぼ)3ポイントというところまで来た。

 最後はクラブに関わる全員で笑って終えられることを願う。

 (できれば安心した状態で大宮に行かせてください。)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?