枕戊待旦 vs山口 1-2

 ディフレクトが絡んだ失点を最後まで取り返すことができず敗れた大分戦。極端に酷い内容ではなかったものの、試合を通してゴールに近づく場面は少なかった。ビルドアップ時のテンポアップとバイタルでの複数人の動きが求められる(この辺は連戦の影響も当然あるが)。
 ミッドウィークの天皇杯は敵地に山形で完勝。NHKのダイジェスト番組では映像どころか結果すら報じられなかったが、JFAの広角映像ハイライトを確認する限り、右サイドで崩せていた(っぽい)。ここまで試合に絡めていなかった選手たちが結果を出した意義は大きく、リーグ戦に向けて良い刺激となる。と同時に、チームマネジメントがある程度上手くいっていることも窺える。勿論、試合に出ていないことへの不満は持っているだろうが、限られた出場機会でチームの為に戦える選手たちには頭が上がらない。彼らの姿勢が、今後のチームに間違いなく好循環を生み出す。

 水曜日に停滞した雰囲気を打破し、そのままリーグに結びつけようと挑む今節の相手は山口。昨シーズンは終盤に渡邉晋氏が辞任し、HCだった名塚氏が後任となり何とか残留した。
 今シーズンは、北関東の某チームに楠本と高井を持っていかれ、開幕前は下位予想されていたが、いざ始まってみれば引き分けが多いものの負けない試合を続けた。が、徐々に負けが嵩み、現在5戦勝ちなしの3連敗中。
 霜田→渡邉と続いていたポジショナル要素は継続。4-3-3を採用しており、LSBの橋本健人が間違いなくキーマン。2020シーズンから特別指定により山口でプレーしていたが、今シーズンから正式加入。左サイドからゲームを組み立てる。また、前からのプレスを掛けつつ、状況に応じては素早く4-4-2のブロックを敷けるのが強み。

 例年似たような順位におり、今シーズンの流れもほぼ同じの両チーム。どちらも天皇杯に勝ち、その勢いを継続しようと意気込む。山口とのアウェイゲームでは勝ったことがないが、ここで1つ叩いて、今までとの違いを示したい。

メンバー

 ウチは前節から1枚変更、岩上→奥村。風間と内田がコンビを組み、奥村がRSH。

 対する山口も敗れた前節フリエ戦から1枚変更、石川→大槻。大槻が頂点に立ち、高木大輔が右に入る形。

前半

 スリッピーなピッチを考慮し、両チームとも立ち上がりはリスク回避。ただし、山口の方がボールを回しながらウチの隙を窺う。

 12分、山口は長短のパスを用いたビルドアップでウチの3ラインを自陣に下げさせる。フリーとなったヘナンから対角線のフィード。高木が胸で落とすと、生駒がインナーラップして受けてPAに侵入。低い弾道のクロスを入れると、畑尾の脚に当たって際どいコースに飛ぶ。ファーで沼田が反応しきれず事なきを得たが、ヒヤリとした。

 ウチもショートカウンターで応戦。13分、山口の中央の浮き球のパスを畑尾がPA手前でカット。こぼれを風間がワンタッチで内田に落とすと、内田もワンタッチでKJへ。前を向かせまいと渡部が捕まえに来たが、KJは上手く身体を捻って平松に繋ぐ。平松はヘナンと駆け引きしながらボールを運ぶ。バイタルに差し掛かったところで平松は右アウトサイドで奥村にラストパス。タイミングは抜群だったが、わずかにパスが長くなる。PA右サイド深い位置でコントロールした奥村は、高い弾道のクロスを供給。最後は平松がファーで合わせるも、枠に飛ばせず。少ない手数でシュートまで結び付けており、狙い通り。

 18分、またも山口のビルドアップから。ウチの1stラインの脇に田中が入ってヘナンからボールを引き出す。そこへのプレッシャーがかからないでいると、田中から対角線のフィードが高木に通る。高木は仕掛けるタイミングを見極めながら、1つ中のレーンにボールを出す。そこに走り込んだ生駒がワンタッチでクロス。ボールは直接ゴールに向かっていったが櫛引が上手く弾き出す。

 同じような対角線のパスで何度も剥がされていた。原因とすると、①渡部のパスセンス、②高い位置を取る橋本、③落ちてフリーになる田中といったところか。
 ①に関しては完全に個人のクオリティの部分。栃木、柏、仙台では対人能力の部分に特徴を持っていた渡部だが、神戸時代に足元の技術が格段に向上した。パス精度は勿論、パスの付け所も抜群。この試合でも、佐藤を使う時と、1つ飛ばした橋本 or 田中へのパスの使い分けが見事だった。渡部のパスの散らし方によって、ウチのプレスの出足の鋭さが多少削がれただけでなく、ラインが全体的に下がった。
 ②と③はセット。どの試合でもキーマンになっていた橋本が高い位置を取りつつ、奥村が押し上げるのを防ぐ。一方で田中がビルドアップの出口となるべく落ちてきた。ウチの1stラインは2人の間に佐藤を置いて牽制する形で形成している。しかし、田中を佐藤と同じ高さ、つまりはウチの1st1ラインの高さに2人目として配置し、容易にボールを前進できた。本来であれば、奥村が連動してプレスに行きたいところだが、前述の通り橋本にピン止めされていて寄せられず。その結果、苦労せず対角線のフィードが入れられる状態。
 フィードが通った先であるウチの左サイドも、生駒が浮きまくった。高木大輔がサイドに張るのと、ハーフスペースに山瀬が走り込んでくることで、山瀬がいたスペースがポケットとなる。そこに生駒が絡んでくるので、ウチは枚数が足りず。山口の左右非対称の形になかなかアジャストできなかったが、ウチも山口も非対称にするサイドが同じになってしまい、益々面倒だった。小島と橋本が同サイドにいるのはどちらにとっても得策ではなかったが、ボール保持の局面の続くホームチームの方が幾分優位性を持っていた。

 30分過ぎからは段々とウチもボールを持つようになるが、相手のブロック形成に合わせてしまいスピード感がない。ベンチからもテンポアップを求める声は飛ぶが、改善されず。
 一方で、ボール奪取したあとの1本目のパスがズレて流れを悪くすることもしばしば。徐々に雨脚が強まっており、軸足が滑ったのかもしれないが、ボールを落ち着けることができず、リズムが作れない。

 それでも、中盤の「4」と「3」の部分での数的優位を生かして縦パスを入れようとはする。CB→CH→CB→SB or SHと繋いでプレスをいなしつつ、生駒の裏でKJ、田中の裏で奥村が散歩(比喩)しながらスペースを見つけてボールを引き出した。

 45分、ウチに決定機。関のゴールキックが山口の想定よりもショートし、山根がカット。KJがワンタッチで逸らし、平松が胸コントロールから右アウトでKJにリターン。バイタルで前を向いたKJはシュートフェイクを入れて相手を手玉に取り引き付け、右に走り込んだ奥村にラストパス。奥村は狙いすましてファーに蹴り込むが、惜しくもポスト直撃。先制のチャンスを逃す。   
 また、シュート直後の22番のスライディングは不可抗力と言えなくはないが、奥村の遠い方の足にヒットしており、相応のジャッジが必要なプレーだったことを申し添えておく。

 ボールを握られる時間が長くなりながらも、0で終えて折り返す。

後半

 ずっと降り続く雨の影響で、徐々にピッチ上に水溜りができる。ボール止まる、どんどんテンポでなくなる、カオス。どちらもクロスからシュートまで持っていくも、可能性はさほどなかった。強いて言えば、山口右サイドにボールがある際に、沼田が大槻の近くにポジショニングしていたのは少し嫌だった。

 そんなこんなで63分、遂に均衡が破れる。山口がゴールキックも短く繋ぎ、渡部から池上に縦が入るタイミングで内田が押し上げて潰す。そのボールがKJの前に転がると、GKを寝かせて抜け出す。角度がなくなり、中にドリブルで切り込むと、捏ねに捏ねて相手のタイミングを外し冷静にコースを撃ち抜く。待ちに待ったKJの今シーズン初ゴールは、らしさ満載のドリブルからだった。内田の潰しも完璧だったし、相手へのダメージを与える見事なボール奪取からのゴール。

 リードを奪った直後、ピッチコンディションも考慮し、「この時間ハッキリ」との大槻氏の指示が出ていた。山口の長いボールを畑尾が跳ね返すも、セカンドを返され、吉岡の下でボールが止まった。吉岡から斜めのボールが高木に入ると、高木は難しい体勢から強引に中央にボールを入れる。中途半端な勢いとなったボールに畑尾が何とか足を伸ばしてカット。が、ボールが流れ、そこに沼田が猛然と寄せる。死角から相手が入ってきたことを察知した畑尾は右足を伸ばすも、沼田の足に掛かってしまってPK献上。ファウル自体は軽率に見えてしまうが、沼田のプレスに対して誰かしら声を出していれば防げた気がしなくもない。そこに至るまでの過程を見ても、防げるタイミングはいくつかあっただけにチーム全体として悔いが残る。
 このPKを池上に沈められ、すぐさま振出しに戻る。

 69分、ウチに勝ち越しのチャンス。渡部から関にボールが渡った際に天笠と平松がプレスし、全体を押し上げる。フィードを受けようとした佐藤に対し、内田が前に入ってインターセプト。ボールは渡部の足元に転がるが、処理を誤ったところを天笠が掻っ攫う。天笠は素早くグラウンダーのクロスを入れるとPA内中央で平松がフリーに。右足でコントロールして上手くGKを動かし、あとは左足で流し込むだけ。だったのだが、軸足がスリップしてシュートは枠に飛ばない。画竜点睛を欠いた。

 その後は、フットボールするようなピッチ状態ではなくなった。往年の四国のオレンジ色のチームのホームゲームでは頻繁に田んぼになっていたが、なかなか最近これほど水捌けが悪い試合を見ない。
 ここから先の内容については、大槻氏の以下の指示で大体分かる。
「(風間に対し、)川上上手く使って。プレーはハッキリ」
「飛ばしていいから、背後狙え」
「グラウンド悪いから、ハッキリ」
「ワンタッチでハッキリ背後に」

 83分の高木のシュート、92分の吉岡のシュートの場面で刺されていてもおかしくなかった。内田の負傷退場も響き、手負いの状態のラストプレーで沼田に叩き込まれて終戦。

雑感

 こういう試合を乗り越えてチームは成長していく(はず)。

 難しい状況下で何とか守備陣は踏ん張っていたが、最後の最後で守り切れなかった。ただし、どちらの失点も個人に責任を委ねるのは極めてナンセンス。フォローがあれば防げた可能性はあるし、あれだけ自由に長いボールが入ってきてしまえば、対処は難しい。チーム全体の修正点として改善したい。

 攻撃についても幾つかチャンスは作れていた。ポジトラで上回ってシュートまで持ち込めたのはポジティブな要素。それ以外の部分はピッチコンディションもあって難しかった。大槻氏の指示の通り、背後の意識は持ちつつ、足元との使い分けができてくればもっと簡単に前進できるようにはなっていくだろう。

 ショッキングな負け方だが、個人的にはさほど気にしていない。チーム内にバラつきがあって失点していたなら問題だが、後半ATの立ち振る舞いを見ると、ベンチ含めてチーム全員が勝ち越そうと前を意識してプレーしていた。そこにリスクが生じるのは百も承知である。結果だけを切り取ればその判断は凶と出たと評価されるだろうし、実際にそう捉える方が多数派だろう。
 しかし、目先の勝点1のために戦い方を変えていて、過去のチームを超えることが果たしてできるのか。全員で攻めに行こうと意思統一してチャレンジしたのであれば、そのチャレンジは正当に評価されるべきである。
 成長には当然痛みを伴う。しかし、その痛みから逃げるのではなく真っ向から立ち向かってこそ、その先の伸びしろは大きい。まだまだここで折れるようなチームじゃないはず。

 で、ここでタイミング良く次節は北関東ダービーである。我らがホーム敷島で奴らを蹴散らすのみ。

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