俺たちがついてるからな vs隣 1-1

 上位に喰い込むチームの地力と勢いに呑まれ、相手の土俵で戦った前節。なかなか岡山の牙城を崩せず、岡山にとってみれば盤石な展開であった。ウチも劣勢とまではいかなかったが、ビハインドを跳ね返すまでのパワーを創出できず。

 秋風が吹き始め、そろそろ簡単に勝点を失えない時期になってきた中、隣県の田舎町に乗り込んでの北関東ダービー。
 時崎氏の下でスタートを切った今シーズンは例年通りの順位に安住していたが、ウチとの前回対戦後から著しく敗戦数が減る。6月から7月にかけての9戦(対群馬以降)を3勝5分1敗でまとめた。要因としては、湘南から加入した根本の最大瞬間風速的活躍と、それに触発されたかのような宮崎の覚醒。流行り病などの影響もありコンディションを落とす選手もいたが、神戸と谷内田が中盤のポジションを掌握。
 とはいえ、そんなに好調が持続するわけもなく8月は熊本、新潟という実力のあるチームに完敗して勢いは削がれた。一応、秋田との同種対決では完勝を収めた(劣悪のピッチコンディションという秋田のホームアドバンテージはグリスタに慣れたチームには通用しなかったのだろう)。前節は対戦相手のトラブルによりスキップしたものの、ハマれば結果も出る。
 ここ数年よりは頭脳を持ってプレーしているが、それも一長一短。今までほど突き抜けて徹底するわけではないので脅威は薄れ、中途半端な強度になることもしばしば。

 ダービーで不甲斐ない戦いはできない。チームとして目指すべき姿を表現し、相手を蹴落とす。

メンバー

 ウチは前節から2枚変更。北川→川本、KJ→国友。前線の組み合わせを思い切って変えてきた。

 対する相手チームは2週前から1枚変更、大森→大谷。大島は古巣戦。宮崎は前育選手権制覇メンバー。ベンチの吉田も前育出身で、札幌の金子拓郎や岡山の野口と同学年。2019戦士の佐藤はベンチからも外れている。

前半

 相手のキックオフで始まると、いきなり友也と黒崎を競走させるボールが入り、CKを与える。CKはシュートまで至らずも、サイドのスペースを突こうとする狙いは見えた。

 基本的にあちらは攻撃時に宮崎・矢野の2枚に加え、黒﨑と福森も一番前のラインに並べてくる。で、大島と谷内田が2列目を形成し、神戸が中盤の底でゲームメイク。これはある程度落とし込まれている基本形なので、ウチも当然対応策は準備していた。黒﨑と福森の幅取り隊のマークが面倒なのは百も承知のため、SHの長倉と友也をそのまま引かせ、6バックに近い形。SBがCBとSHの間を埋め、ハーフスペースという概念ごと消しにかかった。
 大胆な割り切りであり、それはそれで面白かったが機能したとは言い難い。勿論、谷内田と大島が高い位置を取ることは防いだが、ウチのCHの両脇を良いように使われて突破を許す。そもそも、枚数的に神戸に誰もアプローチができていない状態。たまに国友が1列落ちて中盤の枚数を補完こそしたが、そうすれば最終ラインで余裕を持ってボールを持たされてしまう。
 ウチの良い時は、CHが1列前まで出て行って刈り取ることができているのに、これだとプレスに行くまでの距離が遠くて限定できない。横幅68mを6人で守ればエラーは最小限で済むとはいえ、結局大島と谷内田で深さを作られるので、やはりラインの紐帯が弱まる。コミュニティについての分野では『弱い紐帯』の有用性が良く取り上げられるが、守備時において紐帯は強いに越したことはない。

 16分、グティエレスがハーフウェー付近でフリーで前向きとなる。そこから福森へロングフィード。ボールを持った福森の隣のレーンを谷内田がランニングして長倉を引き付ける。自分へのチェックが緩くなったことを感じた福森は、右足でアーリークロス。CB間のギャップに入り込んだ矢野がダイビングヘッドで合わせるも、枠には飛ばず。
 ゴールから距離があったとはいえ、背中を取る矢野の動きは経験によってもたらされるものだろう。

 18分、右サイド深い位置でのスローイン。黒﨑が素早いリスタートで大島に入れると、大島はヒールで宮崎へ。このボールは小島が下がりながら頭に当てる。だが、風間のクリアがミートせず後ろに飛び、大島の所に転がる。大島は丁寧にお膳立てし、最後は宮崎がフィニッシュしたが、シュートは櫛引の正面。

 この辺りからは友也を下げる5-4-1で対応。とはいえ、後ろで余る枚数が減るだけであまり状況は好転しない。どうやっても神戸は浮くし、そこにチェックに行くと、大島と谷内田が空く。そのジレンマを抱え続け、結局ボール引き出されて前進を許す展開が続く。例えサイドでウチがボールを奪ったとしても、明らかに重心が低いので、効果的なカウンターが打てない。
 尚且つ、場面によっては矢野と宮崎にシンプルに当てて局面を変えようとしてくるので、ラインの押し上げも叶わず。

 24分、隣に決定機。グティエレス→神戸→谷内田と縦パスが繋がり、谷内田はタメを作ってから大外の福森へ。福森は先ほどの成功体験もあってか再びアーリークロスを選択。インスイングのボールに対し、今度は畑尾と小島の間に入った宮崎がドンピシャのヘッド。完全に崩されたが、櫛引が手を伸ばしてセーブ。重心とは逆側に飛んだシュートにも関わらず、身体が流れることなく反応しているのは驚異的。

 しかし、直後の25分に失点。グティエレスからのロングボールを右の黒﨑が胸でコントロールしてすぐに大島に落とす。大島は中央の矢野に当て、矢野は体勢を崩しながらもヒールで大島にリターン。大島は駆け上がってきた谷内田に渡すと、谷内田はミドルシュート。これはウチがブロックするが、こぼれを福森が回収。ここでは福森が右足でフェイクを入れてから深くまで抉って左足でクロス。これが岡本に当たって軌道が不規則になると、落下地点にいち早く宮崎が入って頭で逸らす。さらに大島も逸らすと、ゴールエリア付近で矢野の足元に収まる。矢野は右足で2タッチして城和と畑尾のタイミングを外し、最後は右足でゴール右隅に刺す。これには櫛引も一歩も動けず見送るしかなかった。
 グティエレスにも行けず、WBにも行けずっていう試合当初からの問題点がそのまま表れた。

 その後も相手ペースで試合は推移していくが、失点を契機にウチは少しずつ勇気を持って前に出る。前線が3CBに対して牽制をかけ、神戸に対してもウチのCFの2度追いもしくはCHのチェックで制限。これにより、若干相手の選手を前で捕まえるようになった。
 40分、CBに対して国友がチェックに行き、黒﨑に対しても友也が連動してプレス。黒﨑が中にボールを流したところで小島がインターセプト。奪った勢いそのままに神戸も剥がし、前方でフリーの川本へ。川本はバイタル手前まで推進力を見せたが、黒﨑に当たられバランスを崩す。それでもPA右付近から強引に右足を振り、枠には持っていった。

 40分頃からややボールを回せる時間を得たが、バイタルはおろか敵陣に侵入することすら数えるほど。0-1で折り返す。

後半

 後半も基本的には引き続き隣がボールを握る時間が長い。追加点を取って試合を決定付けるためにも、攻める姿勢はあったが、徐々に勢いに陰りが見えてくる。

 これは、隣が前半から自分たちでボールを動かしていたために、早めにガス欠が来たことが要因の1つ。当然、攻撃を受ける側の方がダメージが大きいのが定説だが、クリエイティビティを一定程度までしか持ち合わせていない隣のようなチームが主導権を握り続けるのは、それはそれで疲弊する(これに関してはウチも他人事ではない)。前半の繰り返しのスプリントでウチを苦しめた黒﨑が特に疲労しており、これによってウチの左サイドが徐々に落ち着いてボールを持てるようなった。
 加えて、後半開始からの配置転換も大きい。長倉と川本を入れ替え、長倉がフォアチェックを担った。国友との距離感を適正に保って長倉がボールを追うことで、神戸へのパスコースをケアできる。また、前半浮いていた大島には小島がマンマーク気味で対応。これによって深さを作られることも少なくなるし、CHが背後を気にせず前で潰しに行けるようになる。

 ただ、59分に隣が試合を決めるチャンスを得る。ウチのクロスを跳ね返してセカンドを大島が回収。大島は前方の宮崎に当てると、宮崎は身体を張ってDFを背負い、右サイドを駆け上がる黒﨑に繋ぐ。そのまま黒﨑はPA付近まで前進し、ストレートのボールを中に入れる。これは風間が頭に当てるも、大島がまたも回収し、黒﨑へ。黒﨑はボディフェイクも交えながら岡本を剥がし、PA深い位置からクロス。宮崎の手前で櫛引がパンチングしたものの、谷内田が拾う。谷内田は大島とのワンツーでPA内に侵入して左足を振る。これでやられての終戦も覚悟したが、櫛引がまたも完璧な反応を見せて防ぐ。

 最大のピンチを防いだことで、段々とウチにモメンタムが傾いてくる。北川や山中を投入して前を向いてプレーする時間を増やし、サイドからの低くて速いクロスで打開を試みる。さらに、奥村とシラ、深堀を入れ、攻勢を強めた。
 とはいえ、アタッキングサードまで行くのがやっとで、クロスを入れてもDFに跳ね返されるorGKにキャッチされる。効果的な攻撃が打てないまま、終了の時が刻一刻と迫っていく。
 相手も相手で、前半の元気は完全に失われ、微妙なロストが多発。カウンターで仕留めるのか時間を使うのかがハッキリせず、中途半端なプレーを繰り返していたので、ウチとしては助かった。

 90+4分、北川がスローインを入れ、深堀がワンタッチで長倉に渡そうとしたところ、谷内田の手に当たってFK。ラストプレーであり、櫛引含めてPA内に入る。奥村からのアウトスイングのボールは跳ね返された。この時点で4分を経過しており、いつ笛が鳴っていてもおかしくなかった。しかし、こぼれ球を長倉が強引にシュート。これが城和とDFに当たり、城和の足元にこぼれる。城和は落ち着いてコントロールし、左にいた櫛引にラストパス。櫛引は迷わずシュートを放つと、ボールは森の手に当たった。すかさずホイッスルが鳴り、レフェリーがペナルティスポットを指した。土壇場でこの最大のチャンス。
 尋常じゃないプレッシャーのかかる場面、キッカーはキャプテンの細貝。観ている側も気が気でない状況。しかし、数多の修羅場を潜り抜けた33番は冷静だった。落ち着いて右隅に沈める。ネットが揺れたと同時に、試合終了。細貝は90分間声を出し続けたサポーターに向かって拳を突き上げ、エンブレムを掲げる。

雑感

 90分はほぼほぼ苦しんだが、終わり良ければ全て(とは言えずもある程度)良し。最後まで折れずに戦ったことが間違いなく0を1にした。

 ディフェンス面は大分苦戦。パスの供給源に制限を掛けられなかったので、後手後手に。前に釣り出されれば背後のスペースを突かれ、後ろのスペースを消せば大島と谷内田に引き出される。相手の攻撃も良く構築されていたが、やはり失点しないために重心が低くなると苦しい。リスクを背負う部分では背負い、矢印を前に向けて圧力を掛けたい。ラスト15分はそれができたからこそ前向きにエネルギーを使えた。これからの試合でも失点しないことがプライオリティになるのは間違いないが、必要以上に低くするのではなく、やはり前で捕まえたい。

 攻撃も有効な手立てが少なかった。川本も国友も気遣いができ、後ろで奪ったボールを引き出そうと顔を出してくれた。一方で、頂点を取る選手がいなくなってしまい、相手DFにとっては守りやすいような形に。
 それでも奪った後のポジトラで殴る場面が散発的ながら見られた。長倉がスイッチを入れ、岡本がフォローする。後半は2人とも押し上がり、そこに城和が深さを作りながら絡んでおり、ボールがよりスムーズに回るようになった。リスクはあるが、リスク管理ができていればミシャ式のように面白い形となる。

 そして、何より『声』が帰ってきたことがこの試合を大きく左右した。試合前からブランクを感じさせない声量で選手をサポート。残留すべく、今後も力強いサポートが続くはず。

 苦しみながらも奪った勝点1の意味を増すためにも、これからの戦いが重要。勝ちに行こう。

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