多事多難 vs山口 1-6

 相手の土俵に敢えて乗って勝負を挑み、泥臭く勝利をもぎ取った前節。決して綺麗な勝ち方ではないが、1つ1つの局面でファイトし続けたことが最後の明暗を分けた。身体を張るブロックに象徴されるように、気持ちが随所に感じられた。
 内容としても、ロングボールがこれまでも多くなったとはいえ単純に縦ポンするのではなく、同サイドに密集してくる秋田のウィークを突くためのフィードによって局面を打開。この戦法はスモールフットボール supported by相馬の対策としても有効な予感。

 4試合負けなしの状態で迎える相手は山口。ポジショナル路線に舵を切って長くなるが、名塚体制1.5シーズン目の今季も40ポイントに乗せて残留をほぼ手中に収める。指揮官は変われど、クラブとしての方向性が揺るがないのは重要。
 兎にも角にもLWBの橋本健人が鍵なのは間違いない。高木大輔も怖いし、沼田は名を聞くだけでも前回の悪夢が脳裏に浮かぶ。4-3-3(最近は3-4-2-1)をホームフォーメーションにしながら、積極的にプレスを掛けてくる。ただし、相手がポジトラに長けている場合は4-4-2のブロックを敷く可能性もあり。

 前回対戦時は内田が負傷退場した後に逆転弾を叩き込まれての敗戦。個人的には、ホーム秋田戦とアウェイ山口戦の2つがチーム状態が下降したターニングポイントだと感じている。前節は秋田を叩きのめした。アウェイで屈した悔しさを晴らすべく、前向きなチャレンジで相手を上回りたい。

メンバー

 ウチは前節からスタメン・リザーブ共にノーチェンジ。秋田戦の流れを継続させ、ロースコアの展開に持ち込みたいところ。

 対する山口もウノゼロで勝利した琉球戦からノーチェンジ。ここまで4戦負けなしと好調を維持しており、これまで落とし込んできたものが花開いている。

前半

 マイボールで始まった試合は、ウチが前から嵌めようと重心を上げるのに対し、山口が早い楔で局面を打開する展開で推移。

 5分、山口の左サイド高い位置でのスローイン。5枚の選手が集まって数的優位を作るとオフザボールでウチの守備網を掻い潜る。高いが囲まれながらも強引にPA内に侵入して左足でクロス。ファーで吉岡が落とし、最後は池上が右足で流し込み。一連の攻撃で崩し切ったが、シュートは山田の正面に飛んだ。ボールサイドに山口の選手が寄る分、ウチもマークに付かねばならないが、守備側からすると人数を割くのであればサンドして取り切らねば情勢は悪化する。

 13分、最初の失点。山口が橋本を中心に左サイドでボールを回す。橋本と田中が高い位置を取ったところで池上が入れ替わるように1列落ちてボールを引き出し、ウチの寄せが緩いことを察知して前を向く。池上が前を向いたタイミングで橋本がスプリントしたのでウチはラインを下げる。それによって空いたスペースで高井が浮いておりフリーでパスを受ける。高井は右にボールを運んで大外の吉岡へ。吉岡はワンタッチでインスイングの柔らかいボールを供給すると、梅木が川上との駆け引きをしながら頭で競り勝ち、最後はフリーの池上が天井を撃ち抜いた。
 最初から最後まで狙い通りの攻撃を山口が完結させた。スペースを空ける動きが常にあり、ウチの寄せが後手後手になる。高井が中央でフリーになった場面でもシュートチャンスはあったが、より確率の高い選択肢を選んだ。ウチとすると何もさせてもらえないまま押し切られた。多分、ボールが左にあるうちに蓋をしないとならなかった。

 1点取って乗ったというより噛み合わせの良さで山口が殴り続ける。18分、前がコンドゥクシオンでボールを運び、ハーフウェーを超えた辺りでウチのCH間を割る縦パスを池上に通す。すかさずCHは戻るが池上はワンタッチで田中に落とす。田中は右のスペースに髙橋を走らせると、高橋は持ち運んでから吉岡へ。吉岡→池上→髙橋→田中→佐藤と狭い位置で速いテンポのパスが続く。右に人数が寄ったところで佐藤は左でフリーの橋本へ。橋本のクロスに梅木が頭で合わせるもポスト直撃。
 丁寧に作って逆サイドのスペースに流すという理想的な展開。ラグビーのようなボールの回し方(前節のラグビーみたいなタックルとは訳が違う)。正直、この時点で成す術がなくなっていたので、ウチとすると命拾い。

 とはいえその後も良いように縦パスを通され、23分に追加点。山口が最終ラインでボールを回している中、池上が顔を出してボールを受けて深さを作る。その動きに岩上がチェックしていたが、今度は生駒から田中に綺麗な楔が通る。池上の立ち位置によってウチの真ん中が開き、そこを上手く使われた。田中は左サイドの橋本へ展開。本来であれば1枚寄せたかったが、岡本の背後を高井がランニングしていたため押し上げられず、橋本の前進を許す。そのまま限定が掛けられずにいると、ライン間で池上がフリーに。池上は右の吉岡に繋ぐと、エリア内で鋭い切り返しを見せて、最後は左足でシュート。一度は山田が弾いたものの、こぼれ球を梅木がプッシュ。飲水直前に山口がリードを広げる。
 構造上どうにもならない。山口は佐藤と田中が縦関係になり、田中と池上がIHのような役割を担う。ウチとすると相手ビルドアップ時に最終ラインにプレスを掛けると1枚余るし、佐藤に対してCHが捕まえに行くと田中と池上が浮く。さらには岡本は高井の処理に追われる以上橋本が浮く仕組みになっている。ウチがやられたくないことと山口がやりたいことがマッチして、厳しい。

 2失点後も状況は大きく変わらず。ウチは重心を高く保って前から嵌めに行きたいけど、細貝や岩上が捕まえる相手がいなく手持無沙汰になり、その分広がったライン間で池上と田中に好きにやられた。
 攻撃時に5レーンすべてを埋めるように配置する山口は、その分中盤の枚数を最小限まで省く。現に国友が佐藤を上手く牽制して刈り取る→ショートカウンターって場面は少ないながらあった。とはいえ、そこで引っ掛けられないと最終ラインから佐藤を飛ばしての縦パスが入って前を向かれ、数的不利に陥る。
 35分過ぎからはIHに対してCBがチェックするように細貝が何度も促していたが、裏のスペースを空ける怖さもあってなかなか思うようにいかない。マイボールになっても相手は5バックでブロック敷くので出しどころがない。

 大きなジレンマを抱え続けて前半を終える。

後半

 後半開始からウチは2枚替え。稔也→KJ、小島→山中。山口キラーのKJを珍しく右で使い、佐藤の脇のスペースに漂わせてボールを引き出す意図。山中に関しては友也が消されている分、1人で相手を剥がせる選手を置いて局面を変えたいといったところだろう。
 選手を変えたことに加え、仕組みもテコ入れしたことで後半立ち上がりは幾分持ち直す。先述の通り前半から中途半端な位置を敢えて取る山口IHをCBがチェックするようになる。ポイントを作られていた箇所を潰して簡単には前を向かせないので、山口の攻撃スピードが少し緩やかに(2点リードだった分、立ち上がりはアラートに入っていたのもある)。あとは、橋本に対してKJが頑張ってプレスバック。2度追いを続けることで楔を刺すコースも消す。

 耐えてリズムを作り、攻撃に転じたいと目論んでいたが、そう上手くことが進まないのは誰しもが知るところ。61分、山口が最終ラインでボールを回すところで岩上が押し上げてプレスを掛けていたが、一度撤退したタイミングでスルスルっと田中が入れ替わるように落ちてきてボールをもらう。細貝が捕まえるには距離が離れていたため、寄せに行くのも遅れる。田中は中央から左足で左サイドのスペースにフィード。これを受けた橋本はアタッキングサードまで運んでウチのラインを下げさせ、前に落とす。前のアーリークロスに川上の背中を取った高井がジャンピングボレーで合わせて3点差。
 パスの供給源となった田中にプレッシャーを掛けられなかったことが痛かったが、その後のクロスは完全にスカウティング通り。深くまで運んでから戻すところでウチの目線はクロッサーに奪われる。そのタイミングでCB間に入って合わせる形。クロッサーにボールが渡る際にラインアップできれば良いのだが、後ろを固めたいという潜在的な意識が上回ってしまって身体が伴わない。ただし、これはCBにのみ責任を負わせるのは酷。ボールとマーカーを間接視野に入れて対応すべきって言うのは簡単だが、人間の視野の角度にも限界があり、背中を取られると対応は困難。それぞれがスライドして対応するしかないが、元々歪みが生まれて攻められているのだから、最終ラインが手薄になるのもどうにもならない。

 CHは徒労とも見えるようなアップダウンを繰り返して状況を変えようとしていただけに、疲労も蓄積している。3失点する前から風間が準備していたが、失点直後に岩上→風間の交替。本来であれば、よりボールを前に付ける役割を風間に担ってほしかったのだが、3失点したことで試合としてはある程度壊れた。

 最後まで諦めず戦うことが必要なのは分かるし、現に選手たちが戦うことを放棄したとは感じない。しかし、仕切り直した後の3失点目によるメンタル面のダメージは計り知れない。その苦しみは当事者たちしか分からないだろう。そりゃ3点差を跳ね返せと外野が言いたくなる気持ちも一応理解はするがが、人間が行動する以上、精神的に立ち直ることは難しい。

 完全に優位に立った山口は思うがままに攻撃を続ける。73分、ウチが球際で2つ刈り取れずに山口のショートカウンターを受ける。中央でボールを運ぶ池上から左サイドの橋本へ。フリーの橋本は1つカットインして落ち着いて右足でクロスを上げると、高井がオーバーヘッド。シュート自体はほとんどミートしなかったが、流れたボールが山中の足に当たってコースが変わりゴールに転がる。記録上は高井のゴールになった。
 形は3点目と同じ。中継映像を見る限り、山中に誰もフォローせず、如何に選手たちがダメージを喰らっているかが図らずも浮彫りになっている(映っていないところで駆け寄っていたり、声を掛けていたりしているとは思う)。少なくともチームとしての機能をなしていない状態。無理もない。

 76分に北川と平松を入れて前へのパワーを強めようとしたが、最早ゲームの流れを変える術はない。

 78分、投入されたばかりの2人がパワーを使って山口最終ラインに圧力を掛けるが、山口は外回りのパスで回避。橋本が狭いコースを通して梅木を左サイドタッチライン際に走らせる。梅木はアタッキングサードで十分な間を作り、インナーラップしてきた橋本に渡す。橋本は縦に1度ボールを動かしてパスコースを作り出して高井の足元へマイナスのパス。高井の左足のシュートは勢いがなかったが際どいコースに飛び、ネットを揺らす。
 勢いに乗ったチームは得てしてミスショットが得点に繋がるし、劣勢のチームはとことん失点に結びついてしまう。前から奪いたいと逸る気持ちがあるが、後ろが連動しないとスペースを空けるだけとなる。そういう観点からも厳しい。

 それでも一矢報いる。89分、左サイドで山中がスローインを入れる。北川が相手を背負ってボールキープし、タッチラン際の友也へ。友也はワンタッチでGK前に落とすクロスを入れると、ニアで平松が合わせて1点を返した。
 この試合消され続けた友也が唯一フリーでボールを蹴った場面。こういう局面でも仕事ができるのだから、相手に警戒されるのも当然である。そして、最後まで闘争心を剥き出しにする平松に勇気づけられた。「まだこんなもんじゃない」って思いが伝わってくる咆哮。
 思えば、苦しい時間帯にハードワークしてゴールも決める平松に幾度も助けられてきた。ゴールの起点になった北川も同様、昨シーズンから苦境を何度も救ってくれた。この試合でも労を惜しまず前線で奮闘してくれた国友と川本含め、前線の選手の頑張りが報われることを願ってやまない。

 で、1点返すのがやっとでしたで終わるかと思いきや、90+4分におかわりの失点。大差の試合で律儀にAT5分も取るからじゃ(八つ当たり&投げやり)。
 山田のパントが風に押し戻され、ハーフウェー付近で田中が回収。田中はシンプルに最終ラインの裏にボールを供給すると、沼田が抜け出す。ボールを落ち着かせた沼田は手数を掛けずにマイナス気味のクロスを送ると、ニアで山瀬がシュート。すると、シュートコース上にいた岸田が反応してコースを変えて押し込む。オフサイドな気もだいぶするけど、副審の視点からすると手前に山中がいてシュートする瞬間が確認しにくかっただろうし、旗は上がらず。

 苦行のような90分、今季最多の6発被弾で終了。

雑感

 この試合のことはこの試合で終わり。序盤ならああだこうだ検証する必要はあるが、残り試合数考えれば落ち込む暇もない。悪い膿は全部出し切ったと思って、次に切り替え。

 どちらもリスクを冒しての配置になっていた分、先に崩されると苦しくなるのは仕方ない。仮にウチが佐藤の所でもっと早く刈り取ってゴールまで結び付けれていれば立場は逆になっていただろう。山口はリスク背負って中盤の枚数を減らして、その分を前に割いた。ウチは中盤で捕まえようと勝負した分、そこを突破されると手薄になった。
 田中と池上を捕まえられなかったこと、高井がウロチョロしていて橋本へのチェックが機能しなかったこと、最終ラインからの楔のコースを切れなかったこと。これらが起因しての失点が多かった。山口の完成度の高さを称えるべきだが、1年後は同レベルまで持っていかなければならない。来年に繋げるためにも、今はできることをやるしかない。

 オフェンスは沈黙。友也が仕事をさせてもらえなかった。ウチは左サイドのスペースを担保にこれまで攻撃を仕掛けてきたが、山口が友也に2人体制で挑んできたのでどうにもならん。小島がフォローの為にオーバーラップするものの、そこに渡る前にロストするので、小島がいたはずのスペースを自由に使われた。
 点差が開いて5枚で守られる状況ではショートカウンターすら発動できず。佐藤の脇でもっとボールを引き出せれば面白かったし、時々国友が気を利かせてその位置まで落ちてボールを受けた(その後に繋ぐ先がなかったけど)。山口のように中をもう少し使って縦刺せると変わっただろうが、そもそもウチがボールを奪うことが少なかったのでポジトラにすらならなかった。

 ショッキングな負けではあるが、正当なフットボールに負けたので、清々しさも少しある(悔しさを押し殺しながらの発言)。大事なのは、この流れを次に引き摺らないこと。

 後押しせずに文句垂れて何の効果があるのか。クラブを、チームを、選手を何だと思っているのか。苦しい時に貶すことしかできない奴がもたらすものは何もない。

 どんな結末になろうとも、信じることをやめない。やることは変わらない。目の前の相手を上回るだけ。

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