大所高所 vs東京V 1-1

 90分間かかっていた靄を一瞬で晴らし、1ポイントを積んだ前節。劣勢になろうとも最後まで下を向かず走り続けた選手のプレーが結実した結果である。勝てなかったことを悔やむ姿勢は当然求められるが、0を1にしたことを評価し・自身に繋げることもまた大切である。

 先週敵地で得た勝点の価値をより大きくすべく挑む相手は東京V。前回対戦時は互いに無敗の状態だった。観てて楽しいサッカーを繰り広げるヴェルディに対して五分の戦いを繰り広げたが、山本理仁の素晴らしい抜け出しにしてやられた。山本はあのゴールを足掛かりにU-21アジアカップでもゴラッソを叩き込み、夏のマーケットでガンバ大阪に栄転(来年落ちてくる可能性がなくはないのは…)。
 ただ、チームは徐々に勢いを失うと、6月に堀氏を解任し、JFK氏を招聘。シーズンオフにも一度噂が出ていただけに、火のないところに煙は立たずといったところか。
 城福氏就任後も基本的な部分は継続しているが、よりスピード感を重視している。高い位置で奪い、そのままダイレクトにゴールを目指す狙いを指揮官は口にする。中盤の森田がここ最近は状態を上げている。元々の攻撃面のポテンシャルは確かなものだが、ディフェンス面での貢献度も高い。プレスを厭わず、その上でクリエイティブな働きで違いを生み出す厄介な選手。また、前線には佐藤凌我がゴールを量産するとともに、夏に染野唯月が鹿島から期限付き移籍で加入。尚志時代から名を馳せたストライカーが、出場機会を求めてヴェルディに来たが、見事にフィット。前でポイントを作るので、チーム全体の重心が押し上げられる。また、開幕前の大怪我で長期離脱していた阪野も戦線復帰。前線でハードワークを見せる河村含め、高いレベルでの正当なポジション争いが行われている。
 現在3連敗中に加え、ミッドウィークに天皇杯を戦い中2日での試合となる。コンディションやチームの雰囲気を危惧する声もあるが、天皇杯の京都戦でも惜敗だっただけに、チーム状態は悪くない。

 ウチはウチで、手負いの状態。公式LINEの「図らずして正念場を迎える」という文言が言い得て妙。何人が離脱しているのか数えるのも野暮。出てきた選手を信じることしか我々にはできない。この苦境をチーム・クラブの力で乗り越える。

メンバー

 ウチは前節から4枚変更。櫛引→山田、城和→川上、長倉→稔也、風間→岩上。未曽有の感染者発生に伴い、スクランブルに近い状態。ベンチにGKがいないことが緊迫性を物語っている。山田がリーグ戦デビュー。稔也と岩上が久しぶりに帰ってきた。勇利也、藤井、田部井もメンバー入り。

 対するヴェルディも敗れた金沢戦から4枚変更。谷口→平、石浦→梶川、馬場→稲見、河村→佐藤凌我。連敗中に加え中2日ということもあり、結構変更があった。佐藤凌我は水曜日もフル出場していたが、今節もスタートから。

前半

 ヴェルディの出足が鋭く、立ち上がりからスピード感のある攻撃を仕掛ける。佐藤凌我or染野が1列落ちて中央でポイントを作り、梶川と杉本がIH的振る舞いを見せ、大外のレーンをSBが駆け上がって押し上げる。

 良い入りをしたのはヴェルディだったが、ウチも悪かった訳ではない。アラートさを保ちながら様子を窺っていた。すると8分、いきなり決定機が訪れる。敵陣左サイド深い位置でのスローイン。小島が友也に当ててリターンを受けると、そのまま一気に加速してカットイン。PA内に侵入したところで稲見に倒されてPK獲得。スローイン時に川本が深い位置を取っていたことでヴェルディの重心が下がり、スローワ―へのケアが疎かになっていた隙を突いた形だが、小島が積極的に仕掛けたことが大事。
 キッカーは前節に引き続き細貝。ただ、小島が転倒時に右肩を痛めていたため間が開いた。マテウスは自らを鼓舞するサポートを求め、ゴール裏はマテウスのチャントで応える。さらには杉本とボニがPA内に入り細貝に対して執拗にプレッシャーをかける。それに対して細貝は一切耳を貸すことはなかった。1つを息を吐き、先日と同じモーションで蹴ったボールは左に逸れる。恐らくコースは予め決めていたが、相手が前節のPKをスカウティングしていることを警戒してボールスピードを上げようとした結果、インパクトがトップ気味になり、強いボールが行かなかった。

 PKを乗り切ったことでヴェルディは前への圧力を強める。13分、ヴェルディ左サイド深い位置のスローインの流れから杉本が強引にクロスを入れる。これは中に合わずに小島が外に弾くが、ボニがPA手前まで国友を離さずに来てセカンドを回収。平に戻すと、平はシンプルに加藤蓮へ。加藤蓮は杉本に叩くとインナーラップ。杉本は加藤蓮の動きを囮にクロスを供給。DFラインの手前のポケットに入り込んだ佐藤凌我が上手く合わせたものの、山田が落ち着いて対応。
 2・3人が連動してオートマチックに動いているので動きに無駄がない。元来プレー原則が落とし込まれている選手たちが、選択肢を削ぎ落して判断スピードを上げている。そうなれば、対応するディフェンスどうしてもは後手になってしまう。

 15分もヴェルディのチャンス。ウチが徐々に追い込んで嵌めようとしたが、平がワンタッチで縦パスを加藤蓮に刺して局面打開。加藤蓮→杉本→森田の完璧な崩しで突破。5対3のヴェルディ数的優位の状態で森田は間合いを気にしながらアタッキングサードまで侵入し、佐藤凌我へ。佐藤凌我はもう1つ右へ流すフェイクから左足でフィニッシュ。これはわずかに右に逸れていった。
 それにしても、ヴェルディ陣内での打開は見事。平のパスでスイッチが入り、加藤蓮が受けるタイミングでは既に同じ高さに杉本が落ちてきていたし、連動して森田はハーフスペースを走って深さを出した。

 20分もヴェルディの形。深澤のスローインを右に流れた染野が小島の背中を取るようにして受け、コーナー付近でボールキープ。梶川が同じレーンに立ち、友也の視線を奪い、ハーフスペースで深澤がフリーで受ける。走り込んできた勢いそのままに深澤はクロスを入れると、中央で佐藤凌我が頭で合わせる。このシュートは枠の上。
 試合後のインタビューにおいて友也の対応についてヴェルディ側がスカウティングしていたことが明かされたが、友也の背中に走り込んでくる選手が必ずいた。とはいえ、前進こそされど致命傷にはなっていない。

 大方の予想通り、ヴェルディが前向きにプレーする時間が長い。スピーディにフィニッシュまで持っていくので、ウチとすると陣地を回復する時間はない。とはいえ、決して重心が下がっていたかというと違うし、ちゃんと前から限定はした。ただ、人数掛けて嵌めようとしてもワンタッチの繋ぎを複数回されると難しい。

 32分、ウチにも決定機。自陣で岩上が回収し、右サイドのスペースへ。稔也がこのボールを自分のものにしてPA角まで運ぶ。クライフターンで方向を変え、後ろから入ってきた岩上に落とす。岩上のパスは大きくなってしまうが国友が収め、国友→細貝→友也と繋がる。細貝がパス&ゴーで国友と同じ高さまで縦のランニングを見せると、ボールを持つ友也は国友に預けてレーンを横切る。国友はヒールで隣のレーンに流すと、細貝とスイッチするように友也がボールを受けてPA内に侵入。左足でコントロールして独特のタイミングでシュート。これはボール1個分右に外れた。
 稔也のスプリントが先ずは効いたし、岩上と細貝にCH2枚がバイタルまで入れているのはプラスの部分(リスク管理さえしとけば問題ない)。友也も対峙するボニのタイミングを上手く外してシュートを放ったが、角度的には右足で打ちたかったところでもある。ただ、右足だと相手にも間合いが読みやすくなっていただろうし、難しい局面だった。

 1つウチが前に出たが、その後もやはりヴェルディのターンが続く。佐藤凌我と染野が常にCHの間でボールを引き出そうとしてくるので面倒だし、それに連動するように杉本と梶川が高い位置を取って深さを作るので、誰がCFを捕まえれば良いのかという部分で大分神経を擦り減らされている。

 45分、梶川が最終ラインまで落ちてボール回しに参加。稲見に預けたところで自身は前に移動する。稲見から森田へ渡り、ボールは大外で幅を取っていた杉本へ。スペースを与えてスピード勝負になることを嫌った岡本が間合いを詰めると、杉本は空いたスペースにボールを流し、そこに加藤蓮が走り込む。フリーの加藤蓮は左足でクロスを上げたが、畑尾がコースを変える。しかし、稲見がセカンドを回収してワンタッチで深澤へ。深澤は稲見へのリターンを選択したが、稲見はコントロールできずボールは深澤の元に戻る。深澤はタッチライン際でタメを作り、PAの深いポイントにボールを供給。そこに杉本が自慢の快足を飛ばして走ってクロス。岡本の頭上を越えていく柔らかいボールをファーで加藤蓮が合わせたが、枠に行かず。

 ヴェルディが狙い通りの攻めを見せる場面が多かったが、スコアレスで前半を終える。

後半

 後半開始からヴェルディはボールを動かすタイプの梶川に替えて自ら運んで打開できる河村を投入。
 後半も立ち上がりはヴェルディが縦に仕掛けるシーンが多く、ゴール近くまでボールを持っていくことも複数あった。

 しかし54分、ウチが少ないチャンスをモノにする。山田のゴールキックは平に跳ね返されたが、畑尾が弾き返す。このルーズボールを稔也が頭で逸らし、川本が加藤連を背負いながら反転して前を向く。平が寄せてきたタイミングで川本は国友に送ると、国友は右サイドでフリーの稔也へ。稔也は跨ぎ系のフェイントを2つ入れて加藤蓮に足を出させると、そこから更に前に出て相手を置き去りにしてクロス。これをファーで国友が合わせたが、バー直撃。それでもこぼれを川本が難しい体勢ながら頭でねじ込んで先制に成功。
 国友が前を向いた際には3対6の数的不利だったが、稔也の技術で相手を剥がし、さらには細貝が一気にスプリントしてPA内に侵入したことで国友のマークが浮いた。大外には友也も入っていたが、いずれにしても少ない人数で攻撃を完結させた。細貝があの勢いで入ってきたら誰でも気になる、うん。

 苦しい状況下で先制点は何よりの良薬だったが、ゲームを落ち着かせることはできなかった。58分、ヴェルディが素早いリスタートにより佐藤凌我がPA内でボールを収める。ゴールライン際まで追い込まれるが、反転しながら左足で鋭いクロス。これは畑尾が棲んでのところで弾いたが、こぼれ球を森田がハーフボレーで叩き込み、振り出しに戻す。
 森田を川上が倒して与えたフリーキックだったため川上は森田へ謝りに行ったが、その後自分のポジションに戻る前にリスタートされて陣形が乱れてしまった。クロスに対して先にクリアできればという部分はあるが、シュート自体はノーチャンス。クロス対応でラインが低くなってマイナスに対応できないところを意識しての森田のポジショニングに見えるが、あとは嗅覚だろう。

 同点に追い付き、ヴェルディは俄然元気に。追いつく直前から、山口を投入し、河村と2枚でゴリゴリ前進する狙いだったのだろうが、後ろを固める相手を打破するためにはそれしか策はない。そして、山口は見事な推進力を見せて左サイドを分かりやすく活性化、かなり高い位置まで運ぶ。だが、岡本がドリブルで簡単に破られる訳もなく、稔也とサンドしながら冷静に対応。CKこそ多くなれど、カットインは許さない。

 65分、72分とCKを染野が合わせたが、どちらも枠を捉え切れない。

 73分、KJと深堀を投入。その前から入っていた北川と共に、前で圧力を掛けて相手の勢いを削ぐ。

 76分、ヴェルディに勝ち越しのチャンス。平が左足で染野に付けると、染野は前を向いて山口に付けてオーバーラップし、リターンを受ける。染野に対しては川上が見事なチャレンジで止めたものの、山口が拾って前進。深く抉ったクロスに佐藤凌我がニアで触ろうと試みるも合わず。

 78分にもヴェルディの決定機。ビルドアップの局面から左の山口へ。ある程度持っていった後カットインし、空いたスペースに走った森田に渡す。森田は絶妙のタイミングで染野に斜めのパスを入れると、染野はスルーして佐藤凌我の足元へ。足裏で反転しようとしたところを岩上が突き、細貝が収めようとしたが、ボニがこの位置までチェックに来て即時奪回。こぼれを河村が拾って深くまで抉る。キックフェイントで小島を寝かせ、フリーの状態でマイナスのパス。最後はボニが右足で流し込む状況だったが、肝心のシュートが宇宙開発。ラストパスを出した河村とチャンスメイクした森田が崩れ落ちるのも無理もないくらいのビッグチャンス逸。

 その後もヴェルディが攻め立てるが、ウチは1ポイントでも積む構え。90分には藤井を投入して、完全に後ろを固める。

 90+4分、ヴェルディの最後のチャンス。ウチの陣内で馬場がボールを奪い、そのままPA内まで入る。鋭いパスは畑尾が足を出すが、森田が回収してもう1度。森田はバイタルまで至るもコースがなく、山口に戻す。山口は左足で柔らかいボールを送ると、染野が畑尾の手前で頭で合わせる。やられたと思ったが、ボールは右に流れていった。

 最後は心臓に悪かったが、何とか1-1のタイスコアで試合を終える。

雑感

 決定機の数では間違いなく相手が上回っていたが、しぶとく1ポイントを積んだ。残り試合が少ない中で、負けないことが兎に角大切。

 守備は、相手の連動性に終止手を焼いた。平とボニからどんどんCFに楔が入ってくるのは対応のしようがない。後ろに人数掛けた以上供給源を断つことは難しかった。その点を考慮すると、最後の部分で割らせずに耐え凌いだ価値は大きい。必要以上に喰い付いてスペースを明け渡す場面がサイドでは何度かあったので、そこは要修正。
 あと、フリエ戦では前から嵌められず不完全燃焼だった岩上が相手CHを捕まえるべく高い位置までプレスに行けていたのは大きい。重心が下がらずに押し上げられる要因の1つ。

 オフェンスでは、やっと流れからゴールが生まれた。川本の頑張り、国友の冷静の判断、稔也のドリブル、細貝のダッシュ、すべてが噛み合ってのゴール。やはり良い場面はCHが前に絡んでいるし、継続したい。
 また、CF2枚があまり落ちて顔を出したりサイドに流れたりせず中央で起点になってくれたので、両サイドの選手が高い位置を取りやすくなった。得点シーンも中央でCFが絡んだことで生まれた。

 75分以降はリスクを回避する試合運びを選択した。それだけこの試合の勝点の価値は大きい。
 他チームを気にする必要もないし、決定機を逸したことの責任を追及するなど誰が求めるのか(反語的に言いたいけど、一定数求めてそうで怖い)。

 状況はシンプル。目の前の敵を倒せばよい。

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