感慨無量 vs岩手 5-1

 プレーオフ出場権を手中に収めようという熊本の見事な組み立てに対応できず、大敗した前節。相手の配置の優位性、個人の優位性を十分に活かされて難しい戦いを余儀なくされたが、前半30分過ぎからは自分たちの時間を作った。苦しい試合から何を得たのか。

 ホーム最終戦、迎えるのは岩手。昇格初年度は序盤に勝ち星を重ねていたが、その後大型連敗を喫するなど徐々に失速。ただ、終盤になり残留争いが本格化すると尻に火が付いたかのように勝点を積む。
 基本的には5(3)バックで横の幅をケアし、引っ掛けると前線のパワフル系統の選手目掛けて蹴り込む。そこに1つポイントを作り、1.5列目の奥山や2列目の和田・小松などがセカンドボールを拾うことで陣形を押し上げる。やり方としては岩手の隣県の某チームと似ている。ただ、特筆すべきは反則ポイント97に象徴されるファウルの多さ。カテゴリーが変わったことによるゲームスピードの変化に対応しきれないことも要因だろうが、「イワテイッタイ」スタイルで殴り込む。

 文字通り生きるか死ぬかの大一番。3600分積み上げてきたものを表現し、自分たちの未来を自ら決めよう。

メンバー


 ウチは前節から2枚変更。平松→北川、国友→長倉。長倉は7試合ぶりのスタメン復帰。

 対する岩手も敗れた東京V戦から2枚変更。中野→オタボー、クリスティアーノ→ブレンネル。

前半

 立ち上がりはボールがどちらにも落ち着かなかったが、岩手の両WBが結構前までパワー掛けて限定しに来た。対するウチは相手の勢いに呑まれずに1つひとつ剥がして前進する。
 すると、岩手が無謀なアタックを止める。思ったよりも低い位置からラフに蹴るので、ウチとすると意図せずボールが握れてしまう。大体そうした展開だとボールの持ち方が分からず自滅していく流れに陥りがちだが、スピードを落とさずにサイドを使って攻撃しており、相手のペースに合わせなかった。

 11分、サイドからチャンスを作る。左サイドでスローインを入れ、短いパスを繰り返して右にボールを持ってくる。岡本が縦に仕掛ける姿勢を見せながらも1つ横のレーンに入り、中央の岩上に渡す。岩上→小島→細貝→小島→友也と繋がって友也は前を向く。同じ高さに落ちてきたKJとのワンツーでフリーになるとグラウンダーの速いクロス。ニアで北川が左足で合わせたが、惜しくもサイドネット。
 中盤でボールを捌くだけの余裕があるので、ビルドアップはいつにも増してしやすかったが、一度詰まっても逆に持っていけるのはこのチームの強み。そして、岡本が中に入ったタイミングで長倉がレーン被りしないように注意しながら裏を取る動き出しをしており、パスコースは複数できていた。

 18分、念願の先制点を挙げる。右サイドのCK。岩上がショートを選択して友也へ。友也はもう1つ後ろの細貝まで戻す。細貝はすぐ左の畑尾に付けると、畑尾がワンタッチでPA内にボールを供給。落下点に入った岩上が先にジャンプしてオタボーに競り勝ち、KJに繋ぐ。KJはゴールエリア付近で狭いスペースでも無理やりキープし、相手に身体を寄せられながらもモノともせずライン際で相手の股下を通すパス。これを北川が押し込む。
 ショートでボールを下げて畑尾もPAの外に引くパターンは以前も見たことあるが、スペシャルプレーを得点に結びつけた。それぞれが局面で相手を上回り続けたことでゴールまで至る。なんといってもKJが相手に手を回されながらも、身体を離した一瞬で中にボールを流したのは流石。北川も相手の死角から入ってきてゴールエリアの角で仕留める理想。

 ビハインドを負ったことで岩手はフラットな状態にしようと反撃を試みる。22分、岩手右サイドでのCK。中村太亮のアウトスイングの柔らかいボールにファーで奥山が合わせる。タイミングはドンピシャだったが、バックステップしながらのヘディングになった分、わずかに枠を捉え切れいない。

 得点直後の緩みがちな時間帯も超えて、ウチはゲームの主導権を手に入れる。岩手はボール保持時に、3CB+ボールサイドWB+CH1枚で回すのだが、やはり人員過多の印象は拭えない。加えて、CBがフラット気味になったり、WBとCHが同じ高さにいて深さがあまりなかったりと、ウチにとって脅威になるシーンは多くない。
 そして、ボールを回す位置が低いので、痺れを切らしたようにオタボーが必要以上に顔を出すあまり手詰まりに。そうなると例えハイボールをブレンネルに当てようがセカンドをウチが回収する場面が増える。最少得点差を保ちながら着々と時計を進めていく。

 ウチは長倉のところでポイントを作れた。中村太亮・和田・戸根の中間点で漂流して混乱を招く。畑尾から対角線のボールが入ることもしばしばあり、そのまま前を向くこともあれば、岡本のオーバーラップの動きを待って預けるなどの使い分けも可能。本来であれば岩手はセカンドボールの回収に人員を割きたかったはずだが、長倉の立ち位置及び長倉自身のプレスバックも相俟って後手に。和田が消化不良でHTに替わったのも長倉が良さを消したからといって過言ではない。

 45+3分、追加点のチャンス。自陣での小島のロングスローを北川が頭で逸らす。一度相手に跳ね返されたものの、友也が拾ってKJに付ける。KJは細かいタッチでいなして裏に抜けた友也へスルーパス。友也はPAに入る前にゴール前にボールを転がすと、トップスピードで入ってきた長倉がフィニッシュ。完璧な形だったが、肝心のシュートが松山に直撃してゴールとならず。
 決まらなかったとはいえ、カウンターの鋭さは強みである。でもって長倉がスルスルっと中に入ってきてフィニッシュに関われるのはセンス溢れる。

 優位に試合を運んで前半を終える。欲を言えば2点目を取って相手の戦意を折りたかったが、この段階では問題はない。

後半

 2点目を仕留めることをHTに指揮官から要求された選手たちは、試合を決めるべく後半頭から仕掛ける。

 47分、自陣でルーズボールを拾うと、岩上が敵陣まで持ち込む。KJとのワンツーを経て、岩上はワンタッチでDFラインの頭上を通して友也へのパスを通す。スピードに乗ってPA内まで侵入した友也は、中央の北川へラストパス。あとは押し込むだけだったが、パススピードが速すぎて北川が面を作ってコースに流し込む時間がなく、シュートはGKの内股に当たってコースが変わりポストを直撃。跳ね返りを北川が押し込もうとするも松山が確保。
 岩上がスイッチを入れてから素早く攻撃に転じた。宮市の上を超す岩上のボールの質は流石だし、ファーストタッチでボールの勢いを殺さず、尚且つマーカーの走路を塞ぐ位置にコントロールする友也は是非来年も敷島で戦ってほしい。

 追加点を欲するウチは攻撃の手を緩めない。56分、自陣PA手前で細貝が岩手のパスをカットするとすぐにKJに縦パスを付ける。KJは周りの上がりを気にしながら敵陣にボールを運び、北川へ繋ぐ。北川→長倉→岡本と右にボールを流すと、岡本は守備に難のあるブレンネルをスピードで千切り、中央の友也へ横パス。友也は左足の細かいタッチで体勢を整え、左足を振り抜く。相手に当たってディフレクトしたボールはGKの好守に阻まれるがゴールへ近づく。
 この場面でも細貝が瞬時に攻撃に転じるための楔を入れており、それにチーム全体が連動するようにトランジションした。どんどん後ろから人が湧き出るかのように攻撃に絡み、厚みを感じる。

 その流れで得たCK。敢えてバラバラに立ち、キックに合わせて動くと見せかけて、まさかのそのまま畑尾のところにストレートのボールが入る。やや大きめのボールだったが畑尾が身体を伸ばし折り返すと、棒立ちだったゾーン担当の面々の手前でKJがコースを変えてゲット。
 琉球戦では似たような形でネットを揺らして取り消しになったが、今度は文句なしのゴール。相手のゾーンの外側でボールを折り返せた時点でウチの狙い通りだし、KJも後ろから来たボールを上手くミートさせた。開幕当初は中央でのポジションで起用されるもなかなか結果が出ず、その後コンディション不良もあって苦しみに苦しんでいた藻掻いていたKJだが、最後の最後に中央での起用に応えた。やっぱりあのチャントはゴール後に聴くのが一番良い。

 が、直後に岩手が1点を返す。60分、ウチの陣内の浅い位置からの岩手のFK。中村太亮のボールにクリスティアーノが頭で合わせた。蹴られる前にラインを高めにするようにはしていたが、ラインをダウンする意識が強くてクリスティアーノのマークが浮いた。

 2点差から1点詰められ、嫌な雰囲気が蔓延る。ましてや、今シーズン初めて複数得点差でリードしたので、そもそもそこからのゲームコントロールが分からない。意思統一する前に返されるとなると不安は倍増。

 61分、そんな空気感を打破したのは7試合ぶりにスタメンに復帰した28番である。失点後のリスタートの流れで、岡本が最終ラインの後ろに蹴る。北川のポジションがオフサイドだったため、岩手の選手たちの脚が止まる。その隙を見逃さず、長倉が2列目から猛スピードでボールを追いかけ、ファーストタッチで牟田を置き去りにする。あとはGKとの駆け引きだったが、冷静にループでGKの頭を越してゴールに流し込んだ。
 起きた事象に対して後から論じるのは簡単だが、このプレーに両チームのこれまでの積み上げの差がハッキリと現れた。セルフジャッジで動きを止めるアウェイチームに対し、諦めずにボールにチャレンジした長倉を筆頭としたホームチーム。こういった細部を如何に突き詰められるかが大切。日頃から愚直に取り組んでいたからこそ、こうした場面でその成果が具現化してくる。

 相手の息の根を止め、再び2点差にしたことでゲームの流れは確実にウチに傾いた。そして手綱を緩めることなく、ウチはどんどん前に仕掛ける。
 67分、岡本がブレンネルからボールを掻っ攫うと、自らは前へスプリント。ボールを拾った長倉は岩上に落とすと、岩上はKJへのフィード。これは相手に対応されるが、友也が再度拾ってKJへ。KJは反転して前を向くと、平松を越して右サイドのスペースにボールを送る。そこにフリーで岡本が走り込んだ。完璧な展開だったが、岡本のファーストタッチがゴール方向に向かずにやや詰まってしまった。だが、粘ってCKを獲得。

 右サイドからのCK。2点目と同様の立ち位置で様子を窺う。岩上がまた同じ軌道のボールを供給。今度は、城和がニアでダミーとなり、その後ろから畑尾が走り込んでヘッド。このシュートが見事に決まって4点目。
 ボールが入る前、敢えて城和と畑尾がそれぞれ小松と等間隔の位置に立つ。インプレーになると、城和は素直に走り込むが、畑尾はすぐには動かない。一度縦に走るような動きから急に右に動いて小松に近付き、ボールが来る瞬間に相手の前に入り込んで合わせた。理想的な合わせ方である。

 試合は大勢を決していたが、まだまだウチは止まらない。74分、畑尾のロングボールは跳ね返されたものの、こぼれ球に細貝が素早い出足で反応して前線に送る。この浮き球を平松が右足アウトサイドでコントロールして甲斐を剥がしてPAに入り、そのまま右足一閃。ニアサイドをぶち抜いて5点目。
 これもルーズボールを拾ったところから手数掛けずに仕留め切った。なんといっても平松の無骨なガッツポーズはいつ見ても格好良い。前節の不完全燃焼は本人にとっても不本意だっただろうし、胸に期するものがあったはず。誰よりも強く祝福していた細貝をはじめ、ピッチ上の選手、ベンチの喜び方を見れば、チームメイトも平松の悔しさを分かっていたようだ。だからこそ、鬱憤を晴らすかのようなゴールに喜びを爆発させた。チームとしての一体感を感じるシーン。

 5点入ると試合は壊れるっていうことは身を以て体感している我々だが、まさか2試合で立場が入れ替わるとは思わなかった。
 岩手は3CBの脇は自由通行だったり、前線の選手がフラストレーションを溜めて機能不全に陥ったりして、戦い続けるのが難しい状態。

 最後まで前に向く姿勢を貫き、5-1で終了。来シーズンのカテゴリーを確定させた。

雑感

 この大一番で今までの蓄積をしっかりを体現した。

 守備の強度は前節と比べ物にならず。対戦相手が違うので一概に比較はできないものの、両SHが相手WBに対して牽制を掛け続けていたことがまず大きかった。それと、アバウトなボールを絶えず入れてくる中で、セカンドボールへの意識の強さがあった。細貝の反応速度はこれまでも凄まじかったが、この試合では全員がセカンドボールにアクション出来るような状態が整っていた。
 オタボーや奥山が焦れてIH化する時間帯もあったが、その際にも捕まえ方を変えずに対処したので、変にスペースを空けるような状況もなし。

 攻撃は今シーズン初の5得点。因みに、J2での1試合最多得点も更新。兎に角、ポジトラで相手を上回り続けてテンポの速い攻撃で殴り続けた。岩手の前線は機動力に欠けているため、1stプレスが機能していない。そこを活かすべく、ウチはどんどん縦にパスを打ち込んで局面を打開していった。
 また、長倉の存在感の大きさを感じる試合でもある。自らも仕掛けられるが、とても気が利くプレーでチームを助ける。右サイドでポイントを作って速攻と遅攻を使い分けられたので、幅が広がった。マッチアップする中村太亮は脅威だが、彼を守備に奔走させる状態を作った時点で勝負あり。

 苦しい時も長かったが、今シーズン得たものがあることを示した試合。縦への鋭さはシーズン開幕当初から磨き続けてきた武器だが、いざというときにその強みが発揮された。ただ、それ一辺倒では当然相手に対応されるわけで、チームとしての幅を広げるためにボールを保持することにもチャレンジした。どちらに比重を置くかのバランスは当事者たちでしか調整できない。相手との兼ね合い、自分たちの事情、天候、日程。試合にはあらゆる要素が影響を与える。常に勝ち続けることは不可能なリーグだからこそ、少しでも勝利する確率を高めるようにチーム・クラブは日々取り組んでいるのである。
 当然、結果を求められる集団ではある。ただ、自分たちの実情や立ち位置から目を逸らし続けたままで、目標に向かっての過程を度外視して、結果だけを追い求めることが何をもたらすのか。プロセスに共感を生み出すことこそ、地域にクラブが存在する意義ではないのか。結果以外に価値を見出せないのであれば、そもそもスポーツを楽しむことなどできるはずがない。

 話を戻すと、泣いても笑ってもあと1試合。残留は決めたものの、俺たちが勝ち取らなければならないものがまだ1つ残っている。最後にアウェイで蹴散らし、優勝カップを土産に帰って来よう。

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