孜孜汲汲 vs山口 2-1

 1つ1つの局面でのミスやロストが積み重なって結果に現れた前節。何か致命的に欠けていたものはなかったが、明確なコンセプトを持つ相手だったからこそ、僅かな差がバタフライエフェクトとなる。また、技術的な部分だけでなく、プレー選択にブレが見られた。ビハインドという要因はあったが、頭脳的にも疲労感があったのではないだろうか。それでも、後半の戦いだとチャンスは作れていたし、今後はそこをゴールまで結び付けられるかだ。

 GW最終日、3連戦3戦目を勝利で締めるべく迎える相手は山口。ポジショナル志向を継続し、ここ数年は比較的安定して残留争いに震えずに過ごしている印象。
 名塚体制も3シーズン目に入る。猛威を振るった橋本健人が栄転し、高井が2年連続でクラブに移籍金を残す。推進力を見せた沼田駿也も町田へと旅立った。その分、LSBに沼田圭悟で穴埋めし、中盤には矢島が加わった。また、トシも移籍。
 4-3-3を使う試合と4-2-3-1を使う試合がどちらもある。ただ、昨シーズンも採用していた4-3-3で挑む試合が多く、前節千葉戦も4-3-3。中盤の底にいる矢島がタクトを振る。CBの前とヘナンで縦を刺しつつ、その落としを受けて矢島がフリーになるのが狙い。また、WGの火力は強く、吉岡・小林・松橋等々スピードとボールコントロールに特徴を持つ。相手を引き出しておいて、サイドで競走させる。矢島がフリーでボールを蹴るシチュエーションができると、高確率でアタッキングサードまで進む。

 昨シーズンのホームでの惨劇(1-6)。中盤の脇でボールを引き出せればウチにも勝機があったが、我慢比べに負けて相手にイニシアチブを握られた。熊本戦同様にまたも相手のアンカーをどのように捕まえるか。一方で、IH化するウチの2枚がアンカーの脇でボールを受けるようになると、前進しやすそう。ただ、相手がCMF2枚置く可能性も当然あるし、それも矢島と佐藤が並ばれると守備時の対処が難しい。その1つ前の池上のハードワークにも毎回手を焼いているし、一筋縄にはいかないだろう。昨シーズンからの成長を見せるのであれば、あの大敗を払拭させる試合をしたい。


メンバー

 ウチは前節から3枚変更。山中→エド、佐藤→北川、平松→武。北川は今シーズン初のスタメン、エドはいわき戦の脳震盪から復帰、武も清水戦から8試合ぶりの復帰。

 対する山口もドローだった千葉戦から3枚変更。石川→高橋、山瀬→神垣、松橋→小林。

前半

 強めの雨が試合前から降り続いており、ピッチもだいぶ水を含んでいる難しいコンディションでキックオフ。
 様子見する間もなく自陣で山口にルーズボールを回収され、その勢いのまま吉岡がPAに侵入。鋭い軌道のクロスは櫛引が抑える。

 5分、山口のシュートシーン。最終ラインでボールを回し、前が持ち上がる。高橋が右外を走り出すのと入れ替わるように吉岡が顔を出してボールを受け、ワンタッチで神垣に落とす。神垣もワンタッチで左の沼田へ。沼田は小林に預けて外側を回る。小林は沼田を使うのではなく自らカットインしてクロス。これは寄せていた岡本が足に当てたが、こぼれを拾った高橋が左足でボレー。強烈なシュートは厳しいコースに飛んでいたが櫛引が見事なセーブ。
 噛み合わせの悪さを上手く使って右で作りつつ、素早く左にボールを解放して攻め込む。横幅を使われるのは対応しにくい。

 その後も山口のハイプレスに近い圧力を正面から受けてしまい、ウチはハーフウェーすら越えられずにロストする場面が目立つ。どのチームもそうだが長倉が下りてきた時に全く向かせてもらえない。それでも失わないのは流石だが、陣地を回復できない。

 が、これまでの流れを一瞬で変える。15分、自陣左サイドでのスローイン。エドが素早く投げると、この瞬間だけフリーになっていた長倉が相手IHの背中を取ったポジショニングでボールを受けてそのまま進む。アタッキングサード手前で詰まって長倉は風間に戻し、風間は大外のエドへ。エドはシザースを挟みながら一瞬のスピードアップで相手を剥がし、抜き切る前に左足でクロスを入れる。ニアで武がDF2枚を釣り、その後ろから北川がドンピシャのヘッドで合わせる。これが決まって先制に成功。
 エドと長倉のスイッチの入れ方が効いたが、右の外側から一気にゴール前入ってきた北川の嗅覚が活きた。山口のクロス対応が怪しいっていうのはこれまでの試合の情報としてあったが、エドが上げる時には最終ラインが無意味に下がり過ぎており、武・長倉・北川の誰もが楽にヘディングできる状況だった。北川はこれが今シーズン初ゴール。

 1点を取ったことでウチに余裕が生まれたのだが、それ以上に山口の立ち上がりからの強度が落ちた(落とした可能性もある)。また、山口はボール保持時にボールサイドに寄っていたが、前に行く意識が強くなってノッキング。レーン被りが増加し、結局外回りになっていく。ただ、ウチの最終ラインとCMFの間がやや広いので、ウチもウチでボールを落ち着いて回すことはできず。

 23分、山口のチャンス。右で作って詰まったところで、矢島が左サイドへと展開。沼田が左サイド深くで受けると、ヘナンへ落とす。ヘナンは沼田に戻すように左に身体を開きながら、外から引っ掛けるように蹴って小林に縦を刺す。小林→沼田→矢島とボールは後ろに戻り緊張感が緩んだところで、矢島が小林に楔を入れる。小林がワンタッチで落とし、五十嵐へ。五十嵐→高橋→前→ヘナン→沼田→ヘナンと右から左にボールが回って徐々にスピードアップ。ヘナンは1つ内側のレーンの五十嵐に渡すと、五十嵐は神垣に縦パス。神垣のワンタッチの落としに最後は河野がシュートを放ったが、左に逸れる。
 矢島のゲームメイクは分かっていたことだが、ヘナンが比較的高い位置を取ってくる。バイスほどの衝撃はないが、ウチがSHを出すのかCMFが捕まえるのかがハッキリしないと嫌。それと、IH→IHの縦パスがバイタルで行われているのは意味わからんな(誉め言葉)。これは対処のしようがない。

 上述の通り、山口は同サイドに枚数を掛ける。五十嵐と神垣の両IHが近くでプレーするので、ウチは頻繁にマークの受け渡しが生じる。基本的にビルドアップ時には矢島がサリーダして3バックとなる。CBが持った状況だと、IHがそれぞれCBの隣のレーンにポジショニングして斜めのパスコースを確保。それと同時にボールサイドのSBをさらに1つ前に出している。逆サイドのSBはIHと同じ高さに立ち、IHが同サイドに偏ったことで生まれるスペースを埋める。
 ウチとすると3バックにされると1stプレス隊との人数で噛み合わないし、相手SBが上がってウチのSHをピン止めするので、IHにプレスを掛けられない。そうこうしていると、WGがIHからの縦を受けようと下りてくるので、それをウチのCBが付いていくのかCMFが消すのかで迷う。

 これに対し、ウチは30分前後から岡本IH化を発動。相手IHに対してそのまま潰しに行くし、そもそも攻撃時に相手IHを引き付けているため、ロストしてもすぐに前に展開されることも少ない。これに伴い、北川が外に張りつつ、攻撃がしたくてうずうずしている酒井がタイミングを見計らってボールに絡んでくれるので、ある程度重心を前に押し上げることができてきた。

 38分、山口がゴールに近付く。山口最終ラインのボール回しに対し、エドがマーカー捨てて圧力を掛ける。しかし、前が落ち着いて1stプレスをブレイクして吉岡に縦を通す。ウチはエドを押し出してしまった以上、スペースを与えることに。吉岡は五十嵐とのワンツーでテンポを作り、外の高橋へ。高橋はクロスのタイミングを窺いつつ五十嵐に戻す。このタイミングで吉岡がスプリントして裏を狙っており、ややウチの選手の意識がそちらに釣られて五十嵐との間に距離ができた。五十嵐の左足の柔らかいボールは最終ラインを越したが山口の選手には合わずに櫛引がキャッチ。
 プレスにGoを掛けた時の後ろの連動ができずにやや間延びして、ギャップを吉岡に使われた。時間帯を考えるとプレスに行くべきだったかは難しいが、折角パワーを掛けたのだから引っ掛けたい。

 41分も山口のチャンス。ヘナンが北川のプレスの矢印を折って剥がし、左外の沼田へ。沼田はフリーで受けると、逆サイドの吉岡にサイドチェンジ。吉岡は1stタッチがやや大きくなったが大回りで前を向いて矢島へ。矢島→吉岡→髙橋と繋がる。矢島がPAに走り込んだところに高橋が綺麗に通すと、矢島はワンタッチで落とす。これをPA角で吉岡が受けて、左足を振り抜く。鋭いシュートだったが、櫛引が冷静にパンチング。セカンドボールを五十嵐が強振するも遥か彼方へ。
 ヘナンの上手さが事の発端だが、ここでも矢島が良い働きを見せる。そして全体が連動しているので、矢島が動き出したあとのスペースも有効に使った。

 立ち上がりはどうなることかと思ったが、先制した後は上手く立ち回ってリードで折り返す。

後半

 後半開始から長倉→佐藤。佐藤をRSHに入れ、北川と武の2トップ。
 で、後半も立ち上がりから兎に角押し込まれる。

 まずは46分、ウチが前から嵌めに行ったところで、吉満のクリアが吉岡に上手く収まり、吉岡→五十嵐→神垣と右で繋がる。ウチがラインを下げてクロスを警戒したことを逆手に、神垣は吉岡に平行のパス。吉岡はコントロールして、巻くようにシュートを撃ったが左に外れる。

 さらに48分、佐藤がヘナンに寄せにいったが、五十嵐を経由して沼田へ繋がれる。沼田は河野へ斜めの楔を入れ、五十嵐に落とす。五十嵐はコントロールでバタついたが、隣の神垣に渡し、神垣は右の吉岡に大きく展開。吉岡はタメを作り、PA角に斜めに走り込んできた五十嵐へ送る。五十嵐は角度がない中で強引に右足でシュート。ニア上の良いコースに飛んだが、櫛引が弾く。

 続く55分、一度マイボールにしたもののサポートがなく岡本がロスト。奪った五十嵐は矢島に戻す。矢島→沼田→小林→神垣と連続した動き・少ないタッチで繋がり、神垣はPA深くからマイナスのボールを入れる。これに河野が左足で合わせたが、これも枠を捉えず。

 それでも61分、ようやく山口がチャンスをモノにする。山口最終ラインでボールを回し、前がRSBのような高い位置でフリーでボールを受け、キックフェイクを3回入れて河野に縦を刺す。河野の落としは引っ掛かるが高橋が拾って隣の五十嵐へ。五十嵐→ヘナン→沼田→小林→矢島とボールは山口の右サイドに推移。矢島はプレッシャーの掛かっていない状況で独特の間合いでボールを持ち、足先を開くようにして風間の脇を通し五十嵐へ。五十嵐はややコントロールが流れたが右足を振り抜くと、ディフレクションしてゴールに吸い込まれた。
 前の縦パスの所で上手に幅を使われた。そして矢島がバイタルでボールに絡むと決定的な仕事をする。
 ウチとすると何とか耐えたかったが叶わず。現に、失点直前に山中が準備しており、ここを乗り切ればという思いはありつつ、そもそもあの流れなら早かれ遅かれ仕留められていた可能性は高い。

 後半開始から終始山口にやりたいようにやられている。テコ入れして相手のビルドアップに牽制を掛けようとしたが、プレスが空転し続けた。CB→IH→SBの繋ぎで簡単にプレスを無力化される。特に相手IHの置き方は悩ましかった。WGにウチのSBがピン止めされるので、ウチのCMFが相手のIHとSBの2枚を監視下に置く状況ができる。結果として1stプレスでこちらからアクションしているにも関わらず、1stラインをブレイクされるとすべて後手を踏む。
 修正を施すべく、61分にエド→山中、67分に北川→平松、アマ→内田。この交代を含めた修正が効いた。特に内田が入り、岡本を積極的に1つ前に出して捕まえるようにし、仮に剥がされても内田と酒井がフォローしてサイドに追い込んだ。

 後ろの守りに安定感が出てくると、今度は前に押し上げる。71分、左サイドで起点を作り、山中が仕掛けようとするも無理せずに中塩に送る。中塩は風間を飛ばしてフリーの内田へ。内田は丁寧にコントロールすると、鋭いフィードを最終ラインの頭上に通して落とすと、大外から岡本が走り込んで頭で合わせる。完璧な抜け出しだったが、シュートが明後日の方向に飛んだ。

 そして迎えた76分、勝ち越しゴールが生まれる。ゴールキックを右で佐藤が受けると、大外で高い位置を取っていた岡本へ。岡本は厳しく寄せられても失わず、風間に通す。風間は左の山中に大きく展開。縦の仕掛けをだいぶ警戒されていたが、山中は敢えてアーリークロスを選択。これを武が頭で合わせ、ボールはネットを揺らした。
 手数を掛けずにゴールまで至るのは良い。山中が縦に仕掛けることは相手もスカウティングしているが、それを逆手に取ってのアーリー。そして点で合わせる武も素晴らしい。CBの間に走り込んでファーに叩き込む一連の動きはストライカーとしての極意。

 再びリードしてからの15分ほどは無理せずにクローズする意図が色濃く出た。5-4-1のブロックを敷いて外回りをしてもらおうとした。ただ、重心が重くなってギャップを山口の人材豊富な2列目に使われるシーンが目立つ。90分の矢島のシュート、90+1分のヘナンのシュートは心臓にあまりにも悪すぎたが、櫛引・畑尾を中心とした守備陣が落ち着いて対処。

 一時は追いつかれたが、何とか要所を抑えての2-1勝利。

雑感

 決して良い内容とは言えず、かなり山口に苦しめられたが、それでもこうして3ポイントを積んだのは大きい。連敗しないことも大事。

 守備時は噛み合わせの悪さでプレスが嵌らずに前進を許し、バイタルまでも結構な回数侵入された。列によって数的優位と数的不利ができるわけで、どこで数的優位を作ってパワーを掛けて奪いに行くかの設定をしたい。この試合では恐らく最終ラインでは枚数が揃っていたので、結局最少失点で乗り切れた。今後は、もう少し前で引っ掛けられるとリスクは減るし、最終ラインを上げてギャップを埋めることもできる。

 攻撃は、相手のウィークでもあったクロスからの2ゴール。ボール奪取後にバタついてすぐにロストする場面は見受けられたが、無理に縦を急がずにやり直しができるようになると更に厚みを増す。

 これでシーズン3分の1を消化。14試合で26ポイント積んだのは想像以上。このまま流れを維持できるとは言えず、当然相手の警戒・研究も進む。その中で如何にして日頃から成長するか。ここまで積んできたものに自信を持って、その上で真摯に向き合うことが大切。

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