具不退転 vs熊本 1-1

 90分間安定した守備を見せつつ、試合を決めるゴールを奪えずに1ポイントを得た前節。さほどゴールを脅かされることなく、安心して見ることはできたが、試合数が減ってくるにつれて、ああいう試合展開を勝利に持っていけるようにしたい。

 内容は悪くないものの3連続ドロー・7戦勝利無し(5分2敗)と字面はやや重く、そろそろ勝利を掴もうと迎える今節の相手は熊本。中3日という条件は前回対戦時と同様だが、昨シーズンからひたすらやられ続けている相手である。
 大木氏のもと、狭いスペースでも躊躇なく繋げてくる。逆サイドにWGが幅取り隊として位置しているのも対応を難しくする一因。平川が神出鬼没な動きを見せるので捕まえにくく、結局一番美味しいところで仕事をされてしまう。同サイドで短くパスを重ねつつ、横パス・落としからワンタッチで縦に一刺ししてくる。楔の前のパスに喰い付いてディフェンスの重心が上がったところで方向を変えられるので、どうしても相手は後手を踏む。徹底して狙ってくるからこそ動きに無駄がなく、スピード感がある。

 GW最中のアウェイゲームではチーム全体として身体の重さが見受けられ細かいミスが頻発。球際で相手に上回られ、最後まで差を詰めることができなかった。噛み合わせの悪さは百も承知だが、前節徳島戦では3CB相手にも十分戦えた。前回と同じくミッドウィークの試合になるが、同じ相手に2度(昨季から数えると4度)やられる訳にはいかない。ここ数試合の熊本は3CB脇のスペースを使われてラインが崩れ、苦しんでいる印象。ウチも上手く深さを取って攻め込みたい。

メンバー

 ウチは前節から4枚変更。畑尾→城和、風間→内田、エド→佐藤、平松→川本。前節前半のみで退いた畑尾はメンバーから外れる。城和と内田が今シーズン初スタメン。ベンチには菊地がリーグで初めてメンバー入り。

 対する熊本は敗れたヴェルディ戦から3枚変更。黒木→阿部、竹本→田辺、松岡→東山。日曜日にタイでのU-17アジアカップ決勝でセンセーショナルなプレーを見せて優勝に貢献した道脇が中2日でベンチに入る。

前半

 小雨がぱらつく中始まった試合は、いきなり熊本がチャンスを作る。

 3分、熊本の最終ラインからのビルドアップに対してウチが前に掴みに行くも少ないタッチのパスで上手く剥がされて左サイドで縦パスを入れられる。東山がワンタッチで逸らすと、粟飯原が左に流れてくる。内田がスライディングでチャレンジするも粟飯原が前を向く。そのままアタッキングサード手前まで前進すると、オーバーラップする東山を囮に逆サイドの大本に展開。縦に切り込むことを警戒して中塩は間合いを空けて対応したが、大本はカットイン。隣のレーンに入ったところで勇利也もボールにアプローチしたが剥がし、大本は左足でシュート。外側から巻くような弾道のボールは左ポストにクリーンヒット。
 熊本の狙いとする攻撃を早速仕掛けてきた。横パスを織り交ぜてウチを前に喰い付かせて、同一サイドで楔を刺された。そこから東山と粟飯原でポイントを作り、ウチのラインを押し下げて、その手前のスペースを使う平行のパスで逆に振る。さらにそこから中に切れ込んでくるとなると、ボールホルダーにプレスに行くための距離が長くなる。最後のシュートはブラインド気味で櫛引もやや反応が遅れてしまったが、ポストに救われた。

 12分にも熊本に決定機。ここも熊本が自陣で最終ラインがボールを持つ。例によって上村を挟むようにしてウチの1stラインが構えるが、熊本はRWGの島村がIHのように落ちてきて逃げ道を作っていた。阿部にボールが入ったことでウチはスイッチを入れて山中が猛然とプレス。すると阿部→上村→大本とワンタッチで繋いであっさり1stラインを突破。この辺りは流石といったところだし、ウチも剥がされるのはある程度織り込み済み。フリーとなった大本はタッチライン際をボールを転がして中塩の脇のスペースに粟飯原が走り込む。すかさず城和も流れていき粟飯原に自由を与えない。そこで大本がスプリントしながらアンダーラップして山中を釣り、スペースを作る。粟飯原はそのスペースを使ってややゴールとは逆方向にボールを進める。そこから腰の回転を使って勢いを出して左足でクロス。これがそのままストレートで抜けていきゴールへ吸い込まれる。ただし、オフサイドポジションにいた平川が櫛引の視界を遮ったとしてオフサイドの判定。命拾いした。
 山中がマーカー捨てたことで熊本は大本が空くことを瞬時に把握して組み立ててきた。この辺りは流石。

 スペースの作り方と使い方に熊本は長けており、どこにボールを流せばいいかがオートマチックに整理されている。ウチが引き金引いて局面変えるためにプレス掛けるのはある種のプロレス的要素も含まれている。あくまで重要なのは最後のところでやられないこと。序盤に立て続けにフィニッシュまで持っていかれたが、耐えた。それと、崩し切られたわけではなくバイタルに侵入される手前で打たれているので、アプローチだけ気を付ければ大事故には発展しない。

 17分、ウチのシュートチャンス。押し込んだところを熊本がクリアし、城和がハーフウェー付近で跳ね返す。中塩→長倉→岡本→酒井→岡本と繋がり、岡本は敵陣にて相手を剥がして一気にハーフスペースを突破。大外に佐藤もいたが、岡本はCB間を通すパスを選択。そこに川本がダイアゴナルランで抜けると右足でシュート。しかしこれは田代がキャッチ。
 セカンド回収した流れから岡本の突破で局面打開。この際、佐藤がサイドに張ることで大西を外側に張り付け、それによって空いたゲートを岡本が通した。

 熊本も躊躇せず前から捕まえに来たが、ウチも一歩も引かずに足元で繋ぐ。内田が島村・大本・平川の重心でボールを引き出して前を向いているのが効果的。また、前節から本格復帰した長倉を楔を入れて、何か良く分からんけどターンできちゃうってのは今シーズン何度も助けられている部分だが、この試合では川本も最前線で張るのではなくライン間に落ちてポイントになっていた。これにより、ただでさえ高めの熊本最終ラインがさらに前に潰しに来るため、背後に広大なスペースが生まれる。それとともに、中に詰めてくるので、CBの脇も当然ながら自由通行となる。
 川本がボールを収め、IH化している佐藤と長倉に落とし、その間に岡本と山中がサイドでボールを追い越してスプリントして数的優位を得る狙い。

 29分、待望の先制点。ウチが後方で回していて熊本の重心が上がったところで、中塩が最終ラインの背後に落とすフィード。山中と川本の2枚が反応して圧力を掛け、江崎のクリアを川本がカット。川本→長倉→勇利也→岡本とラグビーよろしく綺麗に左から右にボールが推移していくと、岡本が長倉に楔を刺す。PA内で長倉は上手くボールキープし、斜め後方の佐藤に渡す。長倉の思いやりある優しい落としを受けた佐藤はワンタッチでインスイングの完璧なクロス。これに勇利也が頭で合わせた。
 まずは川本と山中のプレスで高い位置でボールを奪えたのが要因。そして、岡本が敢えて縦を選択したことで田辺の意識が長倉に向き、佐藤がフリーの状況が作り出せた。あれだけの時間と空間があれば、佐藤の左足からは高精度のボールが供給される。そして何といっても勇利也。右にボールを流す中でもボールに関わっており、やはりCMFがバイタルで仕事をするのは効果的。そこからさらに決定的な働きも見せるとなると申し分ない。
 今シーズン始動時はCBでトレーニングするなど、自らの可能性を広げようと取り組んでいた。なかなか出場機会に恵まれず苦しい時期も過ごしたが、巡ってきたチャンスを逃さなかった。このゴールは本人にとって大きいのは間違いないが、チームにとってもプラスに作用する。中盤のポジション争いは益々熾烈になる。

 先制後もウチは冷静に試合を進める。熊本もボールは保持しているが、シュートはPAの外側からのものがほとんど。勿論、キック精度には定評のある選手が揃っており、スリッピーなピッチコンディションを考慮してのグラウンダーのシュートは嫌らしかったが、櫛引が落ち着いて対応。

 危うさもなく安定した戦いを見せ、リードを保ったまま前半を終える。

後半

 後半開始からウチは岡本→エド。エドはそのままRSBに入る。後半立ち上がりはウチが鋭さを見せ、チャンスを作る。

 49分、熊本のクロスを城和が跳ね返すと、川本がセカンドの競り合いに競り勝つ。そのこぼれを長倉が回収すると一気に加速して敵陣に攻め込む。山中がアンダーラップしながら大本をスクリーンして抑える。山中が作ったスペースを用いて長倉はカットイン。ファー目掛けたパスは相手にカットされるが、そのボールを内田がハーフボレー。抑えきれずにシュートは枠の上に飛んでいったが、可能性の感じる軌道だった。
 得意のポジトラでの勝負。誰がスペースを作って誰が活かすのかっていうのは明確になっている。最後のバイタルのアイデアはここでは再考の余地があった。

 その後も熊本がボールを保持してウチの陣内に押し込む時間は長かったが、ウチも焦れることなく重心低くなることなく対応。むしろ、相手の局面打開の縦パスを引っ掛けてカウンターに出る場面も増えていったので、大きなストレスはなかった。

 59分、熊本は大西→黒木、東山→松岡、粟飯原→道脇の3枚替え。分かりやすく流れを変えようという交代だが、この交代後から熊本は攻め方を変えてくる。今までのように少ないタッチのパスを重ねるのではなく、多少アバウトでもウチの片上げ3CBの脇や背後を狙ったフィードが目立つ。フィード自体が通らなくても、2列目の人数の利を生かしてセカンドを回収して押し込もうという狙い。

 熊本がやり方を変えてきて、ややウチは受け身の時間が続く。CKが連続する嫌な雰囲気も漂ったが集中を切らすことなく対応。
 ウチは67分に佐藤→エド、熊本も70分に島村→伊東の交替。

 76分、ここで試合を決するチャンスを得る。自陣でボールを回収し、中塩が左サイド深くへフィード。長倉がそこに流れてパスコースを窺い、中央の内田を選択。内田はPA右角の山中に渡すと、山中は縦に抉るタイミングを探る。しかし、流石に相手に警戒されていたので内田に戻し、内田はワンタッチでクロス。そのボールに平松が競るが阿部が先に跳ね返す。セカンドを熊本が確保しそうだったが、後方から中塩がスプリントしてマイボールにすると左サイド深くまでボールを運び深さを生み、左PA角の川本へ。川本の左足の抜群のクロスを山中がヘッド。完璧に枠を捉えていたが、田代が右足に当てて窮地を救う。
 最初から最後まで最高の攻撃だった。これを決めて点差を2点にすれば試合は大方決まっていただけに、悔やまれる。山中と長倉がヘディングの際に交錯していたようにも見られるが、このシーンでは田代を称えるしかない。

 80分、熊本にも決定機。右サイドで短いパスを繋いで人口密集度を高める。阿部から江崎に落とし、一度ウチのラインアップのタイミングを作ったところで江崎から一気に縦のフィード。右の伊東を走らせていると思いきや、そこをブラフにして中央で道脇がフリーで抜け出す。櫛引との1対1で道脇は思い切りよく右足を強振したが、ボールは枠を超えていく。
 ややウチのラインコントロールが乱れて簡単に裏を取られた。それにしても、U-17代表ではインパクト大だった道脇だが、敵にしてみると改めて脅威であることが良く分かる。先日の韓国戦でも果敢にゴールを狙い、後半ATに試合を決定付ける3点目を奪っていたが、エゴイスティックな部分は魅力的。ワールドカップでも結果出して、早く海を渡ろう(暴論)。

 86分、再びウチに追加点のチャンス。後方でのボール回しに熊本が牽制にこなかったため、中塩がボールを持ってそのまま駆け上がる。そこからハーフスペースにボールを転がす。江崎がボールに反応したが長倉が上手く入れ替わってPAに侵入。角度はなかったが、左足で股下を狙いすましたシュート。しかし、ここも田代に防がれる。

 決定機を仕留め切らないと暗雲が立ち込めてくる。そして89分、熊本にイコアライザー。どちらもボールをキープすることができずに中盤でボールが落ち着かず攻守が入れ替わる状況が続く。中塩が素晴らしいインターセプトを見せたが、パスを出す直前に伊東に突かれる。平松の元にボールは転がっていたが、その手前で江崎が回収して平川に付ける。平川は前を向き、左でフリーの竹本を使う。竹本のワンタッチのボールにファーで松岡が合わせた。
 ポジトラをしようとしたタイミングでロストしたので、どうしてもラインが崩れる。それぞれの要因は細かい部分だったが、バタフライエフェクトとなった。

 90+4分、ウチのラストチャンス。熊本右サイドのスローインをシラが気迫を見せてカット。江崎がセカンドを回収したが長倉が後方から忍び寄ってボールを奪う。長倉→勇利也→北川→エドと繋がったところで黒木のプレスに遭って失う。しかし、黒木から平川に繋がったところに風間が厳しくプレスを掛けて即時奪回。風間→勇利也→シラと渡り、シラは得意のドリブルでアタッキングサードまで運ぶ。強引に持ち過ぎずシラは右の風間を選択すると、風間は右に流れた平松へ。平松はGKと最終ラインの間に鋭いクロスを入れ、最後は長倉がダイビングヘッド。しかし、シュートは枠の左に飛んでいった。

 ラスト15分で互いに立て続けに決定機を迎えたが、結局は熊本が終了間際に追い付いての1-1のドロー。

雑感

 最後の最後に手元から2ポイントが手元から零れていった。内容はここ数試合同様に不足しているわけではないだけに、悔しさはある。やはり1つ勝つのは難しいと痛感する。

 守備は安定感があった。大木体制の熊本と対戦した3試合ではボールを握られて簡単に前進される印象があったが、今回はボールこそ握られど、ウチの重心が下がることなく対処した。前半から酒井が中心となって声を出してラインコントロールしていた。それとともに、CMFの勇利也と内田が上村と平川という相手の鍵を握るポイントで自由を与えなかったことも大きい。一定の手応えは掴んだはずだが、それでも0で終われなかった部分を修正することにはなる。失点時の対応は時間帯・状況考えても難しかった。ポジトラ→ネガトラの入れ替わりでの守備はバランスを保つことも簡単ではないので、どうやってマイボールで時間を確保すれば良かったのかという部分に帰結するのかなとは思う。

 攻撃も理想的・狙い通りの形は何回も作った。仕留めるか仕留めないかってところで後者に転んでモメンタムを相手に渡した感はあるが、如何せんモメンタムは自分たちでどうこうできるものではない。バイタルでの形の構築や決定機をどうやって仕留めるかは、今後も積み上げていくのである。近道はない。

 試合展開的にモヤモヤが残るものではあるが、90分トータルで考えるとやはり内容が悪いというわけではない。これで4連続ドローとなったが、着実に1ポイントは積んでいる。成果は確実に出ているはずで、あとはそれがどのように結果に結びついてくるか。
 ホーム連戦となる次の栗鼠戦こそ、試合後に草津節を歌おう。

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