求不得苦 vs熊本 0-2

 ハーフスペースを使った相手の攻撃に手を焼きながらも、サイドからPA角への斜めのパスで局面を打開しての2発で逆転した甲府戦。先行逃げ切りができるに越したことはないが、ビハインドを負ってもリバウンドメンタリティを見せて引っ繰り返すのは、上を目指すにあたっての必要条件となる。90分通してのハードワークが実を結ぶという成功体験を重ねることで、よりチームは強固になっていくはず。

 GWに合わせての中3日で乗り込む今節の相手は熊本。J2再昇格1年目の昨シーズンは、J3で構築してきた陣形圧縮で躍進。プレーオフ決勝まで進み、京都を土俵際まで追い込んだ(あのATのシュートが入っていればっていう話はこれからも語り継がれるであろう)。
 今シーズンも大木氏が指揮を振るが、結果を残したが故に草刈り場と化し、昨シーズンの骨格を成していた選手たちが軒並み移籍していった。イヨハ(to広島)、菅田(to仙台)、河原(to鳥栖)、杉山(toG大阪)、坂本(toフリエ)、高橋(to浦和)などと、これだけ抜かれるのは怖い。
 それでも、今シーズンも戦い方は継続。攻撃時に3-3-4となる3-4-3はボールサイドに多くの人数を割きつつ、逆サイドにWGを配置して幅を使う。また、楔を入れる時にはFWとOMFが入れ替わることも多く、それだけ相手からすると捕まえにくい。基本的には片寄せして、同サイドで完結させることを狙うチーム。中心となるのは平川。瓦斯U-23時代にも対戦経験はあるが、オフェンスセンスはリーグ随一。ハードワークをしながらもゴール前で決定的な仕事ができる。

 昨シーズンはダブルを喰らった。ホームでもアウェイでもチームとしての差を見せつけられた記憶。熊本はシーズンを通してメンバーをある程度固定して戦ったことで、それぞれの選手が注目されるようになった。難解なこのリーグを勝ち抜くにはメンバーを固定して練度を高めることもアプローチの1つ。ただ、それで昇格できなかったとなると、オフシーズンを震えながら待つほかない。2020シーズンに躍進した北九州のその後を考えると、固定化には功罪がある。ただ、ここまで土台を作ってきたからこそ、それがどこまで機能するかは楽しみである。熊本はプレス耐性もあるので、そこの辺りを1stプレス隊のスタート位置を決めておかないと、どうしても前のめりとなる。ある程度引き込んで、一気に陣形を引っ繰り返せればウチにとってはチャンスが増えると見込む。

メンバー

 ウチは前節からメンバー18人ノーチェンジ。中3日且つ長距離移動に伴い、コンディション面での懸念はあるが、あくまで流れを崩さずに戦うことを選択。酒井は古巣との一戦。

 対する熊本も色々と遺恨が残った町田戦からスタメンノーチェンジ。終盤は途中出場の大崎や粟飯原がエネルギーをもたらして息を吹き返していたので、その辺りの選手起用も鍵となるか。

前半

 立ち上がりは、ウチが長いボールを使っていつものように様子見していたが、思っていたよりも前進できた。3CBの外側にボールを落とし、そこに山中や川本を走らせて1つポイントを作る。そこから1つ内側のレーンにいる佐藤や長倉にボールを送り、バイタルで勝負するシーンを作った。ただ、ボールコントロールの細かいミスがあり、相手DFのブロックに遭うことが多い。

 15分を過ぎた辺りからは、今度は最終ラインから楔を打って押し上げを試みる。左では山中が大外に張って黒木や藤田を引っ張り、空いたスペースに長倉が入り込んでボールを引き出す。右では川本にボールが収まるので、中塩や酒井から足元への縦パスが何度か見られた。

 ただし、熊本もボールを動かしつつ、積極的に打ってきた。ウチはハーフスペースを使われないようにボールサイドのSHとCMFの距離感を近付けてレーンを埋めて対応。密集されても、スペースを消すことで走らせないようにした。それ自体は効果的だったのだが、セカンドボールへのアプローチがしっくりこない。石川と竹本に立て続けにミドルを打たれたが、シュートコースに入れておらず、気持ちよく足を振られた。

 21分、CKからウチがチャンスを作る。左サイドで佐藤が構えると、ショートを使う。ボールを受けたアマがアウトスイングのボールを入れると、大外から回り込んできた畑尾がヘディング。相手の厳しいマークに遭いながらも、マーカーの上から合わせた。しかし、田代に防がれる。

 その後は熊本の時間帯。ウチは長倉が上村番として付いているので、3CBへの圧力は強く掛けられない(当然、後ろからGOが掛かるとSHがマーカー捨てて相手CBを捕まえには行くけど)。加えて、長倉と川本の1stプレス隊のライン設定が上村になっているので、どうしても全体の重心が低くなってしまった。すると、熊本の最終ラインでボールを上手く動かされ、段々とウチが人数掛けてボールに喰い付くようになる。そうなれば、熊本はサイドに大きく張ったWGやIHにボールを解放して一気に前進。ウチも中央は強固なのでゴール前では落ち着いた対応を続けるものの、その1列前では水漏れが目立つように。

 また、35分過ぎにベンチから「スピード上げ過ぎ」との声が飛んでいる。熊本もトランジションが速く勢いを持って仕掛けてくるので、ウチが引っ掛けた後もすぐにボールを前に動かそうとする意識が強まっていた。勿論、最近のウチのビルドアップであればロストはしないものの、オープンな展開にさせてしまっては分が悪い。勝負する時間帯ではないし、落ち着いて後ろで繋ぎたかった。先制して楽になりたいって思いが強く、やや焦れてしまったのかなと個人的には思う。

 39分、熊本がゴールに近付く。ウチに小さいボールコントロールのミスが重なり、自陣でスローインを与える。藤田は最終ラインの江崎に入れ、自らは前方に動き出す。江崎→黒木と繋がり、ここで長倉と山中のゲートを通されて藤田に楔が入る。ここには風間がアプローチに行くも、藤田は江崎に落とし、江崎はワンタッチで最終ラインの後方へ。そのボールに石川が抜け出し、角度のないところから右足でフィニッシュ。捻る意識が強く、ボールは右に流れていったが、可能性のある形。
 そもそものボールの失い方もよろしくなかったが、マーカーとの距離が全員離れており、プレスのスイッチが入らないままボールを動かされてしまったのは嫌な兆候。

 44分、遂に失点。風間からアマへ通そうとしたところをカットされ、自陣深い位置でロスト。石川→松岡→島村と右にボールが運ばれる。松岡が外側を追い越す中、島村はインスイングのクロスを入れる。これを平川がワンタッチで落とし、走り込んできた上村へ。上村はシュートではなくマイナスのパスで平川へリターン。平川は落ち着いてコントロールし、左足で突き刺す。ボール奪取から時間を掛けずにゴールまでやり切った。
 ロストの悪さが発端にはなるが、その後の対応が後手を踏んだ。上村の動き出しは見事だったし付いていくのは難しいが、足が止まってしまった。何とか耐えたかったが、嫌な時間帯に先制点を奪われる。

 さらに45+3分、熊本が再び襲い掛かる。ウチのクリアボールをハーフウェー手前で回収。左サイドでボールを持った上村は、外の竹本へ。竹本が受けた際に松岡が寄ったので佐藤が牽制に行くと、それによって生まれたスペースに平川が走る。竹本からの浮き球を受けた平川はワンタッチで後方に落とすと、先ほど起点となった上村がPA内に侵入。タメを作り、中央の藤田へ。後ろから入ってきた藤田が左足を振り抜いた。強烈なシュートは櫛引が何とか弾く。こぼれを石川が詰めるも、ここも櫛引が何とか阻止。オフサイドのアピールもしていたが、シュートを撃たれた瞬間は映像を見る限りセーフだったように感じた。いずれにしても、ギリギリのところで追加点を阻止。

 時間経過とともに熊本ペースで進んでいったが、何とか最少得点差を保って前半を終える。

後半

 後半開始から佐藤→シラ。山中が右に移り、川本が左へ。前線はシラと長倉が並ぶ形。

 すると49分、いきなりゴールに近付く。熊本の蹴り捨てたボールを畑尾が胸でコントロールしてアマへ落とし、アマが中塩に渡す。アマはパスを出して直ぐに動き直し、平川の脇で中塩からのリターンを受ける。アマはいつものようにピボットで前を向くと、右横の岡本に送る。岡本は加速しながらアタッキングサードまで運び、大外の山中へ。山中はDFの背後に岡本を走らせるコースを窺うが、相手がフェイクに乗らなかったので酒井へ一度下げ、すぐに受け直す。酒井もパス&ゴーでオーバーラップして攻撃に厚みを出す。山中は正対する2枚を引き出すようにに自陣方向にドリブルし、喰い付いたタイミングで隣のレーンを抜け出したシラへスルーパス。シラは中央へ折り返したが、惜しくもクリアされた。
 インサイドに岡本、アウトサイドに酒井がいるっていう状況を作り出し、局地戦で真っ向勝負。酒井が出てくるタイミングもシラが裏に抜けるタイミングも仕込まれていた。前半途中からはほとんどPAに入れない時間帯もあったが、立ち位置を変えたことで改善の兆し。直後にも右で仕掛けてPA角から山中のシュートもあり、押し返そうとしている。

 しかし、熊本も追加点を狙う。ウチがボールサイドのSHを前に押し出して前半よりも最終ラインに限定を掛けるようにはなったが、大西が上手く長倉と山中の間を通して藤田へ。藤田はハーフウェーを超え、アマが寄せてきたことで平川へ繋ぐ。平川に対しては酒井が離さずに付いてきたが、平川は無理に剥がすのではなく、レーンを移動して外に逃げて近い距離で松岡とワンツー。ここに岡本・アマ・山中の3枚が詰めてきたので、平川はワンタッチで隣の竹本に逃がす。竹本は松岡とのワンツーで時間を作り、右足を振る。これは腰の回転が弱く、右に逸れていった。
 やはり狭いスペースで少ないタッチでプレスを剥がす形は熊本の強みである。平川が顔を出してくることでウチのCMFがチェックに行かざるを得ず、さらにIHが入ってくると、瞬時のマークの受け渡しは求められる。

 前から人数を掛けていた分、剥がされるとスペースが生まれるのは仕方ない。守備時のプライオリティを後半になって変えており、まずは最終ラインに限定を掛ける。その上で、大外は捨てているように見えた。その分、SHのプレスバックは必須であり、緩めば一気に攻め込まれるリスクはある。
 また、ボール保持時は岡本がアラバロールによって中に入り、松岡をピン止め。それによって外に張った酒井や、1つ飛ばす山中へのパスコースを作る。

 ただ、流れを掴み切れないウチは61分、川本→北川、天笠→内田の2枚替え。北川はそのまま左に入る。

 すると63分、その左を起点にチャンスを作る。熊本右サイドからのクロスを風間が跳ね返すと、北川がワンタッチで中塩に落とす。中塩→長倉→北川と三角形でワンタッチが続き、さらに北川はシラへの縦を通す。シラは無理に仕掛けず押し上げる時間を作って風間へ。風間は畑尾に下げると、畑尾はインサイドの岡本へ楔を刺す。フリーの岡本はそのまま敵陣に侵入し、長倉へ絶妙なスルーパス。PA深くまで入り折り返したボールにシラが合わせるも、相手の脚に当たって枠を外れた。
 自陣でボールを繋いで最後まで完結させたのは試合を通して初めてではないだろうか。やはりリズムを作って少ないタッチのパスが連続すると攻撃の期待値は増す。

 とはいえ、熊本がボールを持って攻めてきた際、一次攻撃で崩されそうな場面は少なかったが、セカンドを拾うことができずに二次攻撃を受ける場面が多く、それによって押し上げができずにいた。
 70分前後からシラと北川のポジションを入れ替え、外で自力で前に運ぶ手段を作る。

 72分、熊本に決定機。内田の縦パスが松岡に引っ掛かり、さらに岡本との球際でも松岡に軍配が上がり、熊本がボールを奪う。松岡→竹本→大西と繋ぎ、大西から石川に綺麗に縦パスが通る。石川は風間のチェックにも動じず前を向き、粟飯原へ。粟飯原→黒木→大本と繋げてPA深くを取り、切れ味鋭い切り返しでシラを転がし、ファーにクロス。最後は松岡が飛び込むが、山中が苦しい体勢でも身体を寄せて綺麗に打たせず。
 熊本がボールを奪ってからのポジトラは速かったが、その上でどこにボールを送るのかがハッキリしていた。まずは石川で収めさせるのが第一で、それによってウチの選手を釣らせておいてサイドでひっくり返す。狙い通りの形。ウチとすると大分ギリギリだったが、こういう局面で踏ん張れるのが重要。

 75分、ウチが決定機を作る。岡本が大崎から見事なボールハントを見せ、そこから完璧なキックフェイントで剥がして隣の酒井へ。酒井のロングフィードは北川に合わず一度は熊本に回収される。しかし、内田と風間がタイトに寄せて、岡本がセカンドを拾う。そのまま岡本は一気に駆け上がる。タッチが大きくなり江崎に止められるも、内田が回収して次のフェーズに。内田から鋭い縦パスが長倉に入り、細かいタッチで前に運び、前方のスペースに流す。そこに走り込んだ北川が左足でゴールを狙ったが、惜しくも左に逸れていった。
 中盤の潰しが機能するとセカンドの回収率も上がるし、自分たちのターンを増やすことができる。この場面では長倉への寄せも厳しくなく、やはりそういう場面では違いを生み出せる。最後の北川の突破もらしさが出ていたし、次は仕留めてくれるはず。

 82分、ここでもバイタルまで到達する場面を生み出す。畑尾がファウルを受けての自陣のFK。最終ラインでボールを回し、内田に入ったところで上村がチェックに来た。そこで内田がトラップからワンステップで前方に送って熊本のプレス網をブレイク。長倉が同じタイミングでボールを引き出そうと落ちてきたことで宮嵜を誘き寄せ、上手くその頭上を越して引っ繰り返した。平松が上手く収め、左サイド大外のシラへ。シラ→内田→風間→酒井とボールは右に推移し、酒井は相手のプレスの矢印を折るように中に持ち込みIHの北川に付ける。北川は内田に落とすと、内田はワンタッチで最終ラインの裏にボールを供給。平松が抜け出してPAに入るが、2枚に囲まれて失う。ただ、大崎に入ったところで風間と酒井がサンドして即時奪回。ライン際で風間が華麗なダブルタッチを見せて岡本に繋ぐと、岡本は迷わず縦に持ち出してクロス。これが相手にディフレクトすると、不規則な軌道を田代が見誤って後方に逸らす。こぼれを拾ったシラはフリーの長倉にラストパスを送ったが、これがズレてチャンスを生かせず。
 決めきれなかったものの、ようやくウチがやるべきことが体現できたシーン。後ろで繋いで引っ繰り返す、横に揺さぶる、失った後のネガトラ、連動した動き。特に前にボールが繋がった時の北川・シラ・酒井の動き出しは間違いなく効いていたし、勇気を与える。

 89分、この試合最大の決定機。自陣浅い位置でのFK。畑尾からクイックで風間に入る。風間→岡本→風間→酒井→畑尾→中塩と後ろでボールを動かして熊本の重心を上げさせる。そして中塩はラインの後方にフィードを落とすと、長倉が抜け出す。巧妙なボディコンタクトでボールを確保し、最後は右足でシュートを放つが、江崎が足を伸ばしてコースを変える。
 揺さぶってから一刺しで仕留めに行く思い通りの仕掛けだったが、最後のクオリティが足りなかった。

 押し込んでいながら仕留め切れないと、最後に皺寄せがくるのが常。90+2分、ウチがバイタルまで押し込むも決定機にはならず、クリアしたボールがフリーの粟飯原に繋がる。粟飯原は無理に仕掛けはせずゆっくり運び、オーバーラップしてきた大本を前方のスペースに走らせる。大本との競走を余儀なくされた中塩に足は残っておらず、大本が先にボールに触れると、PA角にボールを流す。そこに走り込んだ粟飯原が豪快に左足を振り抜く。これが決まって万事休す。
 リスクを負って人数を掛けたのでカウンターはやむなし。あの局面で途中出場の選手にスプリントされれば付いていけるわけがない。そもそもフィニッシュで終えられればってこと以外は対処は難しい。

 連勝を目指して挑んだ90分だが、チームビルディングもさることながら、如何にプランを遂行できるかで差を見せられた。0-2で終了。

雑感

 ミスの起こり得る競技の中で、試合を通して細かなミスが散見されて流れを持ってくることができなかった。

 守備は単に噛み合わせの悪さで前進されてはいたが、そこは織り込み済みだったはず。ただ、上村を消そうとして川本と長倉が縦関係になってビルドアップの限定ができなかったこと、平川のケアでCMFが縦関係になりギャップが生じたことは失点しないうちに修正したかった。というより、何とか誤魔化してHTまではやり過ごしたかったというのが本音か。
 最後は全体的に重たくなっているのが顕著に表れていた。コンディションを言い訳にすることはないが、いわき戦同様に狭いスペースで強度を要求されるとなると、その部分の差は出てくる。

 攻撃に関しては、後半に入って特にバイタルまで至るシーンが増えた。とはいえ、全体的に折角ボールを奪ったとしても、そこから先のプレーの少しのズレが積もり積もってボールを落ち着かせることができなかった。
 しかし、すべてがネガティブだったとは思わない。選手交代で状況を幾分変えたし、それぞれが前に仕掛ける動きを見せた。そういったエネルギーを持っていれば、本来のビルドアップから崩しまでやり切れる。

 どの試合でも上手くいくとは限らない。熊本の積み上げてきたものの練度が発揮された反面、ウチとするとやりたいことをすべて表現することができなかったという悔いが残る。この悔いをどうやって次に生かせるのか。
 勝手に外野が期待値を高めて、裏切られたという感情に振り回されるのは徒労でしかないし、大前提としてまだ何も成し遂げていない。上を見ることは大切、当然誰しも勝って上に行きたいとは思っている。一方で、物事の表面を切り取って持ち上げるのは向上心ではなく高望みである。それは今まで積み上げたものの価値を全く理解していないが故。

 厳しい90分にはなってしまったが、この試合もこれまでの試合から地続きになっている。当然、次の試合にも繋がっている。どこかで急に伸びるのではない。積み上げてきたものを信じ、少しずつでも前進するしか道はない。

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