推本遡源 vs町田 0-0

 ヤンツーによるマンツーマンからのトランジションに苦しんで流れが相手に傾きかけた中、雷鳴によって中止となったのが2週前。気を取り直して乗り込んだものの、ピッチアップ時から雲行きが怪しくなり、KOしないまま中止が決定したのが先週。すっきりしないまま8月も無敗のまま終えた。

 そろそろ自分たちの力を示すべく、挑む今節の相手は町田。札束で殴るチーム強化によって首位に立つ。
 黒田氏のもと、闘う集団として開幕当初からほぼほぼ首位をキープ。エリキ・デューク・平河等々、破壊力は抜群。トーナメントの如く試合巧者としての振る舞いを見せる。夏場に入って幾分勢いも落ちているが、それでも2位とは2桁の差があり、このまま行けば昇格はできそう。各所に敵を作りヒール役になりつつあるが、勝てば正義ということに関しては否定できない。

 首位のチームにどこまで立ち向かえるか。球際にこだわりを持ってくるからこそ、その圧力をいなして自分たちの流れを掴みたい。どの戦い方でも勝点を重ねるという目的は同じ。異なる価値観を持つチームだが、負ける気はさらさらない。開幕直後の試合ではパワーに屈したが、そこから積み上げたものがどれほどのものなのかを示そう。


メンバー

 ウチは中止となった藤枝戦で発表されていたスタメンから1枚変更。内田→風間。シラも2試合ぶりのメンバー入り。金沢戦からスタメン・サブ18人ノーチェンジとなる。

 対する町田は大勝した山形戦から1枚変更。藤原→池田。エリキが膝の負傷で長期離脱中。この試合を終えると、デュークはオーストラリア代表、平河と藤尾はU-23代表としての活動に合流する。

前半

 試合開始前にはやや強めの南風が吹いていたがKO直前には止み、落雷の心配をせずにすむコンディション。町田のキックオフで始まった試合は、開始直後に町田が前へエネルギーを割く。

 1分、町田左サイドからのクロスをウチがカットした後にPA付近で杉本と中塩が狩られてロスト。即時奪回した町田は平河から藤尾に繋がり、藤尾がワンタッチでシュート。これはジャストミートせず櫛引が難なく抑えたが、さっそく町田の強みを押し出した形。

 8分にも町田が決定機を迎える。町田最終ラインに対してウチが掴みに行くと、町田は右サイドにボールを動かし、鈴木→平河→宇野とワンタッチで繋ぎ、宇野は前線にラフなボールを蹴る。城和と藤尾が競走し城和が先にハイボールに反応する。セカンドボールを風間がコントロールしようとするが流れてしまい、ルーズボールを平河が回収。カットインすると左足を振る。グラウンダーのシュートは櫛引が何とか弾く。こぼれ球に藤尾が反応して、角度のないところから右足で狙う。ニアを突いたシュートは櫛引も見送るしかなかったが、クロスバー直撃。肝を冷やす。
 このシーンでの町田のビルドアップ時のプレスの剥がし方は上手だった。鈴木から平河に楔が入ったタイミングで松井が隣のレーンを駆け上がってスペースを作り、そのスペースを宇野が活用した。その後は50:50のボールだったが、パワーを用いて強引にマイボールにする。ウチとすると、エリアと時間帯を意識しているのは間違いないが、それでもアジャストするまでは相手のプレスの勢いにやや苦戦。順位表の一番上に立つチームの所以が垣間見えた。

 ただ、相手のプレスが厳しいといってウチは匙を投げるようなチームではない。いつも通り後ろ3枚でテンポを作りつつ、CH2枚にどんどん楔を刺す。町田がデュークが自制できずに先走って寄せに来る傾向があり、ウチはその特徴を利用してロンドのように速いテンポでボールを回してデュークを走らせる。
 また、町田は藤尾・デュークの前線と平河が内側に入って中塩をケアする形でCB3枚を埋めた。さらに、CHに対しても松井と宇野が深追いしてターンしないように牽制。ウチも相手の出方は当然想定しており、アイソレーションの杉本と平松の所でポイントを作る。平松が狭いスペースでも相手を背負いながら前を向けるし、杉本がギュンギュンと音が鳴るようなキレを見せてボールを運ぶ。右も佐藤とエドがフリーになる局面があったが、そこに解放せず酒井が1列前まで自ら運び出す選択をすることが多かった。敢えて出力を抑えてのプランニングかと思うが、あくまで個人の推測の域を出ない。前半終了時のスタッツを見ても一目瞭然だが、左を中心としてボールを動かす。

 22分、ウチも形を1つ作る。平松が相手のミスからボールを奪って前を向き、カードを誘発して得た敵陣浅い位置でのFK。風間は出しどころに困っていたが、右大外のスペースに走った佐藤にピンポイントでボールを供給。佐藤はボールを運ぶ過程でややコントロールできなかったが、アンダーラップしたエドとワンツーで再びボールを受ける。左足でクロスを入れるフェイクでインスイングを警戒したマーカーを剥がし、右足でクロス。そのボールにニアで梨誉が合わせたが、少しインパクトが薄くシュートは左に流れていった。

 ウォーターブレイク明け以降も、基本的にはウチがボールを持つ時間は長い。町田は若干修正を施しており、デュークを兎に角我慢させる。藤尾を3枚の中央に置き、プレスのスイッチを入れる役割。
 それでも、ウチは意に介すことなく最終ラインから繋ぎ続ける。最初に町田を攻略した甲府の策を見ると、リスクを冒さず高いラインの裏を突くことは効果がある。現に、そういった戦法を用いる隣の黄色いチームは同様のやり口で一時リードを奪う試合をした(2点差追いつかれたけど)。
 この試合を取ることのみを考えれば、幾分ゴールを奪う確率は高まるかもしれない。一方で、内容度外視で結果を残すことのみにフォーカスして1ポイントすら積まないとなると、何も得るものはない。あくまでも、ウチはウチのスタイルを崩さない。

 時折引っ掛かって相手に前向きの状態でトランジションを起こされることはあったが、徐々に適応してミドルサードくらいまでは侵入する回数が増える。そこから先に仕掛けられるシーンも見られたが、敢えて仕掛けない。杉本が縦に勝負しようとする姿勢を見せてから中塩に戻したり、上述の酒井から右への展開を選択しなかったり、ウチの強さを出したい部分を隠すようなプレー選択。まずはリスク負わず0で折り返すことに重きを置いていた印象。

 立ち上がりこそゴールを脅かされたが、ロングスローなどのセットプレーも無難に対処してスコアレスで前半を終える。

後半

 後半も立ち上がりは町田がやや前に重きを置いて仕掛けてくる。49分にCKから藤尾が合わせるも櫛引が処理。50分にも櫛引のフィードが平河に引っ掛かり、セカンドを藤尾が拾って前を向き、落としたボールを宇野が流し込もうとしたが宇宙開発。

 ウチのチャンスは55分。自陣左サイドのスローインから中央でエドが受けると、ダブルタッチで軽く松井を躱し、DFラインを越す柔らかいボールで平松に送る。ターンする際にミンギュに引っ掛かったが、こぼれが梨誉の元に転がる。持ち前のパワーを発揮すべく右足をフルスイングしたが、シュートは目の前でブロックに遭う。しかし、そのこぼれ球を佐藤が左足で叩く。強烈なシュートが福井を襲うが、防がれてしまう。
 ハーフウェーをボールが超えてから一気に全体がスピードアップしてバイタルに入っていった。このスピード感はやはり武器。

 前半は徹底して足元で繋ぎ続けていたが、後半になると対角のパスを解禁。ラインブレイクを狙う梨誉の動き出しに何度かボールが供給されるようになった。相手ラインもすぐに下がるようなことこそないが、やや統率を失ってCB2枚で高さが異なりギャップが生じる瞬間も生まれる。

 膠着状態になり、ウォーターブレイク明けに両チームとも動く。ウチは竜士→山中、アマ→内田の2枚替え。いつも通りの入れ替えだが、通常よりもタイミングを待ったようにも思う。これで中盤のパステンポのアップと左に強引にでも前に運ぶ仕組みを作る。
町田は沼田→バスケスバイロン、宇野→安井の2枚替え。宇野はカードをもらっていることも考慮しているだろうし、バイロンはウチの左の守備を切り裂けると見込んでか。

 交代直後から山中は縦への仕掛けを見せる。相手の強かな対応によってオフェンスファウルを取られることも何度かあったが、それに屈することなく勝負を挑む。この姿勢こそがウチの積み上げてきたもの。小手先で誤魔化した先に目標達成はない。

 80分、町田に決定機。山中のアウトサイドのパスからエドに繋がってチャンスになろうかというところで翁長が詰めてボールを奪い、藤尾に縦パスを付ける。フリーの藤尾は落ち着いて前を向き敵陣中央までボールを運び、左の平河へ。平河→翁長→松井→ミンギュ→鈴木と左から右にボールが推移。ウチは外回りのボールには牽制せず、一度ブロックを作る。鈴木は間を置き、DFラインの背後に動き出した藤尾に送る。藤尾はPA付近でキープして深さを作り、バイロンへ。バイロンはシンプルに鈴木に落とすと、鈴木がワンタッチで中央に蹴り込む。弧を描く鋭いボールは直接ゴール方向に飛んでいったが、櫛引がファインセーブ。クロスのミスか意図して狙ったのか定かではないが、櫛引が危機を救った。

 そのプレーによって与えた町田のCK。鈴木のインスイングのボールにファーで密集の中からデュークが頭に当てる。高く上がったセカンドボールを城和が弾き出すが、PA手前で平河がアバウトに前方に蹴る。これも城和が弾き出そうとするが、中途半端になったところをデュークがボレー。強烈なシュートだったが至近距離で中塩がブロックしてコースを変える。

 82分、ウチは佐藤→北川、平松→シラの2枚替え。どちらもそのままのポジションに入る。
 町田も同じタイミングで、デューク→高橋、平河→荒木のチェンジ。前半から走らせ続けたデュークは下がったが、一撃で仕留める高橋も脅威である。

 その後もどちらも試合を動かせずにいた中での89分、ウチの最後のカードは梨誉→畑尾。5バックにして1ポイントを確実に積むための選択かと思いきや、予想外の起用法だと直後に分かる。

 町田陣内でのFK。ロングボールを跳ね返すとシラが拾ってそのまま加速。敵陣まで運ぶとエドに落とす。エドはその内側の内田に繋ぐと、内田はワンタッチで相手の間を通す見事なパス。相手の揃わない最終ラインのギャップを上手くついて抜け出したのは誰かと思ったら背番号3。PA手前で最初にコントロールすると中に視線を送って付いてきた鈴木のバランスを崩させ、右足でシュート。しかし、これはクロスバーを大きく超えていった。
 トランジションで相手を上回る形をここでも作ったが、まさか畑尾が最前線でチャンスを迎えるとは予想できなかった。

 90+5分、ラストプレーでウチは最大のチャンスを迎える。ビルドアップの過程で櫛引まで下げると、目の醒めるようなラインドライブで山中の足元にピタリと付ける。山中は自分の間合いで仕掛けるタイミングを図り、2枚を引き寄せてから中塩に渡す。中塩→内田→シラとテンポ良く繋がり、シラも仕掛けようとしながら中央の風間に繋ぐ。ややボールの勢いが弱く風間の足元に入ったが、コントロールして畑尾にラストパス。スライディングしてきた安井の足元に当たってディフレクトしたボールだったが畑尾は冷静にバウンドを合わせ、ワンフェイクで相手を寝かせて右足でシュート。誰しもがスタンドから腰を上げたが、渾身のシュートは僅かに左に逸れた。

 千載一遇のチャンスを逃し、ピッチ上で選手が倒れ込み、指揮官を筆頭に頭を抱える中、終了のホイッスル。首位を相手にしての決戦はスコアレスドローで終える。

雑感

 ラストプレーの印象に引っ張られて勝てた試合だと思いがちだが、90分トータルで考えれば相手にも当然チャンスはあったし、ドローは妥当な結果だろう。加えて、このドローが勿体ないというわけでもなく、1ポイントを積み上げたことはポジティブに捉えられる。

 守備に関しては、リーグでもトップレベルの破壊力を誇る相手にクリーンシート。初っ端の藤尾の決定機を仕留められていれば試合展開も変わっていたが、そこを凌いで以降は大きな決定機を作らせず。終盤は相手がパワーで端的に殴ってきて事故を誘発されそうになっても、冷静に対処した。

 オフェンス面も、ゴール前での最後の仕上げ以外はかなり機能した。ラインをコンパクトに保つ相手にも足元に付けて真っ向勝負を挑んだ。自分たちが信念を持って取り組んできたものがリーグのトップに立つ相手にも十分通用したことは小さくない自信となる。その自信を大きくするためにも3ポイントを取りたかったというのが本音だが、この試合で及ばなかった試合を決める作業は残りの試合で向上させるしかない。

 残り11試合、1つ1つが勝たなければならないプレッシャーを伴う。これはこのクラブがこれまで幾度となく経験してきた勝点を得ないとカテゴリが下がるといった状況下でのそれとは異なるものである。縮こまるのではなく、思い切り自分たちを表現することでしか道は切り開かない。

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