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一念通天 vs水戸 2-1

 個々のクオリティの高いチームがインテンシティ高く戦ってきたらどうなるかっていう結果を見せつけられた前節。ガス欠させての後半勝負を目論んでいたが、我慢できずに相手の土俵に引きずり込まれてしまった。それでも途中で放棄するような選手は誰もおらず、最後までゴールを目指し続け、2点を返した。そのメンタリティがある限り、チームは死なない。

 前節の悔しさを晴らすべく、迎える今節の相手は水戸。北関東ダービー。水戸は2試合連続のダービー。前節は踏み台になりそうだったが2度追い付き、最後は数的優位に立ちながらも勝ち越せず。
 水戸は、昨シーズンまで3シーズンに渡って指揮を執っていた秋葉氏に見切りをつけ、今シーズンから前政権でHCを務めていた濱崎氏が新指揮官に就任。前任者が志向していた攻撃的なサッカーを継続しようとスタートしたが、大きく出遅れた。ホームで守備が崩壊する試合が頻発し、現在リーグワースト2位タイの28失点。新卒FW新沼や草野などが気を吐くが、そもそも試合が壊れていて焼け石に水という展開が多い。4月の山形戦で初勝利を挙げ、徳島戦で2勝目を手にしたが、翌節の藤枝戦で惨敗し、試合後の一部選手コメントでベンチとピッチ上での意見の相違が明らかになり、徳島戦は選手主導で修正して乗り切ったとも解釈できる部分もあった。その後、徐々にチームは立ち直り大分や山形から3ポイントを得ていることから、侮ることはできない。ただ、ポジショナル志向のチームには相性良いが、堅守速攻型のチームと対戦すると炎上する傾向がある。攻撃に力を入れるが練度が低く手詰まりになり、ロストしてからのネガトラで対処しきれず失点に至るシチュエーションが多い。基本的なビルドアップは磐田と同じ構造。

 負けるわけにはいかないダービー。相手の指揮官は前節試合後、ダービーで引き分けはあり得ないと発言したらしい。あの相手に数的優位で勝てないチームがあるんだなと良い勉強になった(どこかのチームが数的優位で先制されたことは記憶にない)。引き分けがあり得ないなら、残る選択肢は1つだけ。
 俺たちのホーム敷島で、蹴散らすしかない。

メンバー

 ウチは前節から3枚変更。北川→佐藤、エド→山中、武→平松。目の前の試合に全精力を注ぐのは大前提として、恐らくこの3連戦トータルのプランニングを大枠で考えていたのではないだろうか。佐藤、山中、平松ともに間違いなくモチベーションは高い。

 対する水戸は分けた踏み台戦から6枚変更。黒石→井上、山田→楠本、大崎→長井、杉浦→新里、鵜木→武田、寺沼→梅田。野戦病院と化しており、前節も大崎が負傷交代。

前半

 前節の反省を活かし、試合の入りはアラートにしなければならなかったが、この試合でもいきなり事故が起こる。

 5分、水戸のビルドアップに対し、ウチが前から圧力を掛ける。内側に入っていた小原にはアマが掴みに行き、外に流れてくると佐藤が援軍に。一度最終ラインで作り直し、ここではRSHの武田が最終ラインの右側に落ちてきた。武田に山中が喰い付いたが、水戸はそこを見てスイッチを入れる。武田→新里→井上とフリーで繋がり、新里がハーフスペースを駆け上がって深い位置まで侵入してボールを受ける。新里のクロスは畑尾がカット。ここ2試合からの修正および相手の立ち位置の関係でウチのSHが深くまで捕まえに行こうという意識があったが、水戸にいなされる。
 そのプレーにより与えた、試合を通して最初の水戸のCK。武田のインスイングのボールにファーで梅田がフリーで合わせる。6分、水戸が先制に成功。
 ニアに多くの選手(5・11・22)を走らせてブロックを釣り、大外でポケットを作られた。ファーに岡本が構えていたが、新里に上手くブロックされてチャレンジできなかった。

 2試合連続で開始早々からビハインドを負う。失点したからといってウチは特にやることは変わらないが、水戸はAPTを削る振る舞いが増加。80分強それが徹底できるのであれば、東北の某チームのように塩を撒いて試合を潰せる。しかし、GKのキック精度に大きな不安が残り、水戸の流れにもならない。

 15分、水戸のチャンス。水戸陣内深くまで佐藤がプレスに行くが剥がされ、中央にフィード。草野がセンターサークル付近で逸らす。これは梅田には繋がらなかったため畑尾がコントロールしようと流したが、右の視野外から新里が突いて奪う。新里が前に運び、左にオーバーした梅田に渡す。抜け出した梅田は何でもできる状況だったが、1stタッチが左に流れてしまい、左足でシュート。ニアに飛んだボールは櫛引が落ち着いてキャッチ。奪われ方はよろしくなかったが、最後のシュートはあまりにも淡泊で助かった。

 そこから先は、どちらかと言えば水戸のペースで推移。リードしたことで前に無理に仕掛けるようなことはなく、後ろの方でゆっくり時間を使う。ウチもウチで、IH化してくる相手SHに誰が付くのかをはっきりできず。相手がCMFを最終ラインに落としてくるので、SHを1枚上げて同数で対応したのだが、本来であれば相手SBへのパスコースを背中で消したかった。しかし、ボールを前で奪おうと勢いを持って寄せに行く分、1つ剥がされるとサイドで数的不利に陥る。酒井や中塩がハーフスペースを埋めながら大外を牽制し、事なきを得ていたが、危うさもある。

 一方、相手がポジトラを放棄して後ろの枚数が残っているので、ビルドアップの出口がない。彰人と平松の近くにスペースはないし、サイドは窒息気味だし、テンポアップが難しい。ただ、ウチは焦れて無理に勝負するのではなく、裏への抜け出しをチラつかせつつ、そこを刺さずに近場でボールを回した。何本か畑尾から岡本への対角線のパスを試みるが、風に流れて繋がらなかった。

 時間を水戸に使われる中で、ウチは相手の出方を観察しながらリスクを負わずに45分を戦い、0-1で前半終了。

後半

 後半開始から佐藤→エド、彰人→北川。山中をRSHに移し、エドがLSH。対する水戸も前半終了後に痛む素振りを見せていた長井を下げて山田を投入。山田はこれまでCBでの出場が主であり、スクランブル。5バック化して小原をLWBにさせる。

 相手のシステムも変わっていたが、ウチも推進力を持つ山中とエドでサイドに前進させる仕組みを作る。また、どちらもカットインして利き足を使える配置。WBの守備の不得手も相俟って、まずはサイドを足掛かりに全体を押し上げる。まだ水戸がボールを持っていたが、徐々にウチがアタッキングサードまで至る機会が増える。
 さらに58分、アマ→内田で岡本をIHにして山中を大外に張らせる形。相手CMFの脇を岡本が突く狙い。

 59分、水戸陣内で山田から前田に斜めのパスが入ったタイミングで内田が厳しくチェイスして奪い切る。内田はそのまま前に出て北川とワンツーを挟み、左大外のエドへ。エドは縦が切られていたため隣のレーンの北川に渡すと、北川が逆サイドの岡本に繋ぐ。岡本も仕掛ける姿勢を見せながら、オーバーラップしてきた酒井に流す。酒井のワンタッチのアーリークロスに北川が折り返すも中には合わず。
 高い位置で奪ってからそのまま決定機まで繋げた。左で起点を作りつつ、右に振ってスペースを活用。なかなか流れを掴み切れていなかったが、この辺りからゴールに向けた機運が高まる。

 そして64分、ようやくイコアライザーが生まれる。左サイドでエド・北川が中心となってボールを動かし、PA内では岡本も絡んだがクリアされての左サイドでのスローイン。ボールパーソンからすぐにボールが供給され、中塩は内田に付けてリターンをもらうと、中央の風間へ。風間は右外に張った山中に渡す。このボールにややスピードがなく小原が思い切ってインターセプトを試みるが、ボールは山中の元に届く。マーカーが勝手に消えたので山中は当然縦に勝負を仕掛け、PA角を取ったところで急停止して左足でインスイングのクロス。水戸最終ラインが棒立ちしている中で北川が1人だけ抜け出す。北川は身体の向きが横を向いており、自ら打つのではなくラストパス。そこに走り込んだ平松が押し込んだ。
 狭い局面でも自信を持ってボールを繋ぐからこそ、単騎での突破が効果的になる。山中がボールを待った瞬間は目の前で見ていて頭を抱えそうになったが、映像を見ると相手WBのボールへのアプローチがどう考えてもリスク高い。切り返しで相手のラインを足止めさせて時間差でクロスを入れるのはデザインしていた形か。完全に相手を無力化して、ウチの選手だけが躍動していた。

 同点に追い付かれたことで水戸は急造5バックに見切りをつけた。選手の特性考慮した部分はあったにしろ、1stプレスが機能不全になったことに加え、サイドでウチがボールを持った際にアプローチに来るまでの距離が遠く、とても守備が強化されたとは言えない。そもそも、5バックになったともハッキリしておらず、ただ小原が前半よりも低くいるなとしか思わなかった。小原を中途半端な位置に置くくらいならば、岡本に正対させて少しでも縦のコースを消された方が怖かった。マグネットを動かして配置を決めるのは簡単だが、ロジックがないと機能するわけがない。

 ウチは、やることは変わらない。相手が後ろに閉じこもるならば揺さぶって間のスペースを作り出す。70分過ぎには指揮官から北川に対し、「サイド使うのか背後使うのか、もっと徹底しよう。相手陣地でもっと嫌がっている所(を使え)。(相手を)後ろ向きにさせろ」との声が飛んだ。やっていることは間違いないからこそ、あとはどれほど焦れずに殴り続けられるかの勝負。

 75分、ついにその時を迎える。右サイド高い位置で山中から武へのパスが引っ掛かったが、すぐに武が逆サイドへのコースを切って追い込む。同時に内田が相手CMFを捕まえた。相手は苦し紛れでSHに付けたが、岡本がトラップ際目掛けてアプローチし、ボールを押し下げる。こうなると相手が満足にボールを蹴れるシチュエーションではなく、ルーズボールを中央で風間が回収。風間は一度中塩に戻すと、相手の1stラインが全く機能していないので中塩はコンドゥクシオンでブレイク。CMFと同じ高さまで運び、左のエドへ。エドは正対する鵜木と駆け引きしながらも右足で少しずつ前進。利き足が内側にあるのでボールを晒すことなく運べる利点を生かす。アタッキングサードまで到達し、緩急を用いたボディフェイクで鵜木を剥がして隣のレーンの北川とワンツー、そのままワンタッチで風間へ。風間は1stタッチで身体を開いて晒し、右に展開すると見せかけて左に持ち出す。エドがボールを出した後にPA内に走ったことで鵜木と山田の2枚が釣れ、外で北川がフリーになっており、風間はそこを見逃さない。北川は見事な1stタッチで勢いを維持してPAに侵入すると、もう1つ深くまで抉る。これによって水戸の選手の視線をすべて集めた。北川はライン際からマイナスの鋭いボールを入れると、中に入っていたエドが反応してプッシュ。エドの記念すべきプロ初ゴールは値千金の逆転弾となった。
 ウチとしての強みが見事に発揮された一連の攻撃。ロストした直後に重心を高くしてマイボールにしたところがスタート。そこからは各々の的確な状況判断によって相手とボールを思い通りに動かし、一度もボールを奪われるような局面を作られないままゴールまで結びつけた。エドがPA内に入っていたこともそうだし、中塩がサイドで高い位置を取ったこと、風間がバイタルでボールを持てたこと、あらゆる要素がプラスに作用していた。それにしても北川の持ち出しは痺れる。まさに"マルチストライカー"といえる活躍。

 クオリティ不足する相手の状況を考慮すると、ウチはアラートさを保てば問題はない。それでもセットプレーやアバウトなボールで事故を起こされると大問題なので、自陣にある程度引き込んでおいて、ディフェンシブサード手前辺りから牽制を掛けに行く。本職でないとはいえ、サイドからのボールの質が一向に上がらず、守りやすかった。寺沼がターゲットになるのは百も承知であり、終盤は城和を投入して5枚で固めた。広大が指摘していたように、重心をもう少し上げられるとより安全のように思うが、守りきれれば良し。

 開始早々のビハインドを跳ね返し、2-1で北関東ダービー勝利。

雑感

 敵将が「引き分けはない」と宣っていたから、ご所望通りの結果を示した。まずは敵を倒すことがダービーでのプライオリティ。

 守備はゾーンのウィークを突かれての失点。畑尾と酒井を外すっていうのが第一条件になる中で、その外側からポイントで合わせるってのはしてやられた。
 その後も前半はなかなかハマらない時間が続いた。武田がかなり自由を与えられてあらゆるポジションに顔を出すので捕まえにくいのと、小原・井上がかなり外側で張っているので意識せざるを得ない。武田には山中がマンマーク気味で掴みに行くルールはあったが、その分井上の周辺にスペースが生じた。中塩が視界に入れておいて、ボールが出たら対応したが、失点のCKにつながるプレーでは新里にハーフスペース走られて前進を許した。よりクオリティを伴う相手であれば、IHがアンダーラップして自由に前進されることも想定される。前にチャレンジ行くという方針は理にかなっているが、そこで後ろのパスコースを背中で消せるようなるとより相手が焦れる。
 後半は相手との立ち位置の兼ね合いもあり、ほとんど決定機を与えず。単調なクロスに対してはそう簡単に崩されない。上述のように、ブロック敷く局面でもライン設定をもう少し出せればという思いもあるが、最終ラインの後ろのスペースを埋めたいし、これはこれで良い対応。

 攻撃については、IHとなる彰人と佐藤がCMFに良い具合に捕まってボールの引き出し口がなかったのが前半は顕著だった。佐藤が内側取ったことで生じる右外側のスペースを何度か岡本が駆け上がって活用しようとしたが、パサーとレシーバーの距離が長いほど失敗のリスクを伴う。前半はそのリスクを考え、敢えて近場でボールを動かしていたようにも感じる。プレスを掛けられたとしても、CMFのゲームメイクによって1stラインは簡単にブレイクできた。相手の連動性がなく、後ろはべったり引いていたので窒息したが、それはあくまで副次的に生まれたもの。やや手こずったが、90分で崩せないものではない。
 後半に入り相手にアクシデントもあったようだが、サイドで明確に前進できるポイントを作り、少しずつボールを持つエリアを前にしていった。内田投入に伴う岡本IH化も手慣れたもので、相手の守備網が届かない絶妙な立ち位置で発射台の一角を担う。少ないタッチでどんどんボールを動かすので、相手のスライドが追い付かなくなり、結局ボールウォッチャーになって、ウチが使いたいエリアで勝負した。2点に絡んだ北川は特筆すべきだが、決め切った平松、サイドから内側に入っていたエド、ハードワークを相変わらず厭わない武、ボールを落ち着かせようと奮闘した佐藤、推進力で勇気を与えた山中、みんなが献身的に動いたことで逆転まで至ることができた。

 この北関東ダービーの勝利の意味は我々がどれほど喜ぶかによって変わるとのこと。逆転で3ポイントを積めるチームは隙が少なくなっている証左だし、何より連敗しないことはトップハーフに留まる上で重要。この勝利は大きい。
 ただ、私たちが勝利の余韻に浸り、いつもより少し気分よく日常に戻る間も、選手たちは切り替えて岡山戦に向けて歩みを止めない。だからこそ、出来得る限りのサポートを。

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