心機一転 vs山形 1-0

 新年明けましておめでとうございます。冤罪による退場、度重なるCBの怪我人、クラブ史上初のシーズン中の監督交代、制御不可能のCOVID-19アクシデント等々、何度も苦境に立たされながらも、4チーム降格という未曽有の2021シーズンを乗り越えて迎える2022シーズン。新たに石井社長を迎え、新監督として大槻氏を招聘。松本強化本部長と共に大槻氏自らも選手補強に携わり、チームにフィットするであろう選手を的確に獲得した。大前・青木という攻撃を牽引していた選手がいなくなったことで、他チームサポーター及び、強化部を(執拗に)嫌う一部界隈からも厳しい順位が予想されている。一方で、シーズン開幕に先駆けて行われたサポーターズカンファレンスにおいて石井新社長がクラブの現状を包み隠さず明らかにし、今後成長するために何が必要かを説いていただいたことで、我々の期待感は膨らむばかり。勿論、万事上手くいくわけはないが、どんな時もこのクラブを信じたいと思えた。

 クラブとしてもチームとしても新たな体制で迎える開幕戦の相手は山形。ウチが初めてJ2開幕戦の相手だった山形(0-3)。リーグでの通算成績見ても5勝10分け14敗であり、苦手な相手。昨シーズンの対戦もダブルを喰らっている。ホームでは、クラモフスキー監督就任前の不振に喘いでる時期の対戦だったが、山田康太と藤田を止められず。アウェイでは虚無戦を繰り広げたものの、終盤に二兎を追いかけて失敗。半田に上手く幅を使われたことと、ヴィニシウスアラウージョが厄介だった印象。
 開幕戦故に山形がどのように戦ってくるかは未知数だが、監督が続投しているので基本的には昨シーズンを踏襲してくるだろう。懸念事項として、右腕だった川合氏が鳥栖の監督に就任したこと、V.アラウージョとの交渉が暗礁に乗り上げて町田に流れ着いたことが挙げられる。川合氏の存在がどれくらい大きいかは分からないが、クラモフスキーの清水時代の機能不全を考えると色々勘繰りたくはなる(清水という特殊な土地柄も影響しているとは思う)。V.アラウージョは昨年末の時点で残留の芽はないと粗方分かっていた分、代役の確保に動く時間があり、実際にポーランドからポルトガル人FWのチアゴアウベス(すごく聞き覚えのありそうな名前)を獲得したが、入国制限で来日の目途が立たず。まあ、山田康太、半田、藤田っていう中心選手は残っているので戦いにくい相手であることは変わらない。

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 ウチのスタメンのベースは昨年同様。新加入組では、櫛引・山根・深堀が開幕スタメンをゲット、風間と平松がメンバー入り。なお、メンバーリストの登録上は岩上がDF、光永がFWになっており、リーグ公式を始めとした各サイトが翻弄されていた。山形ベンチにも動揺が見られたかは不明。城和が復帰してスタメン入りしたり、川上も戻ってきてベンチにいるのは嬉しい限り。

 対する山形も昨年からお馴染みの方が多数。熊本がいなくなったCBのところは野田ではなく瓦斯からレンタルの木村を起用。LSBは山田拓巳ではなく前育出身の吉田をチョイスしてきたのは意外だった。中原が引き抜かれたRSHには、ルーキー横山を抜擢。東洋大→山形というと坂元達裕と同じコース(因みに両者ともにFC東京U-15出身、坂元は前育、横山はFC東京U-18)。東洋大時代は関東2部得点王にもなっている。

前半

 マイボールでのキックオフとなったが、CB2枚と岩上以外は高い位置を取っていた。まずは深堀から岩上に下げ、右サイドに展開する。これは跳ね返されたものの、駆け上がってきた岩上がヘディングで小島へ。小島が稔也とのワンツーで抜け出し、早いタイミングでグラウンダーのクロス。ニアに流れた深堀の後ろのスペースにKJが走り込むもシュートは上手くミートせず。
しかし、岩上のヘディングからKJのシュートまで全てワンタッチで繋げていたのは綺麗だった。稔也が小島の隣のレーンの斜め後ろに位置したことで、小島が落とした際にマーカーの吉田の身体の向きがボール方向に向き、小島が背後を取って裏に抜けられた。ボールの動かし方はある程度原則で決まっているだろうし、デザインした形がいきなり見られた。

 その後は山形が様子を見ながら保持する時間が続いた中、15分に1つ形を作る。木村が自陣浅いところでボールを持つと、山田康太が低い位置に下りて顔を出す。そのタイミングでLSBの吉田に渡し、そこから山田康太へ。LSHの加藤が大外で幅を取り、中に吉田が入って山田とパス交換してタイミングを窺う。吉田→加藤→山田→南と繋がる。吉田と山田のランニングでDFを引き付けたことにより中央の木戸へのコースができ、南から木戸への楔が通る。が、上手く畑尾と城和が対応したことでシュートコースがなく、枠には飛ばなかった。山形は形としては良かったが、PA内でのウチの対応は冷静だった。

 ウチとしてはボールを握らせつつショートカウンターを狙っているが、22分のビルドアップは面白かった。櫛引のフィードの跳ね返りを城和が回収。城和、岩上、畑尾、細貝でボールを回して縦パスを付ける機会を探し、一度櫛引に渡して相手のプレスのポイントを高くしたところで、城和から小島への楔を入れた。細貝と岩上が程よい距離感を保つことで木戸と山田康太が無闇にアタックできなくなった。一度藤田も細貝に牽制を掛けたが、細貝がワンタッチで離したことで撤退。最後の城和のパスの際は、稔也が大外のレーンに落ち、真ん中のレーンに岩上が立って、小島がビルドアップの出口になった。稔也と小島が前後で入れ替わるのも新鮮だし。もしファウルを受けなければ小島が岩上に落として空いたスペースを使えていたかもしれないし、大槻さんが怒るのも納得。いずれにしろ、小島のところで吉田を喰いつかせていたり、重心を高くしての疑似カウンターが垣間見えた。

 25分くらいから焦れた山田康太が最終ライン近くでボールを触る機会が増えた。31分、山田がハーフウェー付近で木村に預けて自身は高い位置に走るが、ボールは再度CBへ。KJと深堀が藤田へのパスコースを消しながら構える。さらに縦パスが出ないようにKJが山﨑にチェイス。一度はGKに戻すが、再びボールを受けた山﨑は南へと渡す。すると、南には細貝がプレッシャーをかけて前を向かせない。南はワンタッチで藤田に落とすが、そこを狙ったかのようにKJと深堀でサンド。KJのプレスがトリガーとして機能しているのは間違いないが、きちんと全体が連動して追い込んでいるのは良かった。ボールを奪うポイントをはっきりしている。

 良い形で守れると、徐々にゴールが近付いてくる。33分、深堀がミドルサードでパスを引っ掛けると前進。深堀→KJ→山根と渡り、最後は山根から深堀へあと一歩だった。3人+稔也のスプリントは目を見張るものであり、あの速さでドリブルしながら際どいクロスを上げる山根は恐ろしい。

 そして迎えた42分、自陣左サイドのミツのスローインから。受けたKJが畑尾に落とす(アフター気味で押されたKJがやる気をなくして立ち止まり、副審にアピールしている姿も必見)。畑尾→城和→小島→岩上と右サイドへと移行していく。岩上が受ける際に後ろを指さしたので、小島は前に行かずリターンを受ける。そこから一度左に展開してKJ、細貝、ミツで回すが、KJがLSB的立ち位置になり、RSBの小島を高い位置に押し上げる。右片上げによって城和を加藤がチェックするなど、ぎこちないマッチアップになると、畑尾が満を持して小島に付ける。大外で小島が受けて吉田を引き出すと、空いたレーンを駆け上がっていた稔也へ。当然稔也をフリーにしないように南がカバーに入るが、それによってPAの手前にぽっかりとスペースが空く。そこに岩上が入ってボールをもらう。ここで打つかと思いきや左にパス。そこにはSBの位置でビルドアップに参加していたKJが上がってきた。ここで打っても十分得点の可能性はあったが、KJには違う選択肢を持っていた。ボールに喰い付いた半田を尻目にさらに左の山根へラストパス。フリーの山根は左足インサイドで流し込み、先制に成功する。完璧な崩しだった。
 稔也に出た時点で木村が釣り出されかけていて、何とか思い留まったものの、岩上に渡ったところでボールウォッチ。そのタイミングで中央に入ってきた深堀によって山﨑も機能停止。深堀のランニングはCB2枚を近付ける素晴らしいものだったし、スペースを空ける上でも大きかった(丁度試合当日夜のMan.City v Tottenhamのケインの後半ATのゴール時のルーカスの動きの効果と同じに感じる)。藤田が辛うじて岩上にチェックするも、後ろから走り込むKJへの対応は後手。たまらず半田が飛び込むも、元々のマーク対象だった山根を離してしまった。試合後のインタビューで山根も「狙い通り」という旨の発言をしていたように、出来過ぎなくらいのお手本のような形。

 前半終了間際に左サイドから1つピンチを作られるが、ミツがしっかり絞って対応した。理想的な展開で前半を折り返す。

後半

 後半に入ってもボールを保持させてからのショートカウンター発動という狙いは継続。

 54分、ミツのスローインを受けた山根がKJへ落とす。KJは深堀へワンタッチで叩く。惜しくも深堀には収まり切らなかったが、半田から南への中途半端なボールに細貝がロックオン。クリーンに刈り取ると、援護射撃の為に近付いた岩上がボールを拾う。岩上→稔也→岩上→小島とボールが回り、加藤の寄せが甘いと見るや小島はアーリークロスを選択。ディフェンスラインの背後にピンポイントで落とし、深堀が反応するもわずかに合わず。非常に惜しかった。

 69分、相手のフィードを小島が跳ね返し、セカンドを稔也が確保すると岩上に戻す。岩上→城和→畑尾と無理せずにつなげると、畑尾は1つ飛ばしてKJへとパス。これをKJが超絶技巧を見せて前を向く。2枚を引き付けて、サイドの深い位置にボールを転がす。そこにCBの間から深堀が走り込み、ワンタッチで山根へ。山根はタメを作り、KJがPA内に入るタイミングで絶妙なパス。KJがもう1枚剥がせれば決定機だったが、相手に引っ掛かる。
 しかし、そのクリアボールの流れを小島が拾って再びウチのターン。小島からボールを受けた岩上が左サイドの山根へ優しいフィード。山根は胸でコントロールすると、左に重心を傾けながらドリブル。一度のシザーズでマーカーを置き去りにするキレを見せると、抜き切らずに左足を振り抜く。角度のないところからだったが、ボールはバーに直撃。クロスなのかシュートを狙ったのかは分からないが、入っていればスーパーだった。

 この試合最大のピンチは86分。山田拓巳から藤本への斜めの楔のパス。この試合初めてと言っていいほど、SBからの角度を付けたパスは通されていなかったが、風間と平松の間を空けてしまってコースができた。藤本には細貝がチェックするが、上手く落とされて藤田がスペースを得る。藤本がボールを引き出す際に畑尾が一瞬反応していたため、PAの角にポケットが生まれ、そこに半田が入って藤田からボールを受ける。当然小島がスライドしてそのポケットを埋めたが、サイドの深い位置が空き、途中出場の河合がそこでボールを受ける。フリーの状態で速いクロスを上げ、ファーサイドで加藤が合わせたものの、加藤自身が少し中に入りすぎてしまい頭に当てるのが精一杯だった。ただ、藤田にスペースを与えると怖いということも勿論だが、そもそもの局面で安易に斜めのパスを入れさせてしまったことは修正点。

 最後はKJに替えて中山を投入し、試合をクローズ。メモリアルシーズンの開幕戦を勝利で飾った。

雑感

 チーム始動から積み上げてきたものが、如実に表れた試合だったのではないか。

 攻撃時は、やはりKJという飛び道具を最大限に生かすことが第一。フリーマンとしてKJは縦横無尽に動いた。一方、KJに至るまでの過程もしっかりとデザインされている。城和→小島(川上)、畑尾→ミツ(小島)の斜めのパスは何度もあったし、そのパスコースを作るために稔也と山根が一時的に深い位置まで落ちてくるのがデフォだと思われる。
 あとは、櫛引のキックで陣地回復する場面も多かったが、身長差も考慮して、競り勝とうとしていないことも特徴。手元にデータがないので主観的印象だが、セカンドボールの回収率はかなり高いのではないか。岩上と細貝が拾うこともあれば、上述のSB-SHの縦関係を活かしてSBが競ってセカンドをSHが拾うようなシーンも多い。これは、ポジショニングの予測も大切だが、ハイボールを競る際に上手く身体を当てて相手にヘディングをクリーンヒットさせないことも効いている。スタメンの選手はサイズ的には大きくないものの、全員身体の使い方がとても上手だった。

 守備時は、昨季終盤同様に中央を締めることが鉄則。先ず、トップの2枚が攻撃時は縦関係になるものの、守備時は並行に構え、真ん中を意地でも割らせなかった。最初のラインがボールよりも低い位置にいることは今や多くのチームが原則として定めている。余談だが、オフシーズンにインカレで観た阪南大もボールよりも1stラインが低くすることを徹底していたことが印象に残っている。その試合で関学にアップセットしたことも決勝まで進んだことも頷ける守備構築だった。それほどまで広く浸透しており、ウチでも見受けられたが、更にこの試合の場合は常に2人の間に相手のCH(主に藤田)を置いていたことも印象的。一見、2人の間の門を通せば良いのではないかと思われるが、藤田に入った瞬間に猛ダッシュで寄せられるし、仮に前を向いても岩上と細貝が迫ってきてコースがない。前線からのプレスというと馴染みのある表現だが、従来のFWの働き以上のタスクを深堀とKJは遂行した。それと連動するように、山根と稔也も正しいポジショニングによって相手SHへのパスコースを遮断。今までであれば、SHにマークを捕まえようとしていたのでハーフスペースを自由に使われたが、そもそものコースを切ればSHのマークを捨てても良いという考え。これが機能するのもこれまでの落とし込みの成果。
 後ろの選手は誰もが素晴らしい動きを見せたが、細貝と岩上のコンビはやはり末恐ろしい。特に33分、稔也が倒された後にえげつないスライディングでボールを刈り取った後に審判にファウルをアピールしたり、66分に躊躇せずに飛び込んでボールを奪う細貝は頼もしすぎるし、惚れる。岩上、細貝共に嫌われ役となってカードの出ないギリギリのファウルをかますのもウチのCHらしい。徹底的に2人に潰された山田康太はストレス抱えており、HT明けのウチの戻りが遅くて文句言ってみたり(これは文句言う気持ちも分かる)、2人のプレッシャーを避けるために低い位置でボール受けてみたりと、思うようにプレーできなかった。
 もう1点触れると、後半途中からのわずかな立ち位置の変化。元々攻撃時は4-2-3-1に近く、守備時はKJと深堀が並んで4-4-2としていた。しかし、風間を入れたあたりから、SHがCHと同じ高さに立ち4-4のブロックを固めているように見えた。終了間際に中山を入れたのは、平松の衛星的役割を担いつつ、最終ラインへの牽制としての狙い。ボールを奪わないので無駄走りに見えなくもないが、あれは機能していないわけではない。ブロックを固めているので後ろは盤石だし、それにプラスして中山の動きで少しでも相手のパス精度が落ちれば狙い通り。KJの替えが効かないことは誰しも感じることだが、タイプは違えど中山がフリーマンとしてのタスクがこなすことも面白いと個人的には思う。平松、風間、川上も同様だが、勝っている試合の途中出場は難しいし、そのまま勝ち切ることができたのなら効果があったと言えるはずだ。

 ネガトラとポジトラの速さも見てる側が引くほど速い。18分のCK後の城和のダッシュ、62分もCK後に畑尾と城和が最終ラインまで猛ダッシュして戻っており、すぐに陣形を整えた。ポジトラ時は、基本的に相手のSBが高い位置を取っていたので、その裏に山根・稔也・KJ・深堀を走らせることが第一歩。山形が藤田と半田のいる右サイドで攻撃する機会が多かった分、ウチの攻撃も前半は左からが多く見られた。
 加えて、ミツがこの開幕戦で活躍したのは胸が熱くなる。何度か放出されるかもしれないと危惧していたが、J3時代に見せていた攻撃参加をまた見られた。開始直後のドリブルでCKで獲得したシーンでは稔也も拍手していた。試合勘がまだ戻ってくる途中であり、逆サイドへの展開を躊躇する場面も見られ、細貝に指摘されていたが、それも期待を込めての要求だ。岩上も試合を通してミツを評価していた。社長のnoteにも書かれていたように「ミツ大丈夫だ、やれるだろ」という声が飛んでいたが、あれは武藤コーチではなく岩上が発したもの。J2でも持ち前の馬力をもっと見せてほしい。川上のSBも見てて楽しいので、もっと見たい。

 開幕3試合終えるまではポジにもネガにも評価しないと毎年決めているが、正直開幕からこれほどのクオリティの試合が見られると期待は膨らむ。一方で、当然山形がこのまま下位に沈むとも思えない。キャンプからホテル生活が続き、開幕4戦アウェイというのは条件的に厳しい。ストライカーが固まったり、この試合でも小さくないインパクトを残した横山が覚醒したりとなれば、十分上位に絡むことも考えられる。開幕戦で当たっておいて良かったと思う。
 次もホームで迎え撃つは金沢。これまた苦手な相手との対戦。ただでさえヤンツーは厄介なのに、久藤さんがHCにいるのは勘弁して頂きたい。ウチの事前情報は当然持っているし、開幕戦と違って相手の事前情報を手に入れることができるので対策はしやすいだろう。ただ、ウチとしても1試合見ただけで対策されてしまえば先が思いやられる。お互いに手堅く戦うことが予想されるが、しっかりと勝ち切って波に乗りたい。

 (社長のnoteのレビューが素晴らしすぎるので、前半に関してはそちらを是非ご覧ください。あのレビューのあとに稚拙な文章で申し訳ない限りですが、お読みいただき有難うございました。)

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